聖杯奇譚 魔王降臨   作:ヤッサイモッサイ

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またも番外。未だ書いてない4章末より分岐です。書きたいから書いただけぇなので戦闘シーンくらいまでしか多分書きませんけどね


異端特異点 天魔謀叛浄土 スメラミクニ
雷霆ヲ穿テ、狂飆ヲ散ラセ、大輪ヲ咲カセ!


彼女はそれを聞いて何を思っただろうか

 

彼女はこれまでを見て何を考えただろうか

 

 

 

さながら俺の思考は、恋する小童の如く、ただただ貴人の思考をなぞる事だけを考えていた。

 

焼ける大地に、割れた空、有象無象と堕ちた民草に終わりのない裏切り。さながら誰かの歴史にあるように、あるいは思い出を掻き毟るように、その光景はいとも容易く少女の熱を奪い去った。

 

義憤、悔恨、悲願、憎愛……果たしてその熱の正体は未だに知らない。しかし、唯一少女が抱いていた人間らしさ……それが、その炎が消えたのが、俺にもわかる。

 

「これ程までに、駄目になっていたか」

 

そう零した声に、聞き覚えはある。紛れも無い魔王の声。しかし覚えはあっても思わず疑ってしまうほどに、その言葉から感じられるのは身も澱む完膚無きまでの冷気である。

ジクジクと蝕むような、そのような豪悪である。

 

長々と語りこそしたが、そんな胸中やおぞましさに興味も無かろう人々に、簡潔に現実を伝えるとすればこうである。

 

「───八二号聖杯爆弾、起動」

 

 

 

 

 

 

魔王は人を信ずることをやめ、見限ったのだ。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

同時刻───カルデア管制室ヨリ

 

 

「なんだ、何が起きたっ!?」

 

突然の衝撃、モニターの暗転、巨大な熱源反応……疑問符を浮かべる事には困らぬほどに、第四特異点内の現象は理解不能であった。

 

「わかりません、映像・音声ともに強制切断!両マスターのバイタル依然悪化中です!」

「周辺環境の数値も異常な数値です、如何に特異点とはいえこれは……ッ!」

「特異点だけでなく直接カルデアにも被害が!四十三番以下の格納庫が炎上中、五十二から五十七に至っては消失したことになってます!」

 

職員達の報告に、内心唖然としながら指示を出し続ける。

 

「両マスターのモニタリングはそのまま試行を続けてくれ、映像は後回しでも構わない。何としてでも音声だけでも繋げよう。周辺のデータは採集に集中してダ・ヴィンチ女史に送信、解析は彼女に頼む。カルデア内の損害については四十番以降を隔離し、待機中のサーヴァントに確認を頼もう。重要機関の確認が済み次第特異点の観測に参加してほしい。」

 

しかし、何かが引っかかる。第四特異点に起きた変化、カルデア内の損失……特異点が生まれ変わっているかのようなこの反応と、格納庫という地下施設への突然の衝撃。なんだ、何があるんだ?

 

「シロちゃん、凜くん……無事でいてくれよ」

 

今は、ただ祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

始まりはただ一つの疑念であった。例えるのであれば、白紙の紙に落ちた小さなシミ……その原因を探すが如き自問自答。

 

「信長さん……?」

 

なぜ我はあの日、炎上せし大地に降り立ったのか?既にそこからしておかしかったのだ。何故ならば英霊なんぞという輩が、なんの目的もなしに召喚に応じるはずがない。

 

「離れろ、どうにもさっきまでとは雰囲気がちげぇ。知ってるぜ、この感じ……とんだ暴君の気配だ」

 

生前にやり残したことは無い、死後への展望もない、召喚主との相性すら良くなければ、特別な触媒なんぞ持てるほどの財力を、既に奴は失っていた。

 

「なんだなんだ、何が起きやがった?てか誰だあのちみっ子はよォ?」

 

であるからこそ、ただずっとその事を考えていた。片手間に人理修復を手伝いながら、後続の人間が成長するのを肴に、ただただ考えていた。

 

「んもぅ、金時さんは空気が読めませんねー……はい、言うまでもなくヤベー奴でやがりますですよ。特にここにいる全てにとって、あれは天敵でございます」

 

故に、結論に至るのが誰よりも早かったというだけの話。この第四の特異点で得た情報から、そこに至ったのが我であったというだけの話である。

 

 

 

「……うん、どういうことかな、凜くん?」

 

 

 

 

 

 

「───決まってるだろ、これが俺達が出した結論だ」

 

