聖杯奇譚 魔王降臨   作:ヤッサイモッサイ

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昨日までは書いててすげぇ楽しかったけど疲れたせいか急に今日やる気ががく落ちなうです。
さぁ連続投稿はいつまで続くかなぁ......カルデア帰るまでは間を開けずに行けるといいです。
前書き短めですがそれではどぞー


剣の雨、マスターとしての一歩

正義の正しさなんて、今更問うまでもないことだけれど、ならば悪の悪さはどうやって答えればよいのだろう?

真を知っていても、逆を答えられないなんてことがあるのだろうか?

僕にとっての正しさの例は、常に魔術の師である男のみで、言ってしまえば口で説明出来るほどの知識は無い。答えられないのはきっと僕の理解が足りていない、ということなのだとは思うのだけれど……果たしてそういった偏った見方で良いのだろうか?いつも師である彼が言っていることだ。それに当てはめて考えれば……やはり僕は悪を知る必要がある。僕の中の正義がきっと完全でないのは自分が悪を知らないからだ。

とはいえ悪を知らないのに悪を成すというのもなかなか愉快だ。わかりやすい悪でもいてくれたら助かるのだけど……あぁ、そういえば最近、ようやく新しい分野の魔術に手を出させてもらえるようになったのだ。メジャーどころではあるが東洋の呪いらしい。呪術なんていうのもよくある悪だろう……でも、またそれも理由を聞かれれば僕は答えられないのだ

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

無事に弁慶は撃退され俺とアーチャーはようやく落ち着いた時間をとることが出来た

 

「えーっと、魔人アーチャーを召喚できたのはあの石ころのおかげなのか?」

「別に名前でかまわんぞ?正直真っ当な聖杯戦争でもなさそうだしの」

「じゃあ信長……さん?」

「好きに呼べ、それであの石ころというのが虹色のトゲトゲならまず間違いない。元々英霊を呼び出す為の道具じゃからの」

 

信長曰くあの石は聖杯から零れだした真っ当な部分の余剰魔力、だとかなんとか。

そもそも聖杯というのが今回の騒動の元凶でこの土地の最大の霊地に存在しているらしいのだが本来起きたはずの真っ当な聖杯戦争に何者かが手を加えたせいで聖杯は暴走、呼び出された英霊は聖杯から溢れた泥に飲まれ性質を反転、黒化し徘徊するようになった。それがここ、特異点というのが信長の説明だ

 

「いわばその石は聖杯の残した防衛装置、ロマンチックにいえば希望の欠片といったところじゃろ。まぁワシもこの世界のことを知ってるわけじゃないから正しいかはわからんよ。だがこの地の聖杯の気配といい先の黒化英霊といいただ事ではないのぅ」

「じゃあ残った英霊をすべて倒せば解決?」

「聖杯に手を加えた存在が既にこの世にいないのならな。聖杯戦争に呼ばれるサーヴァントは七騎、剣兵(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎乗兵(ライダー)魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)。さっきのやつはランサーじゃから全員いるなら残り六騎」

 

さっきのようなやつがまだあと六人。内ひとりは信長と同じくアーチャーでひとりは竜牙兵の操者か

 

「とはいえ、別に(マスター)の言うようにすべてを打倒する必要は無かろうよ、聖杯を持ち、その他のサーヴァントに泥を浴びせかけたのは一騎じゃ。バーサーカーにそのような理性は無く、アサシンは戦力的に考えられん。あるとすれば霊地に陣取ったキャスタークラスかさっき違うと証明されたランサー以外の三騎士クラスじゃの」

 

さらりとライダーを除外したのはどういう理由なのだろう。生前に恨みでもあるとか?あるいはアサシン以上にいう程もないとか?

