聖杯奇譚 魔王降臨   作:ヤッサイモッサイ

6 / 46
毎日連続投稿してます作者です。
え、休日は含みませんよ?そりゃ、休みの日ですからね
それにしてもあれですね、グランドオーダーマジで三章来ませんかねぇ。ノッブでも可
あ、あと感想で帝都聖杯奇譚教えてくれた方ありがとうございました。おかげで完璧なババア喋りってことが分かったのでその方向性で行きます
あとノッブの魔王のスキルはエリザベートやブラドと同じで周りからのイメージが体に作用するらしく、オンにするとロリからボインな魔王に進化するらしいですね


烈火の連撃

一つ、僕は成長したのだと思う。悪を問う理由なんてなかったのだ、ということを学ぶことが出来た……師が死んだのだ、というよりは殺されたという方が正しい。

遺体を持ってきた分家の老人が言うには魔術の事故だというが……子供だからと見くびられても困る、死体の魔力痕はどう見ても攻撃性の色を帯びていたし、使われた魔術だって……どう見ても近衛の魔術だ。それが意味することなんて話すまでもない……身内に殺されたのだ。

理由なんて興味はないが僕の正義は死んでしまった。正しいのに死んでしまった。物語の英雄達とは……何が違ったのだろう?

僕の背中に移植された魔術刻印が、僕の魔力に反応して唸る度に、そんな新しい疑問が頭をよぎる。

僕はこれから何を指標に正しさを学べばいい?学習を止めるわけには行かない……ならトレースしてみるか。僕の知る背中(せいぎ)を。学ぶのは子供の仕事だ、あの女と子供を……母さんと桜を愛してみれば僕でも一人で正義がわかるかも知れない

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

令呪を使用した一時的なブースト、限界突破

デミサーヴァントであり、戦いにも不慣れであろうマシュならまだしも本来信長といった大英雄にこれを使う理由はほとんどない。確かに敵は強大だが対する信長はまともに宝具を使わずにそれでも渡り合える実力なのだから……だからそれをして少しでも信長に弱音を吐かせたあの弓兵を警戒するのは当たり前のことだった……そして残念なことに俺にはその原因に一つ心当たりがある。

 

実際のところマスター等と言っておきながら俺が信長のことで把握していることはそう多くない。宝具もあの火縄銃であることしか知らないし彼女の限界も知らない……だがマスターをやる上で最低限知っておいて欲しいと本人にここに来るまでの間に教えられたことが一つある。

それこそが彼女の持つある意味宝具にも等しいスキル『天下布武・革新』の効果……生前において神、宗教を否定し焼き討ちを行った彼女の思想が形となったそのスキルは言ってしまえばあらゆる勝負を“相性ゲー”に持ち込むスキルだという。要は「神」かそれに準ずる属性、性質、逸話を持つものやその時代に生きた存在に対した時の異常な強化だ。本人曰くこれらが相手であれば最強クラスであろうとも勝ちの目を拾う可能性を見いだせるらしい。

だが相性ゲーの名の通りいい相性もいれば悪い相性の者もいる、それが────近代のサーヴァント。これが相手の時は信長は逆に自分のスキルで自身の力を弱めてしまう……先程は強がって明言しなかったがおそらくあのアーチャーはこの近代に該当するサーヴァントだ

一画減って二画になった自身の手の令呪を見る。使い道は強化だけに収まらない、あればある程安心なのは間違いない。フェイトシステムやらのことは所長からある程度聞いたからアシストの影響からか素人でも1日あれば一画は回復できると聞いたが……残念ながら回復を待つ時間はないだろう。この後に控える戦闘は信長にとって相性の悪い相手ではないだろうが元の逸話からして強敵であることに間違いはない……確かに信長の言う通りこの地のサーヴァントとはつくづく相性が良くなさそうだ

 

「魔人アーチャー、君が最強のアーチャーだと証明してやれ」

「カッ、言われるまでもない!だいたい弓とか古っ!時代はやっぱり(コレ)じゃろJK(常識的に考えて)

 

……ところどころ言葉がナウかったり近代の英霊に時代のことを説いたり……うん、ハチャメチャ具合は相性が悪い相手でも下がらないんだね!

