聖杯奇譚 魔王降臨   作:ヤッサイモッサイ

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ノッブ愛故に1晩で書きました。
でもノブナガの資料が少ないので口調は学習中です。不自然なところがあれば教えてください
また作者は受験生で連載している作品の投稿も滞っている状態なので基本的にこちらは気分で息抜きに書いたのが区切り良いところまでたどり着いたところで上げることにします。原作とか見ないでかけるので正直こっちの方が今書いてる作品よりも書きやす......ゴニョゴニョ



ともあれ少しの原作変更はありますが基本的には忠実に再現していきます。違うのは主人公が2人ということとこの作品でのオリジナルの主人公の鯖として織田信長が入ることです。
後はゲームの主人公とこの作品の主人公に適当に設定をつけてゲームの進め方をしていきます。また原作(ステイナイト)との兼ね合いからここではゲームの主人公雑魚は基本的に雑魚です。タダの兵士や竜牙兵などは魔術師クラスでも倒せます。ワイバーンは無理ですけど。なのでゲームと違いザコ敵は3体とかではなくそれこそ無双ゲーの規模を想像してください。その他の事は後書きで書きます。ちなみに今回15,000文字近く書いてますが普段は5000文字程度の長さで投稿していきたいです。
ではどうぞ


2015年11月21日修整投稿。句読点や行替え、表現の変更に不要部位の削除、主人公描写の追加と地味ですがだいぶ見やすくなったかと。


特異点F 炎上汚染都市“冬木”
魔王、日の出国へ再び


───────一面の銀世界、自分以外の存在なんて無い、肌を刺す雪冷たさと目に痛い白い光のみがある最果ての光景

自身が使える、そう多くない魔術を用いてなんとか生きてこそいるものの、そうでもなければこんな山に入ることは不可能だろう……そう、魔術。俺がここにいる理由も、俺が生まれた理由ですら、言ってしまえばそのためのもの

魔術師と呼ばれる神秘の行使者は、総じてその人生を捧げ、その子の人生すら捧げて、さらにその先の子達の人生まで捧げさせて、一つの作品の完成を目指す。そういう人種だ。だからこそ日本の、そこまで規模の多くない家とはいえ、そこそこの愛情を持って育てられた俺は運がいいとすら思う。何を、と言う人がいればその悲惨な例を見てみるといい。孟執に目を眩ませて、人間であることを捨ててまで奇跡に縋る過去の賢人の末路を

 

……何にせよ大概にして魔術師というのはそういう人種だ。神秘を学び、極め、その先の奇跡を求める。現に俺が今用いている暖をとる魔術とて、その実魔力なんか使わなくともコートをもう一つ羽織ればいいだけの話、風を避けるのもモノ一つ前に置けば済む。

そういった神秘で満足出来ない連中はその先を求める。代換えの無い、代わりのきかない正真正銘の奇跡────“魔法”と呼ばれるものを

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「……ここがカルデア?」

 

過酷なブリザードを超え、絶壁すら超えて辿りついた山脈の頂点。その頂を円形にくり抜いたそこにはその円に沿って作られた風景溶け込むようにある白い人工物があった。

人の歴史を語る資料館、人理継続保障機関……陸地、高度六千メートルという高さにある天然の孤島たる山脈地に似合わぬ規模のその機関はもちろん言うまでもなく魔術によって作られ、魔術によって維持されている。

 

我が愛すべき父が早くに亡くなって以来、当主として小さき家系を支えて来た俺がこんな怪しげなところにいるのにも一つの理由がある

────実績が必要なのだ。愚かな俺の行動が、妹の生活を脅かしている。妹の今の立場を守るためには、俺が頑張って結果を残す他ない。それが正義であると、俺自身がそう定めたのだから、失敗はできない

 

「……行くか」

 

無機質な外観、白一色のそれは保護色のようにも見えるが魔術によって物理的に、組織によって情報的に封鎖されたこの建物にそんなものは必要無い。

恐らく同等の理由で装飾を不必要とし元の色のまま放置したのだろう。

世には姿を忍ぶ癖に身内の中では目立ちたがる魔術師にしては珍しい趣向だ、普通の魔術師とはまた別の意味で面倒臭い人間が仕切っていると見た。なにせ気配りにかけている、こんな一面白一色の世界で何処を目指して進めばいいのか、せめて入口の方に矢印でも書いておいて欲しいものだ。

 

「……というわけで少し失礼して」

 

既に必要のなくなったコートのフードを外し、耳を外気へ晒して一拍

 

 

……真横の壁に反射する音と外の方へ走っては途中で不自然にかき消された音、そして少し前方に行けば何処かへ入り込んだのか軽い反射の後に帰ってこなくなった波がある。少なくとも自分の伸ばした耳で感知できる範囲にある侵入口はそこだけのようだ。

 

「職員専用とかじゃないといいなぁ」

 

まぁ、その場合はそこで正規の道を聞けばいいだけだ。俺は考えるよりも行動、と自分の悪いくせを断ち切るように一歩、また一歩と進む事にした

 

 

 

 

