聖杯奇譚 魔王降臨   作:ヤッサイモッサイ

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いうことはただ一つ、水着ノッブが来なかった


夏フェス2017〜炎天夏の敦盛地獄〜

「───という訳で向こうの数日間はバーサーカーじゃ、よろしくな主」

「……ぁ?」

 

……あぁ、頭の中が虚無に占められるという不思議アハ体験だ。何も無いのに埋め尽くすというこの矛盾よ。暑さで頭がやられたのだろうか?無論目の前のバカのことで自分のことではない。

バカの名前は織田信長。真夏であろうともくそ暑苦しい黒色の軍服を着ていた黒髪ロングの和風美人だ。あくまで見た目だけは。中身は悪魔だ、というか魔王だ。今は何やらカジュアルというか、まぁ現代風の格好をしている。

 

「あー、やっぱり狂化スキル付いてたんだ。とかその担いだギターは何?とか何がというわけで?とか疑問は多いけど、まぁまともな答えは帰ってこないだろうから聞くのはやめる。だから今すぐ回れ右して部屋から出て言ってその数日間は俺の前に現れるな」

「いきなり辛辣じゃの!?何その塩対応!?ドヤ顔決めたわしがバカみたいじゃろ!」

 

いいえ、正しく馬鹿なんだよお殿様、ならぬお嬢様。大体なんなんだそのクソダサTシャツとスタジャン───いや、ジャージは。見た目がいいからこそなんとか許されているだけで、やっぱりこいつのセンスは()んでいる。

 

「へいマスター、ここにノッブとか来てませんか───やはりここでしたか。ほらさっさと戻りますよ。まだ話は終わってませんからねー」

「叔母上!ずるいずるいずるい!それ茶々に寄こすのー!!」

 

はいこの混沌としたマイルーム(オアシス)吐血芸人(おきた)黄金狂(ちゃちゃ)がオンライン。

 

「主よ、流石に自分のサーヴァントを見て目が澱んでいくのはわしもドン引きなんじゃが」

「原因が自分たちにあることを自覚していないのはドン引きなんじゃが……まぁ何となく事情は掴めたけども……!」

 

つまりアレだろう?シロのサーヴァント達が次々と霊基を弄り水着に変わってバカンスに繰り出すのを見て、信長は例の如く余計なこと(KAIZOU)を始めたわけだ。それを見て羨ましくなったぐだぐだ勢に追われて逃げて来た……と。

 

「……なにも霊基まで弄らなくとも」

「わかっとらんのー、基本的に成長のないサーヴァントの身にとって真の意味でイメチェンとか心機一転というのは霊基クラスで弄らねば意味が無いのよ。ただ着替えただけではのぅ」

 

完全に矛先を沖田に向けて言ってなければ頷けたんだけどねぇ。

 

「ぐぬぬ、そういった影の女王や女神染みたサムシングは沖田さんには出来ません……!」

「茶々も無理ぃ!基本的に求める側の霊基だかんね!適性とかもないし!」

 

……単に水着になりたいと言うだけなら、まぁ俺にもその願いは叶えられる。しかし魔術の最奥に近い技術が要求されるとなると、叶えられるのはそれこそ女神やスカサハの様な人の理から外れた存在、あるいは他人の常識から外れた存在(のぶなが)にしか不可能なことだ。メンツ的においそれと頼める様な相手ではないし、何故かしら革新的な開発力・改造力を持っている信長とて簡単なことではなかったのだろう。普段の彼女ならばこうしてひけらかすような真似はしない。なんだかんだ言っても軍略なるスキルを持つ彼女ならこうなることは読めていただろう。

それでも自慢したくなるほどに今回のことは彼女にとっては偉業であるという事だ。表面上はそうは見せていなくとも。

 

「まぁ、気持ちはわかるけどな。俺だって新しい礼装が来るとなんだかんだ心が踊るし、その点信長は衣装が軍服しかなかったからな」

「茶々だってそうだもん!」

「まぁ茶々は召喚されたのが割と最近じゃないか」

 

まぁこの時点で丸く収まることはないだろう。いつもの様に斬りあって撃ち合って終わるのならそれもいいけれど、残念ながらここはマイルーム。そんなことをされても困る。

 

「───フム」

 

信長が来るまで読んでいた本を閉じて、混沌とした空気を断ち切るように一息おく。

 