 

「何にせよそれは主がそうすると決めた場合じゃ、やる気がないなら茶がないのが残念じゃがここで余生を過ごすもよかろう」

「潰すさ、そのために俺は君を呼んだんだ」

 

そうとも、俺にはあきらめられない目的が変わらず存在している

 

「俺に力を貸してくれ、アーチャー!」

 

差し出した手を信長はジロリと一度睨めつけると

 

「わしはこれでも主のあり方を気に入っている、でもなければ邂逅直後に切り捨てておるし主等とは呼ばん……ただ呼ぶならアーチャーではなく()()アーチャーか信長じゃ!」

 

そう言って手を握り返し片頬を釣り上げてニカッ、と笑って見せた。変なところで男らしいサーヴァントである

 

「わかってるよ、信長さん」

「……からかっておるのか知らんがお互いに敬称ではどっちがどっちかわからんのぅ。先程のように呼び捨てでいい」

 

もちろんからかっているのだ。なにせ相手は天下の織田信長なのだから

 

「まぁ方針がはっきりしたところで進言するが、早期の解決を求めるのならばまっすぐに霊地へ向かうべきじゃ。主が誰かとここに来たのか、また他にまだ吸収されずに生き残っているサーヴァントがいるのかと確認したいことがあるなら別じゃが聖杯の所持者は確実にあの山の中じゃしの」

 

そう言って彼女が指を指すのは街から離れた巨大な山。確に多くの龍脈は向こうに流れ集まっているようだ。

 

「要は戦力を増やす見込みがあるのならばまだあたりを散策するもよかろう……最も?そんな事せずともワシひとりで全部片付けるなどわけないがの!いやぁ、強いというのも困ったもんじゃ!」

「確かに強いのは知ってるけどよくもそこまで自画自賛できるね」

「だってわし殿じゃし」

 

あぁ、そうでしたね。女の子だけど殿でしたね

ちなみに服装については趣味だそうだ。聞いた時は「ジャーマンのセンスハンパない!」と弁慶をいじめてた時よりも輝いていた。おそらく海外ものが好きなのだろう。渡来物を集めていたようだし

 

「それに下手に出歩けばそれほど黒化英霊と出くわす可能性も上がる。さっきのランサーも徘徊しいていたみたいじゃし」

「そう、なら俺もまっすぐ霊地に向かう案に賛成だ」

 

あの火事の中、他にレイシフトに成功した存在がいるとは思えないがあれほど派手に戦闘したわけだしサーヴァントの生き残りがいたならひょっとすれば霊地へと駆けつけてくれるかもしれない

 

「うむ、頼られるのは気分がいい」

 

……ただ思うのはこの信長、どこかチョロそうである

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

結局あの後方針を固めた俺達はまっすぐに霊地へ向かって移動を始めた。遠いところにいた事もあるがそれなりに時間はかかる。ただ緊急を要することなら魔力の節約や恥や外聞など殴り捨て全霊の強化で移動したり信長に担いでもらうのもやぶさかではないがまたも信長から万全の状態で望む方が大事だとお墨付きを頂いているので移動はのんびりと徒歩だ。

体内の宝石も随分前に燃えつきているのでこれからは自然回復以外の回復は望めない。

道中やはり現れた竜牙兵は信長が刀を振るう度に吹き飛んでいくので魔力の節約にもなり、結局山につく頃にはほぼ全回復したわけだが。もちろん腕も直した。魔術回路に負担はあったが戦うことに支障はない、元々マスターの役割はサポートだし

 

「しかし予想外じゃの」

「え、何が?」

「生き残りがいたという話じゃ、半ばどころか有り得ないとまで思いつつ言った話なのじゃが……余程しぶとい英霊なのだろうよ」

 

魔力を温存して信長に感知を任せていたのだがなるほど、確かに感覚を広げてみれば足音が四つ。こちらと同じく一般人の速度であることを考えると少なくとも一人はマスターだ

一息に迫ってこない時点で黒化英霊ではないことが分かっているので麓のところで立ち止まり後続を待つ、少ししたところで姿を現したのは感覚に違わず四人の人影。

完全に見覚えのある橙色の髪をした特徴的なツインテール?ツーサイドアップというのか?まぁともかく髪を二つ束にして垂らした少女にご存知白大好き所長さん、オルガマリー。

どこか見覚えがあるがいやでもやっぱり無いような……もはや鈍器とも呼べそうな大盾を担いだサーヴァントに見るだけでキャスターとわかる青髪の男が杖を持ってこちらへ歩み寄る。

