聖杯奇譚 魔王降臨   作:ヤッサイモッサイ

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受験はまだ続いておりますが、何故か本番当日になってずっと書けなかった部分がかけてしまう悲しみがあったので乗り越えて投稿します。
さて、正月以降の投稿ですから?セイバーウォーズの話をまるまる素通りしました......と言っても私自身あまり熱心に出来たわけでもないので話せることも多くなかったのですが......うん、一言だけね?......高レアセイバーを持たないものは死ねとでもいうのか運営?

はい、セイバーウォーズの話はこれだけ。五百万DLの話は......皆さん肖像はどれを取りましたかね?私はFGO最大の功労者たる信長のものが出てないのがどうしても納得出来ないのですが、露出に負けてポンポコのを取りました。あれ見えてるよね?絶対見えてるよね?あんなファッションがげんだいでもはやればいいのに......

支離滅裂になりましたが、取り敢えずイベントの感想は消化しただろう。さぁ、早く本編行こう。私も勉強してくる。
それではどうぞ


投稿前追記
バレンタインイベント......気のせいか?チョコのところに信長の名前が......あああああああああああ!!!!無限回収頂きましたーーー!!っていうテンション上がることよりも何よりも、チョコレートではなく自身にラッピングをしている清姫のぶれなさ具合に脱帽


集えよ憎しみ、我が御旗のその元に

活字が流れる紙面をなぞる事で、人がそこから遠い世界を理解するように。俺もまた、魔女という英霊擬きと繋がることで、彼女の世界を理解した。

あぁ、であればこうなることは必然だったに違いない。空虚な世界を構築して、尚も空回りを続ける俺と、その激しき憎しみを、焚べる薪も無くただ滾らせる彼女。どこまでも偽物でどこまでも借り物……その行動に中身なんてなく、中身を証明するためにあえてそういう行動をとっているだけの不届き者。世界に対する、自己の存在証明。

 

「───ハハハ、アッハハハハハハハハハハハハハハハハァハッ!!?」

「……この城には、ちと豪華過ぎる燭台じゃったな」

 

真祖の姫が散り、俺とのパスも切れた……それは彼女も感じているはずだ。

状況は万事休す……残るサーヴァント二騎の戦力と、こちらの戦力の差は正しく歴然だ。だからこそ、彼女は炸裂した信長の炎から身を庇うこともなく、狂ったように笑いながら────否、狂ってもなお笑いながらその光に己が身を晒した。

 

「この光!あぁ、主よ!貴方の威光は、なぜ今更になってこの国を照らすのですか!?」

「決まっています、この国の人間が救われるべきだから。こんな絶望的な状況でありながら、立ち上がった彼らに、主の栄光は微笑むのです!」

「あぁなんと背徳的なのかしら(ジャンヌ)!哀れ、いっそ哀れだわ!こんな神殺しの火が、主の導き等であるはずが無いじゃない!」

「だとしても!この炎は確かに私の祖国を照らしている。その暖かさで救われる人がいる!希望を持てる人がいる。たとえ勘違いだとしても、私がただの田舎者であったとしても関係ない。人は、そこにあるものを信じて前に進むしかない。貴女の敗因は────そこにある!」

 

同じ姿を持つもののぶつかり合い。影と光の舞踊、爛漫なる対比の現象……得物を噛み合せる度に、偽者から自身の力を取り戻すようにして、聖女の動きは良くなっていく。

フランスの夜を割くように信長の炎が天に昇る今、その二人の姿はより鮮明にその対称性を写していた。

 

ひとつは白……劣勢だった頃に切り裂かれた外套を脱ぎさり、最低限つけていた鎧とその純白の肌着(インナー)を戦いの中解かれた金糸の隙間に覗かせながら踊る本来の彼女。

ひとつは黒……戦闘開始時と何ら変わらぬ、何ら変われぬ偽りの彼女。伸びない髪も、光に照らされてなお黒く澱んだその姿も、サーヴァントである事以前に変化を否定された彼女の象徴。

 

自分自身のこと故に、自身のことはよくわかっている。彼女らは自身ならばこう動くであろうという確信と共に動き、切り結ぶ。そんな激しい先読みの戦いに、マシュの入る隙間などあるはずも無く。もはや戦いは、「救国の戦い」より「違えた自分との戦い」へと移り変わっていた

 

