聖杯奇譚 魔王降臨   作:ヤッサイモッサイ

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原作読みながら四苦八苦して書かないでいい小説って楽しい、指が止まらない。

帝都聖杯奇譚で信長は顕界後に軍服を手に入れたわけですが登場時の装いがわからないためにここでははじめから軍服姿を採用してます。



魔王が魔王と呼ばれる由縁

僕は父親の顔を見たことがない。

血縁上、親に位置する男はいたが、彼は葱と呼ばれる女と桜と呼ばれる子供にしか家族としての顔を見せなかった。だからきっと僕に家族はいないのだろう。母親を名乗るその女も、まだ歩くことすらままならない赤子も、家族などではなかったということだ。

だが僕はそれを子供(にんげん)として悲しく思ったことは無い。だってそうなのだ、僕は歴史を繋げるために産み落とされたのだから。冷静に考えなくとも、その程度ならわかる。だってそれは正しい。正しいことは正義だ。

だから僕は正しく振舞おう、(正義)がそういうのであれば、僕もそれに従おう。魔術師らしく、研究に明け暮れよう─────そして、家族ができた時には(ただしく)するとしよう

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

英霊の力は桁違いだ。そんな事は言われるまでもなくわかっていたこと……過去の伝説や偉業のすべてを達成する力があるのだから当たり前だ。

だがそれにしても眼前の少女は些か規格外が過ぎた。このサーヴァントシステムに詳しくない自分ではアーチャーと名乗った意味はわからないが推測程度ならばできなくもない、要はこれ程の魔力に場を用意しても再現しきれない英霊の実力を名によって縛ることで一部分のみに特化させ、全盛期の力を再現しているのだろう。

例えば先程の武蔵坊弁慶の場合であればランサー、あるいはセイバーと言ったところだろうか?

少なくともアーチャーではない。

だとして何がおかしいのか?簡単だ。生前のステータスの時点で眼前の華奢な女の子が武蔵坊弁慶に力で勝っているとは思えない、仮に勝っていたとしても振り下ろされた槍をあんな不安定なただ片手で突き出されただけの刀に止められるはずがない。

そしてその上相手は近接に特化して呼び出された英霊でこちらが遠距離に特化して呼び出された英霊だ。近距離で戦う上での不利は避けられない……はずなのだ

 

「フン、防がれたか。ここは素直にさすが、と言っておくかの。黒達磨になっていても英霊は英霊か」

 

それにもかかわらず再び立ち上がってきた弁慶をしてこの余裕である。

確かに左手に持った刀は先程の銃撃で粉砕されたようだが……こと弁慶に関しては武器の一本や二本何の問題にも成りはしない。なにせ彼の背中を見ればわかるとおり、彼はその身が武器庫のようなものだ

 

「アーチャー……でいいのか?」

「無論……まぁあんまりカッコよくないしパッとしないからワシ的に言えば────そう、魔人アーチャーとかどうじゃろう?強そうじゃろう?カッコイイじゃろう?是非も無し!そう呼ぶが良い」

 

……まぁその余裕もこのサーヴァントの正体が織田信長だと言うのであれば納得がいくのだが……見れば見るほど一部分のみに特化自身の中の魔王の印象と合致しない。

だがそれでも彼女から本物の覇気を感じる辺り、やはり嘘ではないのだろう。

認めよう、彼女こそ歴史に名を轟かせし唯一の魔王、織田信長その人であると

 

「そう、なら魔人アーチャー。君ならアレを倒せる?」

「それこそ無論じゃの、真の覇王たるものがあの程度の雑兵に負けるわけがなかろう」

「いや、武蔵坊弁慶は雑兵じゃないんだけど……」

 

実力者故の傲慢か、味方にすればこれほど頼もしい言葉もない

 

「なら頼むよ魔人アーチャー、彼を倒す。手伝ってくれ」

「サーヴァントを相手に手伝ってくれとは随分と謙虚な(マスター)よな。じゃがワシ気に入った!いいよ手伝っちゃう!」

 

未だに燃える宝石より溢れた魔力を足へと叩き込んで無理やり立ち上がる。

左手の治癒は後回し、眼前の脅威を排してからだ

幸いにも距離はアーチャーのもの、名前の割に弓ではなく銃なのだがどちらにせよ遠距離の攻撃ならば変わらない

対する相手は接近戦で手持ちの槍を防がれた事が気に食わないのか両手持ちへと構え直してこちらへ穂先を向けた

 