向こうもこちらの姿を捉えたのか途中からは小走りでかけてきた

 

「ほぅ、珍しい。あの盾持ちをよく見てみろマスター」

「え、あの子?」

 

言われるがままにマスター権限たるステータスの確認をしてみると……クラス名がシールダー。盾兵……と呼べばいいのか?信長の説明になかったクラスだ。

 

「たまにいるみたいじゃな、七騎のどれにも当てはまらないクラス。イレギュラークラスとも呼ばれる。見ての通りクセの強いサーヴァントじゃ」

 

それに……、と信長は小声で続けた

 

「横の男と違って歩き方が英霊らしくない。キャスターならばわからんでもないが盾なんて前線も前線なサーヴァントがあれとは……よもや真っ当なサーヴァントではなかろうよ」

 

真っ当なサーヴァントでない……?

 

 

あぁ、そうかあの子だ。管制室であの遅刻少女を運んでいったメガネの……

 

「ほぅ、思い当たる節があったか。余程カルデアという場所は面白いのじゃろうな」

「そんな動物園か何かみたいに言わないでくれるかな?」

 

所長があれなのは認めるけど……

 

とようやく向こうがこちらへと合流した

全員無事そうで何よりだ。

そう口を開こうとしたところでそれよりも早く青髪のキャスターが俺に話しかけてきた

 

「こいつは驚いた。兄ちゃんサーヴァントを召喚したのか?」

 

どうやら横の信長に気がついて驚いたらしい。そりゃもちろんこれほどの覇気を放つ人間なんてそういないけども

 

「……48番といいあなたといい、何故遅刻組の未研修組がレイシフトやフェイトシステム、デミサーヴァント化まで成功させてるのか……理解不能だわ」

「俺はギリギリ遅刻して無いです訂正してください」

 

ひどい話だ。しかしサーヴァントが三人、ひとりはちょっと怪しいが戦力としては単純に当初の三倍だ。

 

「まぁ待てや兄ちゃん。お互い事情もある事だしよ、まずは自己紹介と行こうぜ?わかっててここに来たんだろうが戦闘中になんて呼んだらいいのかもわかんねぇんじゃまともな連携なんか取れやしねぇ」

「一理ある。主、その残念そうな白いのとの掛け合いは後回しじゃ」

 

唐突な暴言に呆然とする本人と腹を抱えて笑いを堪えるその他、流石殿、怖いもの知らずである

 

「あー、笑わせてもらったわ。とりあえず言い出しっぺって事で俺から……俺はキャスター、炎のルーンとドルイドとしての技能を持ってる真名は……まぁその内な」

 

一番はじめに切り出したのは俺が唯一知らない男、そして信長曰くしぶといサーヴァント。

確かに黒化英霊に囲まれて一人生き残ってたのだから文句なしに凄い

 

「ふむ、わしは最後がいい。盾子に先は譲ってやろう」

「え、盾子?……私のことですか?」

 

むしろ君以外に誰がいるのか……紫がかった灰色の髪に巨大な十字盾。縦の割に露出が多い鎧と服装は謎を呼ぶばかりだ

 

「は、はいマシュ=キリエライト。カルデア所属の研究員で今は訳あってデミサーヴァント……として顕界してます。クラスはシールダー、防御力なら多分それなりに」

「それじゃあわしな!わしはアーチャー!主に呼ばれて顕界し、窮地を颯爽と救ってはそのまま華麗にランサーを潰してやった」

 

食い気味に……というか完璧にマシュの自己紹介を食って始まった信長の自己紹介ならぬ自己顕示……多分マシュの雰囲気が信長のジャイアニズムを刺激したのだろう

 

「それであなたの真名は?」

「え?わしの真名知りたい?知りたい?やっぱり!?えー?でも、わし、有名だしなぁ」

 

遅刻少女にそう問いかけられて信長はなぜか身をくねらせながらそう焦らすようにして答えを避ける

もはやどちらが残念なのかわかったもんじゃない

 