そうして残雪に跡を刻みながら歩くこと数分。確かに入口らしきものに辿りついた。

入る時に霊長類の確認だの魔術回路の確認だのと、少し全身をまさぐられる様な感触に思わず悲鳴を上げかけたが、何にしても無事にカルデアに入ることは出来たのだからそれはいい。

門の機械音による案内に従えばどうやら俺はここに招待された全48人の内47番目に到着したらしい。まぁ、色々とあった不備のせいというのもあるがまさかビリが2番目とは……案内板にあった所長直々の説明会とやらの開始時間までこそ少し時間はある様だが、余裕だと誇れるほどではないので、下手をすれば所属初日から目をつけられるところだったわけだ

さて、中央管制室とやらは何処なのだろうか?案内板には地図もあったがあいにくと持ち運ぶタイプでもない上に無駄に複雑な内部に1歩目からどちらに行けばいいのかわからなくなる。

さっきから思うのだがここの所長、ひいては職員共はバリアフリーという言葉を知っているのだろうか?あるいはユニバーサルデザインでもいい、母国風に言わせてもらえば『お・も・て・な・し』だ。

 

 

────うん、やはり少しでもホームシック感を出しておいた方がそれらしい

 

「さて、恋しい日本と家族のためにも……今日から頑張るぞっと」

 

 

一応故郷を飛び出て遠い道のりということもあって荷物も少なくない。父の愛用していた中身の空間を広げたバックに、軽量化の魔術をかけているため別にこのまま出席してもいいのだが……浮かないだろうか?それだけが不安である。

あぁ、でも一応服だけは事前に支給された物へ着替えておこう。真っ白な服にベルト状の装飾が施された特殊礼装なのだが……色合いと、ベルトというとても拘束服を連想させる見た目に「お前らは奴隷だ」とでも言われているようで少しげんなりする。

いや、それにしても雪山の中、施設も白、服も白となるとこれは単に白が好きなだけの魔術師の線も出てきた。なにしろ内部も床壁天井問わず白だ。魔術師の中には色を自身の名前として語る様な人間もいるため急激にその線が伺えてきた。色位と呼ばれる位の、色を自身の象徴にした魔術師は大抵化物みたいに凄い。その割には名前に聞き覚えがなかったが……まぁ如何に俺が名門の当主とはいえ、余り社交的でない家柄なのだから知らないという事もあるだろう。

まぁいざとなれば白いものを褒める程度のスタンスで行けば事故はないだろう。俺自身の好みは赤だ。

 

 

さて、いい感じにパリッとした奴隷感あふれる服に衣替えしたところで早速中央管制室とやらに向かうとしよう、迷ったなら歩いている職員を捕まえて聞けばいいのだ……あ、リスだ。おいでー、おいでー……逃げられた。それにしても珍しい毛並みの、というか不思議な鳴き声のリスだった

 

 

 

……というか多分絶対リスじゃない。やはり白基調の毛並みだったためにここの所長の趣味だということに俺の中で決定した

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

あぶッない!!!

時間ギリギリ!胡散臭いロマンだかマロンだかという職員の人とポケーっと話してたら危うく遅刻するところだった……とはいえわかりやすく道を教えてくれたことには感謝しますよ、えぇほんと。

中央管制室とやらに入ると同年代の少年少女がこちらへと視線を向けては破顔する

前列の方にポッカリと空いた2人分の空間とそのさらに前方で若干イライラとした空気をにじませる白髪の少女が原因だろう。というかあの白髪はそのイライラ体質ゆえだろうか?それともやはり白が好きだから─────

 

「ボサっとしてないで早く立ち位置につきなさい!!」

「─────ハイッ!」

 

……これは聞かない方が良さそうだ、ともあれ俺はギリギリとはいえ間に合った訳だが……隣の空席の子は大丈夫なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁいや、ダメだったようだ。時間を過ぎても来ない最後の1人に、所長らしき少女の怒りが溜まっていくのが目に見える。知ってるか?あれ魔力が可視化する程に溢れてるとかじゃなくて雰囲気が可視化するほど苛立ってるって事なんだぜ?

まぁ確かに美人ではある若き所長を見ているのもいいが、あまり見すぎるとまた怒鳴られかねないので辺りへと視線を移す。

 

─────中央管制室。名前の通り施設の心臓部の役割をする部屋なのだろう、辺りには忙しそうに数値を打ち込む科学者というべきか魔術師というべきかが無数にいるし外とは違いこの部屋だけ明らかに特別な感じだ、何せ青い。

ここでは白ではないというのが重要だ。白のゴリ押しを超えて白の物理的視覚的テロ、むしろ色彩の氾濫とでも言うべきこの施設内で唯一この部屋のみが透き通るような青一色。水族館にある水中トンネルのドーム版とでもいえばわかりやすいだろう。幾何学的な壁だからどちらかというと綺麗というよりも摩訶不思議感が強いが……そして真ん中にある明らかに異常な感じをだす天体儀の様な機械……見ただけではいまいち分からないがあれが噂のシバか?あいにく礼装としての完成度が高すぎて俺程度にはどんなものかは判別がつかない

