聖杯奇譚 魔王降臨   作:ヤッサイモッサイ

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なんでボックスガチャ運はいいんですかねぇ?四回全部30個以内に出てきました。やったね、あと星5ブラドでたよ!でもブラドよりかはピースマン欲しかったよ。感想でナーサリーライム出て欲しいって言ってた人凄いね、次の日くらいには発表されたもんね、予言かな

というわけでクリスマス前だけど上げちゃいます。いや、1章終わらせたい欲が爆発しましてですね……加速しました。
今回ネタに走ったところもありますが……まぁゲームでもあの子はあんな感じですよね。え?ストーカーのことかって?いいえ、マシュのことです。
名シーンバッサリ端折りましたが理由は主人公が「人間的に理想的」とはいえないこと、もしやるにしてもまんまゲームのとおりになってしまうということがあるのでカットです。戦闘シーンや対話はなるべくカットしないで頑張りますが、お話に関してはゲームから変えられない場合はカットします……受験生には時間がねぇんだ……


竜虎相搏ち竜娘愛現つ

無事、と言うべきか……俺達特異点解消組は、何とか敵の追手を振り切ることに成功した。

あそこでアサシン二騎を仕留められなかったのは厳しいが、こちらの戦力も削がれている今欲張るのも良くない。

当初の目的の通りに歩みを勧めた俺達は、今は二手に別れて道を消化していた。

 

「先輩……あぁ、先輩ィ……先輩がァァ……」

 

……まぁ、その際に引いたくじ引きの結果、一人の少女が屍と化す事件が発生したわけだが、まぁそれはいいだろう。

同じ道中を踏むのは、悪魔すら調伏する稀代の音楽家モーツァルトに、その不屈の肉体は正しく竜種の系譜、ジークフリート……後は頼れるマスターを失って盾の騎士の名も地に落ち、吹けば倒れるどころか飛んでいきそうなマシュ、加えて俺だ。

まだ俺達が別れる前に、放置された砦に逃げ込んだ時の話だ。広すぎるフランスを、手早く回るために二手に別れる案が出た。前にも言ったが戦力的に別れるのは少し厳しいのだが、安全ばかり通していても世界が滅んでしまっては意味が無い。逆に打って出るべく速さを優先して、大人しくその案をのんだのだが……王女様はどうやら余計な知識を聖杯から頂いていたようで、組分けにくじ引き手法を所望した。

……まぁその後マリーさんの複雑な気持ちやらモーツァルトの恥ずか死にたい黒歴史を聞いたりしながらこうして別れたのだが……

 

「……君もいい加減立ち直りなって。シロちゃんの方は君を信頼して意気揚々と駆け出していったのに、パートナーの君がそれでどうするのさ?」

 

少し……というよりはむしろなんでそんなに好感度が高いのか?マシュは別れた直後の一歩でしなびれた様になり、二歩目で腰が折れ、三歩目で地に伏した。

それ以降はなんとか歩かせているが……先輩、先輩ーっとシロを求める呻き声が正直喧しい。信長もあれで大概過保護だがこれはそれ以上だ。一緒にいる時間は俺達とそう変わらないはずなのに、シロは何をしていたいけな少女をマスタージャンキーにしてしまったのか?

 

「アハハ、ハハ?ヒドイデスヨォ?先輩ッタラ何処二イッチャッタンデスカァ?」

「……すまないマスター、これは俺達の手に余るようだ」

「やっぱりシロちゃんとキミは入れ替えた方が良かったんじゃないの?信長公も喚いてたし」

 

……まぁ、確かにこの状況はそうした方がいいようにも見えるけれど、そうもいかない事情がある

 

「無理だよ、傷ついたジークフリートの側に令呪を持った俺がいないのはまずい。メンバーを入れ替えようにも、どちらにせよ戦力のバランスが取れないんだから入れ替える理由もなかったし……何よりも二人も向こうのメンツに加わりたくはないだろう?」

 