「そういえばあれは弁慶と言ったのぅ主」

「あぁ、特徴を見るにそう判断したけれど?」

「うむ、別に異論は無い。じゃがもし奴が弁慶だとしたら────ちょいと遊んでみたくはないか?」

 

具体的には脛あたりを蹴飛ばしてみたら楽しそうよな、とそう口元を歪めたアーチャーはまるで突撃するかのように一瞬姿勢を低くし

 

「待て─────」

 

僕の静止が掛かる前に飛び出した

わざわざ相手の領域に入る理由なんてあるのか……嗚呼確かにこれは織田信長だ。僕には御し切れない。

 

それでも帰ってきたら怒鳴るくらいは許して欲しい。この時ばかりは偉人に対する尊敬よりも呆れが勝った

 

「────ォォォォオオオッ!」

 

対する弁慶もただそれを眺めて終わる兵ではない。アーチャーが自身の間合いに入った瞬間にはその両手に持つ大薙刀を振るっていた。それによって震わされた大気がこちらまで及ぶのに本能的に鳥肌が立ったがそこまでの相手をしてアーチャーも一歩も引かない。

一発限りの火縄銃を捨てその左手を鞘に持ち変えた彼女は横薙ぎに振るわれたそれを下から弾き、その勢いで身を屈めると容赦のない蹴りを前言通りに脛へと打ち込む。

対する弁慶もなにやら悪寒を感じ取ったのか姿に似合わぬ機敏な動きで動作を止め後ろへと下がる。本来のアーチャーであればここで追わず逃げる相手を追撃するのだろう。少なくとも俺はそうさせる。

だが彼の魔王にそんな常識は通用しなかった

 

飛び退く弁慶に打ち出した足でそのまま踏み切ることで距離を開けることを許さない。姿勢を低くしたままに踊るように、薙ぐように打ち出された第二撃の軌道もやはりいわゆる所の“弁慶の泣き所”を通過する形だ

だが無論相手とて二度三度狙われたからと素直に弱点への攻撃を許す男ではなく、驚くべき事に姿勢も定まらなぬままに槍の石突きで地面を押し、さらに後退しながら回して降りてきた切っ先で軍服のサーヴァントを狙う。それすら刀で打ち払い、長い軍服の裾を翻しながらアーチャーと言えば狙うのは脛。避けては後退し、それを追いすがっては撃ち、さらにかわしては下がりと……一体何の勝負しているのかと言わざるを得ない。無論それに費やされる戦闘の技術やそれによって発生する嵐のような暴風からして何一つ馬鹿にできる要素はないがそれを行っている本人は大馬鹿だ。間違いない。

 

「はっは!踊れ踊れ、もっとわしを楽しませんかい!」

 

心の底から楽しそうなアーチャーだが弁慶からすればたまったものではない。いい加減に我慢の限界が来たか再び槍を片手に戻し、背中から取り出した斧の様な武具を投擲する形で無理やり流れを変えた。

 

「ぬ?」

 

流石に重さのある攻撃故か適当に弾く事もままならずようやく足を止めてその投擲を刀で受ける。

それを見てようやく足を止められた弁慶はといえば勝ち誇ったかのように再びその顔を歪ませてあの歪な笑みを浮かべていた

 

「……絶対に泣かす!」

 

無論見るからにプライドが高いアーチャーがそれに堪えられる筈もない。刀を鞘に戻し、腰のベルトへと差し込むと虚空へ差し出した両の手に先程の装飾のこった火縄銃を取り出した。

ようやくアーチャーらしく遠距離からの攻撃に切り替えるのかと思えばとった行動はまたも俺の予想をはるかに超えて先程のような突撃。

これには弁慶も虚を付かれたのか距離を保つように下がるのも忘れ、先程ののように再びその場でドッシリと構えてしまった……無論本当ならば銃を相手に距離を離すのは愚かな行動なのだがそれを逆にして自ら突っ込むあたり本当に織田信長という英霊が規格外だという事を良く表している。

その様に先程の焼き増しのような光景だが細かいところで違う事が多い。一つがアーチャーの武器で二つ目がランサーの攻撃が間合いギリギリでの横薙ぎではなく引き付けての石突きに変わった事だ。