「気に入らないのよ────気に入らないったら気に入らない!なぜ笑う、なぜ笑える!この私の憎しみは、アンタのもののはずなのに!本物なのに!!私とアンタは、何が違うッ!?」

 

……あぁ、いや、あるいは既に戦いなどではないのか。

答えを持つものへ、持たないものが挑む。そこに戦いの対等性なんぞ、存在するべくもない。

断言しよう、魔女は────黒きジャンヌ・ダルクはどうしようもなく偽物だ。どこまでも偽物で、どこまでも曖昧な存在だ。彼女の憎しみに源泉などない。彼女のそれは、民に裏切られた事へのものでも無ければ、主の救いが無かったことへのものでもない。本当の彼女は、そんなことを思っていないからだ。

とはいえ彼女自身がそうであれと作られた存在である以上、それは必須の事……彼女は、自身が何を憎んでいるかもわからず、なぜ憎んでいるかもわからずに溢れる衝動に任せて破壊を振りまく。

しかしそんなに状態で、その憎しみが晴れることは決して無い。それはより彼女を焦らせて、今度は復讐から目的を変え“自身の憎しみが本物である”ことを証明するための破壊へと移り変わっていく。偽者故のジレンマと言うべきか……所詮仮初の彼女に、“聖女でないジャンヌ・ダルクであれ”とされた彼女に、変化の道など無いと言うに。

 

「誰も、何も変わりませんよ。異なる者であろうとしているのは貴女自身の意思。変わりたくないから、認めたくないからと、貴女は駄々を捏ねているだけだ」

 

魔女が真名を開放せんと、振り上げた旗の根元を、聖女が瞬時に腰より引き抜いた剣によって切り裂く。

そんな隙を晒したのは、聖女の言葉に魔女が動揺している証拠。対の手によって引かれた旗を間髪入れずに突き出し、無防備なもうひとりの自分を、ジャンヌ・ダルクは突き刺した。

 

「さようなら、魔女。今度こそ、神の救いがありますよう……amen」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「────ジャンヌゥッ!!?」

 

悲痛な響き、その言葉が意味を成してなかろうと、ただ名前を呼んだだけにも関わらず、その発声者の大事な物が失われたのだと、明確に想像できるほどに込められた、圧倒的な感情。

青髭ことジル・ド・レェがその広間に到着したのは、聖女の旗が、さながら槍のごとく魔女腹部を貫いたまさにその時のことだった。

 

「ジル……?アハァ?へへへ、イヒヒヒヒヒッ!ダメですね、この後に及んでまだ止まらない。頭の中で、誰かの声が止まらない!殺せ!殺せって!私が燃やされたあの時の様な声が!今度は私に叫ぶ────あぁ、やっぱりダメねジル」

「……もう良い、もういいのですジャンヌ。あとは私が。このジル・ド・レェが全て終わらせましょう。貴女はもう休んで────」

 

よたよた、よたよたと、瀕死の状態で、しかし魔女は歩いて見せた。

あまりにも懸命なその姿に、そして彼女に哀れみを持っていた聖女は旗を持つ力を緩めてしまった────彼女が自分で言ったように、魔女はどこまで行っても魔女だと言うのに。

キャスターの言葉を遮ってまで、動きを見せた彼女が起こした行動はひとつ。音も無く腰から剣を抜き、軽く回すようにしてそれを投げる。自然自分へと向いた刀身を掴み、十字架か何かのようにして掲げたのだ。

 

「────止めろ信長っ!」

 

────俺と聖女ジャンヌだけがそれを知っていた。一時とはいえ契約していた俺と、それと同系統の宝具を持つジャンヌ・ダルクだけが、その危険性を理解していた。

しかし信長は動けなかった。それは彼女が咄嗟に反応できなかったとかではなく、彼女の性質によるもの。対決は因縁のある者同士でという信条、戦士として戦いは終わったという気の緩み、加えて最大の隙として彼女に存在する他者の観察という傍観の姿勢。それが彼女に反応することを許さなかった。

同じく、ジャンヌ・ダルクも動けない。前述の通り、魔女は偽物とはいえジャンヌ・ダルクとしてそこにいる存在。彼女が咄嗟に動けなくなる様な行動はよく知っている。

 

「これは──────っ!」

 