そう答える主の手には、黄金に輝く杯が握られている……第4の聖杯。特異点ロンドンを創りし、いわばこの世界の根幹。

 

「───ワシらはこの旅より降りる事にした。止めることは叶わんよ、聖杯は今やワシらの手にあり、それによって召喚されたニコラ・テスラもコチラ側に、そして間もなくもう一騎も貴様らの敵となる」

「そんなことは聞いてないんだよ、私は何故そんなことをするのかと聞いてるんだよね」

「吠えるな、所詮小娘がのぼせ上がるのも大概にせい。引き連れたサーヴァントの戦力は心許なく、頼みの綱のカルデアとの通信も絶たれた。ロンドンの聖杯を持って起きた座標震は特異点を歪め、やがてはここも異界と化す───貴様に何が出来る?」

 

そうだとも、これほどまでに明確な詰みは今までにも無かった。詰ませたのは他でもないワシらである。万に一つも逆転の目なぞ与えはせぬ

 

「出来損ないのデミサーヴァント、叛逆を誉れとした騎士崩れ、御丁寧にも神秘をたんまりと内蔵した日本の旅行客2人。あぁ、あとは物書きが2人に人造人間、精神患者までいたか……大した仲間よな、半人前のマスターよ」

「だとしても、今ここであなたを討つくらいならやってみせるよ。それだけいれば、私には十分頼もしい」

「フム、では試すか?」

 

右手に呼び出した火縄の照準を、まっすぐ小娘の額へと向ける。

 

「信長、よせ。乗せられてるぞ」

「構うまいよ、それにこれで本当にワシらが敗れたのなら、それはそれじゃ。うつけなのはワシらの方、そんな当たり前のことを証明するだけに過ぎん」

 

とはいえ、このまま引き金を引いたところでそんなことは分からない。小娘1人殺すのは容易くとも、これが決めつけであるのも事実なのだ。

 

「───さて、では第四特異点を続けるとしよう。確かに、まだここが消えるまでには時間がかかる」

 

核となる聖杯を取り出し、変遷を進めているとはいえ、ニコラ・テスラを始めとするサーヴァント達が健在な様に、このロンドンを中心としたイギリス全土の魔霧の怪異は消えては居ない。第四特異点は未だに続いているのだ。

 

「それにちょうど役者も揃った頃じゃしの」

 

火縄を下ろし、この地下深くまで大きく開けた穴から空を見やる。

今までただ拡散するだけであった霧に、明確な流れができている。

 

「───この、感覚は……父上(アーサー王)ッ!?」

「嵐じゃのぅ、いやはやまこと趣深い。煉獄、雷電、嵐気……尽くが災害こそ貴様らの敵である」

 

騎士崩れの言葉に、そう意趣返し、主を掴んで大穴を飛び上がる。

 

「これよりここは聖杯大戦が舞台となった。特異点を解決したいのであれば、ワシらを打倒して見せよ。あとニコラ・テスラ、貴様もだ。サーヴァントとして呼ばれたのであれば、役目を果たせ」

 

ここに戦は成り立った。所詮は余興なれど、賭された命は1回限り……カルデアよ、星見台を語るのであれば今一度見せて欲しいものだ。

 

「人々の瞬きとやらを……な」

 

下で起きた電撃のぶつかり合いを尻目に、紫電の大階段を昇っていく。目的はロンドン上空、魔霧の集まる特異点の中心。

特異点の変遷が本格的に始まるまではあと十数分と言ったところだろう。奴らからしてみれば打倒すべき壁はニコラ・テスラ、アーサー王、加えてワシらの3つ。あの小娘が持ちうる戦力も中々ではあるが、タイムリミットを考えればそれも分散する。

 

「俺たちのところには誰が来るだろう?」

「冷静に考えれば、物書きを始めとした待機勢じゃろうな。ニコラ・テスラを相手するに、並の雷電使いでは少し足りん。とはいえ坂田金時は文字通り並ではない。補佐として玉藻の前がそのまま残ったとすれば抑えるには十分」

 

ましてや特に神秘の強いあの2騎をワシに当てるほどの愚はせんじゃろう。

 

「アーサー王にはモードレッドとデミサーヴァントが向かうじゃろうな。あれを止めるには相応の盾と火力が必要であることは既に分かっておる」

 

となれば残るのはあの場にいなかった者達のみ。どれも比較的近代のサーヴァントで神秘も薄い。3騎士のワシを相手に出来るかは別にしても、他のメンツよりは可能性もあるであろう。

 