それに先程同様、獲物の腹で逸らすことで対応するアーチャーだが弁慶の狙いはまさにそれだ。刀ならば警戒しなければならないカウンターを今の彼は気にすることなく無防備な姿のままにすれ違える。あの速度の戦闘である以上、銃で狙いをつけるには限度がある。それに加えて弁慶の動きは反対側の銃口が向けられることを避けてアーチャーの身体を間に挟むような逃げ方だ。後は未だに接触状態の槍を弾くように薙げば再び距離が離れる。今度は受けに回らずまずから攻めることでアーチャーに反撃の隙を与えないつもりなのだろう─────何度もいうがそれが定石であり常識だ

だが型破りを体現したかのような少女を相手にそれはどうなのだろう?果たして本当に有効な戦法なのだろうか?

 

 

答えは否だ。正確には弁慶がそれを行動に移した時点で対処していたアーチャーにとっては否()()()

弁慶が能動的に事を運ぼうとしていると悟るやいなや信長は反対側の銃でまだ自身の影になっていない槍の柄を撃ったのだ。

まさにこれから力を込めアーチャーを弾き飛ばそうとしていた弁慶はそれによって逆に槍を弾き上げられる形となった。

自然姿勢が完全に浮いた弁慶は無防備だ、もちろんアーチャーはそれを見逃すことなく左の銃を構え引き金を引く─────こと無く容赦のない蹴り蹴りを脛へとみまった

 

「───────────────ッッ!!!??」

 

ドゴンッ、と人体の出す音ではない轟音があたりへ響くのとほぼ同時に弁慶の口から漏れたそれに負けじ劣らずな声にならぬ悲鳴が空へと突き抜ける

 

悲鳴を上げてのたうち回る弁慶に先程の彼以上に口元を引き上げて満面の笑みを浮かべながらもアーチャーは手を止めることなく右手の装備を再び刀へと戻して弁慶の装備を剥いでいく。

肩紐を切り背中の籠を蹴飛ばして、腰巻を払い縫い付けられた刃物をとっぱらい、落下して来た槍すら遠くへと投げ飛ばして……刀狩として名高かった彼のその名ごと奪うかの勢いでその装備を借り尽くすと今度は子気味よくコンっ、という音に変えて反対側の脛を再び蹴り抜く

 

信長は魔王と呼ばれる通り外道と呼ばれる行いも少なく無い。元の由来はまた別なその名前なわけだが眼前の光景を見させられるとあながち間違いでもなかったのではないだろうか?

要はただのSだったのではないか?当時にその概念があったのかどうかは知らないがのたうち回る弁慶を見ては艶やかに表情を変える信長はどう見てもただのSだ。

 

「ほら、どうした?泣かんのか?ん?泣きたいじゃろう?惚れ惚れ泣かんか」

 

……いやただのいじめっ子だ。サディズムよりもジャイアニズムと言った方が明らかに似合う。

 

 

結局弁慶はアーチャーが飽きるまで嬲られるだけ嬲られて呆気なくその身を魔力へと返して虚空に消えた

織田信長……魔人アーチャー。苛烈で過激で圧倒的。契約した俺をしてラスボスとしか思えぬ少女だが……こうして弁慶から散る光の粒子の中こちらへと振り返った彼女は苛烈よりも過激よりも何よりも可憐だった

生まれ持っての存在感、全てを牽引する器量、人としての生を費やすのに躊躇いを抱かぬ野望、そしてあらゆるものを誑かす美貌。

なるほど、人はそれをカリスマと呼ぶのだろう。だとすれば俺は彼女以上のそれを知らない、彼女の死因となった裏切りがなぜ起きたかもわからぬほどに

 

とにかく俺という人間は改めて織田信長という存在を理解し尊敬した。それは彼女風にいうと

 

「……織田信長、気に入った」

 

という事になるのだろう。

普通ではない、たしかに普通ではないし王道でもないが……俺という人間は家族の為ならば世界の命運をかけた戦いにすら望めるほど苛烈な人間なのだ。

伊達に遠い親戚に「赤い悪魔」と呼ばれていない……最も今の装いは真っ白だけどな

 

 

 

 

 