─────善性。例えどんな些事であろうとも、彼女は切り捨てることが出来ない。それによって大局が傾くと理解していても、彼女には全てを拾うという選択肢以外が存在していない。正義や正しさではないのだ。清さ、貴さ、善良さ、それらが彼女の尺度であり全て……今魔女の直線上には、聖女だけではなく、その後に控えるようにシロが居る。そして彼女の手には、防御用宝具足る旗が健在だ。例え防ぎきれないことが分かっていても、彼女はそこから動くことは出来ない。無論、知識も無く、戦の空気の変化についていける訳もないシロは、自身の危機にも気付いていない。

 

「────“主よ、この身は委ねられられました”」

 

詠唱が始まる。たったの一節、しかしその一節は彼女の人生を締めくくった名のある一節……その改編。

剣の柄に付けられた装飾が花開き、天の炎にも劣らぬ大火(たいか)となって咲き誇る。

自身が焼ける事すら気にせずに放たれるその一撃は、正しく必滅。たとえ聖杯であろうとも、容赦なく破壊する。

 

「あとは頼みましたよジル。私は─────これをもって憎しみを晴らします。そうですとも、愚かな私こそが憎しみの源泉!私は私が憎い!」

「くっ!」

 

その様子を言葉にするのであれば、さながらそれは消滅と言う自然現象そのもの。触れたものを“終わらせる”という、超攻撃的概念。

 

「“魔女の愚連(ラ・ピュセル)”ッ!」

「“我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)”!!」

 

対するように打ち立てられた旗から広がるは加護の聖域、呪いすら構わずに内包する威光による防御。

しかしそれも依代たる旗の耐久値が持たねば意味が無い、着実にダメージは蓄積されていく。

もはや紅炎を超え、純粋なる光の域まで達した度外の一撃を防ぐには、その宝具はあまりにも頼りなかった。なにせその姿は旗、本来は切り結ぶためのものではなく、ましてや消耗の激しい盾の役割を果たすのは、些か無理があるというもの。

 

この段階へと至れば、逆に火力に特化した信長に打てる手はなく、また所詮一マスターでしかない俺も、ただ聖女が光に飲まれていく様を見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「令呪で持って命じる。私を守って、ルーラー!」

 

とはいえ、それはあくまでも俺達の話である。

未だにマスターとしての権限を失っていないシロには、礼装の力と令呪のアシストが残っている。赤い光が、残光で宙に一文字を描いてジャンヌへと飛んでいく。

……“守る”。その使い方は、俺が先程真祖の姫君に命じたのと同じ使い方。限定的故に、物理的制約すら無視して実行する力を得る、マスターとしての最高の擁護。そして事この状況に限って出し惜しみの意味はなく、となれば必然シロはすべてを出し切るだろう。

 

「重ねて命じる。ルーラー、私を守って!」

 

────二画、聖域の加護が旗にかかる負担を減らしていく……だがどうあってもゼロにはならない。令呪が影響するのはサーヴァント本人のみ。宝具の物理的耐久値に関しては、門外漢と言える。

 

「ダメだ、足りてない。令呪を使っても宝具の方が持たないぞ!」

「うん、だからこそ────最後の令呪を持って命じる」

 

三画目の令呪、放たれた光の行く先はジャンヌの元ではなく、ずっとシロの近くで控えていたもう一人の少女。

 

「マシュ、ジャンヌの宝具を守って!」

「了解です、先輩!」

 

守りにかけて、彼女を超える存在もそう無いだろう。その頑強さはそれこそ大神宣言(グングニール)すら防ぎきるはずだ。

そんな彼女が主の命を受けて旗に並べるように突き立てたその盾が、命を燃やした程度で超えられるはずもない。

聖女の旗はいわば時間稼ぎ、サーヴァントの身体能力を得たとはいえ、マシュの速度と練度では防御は間に合わない。その穴を埋めるための使い方。

 

擬似展開(ロード)人理の礎(カルデアス)!!」

 

盾から広がる光が、迫る暴威を弾いて押し返す。力強きその在り方こそ、シールダーと呼ばれる少女の戦い方。ここまで状況を整えられて、今更あの少女が己のマスターへと、攻撃を通させるわけがない。圧倒的な存在感を維持したままに展開を終えたその盾は、最早それだけで凶器。魔女は今、自身の命を削るほどの力で持ってけして揺るがぬ壁へと自ら激突しに行ったのだ

 

─────いや、()()()()()のか?