どちらにしてもあちこちにあるすべてがすべて魔術的に希少な物だ。流石は魔法クラスの大魔術を行使する機関、お金の使い方も桁が違う

 

「─────っと、ようこそ遅刻者さん」

 

気を紛らわせるために周りを見ていたのに、気がついたら集中しすぎて周りの空気の動きに付いていけなかった。使いところは違うがこれもある意味本末転倒、意味がない

後ろからパタパタと迫る足音に目を向けるといかにも快活そうな見た目の少女が走り込んできた

 

 

「反応が鈍い、眠そうだね。とりあえず形だけでもしっかりとしとかないと怖い所長さんに怒られちゃう」

「────うん?」

 

そこでようやく睨まれていることに気がついたのかアワワ、と少女が姿勢を正す

 

「さて、時間通りにとはいきませんでしたが全員揃いましたね─────特務機関カルデアへようこそ、所長のオルガマリー=ア二ムスフィアです。まず皆さんには──────」

 

……そうして、数分遅れで所長の説明が始まった。途中やはりさらりと奴隷扱いされた気もするが……まぁそんなものだろう。反発する人間もいたがこれは科学でも変わらない。言ってはなんだがちょっと抜けている人間が多いようだ。

────いいじゃないか、自らの手で世界を救うという大義を成すことが出来るのだから、その程度の条件がなんだと言うのか。対して遅れてきた少女は静かだ。てっきり彼女も騒ぐと思っていたのだが……ん、寝てるのか?

……いやいやいや、そんなわけはないだろう。割と大事なことを今話してると思うのだが……あぁいや、彼女を見てると俺まで疲れてきた。

 

 

 

「……ねぇ、あなた嘘でしょう?こら、こっちを見なさい、ねぇ!?」

 

そしてついにオルガマリー、もといローズマリー所長へ少女の居眠りはバレてしまう。

声をかけても目覚める様子のない少女に所長もカンカンのご様子

 

 

怒髪天を衝く……見事に毛を逆立てた所長は俺達のところへ降りてきてその無防備な少女の頬へとキツイ一撃を────食らっても目覚めないだと!?

そこを飛び出してきたメガネの少女がキャッチして今度は緑の胡散臭いおじさんまで出てきた。何故ここの人間は色が極端なのだろう?いやこの2人だけだけども……どうやらおじさんに宥められ所長はメガネの少女にその少女を部屋に連れていくように指示したようだ……というのを目の前で見ていた僕が言うのもなんだけれど。

 

「あの所ちょ───」

「なんです問題児第一!!」

 

……いきなりの問題児認定ありがとうございます、じゃなくて

 

「なにやら今の話を聞いてるとこの後なにか続けてやるそうですけど俺もぶっちゃけ来たばかりで体力残ってないので説明やそのレイシフトとやらはあの子と同じで次の機会でいいですかね?見ての通り部屋にも行ってないんですよ」

 

そう言って地面においてあるカバンをさすと凄い顔をされた。でも好きにしなさい!と許可をいただけたのだからこっちの勝ちだ

 

部屋も緑の紳士?が通り沿いにある008の番号の部屋だと丁寧に教えてくれた。しかし意気揚々と飛び出し歩き出したのだが……通路が長すぎである。施設内で六分間ぶっ続けで歩いてこれとは一体……急げば4分くらいになったのだろうか?

 

だが部屋自体は非常に綺麗だ。施設が施設なだけに殺風景で実験場な感じが否めないが、相変わらずの白はこだわりが見えてgoodだ!よ、日本一!

そんな風に定期的に媚を売りながら無人の部屋で、鞄を置いて鞄の中身を整理したりして過ごす。レイシフトとやらの原理は前もってある程度聞いている。

霊子転移、まさに現実でいうテレポートの研究の方向性がそれだが、ここではそれをより魔術的に行う。卓越した魔術と最先端を行く科学の複合、過去と未来の統合がそのタイムスリップという結果だ。だがそれすらまだ目的のための手段でしかない。今は小さいとはいえ名家であることに変わりない俺に調べられる範囲でさえ、誠かどうかの確証が得られなかったレイシフトの目的……人類史の変革。正確に言えば未来の時点にて確立してしまった人間消滅という歴史の改変─────あの底知れぬ天体儀、シバの演算によれば人類はそう遠くないうちに滅亡する

 

気がつけばカバンを整理する手が止まっていた。手が伸びたのは妹の作ってくれた小さなお守り。魔術なんて知らぬ子だけれど、俺の留学するという嘘に頑張って、と送り出してくれた優しい子。

もし、その人類滅亡を本当にシバが見たというのであれば……俺は何としてでもそれを防いでみせる。そうしなければ、俺は自身の正義を見失う、俺にとっては正義の証明こそが、己の証明だ

 

お守りをポケットへと仕舞いカバンの奥底から積み重ねられた紙束と巾着袋を取り出し、その紐を緩めて中から1粒の深紅の飴の様なものをつまみ出して部屋の明かりへとかざす

遠い親戚から嫁いできた母の魔術は我が家のものとは少し違う。高価な宝石に魔力や魔術を蓄積して使うという少し風変わりなものなのだが、その便利さといえばかかる費用に相応しいものと言える。