くじで分かれたにしては、神の悪戯的な作為を感じるわけだが……まず戦力という面で言えば、向こうに危機は訪れない。なにせやたらと冴えているシロに、全体の防御にも回復にも優れた宝具を持つジャンヌとマリーさんがいる。更にはジークフリートを除くパーティー内最大の戦力たる信長までいるのだ。あのメンツである以上信長の変なこだわりもでないだろうし、こっちのボロボロパーティーとは比べるべくもない好編成である。とはいえ、結局火力を持つ信長の存在が大事なのでこれはどう入れ替えても信長のいる方に戦力が偏るのは当たり前なのだ。

というわけで俺達男勢が瞬時に思ったのが性格面である。破天荒に天然に聖人にシロ、加えれば全員が女性だ……さて、誰が好き好んで飛び込むのか?ちなみにシロの性格がシロというのは俺にも計りきれないのが理由である。信長以上に掴めてないってのが怖いよね、まったく。

 

『まぁ、嫌だよねー。だからこうしてボクも呼ばれまではこっちにかかり切りなわけだし』

「まぁ、向こうは感知に優れた信長とルーラーが居るからね。ただでさえ戦闘が厳しいんだからロマンにもちゃんと仕事してもらわなきゃだし」

 

となると逆に不憫なのが男所帯で唯一女の子なマシュだが……この子の場合はもはやそれどころではないな。何がこの子をそこまで駆り立てるのだろう?シロも大概だがこの子もよくわからない

 

「とにかく、サーヴァントが近づいてきたら出来るだけ正面衝突は避けよう。俺達じゃ勝てるかどうか────」

 

……さて。うん。まぁ。ひとまず。落ち着こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………ふぅ

 

「ロマン、この時代のフランスのこの座標に活火山ってある?」

『無いね。特異点だからって火山はできないからね?』

 

なるほど、聞く手間が省けたよどうもありがとう

 

「モーツァルト、中世位のフランスの人って炎とか吐ける?」

「もしマリアが炎を吐いてたら僕は間違っても求婚なんかしなかったかな」

 

うん、黒歴史を引きづったりしてないようで何よりだ

 

「ジークフリート、高い少女の声を出しながら炎を吐いたり、禍々しいメロディ奏でるようなドラゴンって────」

「居ないな。対面したのはファブニールのみとはいえ、それはわかる。そしてあれはサーヴァントの気配だぞ、マスター」

 

あー、うんなるほど。ご丁寧にありがとう。そうだよね、サーヴァントだよね。それしかないよねー。あ、でも逆に考えたら戦ってるんだから少なくとも一騎は味方だよね?うん、ステゴロな聖人がいるんだから、騒音を鳴らしたり炎を吐く聖人がいてもおかしくはない!というかせめて聖人であって欲しいなぁ……よし!

 

「あ!あんな所にシロが─────」

「──────センパァァァァァイッ!!!!」

 

……うん、作戦通りだ。

 

『いや、ガッツポーズはおかしいから。マシュ一人送り出したらダメでしょ』

「さっきと言っていることが違うのではないか?いやまぁそれが方針ならば構わないが」

「君って騙されやすそうだよね。なんというか自分の意思で騙されに行ってる感じがするけど……というか早くこの不協和音をどうにかしない?ボク今にも倒れそうなんだけど」

 

……さすがサーヴァント。あの如何にもやばそうな雰囲気の中に飛び込みたがるとは勇者か?ロマンのは安全圏故の主張だけどね

 

「もちろん行くよ。冗談のつもりだったんだけどマシュが本気で駆けていっちゃうからさ」

『いやまぁ、ボクも本気でかけていくとは思ってなかったけどさ……マシュがあんな事になるなんて、シロちゃん恐るべし。あとで食べちゃった饅頭をカルデアマートに買いに行かないとなぁ』

 

ご機嫌取りですか、そうですか、呑気ですね

しかしあの勢いだと一人で街一つ制圧しそうな勢いだよなぁ……

 

「いや、まさか……ねぇ?」

 

爆発の間隔が狭くなり、大気の震えがより強くなっている……嫌な予感が当たらなければいいのだが……あ、いやむしろ当たっていれば手間が消えるのか。悩みどころだね……これも冗談だけどね?