「ならこうしよう、最近実装された霊衣開放という機能を知っているかね?」

「───詳しく聞きましょう」

「詳しく!詳しくぅ!!」

「……なんか主わし以外に甘くない?ねぇ、絶対わしの時はそういうことしないよね?」

 

まぁ夏仕様のバカは無視しておいて、シロから聞いた話をそのまま口に出す。

 

「霊基が劇的に変わる訳では無いんだけど、再臨素材を使って紡いだその特殊な衣服は、着ていると霊基がそちら側に傾くらしい。つまり本当の意味で気分転換になるらしい」

 

これは試験的に水着になったマシュに直接聞いた話だが、属性やクラスといった大きなところに変化こそないものの、気分だけは霊基が変わった気持ちになっているとのこと。

 

「無論これとてそう誰でも出来る技術じゃないけれど、この程度の権利なら今もバカンスに出ている上位者勢に頼めるんじゃないかな?」

 

……そう、あくまで平和的な解決。俺が提案したことは少なくともそういうもののはずで、決して何らかの含みが混ざったものではなかった。

しかし残念ながら、コミュニケーションとは話し手も重要だが聞き手の方が重要であることを俺はわかっていなかった。

今ここに集まったメンツを思い返してほしい。

幕末に置いて闇討ち上等とばかりに人を斬って斬って斬り捨てまくった、むしろぐだぐだ勢に置いて最も手が出るのが早い、この世で最も物騒な病人───沖田総司

叔母の血を引いたのか、時代・体制を傾かせるということにおいて競い相手すらいない黄金狂い。その天上天下唯我独尊(ゴーイングマイウェイ)を地で行く様はウルク民を連想させられる超絶お嬢様───茶々

そして以下略な織田信長。

 

───平和的に、なるはずも無かった……!

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

暑い日差しに、焼かれた白砂……打ち返す白波の音色がこの光景を調和させ、水着の貴婦人たちが眩くも輝く、夏のバカンスは完成───するはずだった。

残念無念、夏の貴婦人など存在せぬ。ここにあるは全てが全て夏の獣……つまりはビーストクラス。人類悪の権限である。

 

「日本における三大化生か……フム、相手に不足なし!わしのビートを刻んでやろう!」

「まぁ、ヒトのあまぁー♡くてベリーデンジャラスなバカンスを邪魔しておいてその不遜……夏の玉藻はちょっぴり危険ですよ?」

 

睨み合う三大武将と三大化生。恐らくはぶつかり合うギターとパラソル。なんか肩書きと武器が見合ってないとかは知らんぷりで行こうか。

 

「ちょっとちょっとなんなのよ、私にはやらなきゃいけないことがあるの!邪魔しないでもらえる!?」

「へへーん、そんなの茶々の知ったことではないのだ!てゆーか、前々から思ってたんだけど若干キャラかぶってない?燃す?燃す?」

 

少し離れて稀代の宝石狂いにこれまた稀代の黄金狂い。守銭奴VS守銭奴という金持ちも裸足で逃げ出す散財対決。こころなし、隅の方で遊んでるマリーアントワネットも眉をひそめている。

 

「フッ、まさかこのような形で日本の侍と獲物を交えることになろうとは……うむ、滾るな。夏ということは抜きにしても、私達3人に喧嘩を売るとはなかなか骨があるじゃないか」

「所詮は人斬り、とはいえその身は人。なれば我が不可避の3段で貫けぬよしもなし!その水着、貰い受けま───コフッ!?」

 

まぁ前者四名に比べればまともに武人をしているコンビは……マトモなだけに尚更なぜ武器を構えて向かい合っているのかと。話し合う気ゼロじゃないですかイヤだー

 

「さて、まぁだいたい予想はつくけどさ凜くん。そろそろ信長さんたちの考え方を理解しようよ……生まれた時代が違うんだよ?そんな事言ったらこうなるよ」

「追い剥ぎの思考が常識な戦国とかそれホントにその認識の方が正しいのか!?」

 

まぁ、現に揃いも揃って武器を構えてレイシフトしてきた訳だが……日本のサーヴァントに常識なんてなかったんだなぁ……

 

「まぁいいや、もうほっといて遊ぼう。今は全てを忘れたい」

「お、イイね!じゃあビーチバレーしよ!」

「───サーヴァントと、ビーチボール……!?」

 