だが右手の刀だけでなく左手に銃まで構えた信長の力をさっきと同じに見ていると痛い目を見るぞアーチャー

 

「近衛くん、まだマシュに英霊との連携は出来ないから……」

「わかってる、俺だって別に指揮を出してるわけじゃない」

 

マスターの役目は交戦中の自分のサーヴァントに変わって敵サーヴァントの正体を暴き、その宝具の正体や突破方法を考えることにある。

だが知識もまだまだでそもそも戦闘にすらなれない俺達よりも戦闘中でも軍略のスキルを持つ信長の方がきっといい作戦を思いつく

 

「俺達はここで敵の一挙手一投足を見ていればいい、それだけできっとサーヴァントは安心できる」

 

周囲の観測はドクターロマンが、不測の対応はキャスターがしてくれるだろう

ただ俺達はここで待つのみだ

 

「────そうだね。マシュ、頼んだ!」

 

場の空気がだんだん肌をさすように鋭くなっていく。

刃とかした空気が容赦見境なく生者をさして次に地獄へ落ちてくるものを選別しているのだ。

この空気に飲まれたものから戦場ではまっさきに死んでいく……そんな張り詰めた空間をそれでも二人の弓兵は涼し気な顔で受け流し、盾を持つ見習い戦士は汗を浮かべながらしかし毅然と立ち向かう。

……こういう場でいつも動き出すのは決まって彼女だ

 

「そら、盾子置いて行くぞ?」

 

飛び出すと同時に刀を逆手に構え直し腕で銃を安定させながら挨拶替わりに一撃ち、旧式ならではの重音を合図に遅れてマシュが少し回り気味に飛び出す。それこそさながら徒競走の空砲のようになった火縄銃だがお生憎と物騒なこれは実弾が飛んでいく。アーチャーの名に違わずまっすぐそのたれた白髪の先の額を打ち抜く軌道で飛ぶそれを彼は手に持つ刃を翻し弾くとそのままそれを投擲、白と黒が弧を描いて信長に迫るもその時には既に彼女はエミヤを刀の間合いに収めていた

これまで見せてきた荒々しい剛の剣はすっかりとなりを潜め、逆手に持ったそれで繰り出される攻撃は器用にも引きや返しの無駄を極力省いた神速の連撃へと姿を変えていた

一撃が重く、武器を弾くことが出来てもすぐさま手元に現れるのでは意味が無い。ならば敵の硬い防御を上回る手数こそが正義だと言わんばかりの連撃でアーチャーを後退させていく

 

「カカッ、器用が何じゃ!わしだって器用さで負けたつもりは無いわ!」

 

先程弾いた大量の夫婦剣が突き刺さる領域に入り、お互いに一歩一歩が制限される中でも確かに信長は足元の刃を吹き飛ばしたりして器用に立ち回っている。それと同じことを後ろ向きでやりながらその連撃を捌き続ける相手も相手で恐ろしいが

 

「ふむ、たしかにそれは認めよう。さぞ高名なサーヴァントなのだろうよ。だがなアーチャー、私や足元ばかりを見ては不意な雨に打たれることになる」

 

……うん?二刀で信長の刀を抑えて────これは!?

 

「火縄銃は一発限りだ、刀を抑えられては今の君にこれを防ぐ術はあるまい」

 

宙を舞う無数の夫婦剣、それらはアーチャーが始め投擲したものであり、衝突の最中二人が足で巻き上げたものだ。

それらがお互いにお互いをひきつけ合って今まさに信長の無防備な背中へと殺到しようとしている

 

「────だから器用さでもわしは負けんと言ったわ戯け」

 

迫る十刀、それに対して信長は何もアクションを起こさずに左手の火縄銃を振りかぶり同じく無防備なアーチャーへと振り下ろし直撃させた

 

「───ガッ!?」

 

堪らずアーチャーは仰け反りその際に右手の刀は解放されたがもはや襲い来る刃を迎撃する余裕はない

あわやその身が無惨にも引き裂かれようか……という所で舞う剣と同数の光線が宙を分断しその尽くを粉砕する。出処を辿り視線を頭上へと向ければそこには丁度十丁の火縄銃が銃口より煙を靡かせて滞空していた

……どうやら信長が直接操作せずとも発砲できるらしい。

下がったアーチャーに順手に持ち直した刀を勢い良く突き出す。とはいえアーチャーもサーヴァント、頭部への衝撃にちらつく視界にそれでも危険を留め一跳びに射程の外へと出ようとして─────失敗した

 

「─────これは!?」

 

背中に感じる硬い感触、しかしここは先程の爆撃で広く開けた地帯であり、障害物のその尽くはなぎ払われている。壁などあろうはずもない。故にそこにあったのは壁などではなく─────巨大な盾だった

 

()()ご苦労、その鈍器で殴りかかるより余程ましな使い方じゃろう?」

「一応言っておきますがアーチャーさん、この宝具を持っての隠密行動には無理があります。今後はもっと堅実な作戦を要求します」

 