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

さて、やって参りました刃物の街ティエール。騒動の中心は街のど真ん中の広場、街に足を踏み入れた段階で既に爆発音が聞こえなくなっていたのでこれはひょっとしたらひょっとするのかもしれない。

曲がり角を曲がり、開けた視界に飛び込むのは更地。地面が焼け焦げ、何らかの圧力で持って歪に変形した噴水からは容赦なく水がまき散らされている。

その根元のあたりでプカーっと巻き込まれた少女が二人力無く浮かんでおり、少し離れたところには野生化したマシュが再びその盾を赤く染めて徘徊していた

 

「「ワァーオ、ファンタスティック」」

 

モーツァルトと言葉が被った。

まぁ、どう見てもファンタスティックな光景ではない。

 

『言わなくてもわかってると思うけど、その水溜りに浮かんでるのがサーヴァントだ。本気でマシュが制圧しちゃったみたいだね』

「あれ、いつからマシュはバーサーカーになったのかな?」

 

あぁ恐ろしい。確実に原因は俺だけれど、手間が省けたならそれはそれでいいことだ。

浸水した広場を流れてきた少女を、とりあえず引き上げて様子を見てみる

 

「……うん、目を回してるだけだね。後頭部を重機(鈍器)のような(モノ)で殴られたんだろう。綺麗なたんこぶだ」

 

頭を触った際に、二人して付けていた角のようなものには触れないでおこうをきっとアクセサリーさ、そうに決まってる。

さて、ひとまず野生化したマシュの捕獲(イケニエ)をモーツァルトに頼んで、マスターの権限として二騎の契約状態を探ってみる。これで何かと契約しているのであれば(てき)、そうでなければ味方だ

 

『……うん、二人とも何かと契約している様子はないね。完全な野良サーヴァントだ!見た目からして聖女ではないけれど、貴重な戦力GETだね』

「そうなるとこの二人がなんで戦っていたかって事になるんだけどね」

 

見た目は二人ともただの少女に過ぎない。和風装束を身にまとった何処までも可憐な白い少女、緑の整えられた長髪を分けるように飛び出した六本の角が少し気になるが、とても暴れ回る性格には見えない……無論、可憐な少女だからと油断ならないのは今も後ろでモーツァルトを轢き飛ばしている彼女や、自分のサーヴァントの例があるのでよくわかっているのだけれど。

もう一人は対称的だが、やはり可憐な少女だ。黒い西洋風の……ゴスロリとは少し違うのだろうが、時代に似合わぬフリルの目立つ黒い衣装に、血濡れの黒髪を思わせる、どことなく赤みがかった髪を可愛らしくまとめて下ろしている。その頭にはやはりと言うべきか角のような物が鎮座しており、おかげで先程から可憐な容姿よりもそのインパクトの強い頭頂部に視線が送られてしまう

 

「ドラゴンだよね?これ」

『いやぁ、凜くんもわかってるとは思うけど、サーヴァントというのは生前の全盛期の姿に、後の逸話を加味した姿で現れるんだ。龍の血統を受け継ぐ英雄も居なくはないけれど、だからといって見た目をそのまま素直に受け取ることも出来ないね』

「あー、じゃあ後の逸話で『竜』と例えられたら、その形に歪められた姿で現れるってことか」

 

信長の魔王化もその系譜だったはずだ。オペラやロマニの言うものとは少し違うけれど、何者かの印象が姿を歪めた結果であることに変わりはない。

 

「なるほど、ではこの少女達は生前竜と例えられるような行いをしたということか、マスター?」

「そう……なるのかなぁ?古来より日本では竜は災害として、西洋では悪魔としての印象が強かった。まぁ、中華とかになるとまた話も変わるんだろうけどね。角が薬になるって言うのも確か中華の考えだし」

 

まぁなんにせよだ。サーヴァントが基本的に古の存在である以上、彼女らはその“災害”や“悪魔”と例えられるような行動をした人物というわけだ。現に街中で暴れ回っていたようでもあるし、敵に召喚されなかったからとはいえ、完全に信用するのもおかしな話だな。

 

「縛っちゃおうか?」

「あら、誰を縛るのですか?」

「そりゃ君たちをだよ。話をするにもちょっとぐらい脅しをかけといた方が上手くいくもんさ」

「あら、正直者ですこと♪私は嫌いじゃありませんよ、そういう殿方は」

 

……はて?定番ではあるが、俺は誰と話しているのだろう

 