「まぁ、ニコラ・テスラを守ってきた霧は既にアーサー王に巻き取られておるし、そのアーサー王とて今回は自然現象的に発現した無意識の存在じゃ。時間内に打倒してこちらへ駆けつけてくる可能性は十二分にある」

「それに、信長だって俺が死んだらそこまで。単独行動があるとはいえ、聖杯さえ確保できれば宝具は封じられる」

 

そうなれば流石にどうしようもない。

 

「いうほど有利な状況じゃないな、むしろシロのことを考えれば秒殺されるまであるぞこれ」

「じゃろうな、人間が相手であればあの娘は無敵じゃろうて……しかしまぁ、生憎と人間以外を相手するには奴は少し脆いのぅ」

 

理を知る、そんなことが可能であれば確かに人の世では英雄にも悪鬼にもなれよう。人しかし残念ながら、理なんぞは人が生み出したもの、獣がごとき者共にはそれも通じない。

 

「所詮は病理よ。言うなればあのヤク漬け(ジキル=ハイド)の重症版じゃ。患部を適切に焼いて駆除してやるか」

「サラッと自分は人間じゃない宣言をしないでくれ。てか、その場合の患部って心だろ。駆除すんなよ」

 

思わず鼻から笑いが漏れた。我が人ではない?おぉ、何ら異存ないとも。人でなし上等。苛烈にして過酷が我が覇道なれば、我は欲こそを人と呼ぼう。

 

「馬鹿をいえ、精神疾患こそ脳内の分泌物が起こす化学反応じゃろが。三千世界でズドンッとやれば、それで駆除は終わりじゃ」

 

まぁ、一先ずは……お手並み拝見と行こうか、星見台の魔術師共よ

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

───完全なる誤算。果たしてそれを誤算と言えるのか、という無言の抗議はさて置き紛れもなく状況は最悪である。それも過去最大級に。

 

「……ドクター、聞こえる?」

 

通信機に向かって問い掛けはするが、応えは返ってこない。この特異点から感じる明らかな嫌な気配もそうだが、恐らくは“ナニカ”を仕込まれていた。その程度には私は“カレラ(上司)”を信用しているし、それ程に“カレラ(同僚)”は狡猾だ。

 

「通信はできない。聖杯は向こうの手の内、特異点すら潰せなかった。オマケにこっちは消耗した戦力でボスが3人……やってくれるね」

「ウジウジと喧しいなァ、オイッ!結局やる事は単純明快、アイツらまとめてブッ(トバ)すだろ!?異存はァ!?」

「無いよ、それで行こう。情けも容赦も抜きに、ここでアレらを壊す。変遷が終わったら何が起こるかわからない。何よりもこの特異点に紐付けられたサーヴァント達が居なくなっちゃうのが痛いからね」

 

最優先事項は聖杯だ。つまりはそれを持ってる織田信長……正直脅威度はさほど高くない。ただしそれは聖杯か、もしくは魔術師がいない場合の話。その2つを兼ね備えた彼女は目下最大の障害になっている。

 

「乗りかかった船だ、駄賃まで持ってくつもりで頼ってくれていいジャン」

「勝手に船に乗せないでくださいな。あっちを見ても地獄、こっちを見ても地獄。なんだって旅行の下見がこんなバイオレンスになりやがるんですかね全く。そういう意味では船に乗ってでも帰りたい気分です、えぇ」

「船は嵐で欠航中、再開の目処は立ちませんとは全く困ったものだ。加えて雷と暴風、オマケの銃弾の雨あられが止まない限りはだと?どんな奴が書いたか知らんがクソみたいなシナリオだな、人魚の歌で船が沈む方がまだマシか?」

 

こっちの戦力は坂田金時・玉藻の前・モードレッドにアンデルセン、上で待機しているフランケンシュタインとジキル・ハイド……あとマシュ。順当にぶつけるならば組み合わせは1つしかないけど───うん、それじゃ届かない結果は見えている。見なくても分かる、そんな投げやりで戦力を温存するみたいなやり方じゃ何一つとして突破できない。

 

「荒い船頭で良ければ、船は出すよ。まさしく嵐の中に突っ込んで、台風の目まで突き抜けるような水先案内で良ければね?」

 

だったらこれしかない。沈みゆく泥船ならぬ泥特異点から抜け出すために、嵐だろうとなんだろうと突っ切ろう。

 

「さぁさぁ、ミコっとゴールデンに彼らの叛逆をコキおろしてあげようか」

 

あ、別にぱくったわけじゃないからそんなに睨まないで、内ゲバで船が沈むとか笑えな───おぅ

 


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