「おし、わかった。アーチャー、お前も真名は秘密ってことだな。その方がお互いに対等でいい、さぁ次に行こう!」

「じゃあ俺かな。俺は近衛凜、東洋の魔術師の家系でいろいろ家庭内のゴタゴタで出発が遅れて徒歩でカルデア入りすることになった普通の魔術師だ」

 

キャスターと信長に見えないようにサムズアップでお互いをたたえ合い話を進める。これはいい連携が取れそうだ

 

「じゃあ私かな?私は宮平シロ。魔術師……とかではないんだけど適性がある!とかでカルデアに入った魔術師見習い……です」

「特技は立ち寝です」

「────ち、違うよ?違うからね!?」

 

なんとも楽しいメンバーである

まぁ残った所長も紹介をテキパキと済ませ、さぁ前に進もうと言ったところで虚空から声が聞こえてきた。

どこかで聞いた声、しかも割と最近……

 

「あ、Dr.マロン?」

『誰だいそれ!?』

 

うん、このゆるふわ感。そして肝心なところで頼りにならなさそうな感じはあの道を教えてくれた人だ

 

『えーっと……カルデアで現在指揮をとってるロマニ……ああもういいや、Dr.ロマンです。栗じゃないからね?マロンじゃないよ?呼ばれても絶対に返事しないからね!?』

「はい、すいませんでした」

 

素で勘違いしてただけなのだがそこまでこだわりがあるとは思わなかった。

ただ小声で聞こえた『マロンもどことなく甘そうでいいなぁ』という言葉は振りでしょうか?

 

ともあれようやく全員が全員やるべき事を行った。

キャスターがいうにはこの黒化英霊事件は黒化したセイバーがその後破竹の勢いで他のサーヴァントを根こそぎ狩った結果らしく、バーサーカーや道中倒した他の黒化英霊は置いておいてもアーチャーだけは確実にこの先でそのセイバーを守っているらしい

 

「ならば問題ない、わし以上のアーチャーなんて居らんもん!てかそもそもわし以上のサーヴァントなんて居らんもん!!」

 

なんて信長は言っていたけれど、キャスターの苦い顔を見るにそのアーチャー、セイバーに負けじ劣らず曲者と見える

しかし不思議なもので奥へ進んでも雑兵は出てきても肝心のサーヴァントは一向に出てこない

 

「……どういうことなの?」

 

思わず所長が呟いた言葉に信長が反応する

 

「……主よ。一度全力で辺りを探ってみぃ」

「え、うん。構わないけど」

 

魔力を発散していない時は被詠紙を紙鉄砲にして音に微弱な流れを付けることで確かめる。カルデアに入る前にやったことの強化版だ

これの問題点はやると相手にも位置がバレてしまうことで────

 

「いいからはよせい」

 

……そこまで言わなくともいいじゃないか。

言われるがままに作った作品を振り下ろしパンッと辺りへと音を響かせ、同時に辺りへ飛んだ魔力を還元するだけで───────“気づかれたか”……だって?

 

「──────不味い囲まれてる!!」

 

高密度な魔力が多数、これは……全てが武器か!?

 

「盾の嬢ちゃんは戦えねぇやつ守っとけ!俺とアーチャーは気にしなくていい」

「先程はいい損ねたが私のことを呼ぶ時は魔人アーチャーじゃ!」

 

こんな時まで何を言っているんだか!

 

そんな和やかな空気も一瞬、マシュが盾を上に構えた時には吹き飛び、戦闘機の爆撃を思わせる轟音と硬質な剣が大地を削りぶつかり合う音が俺達の聴覚を蹂躙していった

 

「え、アーチャーって弓の兵士なんだよね!?」

「さぁ!?少なくともうちのアーチャーは剣も使うけれど────何にしてもこの物量は剣にしても矢にしても有り得ないッ!」

 

シールダーの守りの中に人が四人、盾からなにか出ているのか見た目よりも範囲は広いがその分マシュの負担が増していく

 

「アーチャー、敵の掃射を止めろ!!」

「じゃからわし魔人アーチャーだって!!」

 