「イタタ、どういう神経してんのよ、アイドルよ?普通有無を言わさず後頭部にあんなもの振り下ろすかしら?ちょっとアンタ────子鹿ね。じゃあ小鹿、あの獰猛なファンどうにかしなさいよ!あんたの連れでしょ!?」

「喧しいのよドラ娘、私の旦那様(マスタぁ♡)に噛み付かないでもらえませんか。ねぇ、旦那様?」

「……うん、わかった。とりあえずゆっくり、両手を上げて下がろう」

 

流石サーヴァント、と言うべきか。俺達が一瞬意識を外した隙に腕は柔らかい感触に包まれたまま固められ、頬にはグリグリとどこからか取り出された……マイクスタンド的なものが突きつけられている

 

「ほら、離れなさいドラ娘。邪魔ですからもうどこへなりと消えてくださいな」

「いやいや、どう見ても今のあんたにも言ってたでしょうが。というかどう聞いてもメインはアンタだったでしょうがこの泥沼ストーカー!」

「だからストーカーじゃないです、“献身的な隠密機動身辺警護”です。この清姫、愛に生きる女です故」

 

……清姫、さてその名前には、確かに聞き覚えがある。今更言うまでもないが日本に昔から土着していた俺の家系は、海外よりも内部のことに詳しい。その性質は俺にも受け継がれている。

 

────清姫伝説。普通の英雄譚が子供に聞かせる物語だとすれば、これはどちらかと言うと教科書に出てくる様な少し硬いお話……まぁ、ある意味トンチの効いたその話は、少しライトに話せば寝物語にも使えなくもないのだろうが、簡単に言えばこの話、良いとこのお嬢さまが初恋をこじらせて実直な坊様をして不誠実を働かせるほどの追い詰め方をし、果てには竜に転生して焼き殺すというそれはそれはバイオレンスな────やっぱり竜じゃん

 

『凜くん、ボク少しコンビニに行ってくるからあとは頼むよ』

「おいまて逃げるな、ついさっきこっちにかかりきりになるって言ってただろうが!」

『え、うわっ!ちょっ紙が!これ君の礼装かい!?クッ、行動を読まれていたか……離してくれ凜くん、何なら君の欲しいものも買ってきてあげるから!』

 

だったら今すぐに滅竜芳香(ドラゴンコロリ)をもってこい!

 

「どうせロマニはあれだろ!またお気に入りのアイドルのブログでも見に行くんだろう!?」

「────アイドル!?さては小鹿、アンタアタシのファンね!?いいわよ、ファンサービスはアタシのモットー。一曲歌ってあげるから耳の穴かっぽじって敬いながら拝聴しなさい!盛り上がるのは許してあげるわ!」

「こらやめなさい、旦那様を殺す気ですか?歌うのは勝手ですけれど、それならばそれで地平線の上でやってくださいな」

 

わぁすごい、どう頑張っても二人が喧嘩する。ここまで仲が悪いと生前の関係を疑うけれど、清姫と関わりがあるようには見えないんだよなぁこのサーヴァントアイドルも。

 

「わかった!こうしよう、そちらの要求も飲むから、先に俺達の話を聞いてくれ。ジークフリート、マシュとモーツァルトを呼び戻してもらえるかな?」

「……少々骨が折れそうだが、善処はしよう。傷ついていてもこの身は不死身。少女のひとり位はなんとか止めてみせる」

 

……うん、なんか苦労ばかりかけている気がする。自分でモーツァルトを犠牲にしておいてなんだけど君だけだ、俺の味方は。

 

「む、そこまで言うなら話だけは聞いてあげる。でもその後絶対アタシの歌も聞くのよ!?」

「だからさせません。せっかくのお願いの権利ですもの、大切に────フフフ、そう大事に使わなくては」

 

あぁ、早まったかもしれない。可憐な少女の、獲物を捉えた狡猾な蛇のような表情が、俺の背中に強烈な寒気を這わせて行った

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

さて、数分前に我が身を犠牲にしてなんとか対話の席を設けたわけだが……今度はまた別ベクトルで厄介なことになっている

 