ちなみにfateでいう武蔵坊弁慶は本物ではなく、あの戦いで一人逃げたとされる人物が悔恨の念から仙人になりその後弁慶として振る舞い続けた存在で(たしかですけど)実際戦わせるとだいぶ強い宝具やらを持ってたりする割と強キャラです。黒化しているので弱体化兼半暴走で宝具の殆どが使えない状態なので上のように弄ばれていますが本当にぶつかりあったらノッブが全力出してもまだ弁慶の有利があり得るほどだと思います。てか認識が間違えてなかったら普通に有利だと思います。まぁ相手がノッブの得意な相性ゲーにならない相手なので仕方が無いといえば仕方がない。
また信長が筋力で馬鹿力な弁慶に勝っている描写がありますがあれは知名度補正と相手の弱体化によるものです。まぁ無人の特異点で知名度補正が働くのかはわかりませんがこの世界では働くこととしてます。

ついでに信長のステータスです

クラス:アーチャー
マスター:近衛 凜
属性:秩序・中庸
身長:152cm/体重39kg

長い黒髪赤目の軍服ロリババア(公式らしい)

筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:A 幸運:A- 宝具:E~EX

クラススキル 対魔力:B 単独行動:B
保有スキル 軍略:B カリスマ:B- 魔王:A 天下布武・革新:A

宝具
三千世界(さんだんうち)
ランク:E~EX
種別:対軍宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:3000人
由来:長篠の戦いで信長が使ったとされる戦術「三段撃ち」。
自分の周囲に無数の火縄銃を配置し、両手に持った銃も合わせて全方位に向けた一斉射撃を行う。本人は「三千丁の火縄銃によるマミさん的な『火縄=カタ』アクション」と評している。
武田軍騎馬隊を葬った逸話から「騎乗」の適性を持ったサーヴァントに対しては攻撃力が倍増する。
「神性」や「神秘」が低い相手には単なる火縄銃でしかないが、それでも三千丁の銃火器の止まる事のない一斉射は脅威である。
絶大な破壊力と圧倒的な射撃密度によって、桜セイバーを敗北寸前に追い込み、EXランクの宝具を保有する、かなり有名な「ライダー」のクラスの救国英雄を真っ向勝負で倒したことが桜セイバーとの会話で語られている。また、作中では「騎乗」「神秘(古い時代)」に該当すると思われるメドゥーサや赤セイバーを一蹴している。
第六天魔王波旬(だいろくてんまおうはじゅん)
ランク:E~EX
種別:対神宝具
レンジ:-
最大捕捉:-
由来:神仏を恐れず敵対する宗教勢力を悉く焼滅させたことで信長につけられた異名、そしてと生前に行った「比叡山焼き討ち」に代表される苛烈な所業を合わせた物。
「神性」や「神秘」を持つ者に対して絶対的な力を振るう存在へと変生する固有結界。後世で民衆が彼女に対して抱き積み重ねた畏敬の念と恐怖により大焦熱地獄が具現化する。
神性を持たず神秘も薄い英霊は熱さを感じるだけで済むが、高い神性を持つサーヴァントは、この固有結界の中では戦うどころか存在を維持することすら難しい。
なお、発動中の彼女はビジュアル的に裸になるらしい。
〈Wiki引用〉


という感じらしいです。宝具のところにも書いてありますが相性ゲーとはそのまま「神代・神性」に対する絶対有利で宝具のランクは愚かステータスまで大きく変化する化物です。そうでなくとも三千世界は瞬間的な制圧力において多分ギルガメ超えるんじゃねぇかな?もちろんエアなんか抜かれたら弾丸も届かないし固有結界も壊れるわけですが......それにアイツ自分が神様嫌いだからって理由で本来より神性低いし聖杯の泥飲み干す魂だから固有結界展開してもエアを抜くまでに燃やし尽くせるか謎だし......相性がいいからと言って勝てるかは謎ですね。ヘラクレスさんなんかも殺すのは容易でしょうけど殺す度につく耐性のレベルによっては怪しいところです。絶対耐性ならば刀と銃で二回、後は固有結界で何回殺せるかでしょうが防御力アップ系統ならスキルのおかげで常に攻撃のランクが十二の試練を超えられるはずなので弾幕ゲーで終わる......はず。
とことんふざけてますよね。ゲームの方でも黄金のタレで有名なギルさんに開始以降評判が落ちないヘラクレスですからえぇ余程です。本当に

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