念話を使えばあたりがいくらうるさかろうが声が届く。まだあんなことが言ってられるのならこの雨の中でもあのサーヴァント二人にはまだ余裕があるのだろう。避ける二人も大概だがそれ以上に射ってるほうがもはや英雄とかそういうレベルでない、これは何かタネがあるな

 

「主よ、声が聞こえたのはどちらじゃ!?」

「────進行方向から五時方向!!」

 

……とはいえ果たして火縄銃でなんとか出来るものなのか?いや距離的にもこの攻撃の嵐の中的な意味でも

 

「わし超サービス!大盤振る舞い155丁やったれわし!!」

 

────心配なさそうだ。信長の声と共に近場で先程までの轟音に負けじ劣らずのもはや暴音とも言うべき音を出し、加えて目が眩むほどの光を伴って何かが飛び出していった

遥か遠くの高台があった位置に着弾したのか岩場が崩れる音が静かになった僕らのところへ届いた

 

「────な、何なのよ今の!?アーチャーのサーヴァントってこんなに非常識な奴ばかりなのかしら!?」

「いーや、あいつはちょっと特別だ。ついでに魔人アーチャーとか言ったか?よくもまぁあんな状態で狙えたな」

「言ったじゃろう、わし以上のアーチャーなどおらん!」

 

……うんでもまぁ本当にやってくれた。

周囲を見渡せば本当にマシュが守ってくれていたところ以外が綺麗に削れている

疑問を解消するために捲りあがった岩を退かし下にあるこの惨状の原因を覗くと……やっぱり、飛んできていたものの多くは剣だ。しかもどれもこれも魔力を纏っている

 

「……また弁慶、ってわけでもなさそうだね。和洋折衷といえばいいように聞こえるけど中華やらインドネシアやら……メチャクチャにも程がある」

「え、でも英霊って基本的に一箇所で活躍するものなんじゃ……?」

 

シロの言う通り、基本的には国を跨ぐ英雄なんて滅多にいない。国を討ち侵略した英傑は居ても国を渡り歩きあちこちでなにかから救い続けた英雄……そんなものまともな人間じゃない

 

「おい、まだ終わってねぇぞ。気を抜くんじゃねぇ」

「え、まだ来るんですか!?」

 

……来るだろう。砕けたものは塵と消えたがまだ形ある剣はここに残っている。仮に本体が消滅したのであればこれらはそれと同時に消えるはずだ

 

「盾の嬢ちゃんにもしっかり働いてもらうからな……非戦闘員は下がってな」

「ならばわしが前に出よう。盾使いと魔術師、私まで遠距離にまわったところでさっきのと打ち合えるとは思えん」

 

信長にしては弱気に聞こえるが相手が弓兵である以上近づいて叩くのが正しい戦術なのは確かだ

 

「もう一度索敵する。指示した方向に一発頼めるかな、キャスター?」

「───いやぁ、その必要は無さそうだ。それと……相手がアーチャーである事は忘れろ。セイバーと戦ってるつもりで前に出ることだ」

 

……何?

 

「おやおや、弓しか能のないものを捕まえて随分な口ぶりだな、キャスター」

「お前こそ、相変わらずセイバーの守護者気取りか?何故そこまでしてアレを守る?」

「ふむ、余計なお世話と合うやつだな。君もいい加減自分の欲望のためだけに行動するのは控えたらどうかね?」

 

トッ、軽い音を立てて影が降りてきた。

白髪と褐色の肌と特徴的な容姿に黒いボディアーマーを直接着込んだ男だ。見る限りは東洋の人間だろう、黒化している為かその表情はイマイチ伺いにくいが黒化しているという割には会話が通じる

 

「抜かせ、アレをあのままにしておくのは人間の我欲よりよほど危険だろうが」

「ふん、分かっていないな。人間の欲望ほど際限ないものは無い。生憎とそれは私がよく知っている、かつていたものでね傍迷惑な金色が」

 

……通じてはいるが説得は無理そうだ。いやそもそも唐突に剣群を浴びせてきた相手をして説得とは何を言っているのやら

 