 

そもそも、マシュは多人数戦闘に慣れたサーヴァントだ。前回の特異点を含め、この特異点に来てから積んだ集団戦闘における経験値は伊達ではなく、元から信長の独特な戦いの流れに合わせられる感受性を持ってる彼女が、今更ジャンヌ同士の戦いに割って入れないなぞ、そんな事があるわけも無い。

それになによりも信長をして癖者と言わしめたシロが、この程度のピンチを予想していないはずもない。ジャンヌ同士の均衡を崩させるために、令呪を使っていい展開ならばいくつもあったはずなのにそれしなかったのは……はじめからこの展開を狙っていたから?

 

この状況を狙っていたから、黒ジャンヌが宝具を使ってくるのをわかっていてなお、三騎のサーヴァントと自分自身を直線上に並べたのか?

だとすれば、いい加減それは胆力や天然という言葉では片付けられない何かだ。サーヴァントに対する信頼とも違う、絶対の自信とも違う……いうなれば肉体と別離した精神─────神の視点、そう言わしめるものが……今の彼女からは感じられる。

 

「私の宝具が────破られる?憎悪の炎が、聖女を焼くはずの炎が!?」

 

マシュの防御で空いた旗を、聖女は瞬時に構え直す。敵は自らの炎でやがて朽ちて行くだろう、それは聖女とて分かっている。しかし聖女はそれをそのままにしておく人間では無い。信長の影響なのか、あるいは彼女自身の聖女という性質がそう判断したのか……彼女は未だ変わらぬ魔女の更生を、あるいは精神の打破を望んでいた。

故にその旗は少量の加護を残したまま、炎の中へと叩き込まれる。宝具が効果を失うその僅かな間で燃え盛る花弁を割いて飛翔したその旗は、再び魔女を貫いたまま炎の中より飛び出して来た。

 

燃やす対象を失った炎は勢いを失い、急速に萎えていく。それは同時に今度こそ魔女の体力が尽きたことの証左だ。

魔女の特攻を黙ってみていたキャスターも、そのあまりにも無残な姿にいよいよ飛び出していった

 

「……フフ、せめてジャンヌ・ダルク(わたし)だけでもと思ったのですけど。まさか防がれるどころか助けられるとは……ホンットにムカつくわ!」

 

ジル・ド・レェに身体を起こされながら、そんな瀕死の身であっても彼女の態度は変わらない。憎しみだけが、その瞳の表面で燃え盛っている。

そんな魔女を見て、聖女は……なぜか表情を和らげた。

その場にいる全員が空気に合わないその微笑みに疑問符を浮かべる中、その様子を察してか少し顔を赤く染めながら、ジャンヌ・ダルクは口を開いた

 

「いえ、彼女がやったことは確かに悪で、私からすれば理解に苦しむ様な行為ではあったのですが……性格だけ見れば、こうして一切の暴力を抜きにして語り合える状況になれば、なかなかどうして面白く思えるのです」

 

説明を聞いてもなお、全く理屈が理解出来ないのだが……そんな視線を自身の後輩(サーヴァント)から特に強く受けたシロが言葉を付け足す。

 

「聖女ジャンヌ・ダルクは、元々はただの女の子だからね。別に空から振ってきた訳じゃないし、果物の中から出てきた訳でもない。普通の人と同じように家族がいて、兄弟もいた。そうでなくても自分と同じ姿をした性格真反対の存在なんて気になるでしょ?」

「……ハァ?待ちなさい、いや待てそこのおとぼけマスター。その言い方だとまるで私がその田舎娘と姉妹みたいな────」

「うん、性格と姿だけ見たなら面倒見のいいお姉ちゃんと反抗期真っ盛りな妹ちゃんだって言ってるんだよ?」

 

……なんというか、うん。言葉にすれば絶句である。不思議な日本語であることは重々承知だが、シロにせよ聖女にせよ、考えがおかしい。

そしてさらに照れたように頬を赤く染めたジャンヌの反応から、シロの答えは間違えてなかったということが伺えるのが、より混乱を深まらせる。

ジル・ド・レェもビックリだ。理想の聖女を作ったと思ったら本家から妹認定されたのだから。なんという微妙具合か

 

「まぁ確かに、妹と言うと違和感こそ感じますが……もし私が聖女でなかったのなら、信長さんやマスターのように、あるいは貴女の様に振舞ってる自分がいたかもしれないと考えると、どうしても面白かったのです。だって私は私でしかありませんから、自分のことと言えど、私で無い者のことは結局理解なんてし切れません。だから、私には貴女がどうすれば救われるのかなんてわからない」

