聖杯奇譚 魔王降臨   作:ヤッサイモッサイ

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どうも、ここに来てようやく90万ポイント、作者です。
今回はまず小説のことから……先日ようやくオリジナルキャラクターの設定が練り終わりました。高々二人にどんだけだよっ!という感じですが、いやほんと信長の宣伝のために書いていたので主人公の背景は添え物程度だったんですよね。真剣に考えだして、できるだけ無理のない、矛盾のないようにとしていたら時間がかかるわかかるわ……えぇ、大変でした。それによって凜くん、シロちゃん両名無個性から有個性になったので、ゲームの方で主人公の隠された設定が出てきたら矛盾が発生するようになりました。マシュの先輩呼びの理由も、若干変わってしまいます……そこのところご了承ください。
あと今回はもう一つ、試験的に……というか凜くん視点での描写に無理を感じたので久しぶりに一人称の戦闘を書きましたが、すげぇ不安というかなんというか……他作品では同じシーンでも説明調な三人称と、心理描写の一人称を使い分けてる方がいますが私にはきつかったです。個人的に()は使いたくないので余計にですかね。

さて、ここからはゲームの話を少し。信長をレベルマックスにしたんですけど
盾子「オフィシャルではダメです」
とは何だったのか……画面に入る方法真剣に探しました。是非皆さんも最終再臨させましょう。ついでに私はアンメアやアサシンと共にクリティカル編成で信長使いたいので早速魔王のスキルレベルをMAXにしました。AP吹き飛んで辛いです。宝具は少し使いどころが厳しいですが、配布の星4、高ステータスに高ヒット数もあってやはりなかなか強いです。是非皆さんも使ってみてくださいね!では本編どうぞ


罪を追うもの、罰を求めるもの

流れ込む亡者を殲滅しながら、二騎のサーヴァントの登場を待った。

いくら量を用意した所で、所詮は死人にサーヴァントは攻略できない。存在としての格が違いすぎるのだ。

 

「それにしても遅すぎ無いか?」

「どうやら、この群れの奥で立ち止まっているようだ。自分たちにとっても邪魔ならば連れてこなければいいものを……」

 

……なるほど。よくわからないが高潔にも一騎打ちを望んでいるのか、はたまた死者程度で押し切れると思っているのか……本当に死者がいると力が出ない類のサーヴァントだったら意味がわからないが

 

しばらくそうして殲滅を続けることで、ようやくそこが見えてきた軍勢の奥には、確かに存在感からして別格な影が二つあった……いや、別格というよりは異質。今まで見てきたどのサーヴァントとも違う……哀しみと怒りをこじらせた、暴力的な衝動の発露─────狂気の具現

 

「……バーサーカーか、全員に等しく狂化を付与していると聞いたが、純粋な狂戦士まで用意してくるとはな」

「横にいるのは……セイバーかな?不思議な形だけど剣みたいなの持ってるし!肩の飾りはすごい戦いにくそうだけど!」

「シロ、そう思ったならまずは戦士っていう選択肢を外そうか」

「じゃ、雰囲気からアサシンで」

 

……大雑把だなぁ。まぁ、振りまかれる殺意の鋭さから、無い話ではない。少なくともライダーかアサシンのどちらかであるだろうからね。

 

「あの野郎……ッ!死んでもなおまだマリアを付け狙う気か!?」

「あら、アマデウスがそう言うってことは、やっぱり私の未間違いではないのね。哀しき処刑人さん────シャルル・アンリ・サンソン」

「やぁ、白き項の君。君のことを忘れたことは無いよ、君はどうかな?死ぬ間際にでも、僕のギロチンに快感を覚えてくれただろうか?いや、聞くまでもない。僕ほど君を上手く殺せる人間なんて居ないのだから」

 

……二人組のうちのひとり、シロがアサシンだとした男はフランス組の知り合いのようだ。数奇な運命、なんて言葉を自分が生きている間に使うことになるとは思わなかったけれど、ことこの状況ならばこれ以上似合う言葉もないだろう

ボサボサの銀髪に、気だるそうな……しかし確かに狂気を含んだ表情。黒いロングコートに漆黒の刃のみが異様に広がった大剣、肩部につけられた馬の形の装飾……マリーさんの言葉の通り、シロの言葉の通り、処刑人のイメージが湧いてでる。因縁の相手……信長はそういった相手は奪わない性格らしいので、自然彼女が相対する事になるのは二騎目のサーヴァント。見るだけで十分その異常性が伝わってくる黒騎士になるのだろう。