「ほう、それは気が合いそうなやつが居たものじゃの。俄然わしは欲深きには賛成じゃ、大望をして身を滅ぼしたわしがそれこそ身を持って保証しよう」

「君は……いや、なるほど。新たに召喚されたのか、さては先の砲撃も君だな?言っておくが撃つなら撃つでよく狙って撃ちたまえ。君たちの目的地はこの下だ、落盤で自らその道を塞ぐのも面白くないだろう?」

 

……やはり黒化英霊らしくない。

それを気持ち悪いと思うことになろうとは思わなかったけれど、取り繕おうにも取り繕えないほどに目の前の存在に違和感を感じるのだから仕方があるまい

最もそれは俺だけではなくシロも同じ……いや、彼女の方が良く感じているようではあるけれど……顔が少し青い

 

「……魔人アーチャー、頼む。あいつを倒せ」

「なんだマスターの方は随分とせっかちな────失礼、そちらの二人。名前を聞いてもいいだろうか?」

 

……俺達の名前だと?なんでそんなことを?

 

「────シロ。宮平シロだよ」

 

しかもなんでこの子乗り気なんですかね?

……あぁ、もう!!

 

「近衛凜だ、で?名乗らせといてアンタは名乗らないのか?」

「────あぁ、そうだな。たしかにそれは平等じゃない、私の名はエミヤ……何、知らなくても不思議じゃない。英雄というほど華々しい過去は持っていないのでね」

 

……エミヤ。日本の名だろうか?海外の文化が混じってきた明治、あるいはそれ以降のサーヴァントだろうが……そんな英雄が居たか?本名で伝わっていないとか?

 

「それよりもそうか────いや、他人の空似だろう。君たちがあまりにも私の知る人物に似ていてね、思わず聞いてしまった……さて、とはいえ確かにそろそろ長話が過ぎるな」

「話を脱線させたおぬしが言うのか、太いやつじゃのぅ。ともあれわしの主は貴様の首をご所望じゃ、大人しく────差し出すがよい!!」

 

アーチャー、の言葉に戦闘態勢をとったサーヴァント達。前に出ると宣言した信長が先陣を切って敵へと突っ込む。

既に腰の刀は抜かれその白刃を月光に晒している。しかし対するエミヤに動きはない。

手は空、衣装に武器を隠す余裕など無く、また徒手ならば徒手なりに構えることすらしない

だがしかし、先程の絨毯爆撃を受けたものがそれを誠に信じるわけもない

信長の刀が宙に光を歪めた軌跡を残しそのまたも宣言通りに首を狩に行く。脛だの首だの忙しいことだが次の瞬間にはその鋭き名刀の進路に割って入るように黒色の刃が現れた

剣と呼ぶには短いそれだが同様に反対の手に現れた白刃と合わせてみれば対称的なそれの正体が知れる

 

「双剣使い……」

 

器用に刀の進路を逸らし対の手で信長に迫るが当の彼女は引き戻された刀の柄で腕を打ち外側へ跳ねさせることでそれを避けた

信長とて本当に相手がおとなしく首を差し出してくれるとは思っていない。

 

「首じゃ首じゃ首じゃ首じゃぁッ!!」

 

だがそれでも構わず無理矢理取りに行くのがジャイアニズムというもの。苛烈な攻めを続ける信長にエミヤはただ受けるばかりで反撃の様子を見せない……と言うよりも薙刀の一撃を片手で受け止める様な女子の連撃を同じく片手で支える双剣で受けるのが手一杯と言ったところだろうか?

 

 

……いや、その割には何故か攻めている信長の方が浮かない顔だ

続く連撃に遂に男の手から右手の黒刃が弾かれ防御に綻びが出る。無論その隙を逃がす訳もなく振るわれた信長の一閃はいつの間にか手元へと戻っていた全く同じ形の黒刃へと阻まれた

男の手元から離れ突き刺さった刃は……まだ残っている?