本来保存の難しい人工的な魔力の保存を完全にやってしまうのだから、その利便性と言えば東洋にある、紙に魔術を保存する術式に並ぶものがあると言うのが自分の見解だ……ただその保存した魔力を取り込む方法が少し心臓に悪いのだが。

つまみ上げたそれをそのまま俺は口元へと持っていき、それこそ本当に飴玉かなにかのように飲み込んでしまう。こうすることにより宝石は体内で解け、中に貯めた魔力を本人の魔力へと還元してくれる。あとは少し体を休めてしまえば、起きた時には登山に使った魔力は完全回復しているはずなのだが……その時間は与えられなかった。

 

─────凄まじい轟音、響くアラートにあちこちの人間や機械が慌ただしく動く音……発生源は中央管制室だ。

 

「レイシフトが失敗したのか?」

 

今日来たばかりの俺や遅刻してきたあの少女の様な新人の場合は、予測不能のことが起きてもおかしくはない、だがその規模がここまでのものだと?

何にせよ一度戻る他ない。

まだ戻りきっていない魔力を魔術回路へと叩き込みその全てを強化へと回して、直前まで持っていたものだけを持って部屋を飛び出した。

のんびり歩いて六分、急いで四分、強化を使った全速ならば二分足らずと言ったところだろう。元々ほとんどの研究員が中央管制室にいたからかすれ違う人間は1人もいない。鳴り響く避難の勧告と自身の聴力が中央管制室が騒動の中心だと伝えていた

足を止めず、脇目も振らず何とか戻ってきたその大扉を開く。

瞳に飛び込んできたのは地獄、水中を思わせた外壁も、同色に輝いていた天体儀も……白衣を纏い働いていた研究員達も真っ赤に染まり、例外なく燃えている。

その中で停止したシバの中心部だけが灰色に染まり、まるで人類の滅亡を意味するかのような不安を写していた

 

「─────っ、生存者は!?」

 

気になることはいくつかある。なぜこれほどの規模の事故が適合者全員が揃った今日起きたのか?事前に来ていた、それこそ俺のような名家出の奴らが事前に行った時には、なかったはずのことがなぜ今日?それもこんな大事な場面で?

 

嫌な汗が額を流れる。既に熱はカットしている。ならばこの汗は最悪の想定に思考が至ったからか……答えは是だ。

もし仮に、人類滅亡を企む人間なんて漫画みたいな存在が現実に居たとしたら……この施設の長に実働員たる霊子転移要員の魔術師、そしてそれを万全の体制でサポートするべく集った、優秀な技術者に魔術師の尽くを、一網打尽にできるこの機会を逃すはずが無い。

だがそれはこの厳重な魔術的防御を抜ける正しく封印指定レベルの魔術師か、或いは魔法使いでも無ければ不可能な事だ……いや、あるいは既に内側に潜んでいた内部犯の可能性もある。だとすれば可能性が高いのは外から招かれた俺達の様な48人の魔術師だが……一部は素質があるだけの一般人のはずだ。それにこういった情報を取得できる名家の人間は大概にして根源への到達以外の目的がない。人類滅亡と根源への到達は全く関係がない。犯行を行う動機がない!

 

「クソ、ダメだ」

 

救助のために奥へ奥へ行けばいくほど生存が絶望的であると理解させられる。

生憎と感知の魔術は宝石が解けるまで使えない。

せめて所長か、或いは重役の雰囲気を出していた緑の紳士さえ見つかれば!計画の重要人物さえ生きていればまだ続行の可能性はある。残った俺とあの少女の2人で────なんだこの音?まさか……

 

「シバか!?」

 

さっきまで灰色に染まっていたシバのレンズが、今度は周りと同じように灼熱に染まり出している……電力が不足しているとの放送があったばかりなのになぜ?魔力が高まっていっているのはわかるが何が起きる!?何故このタイミングで起動した!?

 

 

……霊子転移?こんなアンバランスな状態で?

 

「ま、待てシバ!止まれ!止まれ止まれ止まれ止まれぇぇぇぇ!!!」

 

しかし無情にもシバの輝きは強くなり俺を飲み込むように広がっていく

シバは俺の理解の及ばぬ域にある魔術的な大術式だ。

レイシフトの事すら齧った程度にしか知らない俺の推測があっているとは限らない……だが身を包む浮遊感に、俺はもはや何をしても無駄だということを悟り力の本流に身を任せる様に瞼を閉じた

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

浮遊感からの解放は突然だった。落下の感触もなく、いきなりそこに地面が現れたかのように俺は着地していた。

無理矢理体中に魔力が走ったからか……それとも不完全なレイシフトの影響からか、なけなしの魔力はもはや欠片も残っていない。頼れるのは徐々に解けつつある宝石一つ分の魔力のみ。それなりのものではあったからすべて吸収しきれば全開とまでは行かなくとも、取れる選択肢は大きく増えるだろう。今は強化すら使えないわかだが。

 

「─────ッ?なんだこれ?」

 

突如走った痛みに自身の手の甲を確認するとそこには何やら赤い紋様が浮き出ていた。痣のようにも見えるが明らかに魔力を感じる……他者に付けられた呪印……にしては流れ方がおかしい。何か効果を発揮しているというよりはただの魔力の塊としてそこにあるかのような……

それにそれだけじゃない。

辺りの環境が激変している。最も、舞台が外へと移っただけで地獄に変わりはなさそうだ。雪山ではなく、崩壊して炎に包まれた都市部のようだ。崩壊寸前の建物も多い中、数少ない読みとれる看板に書かれているのは日本語。この時点で確実にレイシフトが起きたことは間違いない。

認識が正しければ時代ごと移り変わっているはずだ……だが俺はここで何をすればいい?異常が起きているのは明白だが……いや、そもそも俺は帰れるのか?