バーサーカーは文字通り狂戦士のクラス、カルデアの資料では「ステータスで劣るサーヴァントに、狂化のスキルをつけることで、理性と引換にステータスを引き上げるためのクラス」との事らしい。いわば最弱を最凶へと変化させる一発逆転のクラスだ……まぁ、理性と引換にという時点で厄介ごとしか呼ばない気もするが。

 

「……どう見てもあれ、ただ最弱を強くしましたなんて空気じゃないよなぁ」

 

特徴は既に述べたとおり、『黒騎士』であること。兜から覗く眼光は鋭く、宙に赤く線を残すほどに爛々と輝いている。目の軌跡と共に兜から伸びる飾りは、体から迸る闇に巻き上げられ、その荒ぶる気性を表すかのように右へ左へと棚引いて宙を叩いていた

 

「騎士の様相をしている以上、正式に呼び出せば殆どの場合は三騎士だ。例外も中にはあるだろうけど……あれを例外と見れる?」

「いやぁ、素人目だから強そうに見れるに一票」

「先輩が言う方に一票、理由はデミサーヴァントだからで」

「なら私もそっちに。理由は……ルーラーの力が万全ではないからで」

「ならば俺もそちらに入れよう。理由は……すまない、怪我をしているからというのは無理があるな」

 

うん、満場一致で三騎士クラスです。現実逃避するのはやめようか、そしてジークフリートも無理に合わせなくていい!

 

「それよりも、というかそれに近い疑問なのですが」

「どうしたのマシュ、今俺さっそく令呪使うべきか悩んでるんだけど」

「……凜さんて割と臆病ですよね」

 

失礼な、あんなやばそうな雰囲気の奴が相手なんだ。特に信長は相性に左右されすぎるタイプだし……一撃で潰されるようなことがあれば目も当てられない

 

「いえ、まぁ置いておきましょう。私が聞きたかったのは……あのサーヴァント、武器らしきものを持っていませんが?」

 

……そういえばそうだ、騎士の風貌の割には剣も弓も槍すら持っていない。あんな如何にも頭がパーみたいな奴に、叩きつける以外の使い方が出来るのかどうかは置いておくとしても、何も持ってないなんてあるのだろうか?そりゃ英霊の装備や肉体は魔力で出来ているのだから収納位していてもおかしくはないが……バーサーカーにそんな知識があるはずは無い。マスターでさえあんなハッチャケているのだからわざわざ隠すように命令したりもしないだろう

 

「……なんかあの白髪のアーチャーを思い出すなぁ」

 

あれほど厄介な相手もそういないだろうが……相手は英霊。何をしてくるかなどわからないものだ。

結局俺がいくら警戒したところで意味などないという事だろう。だとすれば、やはり頼みの綱は同じ英霊だ

 

「信長、無理だと思ったらすぐにいうんだぞー?」

「主はわしの保護者か!?危ないから下がっとれ!」

 

……うむ、大丈夫そうですね。

 

 

 

高まる魔力のぶつかり合いに、僅かに残った屍も吹き飛ばされて見えなくなる。正真正銘残ったのは超次元の頂きにある者達、王女と作曲家に対するは処刑人、魔王に対するは黒騎士。前半と後半で偉く雰囲気というか世界観が変わってしまったが……立っているのは同じ大地だ。

ならばこそ、そこに肩書きなど関係ない、あるのは─────純粋なる力関係のみだ

 

「うーん、大丈夫かなぁ?」

「……信じるしかないだろ?シロはマリーさんたちの方を頼むよ、仮とはいえ君は彼女らのマスターなんだから」

「それはそうなんだけど、そうじゃなくてあの黒騎士さんのこと。信長さんわかってるのかなぁって」

 

────この子は何を言っているのだろう?

 

()()になっちゃうけど、相手をするなら逆の方が良かったよ。あの騎士には、同じ武器じゃ多分勝てないから」

 

意味不明、理解不能。行動を共にした時間はそう多くはないが、しかしこの少女はどこか不思議だ。アホな時はアホすぎるし、かと思えば今は別ベクトルに理解不能だ。

 

「うん、やっぱりスイッチは言っちゃったせいかなぁ。お菓子食べてリラックスしたらいつもみたいに戻るんだけどねぇ」

 

そう言ってごまかすように笑った少女が……今はどこか不気味な別の生き物に見えた

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「本当に喧しい主じゃわい」

 