「我が身を犠牲にとか言ってるけど、その前に勝手に生贄にされたボクはじゃあなんだっていう話だよ、まったく」

「本当ですよ、どこにも先輩なんていないじゃないですか!純情なデミサーヴァントの気持ちを弄ぶなんてヒドイですよ」

 

……心做しか、今のマシュのセリフのせいで清姫からの視線が鋭くなった気がした。別に俺の家計は蛙とは何の関係もないはずなのだけれど、今は蛇に睨まれる蛙の気持ちがよくわかる。

さて、とりあえずそんなことはともあれ、空気を変えるように咳払いを一つ

 

ゴホンッ

 

「……さて、ようやく落ち着いたわけだけど、先に君らの名前とクラスを教えてくれ」

「えぇと、それではまずは(わたくし)から……サーヴァント清姫、クラスは喋れるバーサーカーです。と言っても見ての通り華奢な少女ですからステータスは高くありません、変化のスキルで肉体の一部を竜化して殴ったり火を吐いたりが限度ですね。まぁその分宝具に特化したサーヴァントだと思ってくだされば間違いはないと思いますよ、旦那様」

「……契約してもいないのにマスター呼びはまぁいいとしても、なんかニュアンスがおかしくありません?」

 

気にしたら負けだよマシュ。

さて、たった今話に聞いた清姫だが、これまた珍しいタイプのバーサーカーである。前回の戦いでその恐ろしさを盛大に教えてくれた狂戦士のクラスだが、厳密にこのクラスに適正というものはない。

剣を使おうが使わまいが、弓を手繰ろう手繰るまいが、槍を扱おうが扱わまいが、馬に乗ろうが乗るまいが、弁を弄そうが弄すまいが、あるいは世に忍ぼうが忍ぶまいが、サーヴァントであれば何ら関係なくバーサーカーとして顕界することは可能だ。

だが、無理矢理にでも適正というものをつけるのならば、やはりそれは“狂人”であることが前提になる。人生に、憎しみに、愛に、願いに狂い、それが後世に伝わった存在ならば、ある意味それは天性のバーサーカーと呼んで差し支えない。では、その真のバーサーカーとそれ以外の違いは何かというのがここでの問題で、眼前の少女を見ての通り、バーサーカーの必須スキル『狂化』の在り方、はたまた作用の仕方が変わってしまうのだ。

本来ならば理性を奪い、その分だけステータスを上げるはずのスキルは機能を失い、生前の狂乱具合とその方向性を示すだけのスキルへと成り下がる。だからこそ清姫はこうして会話もできるしステータスもサーヴァント最低クラスのままを維持している……まぁそれでも狂っていることに変わりがないというのが恐ろしいところで、この少女は────聖杯をして信長達を軽く下に見る程のイカレ具合だと言われる逸材なのだ

俺の視線に頬を軽く染め、艶やかに潤い出した黄金の瞳から視線を逸らしてもう一人の少女へ視線を向ける。

気絶していた時は飾り物だと思っていたのだが、実際は体から直に生えているものらしい尻尾をフリフリと左右に振りながら、その少女は不機嫌そうに座っていた

 

「え、次アタシ!?まだセリフ決まってないのに!てかアイドルに名前を尋ねるっておかしくない?いや、いいけどね……アタシはエリザベート、エリザベート・バートリー。今回はランサーとして顕界してるわ」

「エリザベート?それって確かアサシンとして召喚された銀髪のサーヴァントと同じ……?」

 

思い起こされるのはマリーさんの攻撃に割って入り、そのままシャルルを回収してワイバーンと共に去っていった二人目のアサシン。俺達と別行動をしていた時にマシュ達が既に対峙しており、その時に判明した真名がたしか凄惨な経歴を持つ拷問狂、少女の生き血で身を染めた狂気の貴族、エリザベート・バートリーだったはずだ

 

「あぁ、アンタたち既にアタシに会ってたのね?確かにあれもアタシであってるわよ。あれは間違えたアタシ、今も間違えたままの、未来のアタシよ」

『……聖杯のシステム的にはあり得ないことじゃない。英霊の座に時間という概念が無い以上、そこには人類史の全てが同時に残っているのだから。一人の人間が別の視点で登録されていてもおかしくはないだろう。本当に珍しいことだが、ランサーとしてのエリザベート・バートリーの全盛期が幼少期の姿として、アサシンとして召喚されたエリザベート・バートリーは成長したあとが全盛期なんだ。そうだね、わかりやすくいうなら君たちが助けてもらった冬木の地のキャスターもランサーとして呼んでくれと言っていただろう?そういう事さ』