ぞっ、とする考えを振り払いまずは立ち上がる。

 

「まずはやれることをやろう。悲観するのはその後だ」

 

まず災害の原因はこの炎と見て間違いはないだろう。辺り一体を焼き尽くす業火に、人気のない街……戦地、という事だろうか?

しかしあたりに漂う魔力の痕跡が、それを否定する。なにせ魔術師の大前提として、神秘は秘匿するものだとある。神秘は神秘故に力を発揮するのだ。それを一般人の面前で堂々と使うなんてことはありえない。だからこそ魔術は戦争とは本来無縁のものだ

 

「何にしても魔術の痕跡がある以上、これがただの災害や事故なんてことではないのは確実……だがここまで街を破壊できる魔術なんて存在するのか?」

 

破壊に特化した魔術や、それこそ魔術師が徒党を組んで進行してきたならば話は別だが……魔術師は基本群れない。少数でここまでの惨状を作り上げる存在がいるとすれば、それはそれこそ魔法使いか……“英霊”?

まさか……レイシフト、そうかレイシフトはこの為の?

 

────人類史の突然の消失、霊子転移、大災害、人の気配の無い街、時代の変化……疲れてるからなんて言わず説明だけでも最後まで聞いておくべきだった。なるほど、文明が突如消滅するなんてことはありえない。有り得ないことが起きるにはそれなりの大きな要因がある……それがここか。

 

「となればレイシフトって言うのはここ……いうなれば過去の特異点へと転移し、その時代の異変を終わらせること……口に出せば何やら便利屋さんみたいな感じになってるけど」

 

それで知識になかったわけだ。いわばここは歴史に突如現れた位相空間、バグの様なもの。正史しか知らない本来の世界からすればこんな大きな事件とて記録のしようがないものな

 

逆に言えばそれを記録、解消するのが俺達の仕事か。

……だけれども一介の魔術師に、これ程の規模の災害を起こした原因をどうこうする力なんて無い、カルデアだってそれをわかってるはずだ。

……これは推測だが、この惨事を引き起こした原因は英霊だ。魔法使いや現存する数少ない幻想種にここまでの規模の事態を起こす理由はなく、出来そうなのも我が系統の大師父、シュバインオーグ位のもの……だが彼の者がそれ成す理由がない以上、自由意志を縛られた英霊という存在が、何らかの意志でもって暴れている以外に考えられない

英霊とは歴史に名を残す英雄が、死後の無念を元に座と言われる所へ保存されたもの、いわば伝説そのもの。その力は魔術師に対処できるものじゃない

 

「だったらオルガマリー所長はどうやって特異点を解消するつもりだった?思い出せカルデアのその他の研究を……観測機、演算器の他には何が─────クソッ!資料を置いてくるんじゃなかった!」

 

元々簡単には明かせぬ内容ばかりを研究している機関だ、事前にここまで知識を蓄えてる方が異常だろう。だから落ち着け、そう、思い出せないなら考えろ。情報が流れてこないってことはよほどの秘匿事項か研究段階の色が強い研究……例えばレイシフトした段階でしか成せないこと?

 

「英霊に対抗するもの……?」

 

答えが見えてきた気がする。だが一切の確証はない、推測に推測を重ねた結果だ。だがこの手の紋様がレイシフトの正常な結果だとすれば……いやダメだ、確かにこれ単体でもすごい魔術なのがわかる、でもまだ魔力が足りない。もし、仮により上の魔力を賄うものがあるとすれば────龍脈、そうだこの地にも流れているはずだ。大地の中に膨大な魔力が……ならばそれがあつまる場所で儀式を行えば?

 

「試すしかない。手持ちの魔力で足りるのかなんて賭けでしかないけれど」

 

しかし注意点がある。人為的でなく、本当に自然的に起きた英霊による災害ならばそれが顕現したいわば爆心とも言えるのはこの土地最大の霊地の筈だ。

流石にこの街の全体を把握するほどの力はない、近くの龍脈に人がいなければいいがもし、そううまくいかなかったら……俺は丸裸のまま英霊との対面を果たすことになる

 

……なるようになれだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

─────何なんだよこいつらは!?