「……ハッ、何を今更。善人面の限界ですねジャンヌ・ダルク(わたし)。結局あなたは憎んでいない等と言いながら、結局(憎しみ)を知らないだけじゃないですか」

「えぇ、私は憎しみを知りません。だから理解もできません。でもだからと言って要らない訳では無いと思うのです。マリーが確かにその心の奥でやるせない気持ちを抱えていた様に……私にも貴女がいてもいいのだと思います。だってそうすれば私はもっと多くの人を救うことが出来たのだから」

 

……そう、最後まで笑顔のまま聖女は言い切ったが、現実はどうだろう。

たらればの話をすると、キリがないとはいえ、やはり素直に頷ける内容ではない。人々が黒ジャンヌを魔女と呼んだように、憎しみを持ったジャンヌが聖女と呼ばれるかは少し怪しいものなのだから。

 

だからこそそれはきっと聖女としてではなく少女としてのもの。ジャンヌ・ダルクが、自身の本音として語った答え。聖人とは聖なる行いをした人間のことを指すのは確かだが……それを抜きにしても「少しでも多くの人を救いたい」と言いきった彼女の精神性の話。

 

「……呆れた、呆れ果ててものも言えないわ。この国の惨状をみてそれを言えるのだから大したものよ。私は誰一人救う気なんてない。だってそれが主の意思だから。そんな脳天気な私は炎にでも焼かれてしまえばいいんだわ」

 

……まぁ、だからといって何度も言うように、変化のありえない彼女に影響があるかといえば……無いのだけれど。

相変わらず何処までも澱んだ瞳が今度はこちらへと向けられる。

支えていたジル・ド・レェを押し退けて、自力で立ち上がった彼女は少し離れて言葉を続けた

 

「でもまぁ、それは逆に言えば私も憎しみ以外を知れたのなら、もっと他人を絶望させられるという事ですものね。いいことを聞きました。もしも次があるのなら、参考にするとしましょう」

 

そういう彼女の身体が、徐々に炎に包まれていく。足から胴へ、胴から頭へ……火炙りにでもあっているかのように、彼女はどんどんの炎の中へと姿を消していった。

 

「ラ・ピュセルはジャンヌ・ダルクを焼くことで成立する宝具ですから、炎が消えても、私がいる限りは無限に燃焼を開始するんですよ……マスター、あなたの在り方は本当に私の好みです。救いの無い、という言葉がここまで当てはまる人間もそう居ないでしょうからね」

 

これが恐らく彼女の最期、魔女としてのジャンヌ・ダルクはやはり火炙りによって消えていく。

その最期の言葉を向けられる気分というのが、また変にこそばゆいが……しかし一時とはいえ彼女のマスターであった身としては、やはりちゃんと聞いておこうと思う。如何にその言葉が俺を惑わせる類のものであったとしても、そんな事で彼女が救われるのであればなんとなく構わないんじゃないかと思えてくるのだ

 

「……だから、次会う時もそのまま救われないマスターでいてください。これが私の呪い……解けるものなら解いてみなさい」

 

一際強く燃え上がった炎のにより、その肉体は一瞬で粒子へと変化させられた。もう限界だったのだろう、なにやら恐ろしいことを付け加えられた気がするが、これでフランスへ恐怖をもたらした竜の魔女は確かに滅びた。

 

「おぉ、ジャンヌ……」

 

残されたのはただ一人、此度の黒幕にして最後のサーヴァント、ジル・ド・レェ。

そして、魔女にその意志を託されたもの。魔女にその夢を託したもの。

 

「土手っ腹に穴を二つ開けておきながらよう喋ったもんじゃが……さて、珍獣使い。無論止まる気も無かろう?あの使えん小娘二人の代わりに、ワシが相手をしてやろう」

 

そんな男が、こんな事で止まるわけがない。立ち止まれるわけがない────否、それはむしろ逆で、彼は聖女の処刑より先に進めていないのだ。魔女を願った彼は、その魔女と同じように、変わることが出来ない呪いにかかっている

聖女が剣を、盾兵が盾を、弓兵が銃を構えて、特異点最後の戦いに挑もうとしている。

向かう先はフランス百年戦争を生きる大元帥、狂気にその姿を歪めた古き騎士(ツワモノ)

 

「あぁ、もちろんだとも。わたしは誓ったのだ、この国から、わたしから聖女を奪った世界への復讐を」

 