現界してから頼れる姿はそう見ていない。自分でも“主”と呼ぶのが躊躇われるくらいに脆弱だ。力とか人間性がという話ではない、存在として脆弱すぎる、不安定すぎる。

無知は罪だというが、だとすればそれによって滅ぶのは本人のみだ。だからこそその罪を他人が背負ってやることは出来ない……世界を救うまえに、せめて自力でなんとかして欲しいところだが────というのも、眼前の存在が余りにも哀れだからだ

 

「……さてその怒り、狂化のせいというわけでもあるまい。お前の主のせいか、はたまた民のせいか……あるいは自分のせいか。気持ちはわからんでもないが過ぎたことをグチグチ言うのはちと女々しいのぅ」

 

騎士というからには使えた王がいたのだろう。守った民が居たはずだ、葛藤した自分も居たのだろう、人間である以上、欲を持つ以上当たり前だ。しかしまぁ死んでもなおこじらせる輩は質が悪い。飼い犬は飼い主が躾けるのがマナーなのだから、コイツの主は少し問題だ……まぁ、自分も人のことは言えないのが痛いところだが

 

「さて、反応が無いというのも悲しいのぅ。対話や問答こそ、聖杯戦争の醍醐味だと思うのじゃが……あのレディース紛いに腐れ怪人め、このボキャ貧の何処がわしと似とるのじゃ────久々にイライラしてきたぞ」

 

三千世界を呼び出し、地面に突き刺す。これでここら一体はわしの陣地、どんな体勢であろうとも、どんな状態であろうとも、攻撃と攻撃に間隙は生じないし、一発無駄に使えば推進力にも出来る。

見た目からして不気味、騎士という癖に武器を持たず、狂戦士という割には動きがない……様子見代わりに一撃ぶち込むのは決定としても、やはり万全の体制で挑むべきだ。困ったら撃ち込む、結果で相手の素性も見えてくる、一石二鳥じゃ

 

「てかシカトて!騎士道に反するじゃろ!」

 

呼び出した銃を、黒騎士に向けて発砲。勢いのままに投げ捨て、新しいのを拾っては再び発砲。両手で繰り返すこと三回、サーヴァントの身体能力で高速で打ち出され、宙を進む弾は計六個。反応も鈍く、これで黒騎士に神性や神秘が宿っていれば確実に致命打となる一撃。

────さて、貴様はどっちかのぅ?

 

そんな風に、半ば試す様に見送った弾丸の先で、黒騎士は静かに動き出す。

登場した時のように体から闇を流しながら、崩さなかった仁王立ちの姿勢から手を伸ばす────先にあるのは()()の火縄銃

 

……何をするつもりで────無手の英雄?

 

「まさか────ッ!?」

「─────AAAAaaeeeee!!!」

 

奇声と共に引き抜かれた三千世界は、その色を暗く深め、何かに侵されたかのように表面に歪な赤き葉脈が広がる。その中心となるのは黒騎士の手だ。そして無論、銃とは撃つもの……既に構えられたのであればあとは引き金を引くのみだ

放たれた弾丸は眼前に迫った六つの灼熱を、玉突きの様に連続で弾き、周囲の銃を巻き上げた。綺麗な放物を描き黒騎士の手に収まった三千世界(わしの宝具)は再び趣味の悪い配色に塗り直され、そのわしから離れていく

 

 

……予想外だったとしか言いようがないのぅ、言うまでもなく悪い意味で。そもそも、騎士がこそ泥の様な宝具を持っているなど誰が考えられるのか?考えられるわけなかろうに。無茶を抜かすでないわ

 

考察に割いた思考も一瞬……休み無く、お返しとばかりに繰り出された鉛玉は計七個。撃った数より多く帰ってきたのは当てつけだろうか?いやしかしそんなことよりも─────

 

「随分と器用なもんじゃの!」

 

躱しながら今の芸当を考える

確かに宝具自体は驚異的だ、手に触れた宝具を奪う宝具……わしの物が複数ある物だったのが幸いだったのか、あるいは災いだったのかはいまいち判断に困るところじゃが……しかし問題はそんなところに無く、その奪った宝具をいとも容易く扱い切るあの巧みさだ。

前述の通り、眼前の存在は間違いなく騎士である。靄のせいで見にくくはあるが確かにあれは西洋の甲冑で間違いない。であるならば、一体どうして火縄銃等というものに親しみがあるのだろう?何故たった一発の弾丸で、眼前に迫った六個もの弾丸を処理できる?