 

「「「GIII───────────AAAooooo!!!」」」

「土に帰れ骨共が!」

 

持ち寄った数少ない自身の魔術礼装、自身の魔力と血でもって育てた木を、地下の工房にて馴染ませながら漉して作った紙、『被詠紙』───風水や陰陽道といった東洋古来の魔術を参考に、母さんの宝石魔術のように魔力をそれ自身に貯めるよう製作の段階で紙に術式を()()()置いたもの。

俺の魔術特性たる『還元』を活かす自信作─────難点は一枚一枚使い捨てな事。

 

それを使って回復した魔力を片っ端から使って襲い来る影を撃退する。

刺々しい見た目のそれは、おそらく竜骨を使った使い魔、ゴーレムと言ったところだろう。単体には強化も何もかけられていないからか、魔術師からしてみれば子供でも打倒できるほどに脆弱な存在だが……如何せん数が桁違いだ。これほどの数の使い魔を使役するとなると、それこそ前述の魔法使いでも厳しいように思える。

ならば使役してるのは自然、この騒動の原因たる英霊なのだろうが……まさかここまでとは

 

「“東に頭、西に柱、中央を鞠とせん”」

 

宙にばら蒔いた折り紙大の被詠紙全てが、空中で鶴の形を象っては、なにかの力が働いたかのように機敏に光の尾を引いて、所詮竜牙兵とでも呼ぶべきものへと飛んでいく

 

─────“還元”、言ってしまえば物である折り紙を一時的に生き物へと戻す魔術。物である折り紙で生き物を形取り、素材となった植物の状態を“生”とする事で還元の特性により、その折り紙に一時的に命を宿す魔術、正式には命へと戻す魔術。

その紙自身に、精製の段階から自身の一部を混ぜ込むことで、俺はあの鶴の全てを肉体の一部として扱う事にしている。

竜牙兵が鶴の打ち出した光弾に貫かれるのも、鶴自身の突進に翻弄され吹き飛ばされるのも、全てあれが術式起動中のみとはいえ、俺の肉体の一部ということになっているからだ。

自分から離れた所を起点に魔術を発動させるには、事前にその地点に準備をしておく必要がある……だが肉体からであるならばそんな制約は必要ない、例えそれが自由に宙を飛び回っていようが、通常の魔術の発動と何ら変わりない魔力消費と工程で発動できる。自身にかけた強化が、鶴の一体一体に付加されるのも当たり前だ。

 

相手が大した力も無い使い魔という事もあって、一度に対応できる量が多いこの魔術を使っていれば、少なくとも負けることは無い────しかしこの魔術、重要な欠点が三つほどある。

 

 

第一に肉体の一部として扱っている以上、操作に自動(オート)なんてものはない。全てが手動であり、数が増えれば増えるほど扱うのは難しい。

第二に強化のような俺自身にかける魔術は問題ないが、先ほどの光弾の様にその都度個別に魔力を必要とするものは、打てば打つだけ別途の魔力がいる。だから実際のところ数を用意しても、遠距離から一方的に嬲るのには母さんの宝石が必要だったり、あるいは敵が単騎で後先のことを考えなくていい時に限られるのだ

そして第三に……というかこれが一番大事なのだがあちこちへと散った鶴の一体一体は俺の肉体の一部という扱いだ。それ故にそれが壊される度に……

 

「……クッ、こういう時もっと実戦経験があればって思うよなぁ」

 

自身へとダメージが“還元(フィードバック)”される。

現状魔力節約のために、多くの鶴が突撃以外の選択を取れない以上、俺の集中が乱れた機体は敵の持つ剣に打たれ両断されていく。

形取る物によって性能が変わるのも、扱いづらい要因の一つだ。無論利点でもある。

現状自身の周囲に残ったのはたった7羽。敵も数えるのが馬鹿らしかったはじめに比べれば十二、三体とずいぶん減ったものだ。

 

「……それにしてもあれは何だ?」

 

打ち倒し、砕いた竜牙兵の亡骸が積み重なる山の中で、時々何かが煌めいている

全体に入っているわけではなさそうなので、核というわけではないだろう

 

……だが確認するのは後か、まずは眼前の十数体を倒さねばならない。7羽を突撃させるのもいいが、これ以上身体にダメージを還元されるのもたまったものじゃない。

……そういう時はこの折紙を別の用途で使うのだ。

 

「“二色に断ち、重ねて回る”」

 

ポケットからさらに追加で取り出した10枚に魔力を込めて、前方へと投げる。空中で手裏剣へと変化したそれぞれが勢いのままに前方五体を削りそ、の拍子に飛ばした七羽が更に五体を打ち抜いた

今のが“自身に”還元をせずに使う場合の使い方だ。もともと自身の魔力によく馴染むように作ってあるため、強化をすればそこいらの鉄なら容易に切断する硬度になる。後はもともと刻んである術式を元に形を作り、その形に還元する。

要は「手裏剣の形の紙」から「手裏剣」へと還元する。参考にした陰陽道で言えば自身への還元が『式』で形への還元が『術』だ。

『術』の利点は自身へのフィードバックが無いこと、そして俺自身の直接的な武器に出来ることにある。

だが反面それは俺を中心にした攻撃になるし、持続性のある剣を作ろうと思えば一本作るのにいくつもの紙を消費する。かといって手裏剣のように使えば一度きりの攻撃になってしまうわけだ。結局燃費の向上につながる代物ではない