 

「同種の宝具を二つ?それとも複製の力を持った宝具かしら?」

 

所長の声に一応の納得はする。だが……以降信長の連撃の度に弾かれては手元に現れるその武器はあまりにも多すぎる

何度弾いても、何度飛ばそうとも信長が刃を返す頃には戻っているそれに彼女自身苛立っているようだった。逆に言えば何度も武器を弾かれるほど追い詰められているはずの彼がそれでも一撃を受けること無く耐えている光景が……酷く不思議に写る

 

「躱せよアーチャー!」

「「どっちに言ってる!?」」

 

状況の打開のためか先程まで戦いに参加していなかったキャスターが魔術を放ち、そんな状況でも二人は仲良く反応してキャスターの打ち出した炎弾を飛び退くことで避けていく。

そのままエミヤの逃げる道を追う様に炎は伸びていくが、流石に捉えるのは無理な話だ

 

「いやはや、いきなり首を狙いに来る少女も少女だが仲間ごと打ち抜こうとする魔術師などもはや論外ではないかねキャスター」

「弓を使わねぇ弓兵に言われたくはねぇよ!」

 

首を上下に振って頷いているところ悪いが信長、お前もだからな?

 

「しかしどうにもここのサーヴァントとはイマイチノリが合わんのぅ」

「いやいやノリッノリだったじゃないか、どの口がいうんだお前」

「ああ、テンションじゃなくての……まぁ何だ?わしの能力の関係でな……今は力が出ない」

 

……なるほど渋い顔はそれが理由か

 

「それだけではないがのぅ……あやつ確かに弓兵にしてはちょいと器用がすぎる」

『────みんなちょっと聞いてくれ』

 

信長の話を遮るように再び無人の声が響く。ロマ二のカルデアからの通信だ

 

「戦闘中に何よ!?」

『あ、いえ所長、その敵の魔術の事なんですが……』

 

……魔術だと?

視線を渦中の英霊へ向けてみるものの魔術を使用した色は見られない。強化、探知、罠、呪い……そういった類の魔力の流れが無い。

 

『さっきの次から次へと武器が出てくるアレ、“投影魔術(グラデーション・エア)”です』

 

────グラデーション……エア?

 

………………。

 

 

 

……………………。

 

 

 

「「投影魔術ぅ!?」」

 

所長と俺が声を重ねて叫ぶ。いやそれ程に驚くべき話だった。いや驚くというかありえない話だった。シバの写した人類史の消滅が実は黒光りするアレのせいというぐらいありえない話だ

 

「……そんなにすごい魔術何ですか?」

 

そうシロが問うてくるが全くそんなことは無い、むしろ全く逆の魔術と言える

確かに習得難易度は易しいとはいえないが逆に言えば難しいわけでもない、可もなく不可もなく。使い手もそれなりに世界に入るはずだ……だけど

 

「……恐ろしく非効率な魔術なのよ。投影魔術は魔力によってものを複製する魔術……でも素材が元々形を持たない魔力だし完成品の精度は作り手の記憶に依存する」

『つまり形や材質、傷やその中身まで正確に把握しないと完全な再現は不可能なんだ。そして所長の言う通り魔力が元だから簡単に霧散する……儀式とかの道具を使う時に変わりに使われる程度の魔術、それが本来の投影魔術の使われ方なんだよシロちゃん』

 

ですが、とマシュの声に視線が地に突き刺さるいくつもの剣へと向けられる

 

「現にあれは一切のほころび無くあそこにありますドクター」

『……それが、信じられないことその一だ。恐らく、彼の投影は完璧なんだよ。魔力が崩れることなく、骨子の想定や構成材質の把握、内部構造に経過した年月、あらゆる情報を完全に認識しているんだ』

 

……それは恐らくあの双剣だけではないのだろう、それ以外の爆撃に使われたあの刀剣も全て─────あ

 

『……そして信じられないことその二、彼は宝具を投影しているんだよ。きっちりとあの夫婦剣のその全てに概念が宿ってる』

「────なるほど、思わず聞き入ってしまったが……別位相からの観測か。ずいぶん予想外な方法でバレてしまったな……手品も種が割れると面白くないのだがね」

 

……手品なんてものじゃない。いやそれ以前に────弓兵でありながら剣で近接サーヴァントと打ち合った信長に匹敵する腕を見せ、さらには魔法使いですら出来そうにないレベルの魔術の行使だと?