逃げ場を失い、両手に剣を投影し直す間もなく刃は心臓へと到達した。

────令呪の使い方は単純なる強化にとどまらない。たとえ地球の裏側にいようと令呪を持ってすぐに来ることを命じればサーヴァントを眼前へとテレポートさせることが可能な程に、その使い方は多岐に渡る。

“勝て”等という具体性にかける命令はその効力が薄れるものだが逆に言えば“勝つためのあらゆる行動”にその補正がかかると言ってもいい。勝つためであれば本来隠密行動のむかないマシュであろうが、それを可能にする

 

「もちろん貴様はそれでも盾子の事は意識に置いていたじゃろう。だからあの時─────わしが銃で殴った時、いやその直前から貴様は剣から手を離し自ら距離を取ろうとした」

 

私を助けに来たこやつごと高威力の矢の宝具でも使って射抜こうとしたんじゃろう、と続けて信長の言葉は続いていく

 

「自然、盾の向きは後ろ。わしは盾など持たんし?意識も後ろに向いておる。防ぐことなど叶わない────それを戯けと言うたのじゃ。貴様の剣の性質なんぞあれ程しこたま打ち込み、弾きまくれば気がつくわ!」

「陰陽対となる剣が引き合う性質ですね、それを利用して貴方は背後からの不意の連撃を私に防がせようとした……私に戦いに割って入る腕は無いと断じて文字通り魔人アーチャーさんの“壁役”という言葉をそのままの意味で受け取った」

 

……そうか、だから信長は自身に注意を集めるために突撃し、意識を削ぐように連撃を決めて自然に敵を後退させ、敵が警戒しないように火縄銃を更新しないで持ち続けた。

 

「───なるほど、これは一本取られた。この剣による連撃は凡才たる私の、それなりの決め手だったのだがね」

「凡才だろうが何だろうが貴様が勝負を急くことなく、最初の衝突のように防ぎ続けていればわしらももっと苦労したじゃろうよ……なれば敗因は才能でも運でも相性でもないわ、ただの自爆じゃ」

 

そう言って信長は鎧ごと引き裂くように剣を払い戦いに決着をつけた。

剣が墓標のように突き刺さる中、男の存在が光と共に薄れていく

 

「そんなつもりは無かったが……なるほど、それは確かに私のミスだ────だが勝負に負けたつもりは無い。君たちはここで死ね」

 

穏やかに、それでいて未だ秘められた闘志。根底にあるのは死してもなおセイバーの元へと行かせないという執念

アーチャーが砕いたとはいえその場にまだ無数に突き刺さっていた夫婦剣が光だし一瞬でその魔力を解いていく

 

「────っ!?」

「擬似展開────ッ!」

 

一瞬で俺達の視界は粉塵に包まれその余波によって体をもみくちゃにされる

 

「なんだ今の!?」

「ありゃ宝具を自壊させたな。宝具ってのは言わば神秘の塊、魔力の宝庫。無論ワンオフでしかないそれを、しかも自身の象徴とも言えるそれを自分から爆発させるような英霊はいねぇが……あいつの場合は量産品だ。有効な手ではある」

 

キャスターがそう冷静に返すが事態は穏やかではない

その高密度な魔力の地雷源のど真ん中に彼女達は取り残されていたのだから

 

「マシュ!!」

 

シロが立ち上る粉塵の中に駆け込んでいく。

自分もそれに習おうと足に力を込めたところでキャスターに肩をつかまれた

 

「落ち着け、盾の嬢ちゃんが宝具を開放してるのが見えた、無事じゃないまでも大したことにゃなってねーよ」

「……マシュの宝具?」

 

あの盾か?あれであんな全体攻撃を防げるのか?

 

「そんなに心配ならもっと手っ取り早く確認できる。お前さんの手についてる令呪、それはサーヴァントの消滅と共にお前さんの手からも消える。再契約した時にはまた出てくるけどな」

 

言われるがままに視線を落とし自身の手に変わらす存在するそれを確認するのとシロの安堵からあげた声が届くのはほぼ同時だった。

晴らされた土煙の向こうでは若干煤けながらもちゃんと無事に二騎のサーヴァントがいてシロに抱きしめられている

 

「それにしてもアーチャーの野郎にしてはずいぶん呆気ねぇ、と言うよりもらしくねぇ。らしくねぇといえばセイバーにつき続けたこともそうだが……よほどの事態らしいな、お前らの事情ってのも」

「そりゃわざわざこんなところまで来てるくらいだ」

 