 

さて、残った二体ではあるが、まだ七羽も完全に無事であるし、流石にここまで来れば強化した肉体で充分安全に破壊できる。数さえなんとかすれば大した敵ではなかった。

 

 

 

 

無事竜牙兵を打ち破って、先ほど確認した骸の中の光へと手を伸ばす。手に刺さる骨にいらつきながら何とかその光の元を掴むと、大きさはスーパーボールだいのものであることが分かった。

引き抜いたそれは、簡単に言えば大きい虹色の金平糖。凸凹とした七色に光る鉱石だ。

 

「……いや、これは──────魔力の結晶か?」

 

外部に一切漏れていないので一見ただの石だが、少し観察してみれば内部で恐ろしい量の魔力が渦巻いているのが感じられる。

それが合計で四つ……これが何なのかがいまいちわからなくて恐ろしいが、有用であることは間違いない。

……鶴で破壊した時に下手に刺激をしなくてよかった。もし衝撃に反応して、中身の魔力が暴発していたら……辺りは今頃更地だ

 

「さて、何だかんだと戦っている間にずいぶん龍脈の近くまで来たが……爆心というほど荒れている様子はないな」

 

どうやら当たりを引いたらしい。本当に良かった

後は落ち着ける場所を探して、持ちうる魔力の全てで考えられる儀式を一通り試すしかないか?

 

「しかし、あれだけの戦闘をしたのに急に静かになると逆に不安─────ッ“北に力、中央に盾を構える”!!」

 

殺気─────辺りへと散った魔力が、自身に情報を返してくれるが故の一回限りの超反応。

緊急時のために、常に展開しておいた七羽の鶴が高速で折り直されて亀へと変わり、重なって盾となる。

しかし完成とほぼ同時に着弾した何かは、七重の防御を容易く破ると、そのまま進路を逸らして俺の足下を抉りそのまま吹き飛ばした

 

「ガァ─────ッ!?」

 

視界が回る。

吹き飛ばされていることは理解したが、その理由が全くわからなかった。鶴を操るための空間認識力、還元ゆえの感知能力……確かに当主とはいえ別段外部の仕事を受けているわけでも、そういった対立や魔術的な勝負があったりする魔術の総本山に通ったわけでもない故に、実戦経験や魔術戦闘に関してはその道の人間に圧倒的に劣るが、それでもことずば抜けた察知に関して、いとも容易く超えられる存在がいるなど思いもしなかった。

それだけではない、急しのぎとはいえ亀は優秀な防御手段だ。それを七枚も重ねたものを上から打ち抜くだと?

 

ようやく止まった体を腕で支え起こそうとするも、着いた左腕がその側から血を吹き出し思わぬ脱力に再び身を沈める。

七体分のフィードバックが左腕に着たのだろう。カルデア支給の制服が優秀なのか傷一つない為、その内側までは見えないが、感覚的にはズタボロだ。そもそも七つ分のフィードバックを食らったことなど一度も無いために、下手すれば魔術回路までやられている可能性がある

 

ザッ、と地面を蹴る音に顔だけをそちらに向けると、目に飛び込んできたのは時代錯誤も甚だしい武具のお化け……修行僧のごとく険しい顔に細い体躯。しかしその肉体に漲る力を見るに、それは肉がないのではなく絞られたままに固定されるほど、体をいじめ抜いた結果であることがわかる。右手には大きな薙刀、背中からはいくつもの武具が飛び出して、それでいて全体的に和な傾向で纏まるがその装備から、眼前の敵の正体を洗い出す。

 

……洗い出して納得した。確かに彼のならば厳重な盾を容易にぶち抜いたところで違和感などない。

 

「……武蔵……坊、弁慶」

 

……日本において有名な武芸者だ。彼がこの地に呼ばれた英霊なのだろう。なるほど、そう考えると、竜牙兵達の事も含めてこの地に呼ばれた英霊は一体ではないということだ。もしそれらが何らかの目的で争ったのであれば、この惨劇も納得が行く

同時に俺では、勝つ事も逃げる事もできない事でわかってしまった

 

 

だが諦められない。今もポケットには妹が作ってくれたお守りがある。体の中では母さんの宝石が燃え続けてる。手の中には俺のこれまでの努力の結果がちゃんとある。

 

「結果が……必要だ……」

 

────まだ幼い妹が、こんな汚い世界を知らずに、無垢なままで育つには

 

「バカでどうしようもないアニキだけど……それでもアニキだから」

 

────妹は守らなければならない。

 

 

 

“あのバカを何とかしろ”

 

“あんなうつけが当代の当主など、近衛家の恥だ”

 

“それならば先代にはもう一人、子が居たな”

 

“ならばその子を当主据えれば?”

 

 

 

“それがいい”

 

 

 

 

 

 

 

ふざけるな、桜は関係ない。俺はうつけだとも、あぁバカだったよ。本来の近衛家の魔術よりも母さんの魔術に傾向していったのは確かに家としてみれば恥だろう。だけど桜は関係ない。あんな分家のジジイ共の口出しなんて受けない、没落しかけの家なんて知ったことか!