 

……なるほど、エリザベートをランサーとして見れば少女時代こそが全盛期であり、アサシンとしての彼女はあの銀髪のエリザベートになるのか。

 

「厳密には別人なんだろうね。エリザベート……あぁ、ランサーはドラゴンとしての因子が出てるけど、あのアサシンにそれは見られなかったからね」

「まぁ、確かに過去から派生したアタシ(エリザベート)からしてみれば別人ではあるけど、でもそれでもアタシにも彼女の記憶はあるのよ。だから違うのはサーヴァントになってからの記憶、むしろ記録かしらね。こんな聖杯戦争でもなければ、きっとアタシもアイツも何も変わらないのよ、アタシは別の景色を見られたから落ち着いてるだけってことね────ま、まぁ?もちろんアイドル的な意味でもアタシはオンリーワン!ナンバーワンだけどね?」

 

……ふむ、これはアレだな。また信長が合流したらエリザベート同士で一騎打ちになる流れだな。縁の多い人たちが呼ばれているようで何よりだよ、本当に。

 

「さて、そんなつまらない話よりも旦那様の話です。察するに私達になにか聞きたいことがあるようですが……?」

「え、あぁそうそう。バーサーカーとランサーに聞きたいのは、このフランスの地に呼び出された聖人のサーヴァントを知らないか、ってことなんだ」

「聖人?アタシは知らないわ。初めてあったのがこのアオダイショウだもの」

「……後で覚えてなさい。さて、質問に答える前に一つお願いがございます、聞いていただけますか?」

 

……来たか、エリザベートの要求も地獄だが、清姫のそれもどう考えても地獄しか待っていなさそうというのがどうしようもない

 

「もちろん、そういう約束だからね」

「では────ぜひ私のことは清姫と、そうお呼びください旦那様。そんなクラス名等ではなく、私の名をお呼びください」

「ならアタシもそう呼んでもらおうかしら。そもそもアイドルをランサーなんて呼び方常識外だわ、紛らわしいなら向こうのアタシをアサシンって呼んだらいいのよ」

「うん────うん?あれ、以外に簡単なお願いだね?」

 

軽く口走った時は凄く恐ろしい反応だったのに、いざ話を聞いてみればそんなに無茶なお願いでもなく、むしろ普通にお願いとは別に頼まれても全然了承するような簡単な願いだった

 

「フフフ、そう聞こえたのなら、ぜひ守ってくださいな、旦那様?」

「……小鹿、アンタ何でこんなに懐かれてるの?」

 

……さっぱりわからん。むしろ俺が聞きたいくらいだ。何かしたわけでもないだろうに、やはり狂化持ちか

 

「ま、まぁそれでいいなら俺に言うことはないよ、清姫にエリザベート。それで、清姫は何を知ってるんだ?」

「あら……っと、今度は私が約束を守る番でしたね、危うく先走るところでした」

 

いや、やはり俺は早まったんじゃないだろうか?頭の隅を“名前で縛る”なんていう無駄な魔術知識が過ぎったが、考えない方が健康的だろう。恐ろしい想像をかぶりを振って打ち消し、言葉の続きに意識を傾ける

 

「えぇ、聖人のサーヴァントでしたら一人……心当たりがあります。でも残念、彼は私とは逆方向へと向かったので、今から追いかけるのは少し無理があるようです」

 

そう言って清姫が示した方角はシロ達が向かった方面だ。

 

「……それで、その聖人の名前は?」

「気になりますか?そうでしょうね、聞かれたことには答えるのが約束ですから、これもお答えしましょう。彼の名はゲオルギウス、ポピュラーな言語に当てはめれば、聖ジョージでしょうか?」

『聖ジョージ……!トップクラスの聖人じゃないか!』

 

ゲオルギウス、知名度でいえば確かにトップクラスだ。逸話ではドラゴンを退治しているから、戦闘力もきっと凄まじく高いのだろう。味方につけられれば、いよいよ敵に真正面から張り合うだけの戦力が整うかもしれない

 

「それならそっちはシロ達に任せよう。俺達も合流のために早めに動き出した方がいいな、ロマニは向こうにこの情報を伝えて」

『いや、その必要もなさそうだ。向こうは件の聖人と既に接触したみたい。街の住人の避難を終えたらこちらに向かうってさ』

 

……早いな。まぁ早いに越したこともない。

 

「……ただ少し、嫌な予感がするのはなんでだろうな」

「さてね、なんとなくだけれどボクにはわかるよ。君のその嫌な予感の正体が」

 

……モーツァルト?