……だがそうだ。宝具を含む武具を貯蔵する宝具なんてものを持って英霊になっているのだから本来ならばあの夫婦剣以外にもたくさんのものがあったのだろう。それこそ弓兵らしく弓があったり、初めの豪雨の中に紛れていたものもあったのだろう。

それでも夫婦のにこだわったのはなにか理由があったのだろうがそれにしたって不思議ではある

 

「考え込んでいるところ悪いがの(マスター)、何があろうと結局奴は負けた、ただそれだけじゃ。ここまで来て事情だのなんだのを考えて立ち止まるなんぞそれこそ愚かしい。私を召喚して見せたのであれば当初の意気込みのとおりに世界くらい救ってもらわねばの……そしてその時は今度こそ私は美味い茶を飲むのじゃ」

「そうは言いうけど魔人アーチャーも最後は結構危なかったんじゃない。今回はうちのマシュあってこその勝利だね!」

「ヌ?おい貴様までそういうことを言うのか?だいたい壁役がその役目を果たしただけではないか!」

 

……確かに、結局なぜ俺達がこうしてここにいるのか、根本的なことは判明していない。

あれだけ大きかった施設に残っているのもロマ二を含め二十人ほどと聞く、それこそ本来の余裕があった頃とは違い切羽詰った状況といっていい。だからこそ考えてる暇なんてない。斜に構えず、我武者羅にまっすぐ進むしかないんだ

 

「ほら魔人アーチャーもマシュに助けられたことに変わりないじゃないか。おとなしく二人の勝利にしておきなよ」

「あ、いえでもたしかに私がやったことはそんなに多く無いですから。作戦を考えたのも危険度が高い役でそのまま追い詰めてくれたのも魔人アーチャーさんですし」

 

そんな謙遜の言葉にも信長は荒く笑って返してしまう。同じサーヴァントととしてライバル視しているのか本人的に何かが合わないのか……あぁ、きっとマシュの性格とジャイアニズムが噛み合った結果なのだろう。

 

「じゃれ合うのもそこまでよ。一先ずはお疲れ様、でも次があることを忘れないで。むしろ……次こそが本番なんだから」

 

無論忘れてなどいない。聖杯を守る最後にして最強のサーヴァント、剣の英霊、この世最高の聖剣の使い手……

 

「事前に話しては置いたけどよ。今回のキーは嬢ちゃんのその盾だ。敵の無尽蔵な魔力に任せた宝具の連発をどうにかそれで防いでくれさえすれば後は俺とアーチャーの攻撃で仕留められる。セイバーの遠距離攻撃はそれこそ魔力に頼った斬撃位しかねぇからよ」

「たしかにそれは聞きましたが……聞けば聞くほど不安になります。本当に私の宝具で彼の聖剣を防ぐことが叶うのでしょうか?」

 

相性的には問題ない、ここに来る前にキャスターはそう言っていた。結局俺は一度も見ていないがこの熟練の戦士が言うのであれば間違いはないのであろう

とすれば問題はそれはマシュの感じる不安、よりいえばマシュの人間としての部分だ。

マシュはあくまでも人間がサーヴァントのスペックを手に入れただけの素人……仕方が無いといえは仕方がない

 

「マシュなら出来るよ!ちゃんと宝具も使えるようになったんだから」

「たしかにの。それに一度壁役を引き受けたのなら最後までやってもらわねば困る。何せ次守られるのは私ではなく主じゃからの」

 

言外に自身は一人でなんとでも出来るとしつこく滲ませながら信長までもがマシュを励ますようにそういっている

 

何かと不安こそ残るがやる事が明確なのは最高だ。まっすぐ進むだけ……それだけだ。絶対に全員で帰ってみせる

 




おや、死亡フラグの気配が......全員無事に帰ってみせるぞー!よし!



さて、そんな話は置いておいて割とあっさりとした今回の話、令呪を使うまでもないのではというとそういうわけでもございません。
マシュの役割は作中で指示した通りですが信長の役目はいわばそれ以外の全てで、マシュが回り込んでいる間にアーチャーが武器を持た無い状態で止めの攻撃を避けようと後ろへ大きく下がる状況を作らなくてはならないわけです。元々信長のステータスはスキルで下がりアーチャーとほぼ同格だったので安全の意味を込めて、そしてアーチャーの多様な攻撃に対処できるように使われてます。

それにしてもあっさりしすぎという方には真実を伝えましょう。私は多人数戦闘が苦手です。入れ替わせてやるのはまだしも同時に、しかも多対一などスゴイ苦手だったりします。反面一対多や一対一は個人的に好きです。人称視点の関係から戦闘中のキャラで他の味方キャラの動きを伝えるのが難しいんですよね、必ず今回のマシュのように空気になります

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。