俺はただ、オヤジの分まで2人を守りたかっただけなんだ──────そうでなければ俺じゃない

 

「────それがはっきりするまで、死ねないんだよ俺はァ!!」

 

しかし俺の叫びは届かない。

俺はそこで初めて英霊の顔を見たのだ……その黒き貌からもれる、その醜い笑みを。

そうだとも、英霊なんて高潔な奴らの集まりが、どうして周りの被害も考えずにぶつかり合うのか……はじめから狂っていたのだ、彼らは

 

希望が消える。無造作に持ち上げられた薙刀が狙いを定めたようだ、きっと数瞬後には俺は死んでいるのだろう

あれほどの決意も、執念も虚しく、どことも知れぬ地で亡骸を晒し続けるのだろう

それでも俺は目を閉じることが出来なかった、英霊と対峙し、絶望を見てもなお自身の愛する家族のことを諦めることが出来なかった。

18年、悩み続けていた「自分」を、諦めることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

────だからこそ俺は、その瞬間を逃さず目のあたりにした。

俺のポケットの中で四つの魔石が輝き、地面から呼応する様に光の輪が三つ、金色を混ぜながらどんどん魔力の反応が高めていく

 

それらがパッと散り、辺りの景色が先程の地獄へと戻った瞬間……振り下ろされた薙刀に何か棒のような物が噛み付いた―――否、それは棒ではなく刀。それこそ宝具とも呼ばれて遜色の無い存在感の名刀

 

「呼ばれたから来たものの、茶の一つもなしにいきなり戦闘とはどういう趣向だマスター?」

 

握るのは白い手袋を付けた華奢な手、辿るように視線を流すと移るのはドイツ風の軍服。だが顔はどこからどう見ても日本人のそれと、何ともチグハグな存在だ……だがそれよりも俺が衝撃を受けたのはその担い手が年端もいかぬ少女であったから。

如何にもな外見をした弁慶とは対象に、全く真名の想像がつかない可憐な少女が、片手で薙刀を抑えている。正直今日一番驚きの光景だった

 

「……凜、近衛凜だ。君の名前は……?」

「ほう、なかなかセンスのいい名じゃのぉ!だか名乗りの場にはそぐわぬ奴がいるでな、まぁちょい待て」

 

そう言って少女が刀とは反対の手に持ったのは“火縄銃”。江戸の時代、戦国の世に日本に入って来ては、一部で大きな戦力として活躍した旧式の銃、言ってしまえば日本最古の銃。

それを少女は迷うこと無く、欠片の淀みもなく弁慶の額へと押し付けると……そのままに引き金を引いた

反射的に背中の刀で持って迎撃に出た弁慶をそのまま吹き飛ばして、遥か遠くの瓦礫の山を崩させると、そこで漸く少女はこちらへと向き直りその姿を正面から晒した。

 

美しい少女だった。流れる艶やかな黒髪もそうだが、何よりも赤いその瞳が、魔力とは別の力を持って俺を引き寄せる

 

「ワシは……いや、折角お膳立てまでしたのからの、此処はワシらしく行くとしよう──────刮目せよ、我こそは第六天魔王、戦国の覇者、稀代の天才!織田信長なり!─────まぁぶっちゃけ覇者一歩手前で終わっちゃったんだけどね!」

 

彼女が告げた名は、それこそ日本では知らないものが居ないと言うレベルの武将、英雄だ。

だが俺の知識では、織田信長が女だったなどと言う話は無い。俗説にはあったのかもしれないが、少なくとも一般的に出回る本などでは男として書かれていたはずだ……だがこの時の俺にそんなことを考えている余裕はなかった

 

ただただ眼前の少女に見とれ、その声に惹かれていた

 

 

 

 

きっと俺がこの夜の事を忘れることは無いだろう

なにせこの夜を境に俺の……いや俺達の激動の日々が始まったのだから

 




この作品の主人公はゲームの男主人公の容姿です。逆に本家主人公の立ち位置の子はゲームの女主人公の容姿です。
またこの二者がそれぞれ凛と士郎の性転換の姿をイメージしているということから名前や背景にそれらしい要素をそれぞれ入れてます。ただ凛と士郎とは何の関係もありません。イメージさせる要素として入れているだけです
またオリジナル魔術を入れましたがこれは凛が名家の出ということでこちらもなにか持たせなければということで持たせました。作中で度々出てきますがバランスを崩したりやたら便利になって万能ツールにしたりするつもりはありませんが嫌いな方はご注意を
またノッブの宝具の扱いもアバウトなところが多いので自己補完で書いていきます。
この作品では
男主人公→ノッブ
女主人公→マシュ
野良サーヴァントは基本的に女マスターにつきますが分断された時などは男主人公のサーヴァントとして指揮下に入ります。またこっちの勢力がひとつ増えている、それがまた相性ゲー得意なノッブということで敵勢力強化の可能性もあります
また恋愛要素は難しいので入れるつもりはありません
次の投稿がいつになるかは気分次第ですが楽しんでいただけた方は是非次もお楽しみに

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