こやつもバーサーカーでござったか、であるか……まぁ是非も無いよねー

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、人理修復後の世界はかくも平和なり……なんちゃって

 




───数ヶ月前の話だ。私は来る夏に向けて石を貯め始めた。なんでもことは無い、ただ水着に身を包んだサーヴァントを愛でたかったが故だ。いや、今にして思えばこの段階で私は何かを感じ取っていたのかもしれない。信長が我がカルデアに来て以来、感謝の1日一万回三千世界を繰り返してきた私には、きっと分かっていたのだろう。
とある生放送でノッブが水着になることを知った。私は超情景反射的に目から溢れ出たノッブへの愛で二体目、三体目の水着サーヴァントが何なのか見えなかったが、次の宝具映像の時には不思議とそれらはさっぱりと流れ止み、私は主の奏でるロックンロールに合わせて踊り狂った。最高の瞬間だった。人生最高の笑顔だったと断言出来る。高校最後の試合よりも、爽やかな汗を流した気さえした。しかし私に虚無感はなかった。充実感すらなく、あったのは闘争心。安心や安寧とは程遠い心境であった。私は感謝の三千世界を倍に増やしてその日を待った。メッセージ欄が追加されてからは、フレンドにどれほどノッブが来てくれることが喜ばしいことなのかを毎日書き綴った。攻略サイトのノッブのページに通いつめ、同志がなにか書き込むのを待っていた。まだ情報がなく、真っ白な水着ノッブのページに一日張り付いていたりもした。楽しかった。ただ毎日が楽しかった。楽しすぎて落としかけた単位のことが気にならぬほどに、私は燃えていた。来たる戦いの日……私はメンテナンス終了一時間ほど前から携帯を前にシャドーボクシングをしていた。激しいフットワーク。如何に数日の間隔を置こうと、私の闘争心は欠片も萎えること無く、むしろノッブの今際を思わせるほどに熱く燃え盛っていた。メンテナンスの延長、未定の文字に時計とにらめっこを続けて早数時間……段々と一秒が伸び、やがていつから自分は波旬にやられた練炭の力を得たのかと自問自答するようになったが、まぁ些細な問題だ。戦いの時は来た。私は信長ピックアップの文字を確認してから174連という長い戦いに身を投じた。



しかし、彼女は来なかった。水着ノッブはついぞ姿を表さなかった。三度姿を見せた喋るフランちゃんに、突然飛び出してきたオバQじみたニトクリスに、なんかやたら可愛いけど求めていたものと違うネロに悶えながら、なんで星四こんなに来るのにピックアップされている信長は来ないのだと叫んだ。やがて石が底を尽きた。さながら灰のようだった。現実を認めたくなかった。震える指先でタッチした画面には、ガチャの期間が表示されている。まだチャンスはあるはずと、ガチャの詳細を見たのだ。




そこには驚愕の真実が書かれていた。なんと私が信長ピックアップだと思って引いたガチャは、その実水着鯖すべてピックアップと言うとんだ闇鍋ガチャだったのだ。おかしい、私はこの来る日に向けて何度も攻略サイトを見た。それなのにこんな大事な情報を見逃すはずが───私はふと気がついた。この数日、私は信長のことしか考えていなかった。ノッブしか見ていなかった。具体的に言うと攻略サイトでもノッブのページしか見ていなかった。……つまり気づくはずもないのだ。盲目的な愛が、いかに危険なのかは某星三バーサーカーを見て知っていたはずなのに。私は打ちひしがれて1晩種火を回りながら考えた。水着サーヴァントをイシュタルも含めて最終再臨させながら考えた。フレンドの出している水着ノッブを恐らくはそのフレンドよりも使い込みながら考えた。





やべ、小説で番外書く気だったのにネタがなくなった……と。

この本文の半分ほどの長さのあとがきは、私のそんな思いから出来ている。聖杯に災いあれ、ついでに今回のイベントのノッブに栄光あれ!既にネタキャラとしてすごくめだっているけれど、もっと出ろ!

以上です、お付き合いありがとうございました。21日のピックアップまでにどれほど石を集められるかは分かりませんが、必ずや愛しの彼女を手に入れて見せようと思います。ちなみにあとがきを書くのに本文より時間をかけました。自分でもビックリです

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