流された血の涙、それが床を舐める度に、何かが脈動するようにその表面を揺らしていく。

俺達はそれを知っている。ねずみ算の様に無限に増えていく、血と肉より生まれ出る醜き魔物たちの姿を。そしてその手強さを。

 

「ジル、貴方はそんなにも、この国が憎いのですか?」

「─────当たり前だ!この国で生まれる全てが憎い!大地も、森も、天も、人も!すべてが平等に憎すぎる!そうだとも、この国を歪めたのはジャンヌ、あなたの憎しみではない、すべて私の憎しみだ!」

 

この男の慟哭に、きっと誰も憐れみを覚えることはないだろう。それは彼のその嘆きが、とても真っ当だから。空虚であった魔女のそれとは違い、たしかに憎しみとして成立しているからに違いない。だから恐ろしく、人は同情などという余裕が持てない

彼の叫びは、きっと正しい。人間が考えた人道とは離れているだろう、神の教えからは遠いかもしれない、騎士の誇りともきっと違う。でも生き物として、それを間違いだと断じることは、人間には出来ない。

 

「あぁ、貴様は確かに哀れな道化だが……その想いは確かに希少な物だった。人はそれを依存と呼ぶだろうが、魔王が称えよう。貴様のそれは美しい。例えどれだけ汚れようとも、その核だけは、聖女の祈りの如く輝いとるよ」

 

故に俺達は感じ入る。彼の持つその深い業に触れたからこそ、この長い戦いを、彼をただ蹂躙するだけで終わることが出来ない。

やはり、俺達の戦いは対話あってこそのものだろう。それを無くして、この世界(はなし)に終わりは訪れない

 

「だから、丁寧に手折ってやろう。夜は明けた、しからばあとは人の時間じゃろう。怨霊は疾く消えよ」

「まだだ!私はこの国を壊す!まだ、まだまだこの国は終わってなィィいいいッ!?」

 

慟哭はやがて発狂へと変わっていく。理解を得られぬ辛さ、狂人とてそれは変わらない。タダでさえ崩壊していた彼の精神が、再び終わるのも当然の話だ。

血の池を揺らし、這出るのは異形の海魔。ズルズル、ズルズルと湿っけのある音を響かせて、四方からそれらは接近していた

 

「じょ、城下のワイバーンとか兵士さんたちの死体から出てきたのかな?凄い気持ち悪さがアンサンブルしてるけど」

「先輩、離れないでください。そう、もっと近くに寄ってください、もっとです!」

「だから急に余裕を出すのやめてくれる!?」

 

珍しく声が震えている辺り、シロは余裕でもないのだろうけど、それでもマシュのは一体どういう訳だ!?

 

「主も大概じゃけどの。さて、来るぞ。一つの戦場の血を、まるごと依り代にして化物共を集めたのだとすれば、その規模は一体どれほどになるのやら……」

「私は(にく)む!私は(うら)む!私は(ねた)む!私は(そね)む!そして私は(いか)るのだ!この国を!一片たりとも残しはしない。貴様らが聖女にしたように!蹂躙し!加虐し!責め!偽り!その末に焼いてくれる!」

 

城の鳴動と共に、大きな触手が下層の階より城を貫いて乱立していく。

立派な城であれど、その基盤すら崩すこの化物の行動には耐えきれず、徐々にその姿を失う様に崩壊を始めた

 

「脱出じゃ、主はわしに掴まれ」

 

信長の声にそれぞれが反応し、俺達は彼女が切り開いた天蓋より飛び出すように避難する。

真祖の姫の踏み込みに加え、信長の炎と弾丸、そして魔女の一撃……それらもあってか、既に城の中央は半壊していた様で、気色の悪い海魔達に瞬く間に飲まれてしまう。

四方に立つ尖塔の一つへと降り立った俺達は自然と選択をせざるを得ない。

それは一度下がって、城下のサーヴァントと協力する事。

そしてもう一つが今ここで、また少しずつ面積を増していくこの巨大な怪物を仕留める事。

 

「決まってるじゃない、アイドルがステージから……客から逃げるなんてことあっちゃいけないのよ。ここで叩き潰す、それが正道でしょう?」

「えぇ、私も逃さないことには定評があるんです。それに城下に行くということはまたワイバーンやその他の屍の相手もしなければならない、敵も強くなる。ここで倒した方が世のためですよ、旦那様」