それで聞き覚えのない名前?

 

 

──────ふざけている

 

「呑まれるなよ主よ」

「……もちろんわかってるさ。だけどそうじゃないんだ、そうじゃない」

 

確かにあのアーチャーは難敵だ。無条件ではないだろうが完全な投影魔術という物がここまで恐ろしいと思わなかった。だがそうじゃない。

 

「……キャスター、じゃあそのアーチャーを打倒したセイバーってのは一体何なんだ?」

 

俺には眼前の皮肉屋すら化物に見える。もちろん信長だって遠近両用のサーヴァントだしさっきだって押していた。負けるとは思わない……でもその上をいくサーヴァントがいるのなら、それが聖杯を守っているのは────少し不味いのではなかろうか?

 

「……そういえば伝えてなかったか。だがそんなもん言わなくても一目見ればわかると思うぜ?選定後、王が手にした二本目の聖剣。神が作り出した星の光を集めた逸品、世界最高名な聖剣の使い手───」

 

キャスターの言葉に喉がひりつくのを感じる。

俺の想像に間違いがなければ彼の者は遠く離れた日本の地ですら信長に劣らぬ知名度を持つ王、裏切りと滅びの中それでも戦い続けた真の英雄……

 

「ブリテンの王、アーサー……それが彼女の名だよ」

 

答えは合わせはアーチャーがしてくれた。

 

なるほど、確かにそれは並の剣の腕ではない。宝具を投影しようにも魔力が足りないどころかそもそも理解できるものなのかもわからない

 

……でもならばだからこそ余計に、突破する理由ができた

 

「近衛くん、やるしかないんだよね?」

「あぁ、やるしかない。これからラスボスを叩こうって言ってるのにその守護者様なんかに手こずってられるか」

 

シロも俺と意志は同じようだ。予め聞いていたこの手の紋様の使い方……令呪、三回限りの契約中のサーヴァントに対する絶対命令権

 

「マシュとアーチャーの両名に」

 

手を掲げ、熱く燃える魔力の塊に願いを込めて

 

「令呪をもって命じます」

 

サーヴァントの力とする

 

「「絶対に勝て」」

 

赤く輝く三画のうち、一番外側で残った二画を包むように開いていたそれが消えていく

 

代わりに迸る様に打ち出された赤い魔力が収縮し────それぞれのサーヴァントへと直撃した

両名の身体から漏れる赤は令呪の効き目の証、命令権を利用した一時的なブースト効果

 

「おい、盾子。わしの壁役に任じてやる、せいぜい働くがよいわ」

「おや、アーチャーさんにしては随分と弱気ですね。壁役が必要ですか?」

「カッ、抜かせ。わしが全力を出したら仕事に溢れるじゃろう?かわいそうじゃから就職先を作ってやるんじゃよ────さて、それじゃあ」

 

二人の女の子が力強く前へ踏み出す。

片や盾を、片や刀を─────向けるのは眼前の敵

 

「「了解したマスター、望みの通りに勝利を」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────オーバーキルという言葉を……知っているかね君達は?」

 

昂った俺達が若干引きつった顔の弓兵や、仕事終了とばかりに隅で座り込んだ魔術師に気がつく事は無かった

 




最後のはあれですね。思わぬビックネームと眼前の強敵がこれでもまだ敗北者だと......!?って言うことでアーサー王を知らない組で盛り上がってます。要は「これはメラガイアではない、余のメラだ」→「くっそー負けるもんか」っていう勇者体質です。
ただしアーチャーは腹ペコ王を知ってますしアニキも実物既に体験しててノリについて来れてません。バトルマニアのアニキが参加しないのはアーチャーへの同情と巻き込まれることの方が面倒という考えからです
ちなみにこの世界の令呪は回復しますが用途は本来の聖杯戦争基準で行きます。まぁつまり「蘇れ、ランサー」ではなく「自害せよ、ランサー」ってことです

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