 

「へぇ、それきいてもいい話かい?」

「今更ボクに晒せない事なんてないさ、もちろん構わないとも。簡単な話だ、必然といってもいい。水が上から下に流れるように、雲が空に浮かび落ちて来ないように、彼女は死してもなお、時代が変わろうとも、二度目の死が待っていたとしてもきっと民を守る。ボクが知ってるのはそれだけだ」

 

清姫が指し示した方向を、ずっと眺めて音楽家(モーツァルト)はそう言った。悲しみでも無く怒りでもなく、音楽性しか見えない彼の声から心情は読み取れない。

しかし男の伝えたい気持ちだけはよく染み渡る、言葉ではなく、一つの旋律として魂へと届いてくる

 

 

 

それはきっと処刑人が否定した鎮魂の調べ、神に愛された男の死後生み出された第一楽譜────王女へ贈る魂葬歌

 

響く鍵盤の音色が空を渡って東へ流れていく、同時に暗くなり始めた茜の深淵が、再び暗さを飲み込み真っ赤に燃え上がる様を、俺達は幻視した

 




今回はお世話になった人も少なくないはず、最恐のサーヴァント清姫ちゃんでいきましょう。
清姫の出典は珍しいことに……あ、最近はでもないか。日本の物語です。作中でも言ったとおり、これは一人の少女が僧に恋をし、猛烈にアピールをしては逃げられ裏切られて、それゆえに愛憎に駆られ僧を殺してしまうお話です。さてではなんで作中の清姫が竜になっているのか、不思議に思った方もいるでしょう。これは別に彼女が竜の血を持つ家系とか、他者の印象でねじ曲げられたとかじゃねぇですよ?僧の殺し方も目からハイライト消して包丁持ってとかじゃねぇです。えぇ、突然憎しみのみで竜種へと転生して焼き殺したんです。
それ故にFateの清姫は竜の因子を持ち、宝具ともなれば自身のみを竜へと変えて炎を吐き散らす、強キャラへと変貌します。そのステータスはなんと驚きの宝具以外全てE、宝具のみEX。ピーキーなんてもんじゃねぇぞ!?攻撃手段は体の一部を竜に変えての近接か口から吐き出す炎のブレスですね。基本的に前者は防御用らしいです。ゲームのスキルは防御力しか上がりませんからね。でも何が恐ろしいって魔術じゃないから対魔術効かねぇですよこれ。
さて、それとは別に目立つものがあります。それはクラススキルの狂化です。なんと恐ろしいことにそのランクはEX……まぁ上の元ネタの話のとおり、清姫の狂化は『病み具合』を表します。つまりヤンデレキャラです。まともに会話もできるのにEX……規格外ってのは何なんでしょうね、愛って怖い。
ゲームだと魂の色で主人公を“自身の惚れた僧の生まれ変わり”だと思いこみ旦那様として慕い始めます。その恐ろしさと言ったら特異点が消滅してもカルデアまで押しかけてくるぐらいです。その思い込みも狂化のランクに含まれてるらしいですけどね。怖い怖い
そんな彼女は基本的には自身を慕う可愛い少女です。しかしヤンデレというからには死亡フラグも搭載されているわけで……彼女は嘘を嫌うのです。生前、片思いした僧は彼女を引き離すために“帰りにまた寄るから”と嘘をついて逃げました。それ故に彼女は嘘を嫌い、聖杯には『嘘のない世界』を祈ろうとしてるほどの嘘嫌いです。嘘を付けば生まれ変わりだと思い込んでるマスターといえど襲い掛かり、その令呪を奪うとされてます。ぜひ気をつけてくださいな

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