「……真っ先に避難してたおぬしらが言うか。しかも逃がしとるし」

 

……さて、まぁ二人とも無事なのは確認できたし。一応パスの関係で分かってはいたけども、これで憂いはなくなった。

容赦なく城ごと、ジル・ド・レェを潰せるわけだ

 

「確かにこの物量は厄介だけど、一体一体はそう強くない。清姫なら後続ごと焼き払えるし、信長とエリザベートの火力なら道は作れる」

「じゃあ、後は本体を倒せば勝ちだね。マシュとジャンヌは怪物の体を登っていって、ジル・ド・レェ討とう。彼の憎しみを、ここで終わらせてあげよう」

 

適材適所、あの塔と見紛う巨躯を持つ化物には殲滅力と火力をぶつけ、中に控える本体には単騎の力をぶつける。

あの様な怪獣と戦うのであれば、これ以外に手はない。

 

「聖女は主を連れていけ。外は激しくなる、敵の攻撃に晒すつもりは無いが─────さすがにわしも味方の攻撃より庇うなどという奇行のために意識は割けんよ」

「奇遇ですね。えぇ、私もこのドラ娘の被害からどうやって旦那様を遠ざけようかと頭を痛ませておりました。と言うよりもさっきから間近で聞きすぎたせいか、元から頭は痛かったのですけれど」

「……え、なんでアタシ?アタシなにかしたっけ?」

 

……自覚なしというのも恐ろしい。お言葉に甘えて俺達マスターも、中への突入組に参加するとしよう

 

「気張れよ主。正真正銘、今度こそ最終決戦。ここまで来たなら、最後までわしららしく、あの目玉の野望を打ち砕いてやろうではないか」

 

信長の激励を受けながら、俺達は一歩踏み出す。

この一歩こそ、人理修復の第一歩だ。

 




後半は力尽きたのであっさりと。
......え?戦闘はもうなかったんじゃ無いのか?って?気にするな、これもそれも何もかも冬木の聖杯が悪い。


取り敢えず今回のサーヴァントは魔女ことジャンヌオルタ。セイバーがアホ毛を引き抜いて変化するなら、彼女は三つ編みの部分を引きちぎって変身します......嘘だよ?
表情がこれでもかというほど凶悪で、訓練された人種にとっては存在そのものが御褒美な方ですが......一般マスターには少しレベルが高い。
クラスはジャンヌと同じくルーラー、しかしどういう理屈か知りませんが竜が操れたりします。ルーラーとは一体......うん。追求はやめておこう。
オルタの名前の通り聖女の反転した姿なので、全体的に黒い上にその性格は無慈悲にして苛烈、残虐と嗜虐、加虐のミラクルブレンドです。想像しにくければ......あぁうん、愉悦神父とかその娘あたりでいいと思う。そこにある感情が愉悦ではない感じもあるけれど、一応楽しんではいたみたいなのでそれでいいんじゃないかな?
存在の説明をするならば、ジャンヌ・ダルクが祖国に裏切られたことによりぶち切れてしまった姿という事になりますね。正体はブチギレジャンヌをジルが想像したものが具現化したものですけどもね。こんなのが理想ってやっぱり旦那はCOOLだぜ。あ、だから正式にはサーヴァントではないのよ。今霊基を上げてその域に至ろうとしてるらしいけどね。
フランス絶対焼き払うウーマンであり、普段はツンツンしてるけど実はジルに依存してたりもするこれまた属性てんこ盛りサーヴァント。基本スペックはジャンヌ・ダルクと同じだけど、宝具が攻撃性のものになっていたりと、やはり歪められたところが見えますね。ゲームの上では旗の方しか出てないので、今回の剣の宝具はジャンヌのものと全く同一にしてありますが......さて、今後出てくれないでくれよ。展開変えられないからな。


うん、あまり話せることないね!ほとんどジャンヌと同じだし、復讐に囚われたジャンヌ・ダルクで説明終わるもんね!あと私がセイバーオルタ持ってないからキャラクエで出てきたやつを知らないんだね!興味ある人はセイバーオルタを育ててみよう!
あぁ、あとクリスマスイベントでも出てきましたね。なんか主人公がフラグを立てていた様子でしたが......どこで立ったのかもわからないので私は今回、こういう形で立てました───「あぁ、同士よ!」的なね!
何度も言うけど新規鯖は情報少なすぎんよ!

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