 

 

……非常に業腹ではあるが、認めるしかない。奴の技量はわしのそれを容易く超えている。今も再び巻き上げ、手に収めた三千世界で好き放題バカスカ撃ってくれているのだから、何かを言えるはずもない。

なるほど、非常に面倒な相手だ。

とりあえずこれ以上走り回るのも面倒なので、わざわざ地面に突き刺すように出した三千世界をすべて回収する。いくら奪われようとも、火縄銃の装弾数は一発のみ、ならばあいつが今も御丁寧にコレクションしておる回収出来なかった二十七丁も、それ単体ではもはやただの棒切れだ

 

「信長さん、私も手伝います!」

 

そう背後からやかましく声を上げたのは、やはりというかなんというか聖女様ではあるのだが……

 

「要らん、陣営は崩すな。もうひとり背後から迫ってきてることを忘れるな戯けが」

 

……まぁ、それ以前に。先程からこの黒騎士の意識がその聖女様本人に向いている気がするのがおおきな理由なのじゃがの。

それはそうとこの状況、残された選択肢は刀位しかない……とはいえ騎士を相手に、刀剣で挑み掛かるのは流石にわしをしても無謀が過ぎる。

相手に渡さぬ様に三千世界を使おうにも、弾丸が見切られてる以上当たるわけもなく。量で押そうにも、もし略奪の条件が触れる事でなければ一気に持っていかれる可能性もある。

 

しかしなんでわしが無手にさせられとるのか。

立場がまるっきり逆転している……てか、器用な狂戦士とか聞いてないし。弾丸を切るとか避けるならまだしも弾いて利用するとか人間やめとるじゃろ。実際人間じゃないならわし的にはやりやすくていいのじゃけど……まぁ、そんなわけでも無さそうじゃしの、あれは。

……刀しかないかの。バーサーカーを相手に近距離とか、今川の時を思い出すわ

 

刀を鞘に走らせて、スラッと抜いては順手に収め切っ先を下げるように構える。

幸いというか、一度攻勢が止まれば、バーサーカーは何故か聖女を見て静かになるので仕掛けるタイミングは選べる────まぁ、選ぶ必要とかわしには無いわけじゃけど

 

しかし何時もなら聞こえる主のツッコミもなく、切り結ぶ敵も喋らんから、いささか寂しい感じもするな。でもやはり声を出して切りかかる方が力が出る感じがするのは、わしらしいからのぅ?

……というわけで

 

「騎士道に則って、尋常に死ぬがよいわ!」

 

距離はさほど空いてない。空間を一瞬で詰め、未だに空虚に聖女を見る敵へと得物を振り下ろす。油断はしない、この狂戦士のスペックは普通ではないのだから────しかし、そんな警戒すら何でもなかったかのように、黒騎士はやはり機敏に反応し、自身のものとした三千世界でもって刀と鍔迫り合う。銃身を持つようにしてぶつけ合ったそれをずらし、鍔に銃の持ち手を引っ掛けるようにして合わせると、そのまま刀すら信長から奪おうと腕をかち上げに来る。

無論やられるままの信長ではなく、それに対して地面を蹴って、支点となっていた刀ごと敵の頭上へと移動すると間髪おかずに追撃を加える。しかしやはりその距離は騎士の領域、狂戦士は対の手で、容易く重さの篭らぬ刀身を掴んでみせると圧倒的な力でそのまま信長を支えて見せた。

奇しくも、自身が聖女マルタにした事と同じ状態に追い込まれた信長だが、こと相手がこの黒騎士に限ってはそれでは済まない。握られた刀身部から、宝具ですらない刀が赤い葉脈に侵食されていく。

 

「────クッ、問答無用か貴様!」

 

ステータスの差から、信長の蹴りにも黒騎士はピクリとも動かない。仕方ないとばかりに黒騎士の支える刀を足場に跳躍をひとつ、遂に得物を手にした騎士から大きく離れ、信長は表情を歪めた。

これで武器は根こそぎ持っていかれた。宝具こそ、数揃えてはいるが、それもあまり相性は宜しくない、というよりも考えるのおぞましい想像がよぎるばかりで使う気にれなかった。

……だが一撃、蹴りを加えた事で断言できる事がある。どうやらこの黒騎士は神秘の濃い時代の存在の様だ。無論、それもピンからキリまである故に正体の特定には至らないが……ステータスの上昇は確かな武器になる。

 

「あとは……バーサーカーでさえ無ければのぅ」

 

会話もできない、行動が読めない、ステータスが高い、技量も高い……美味しいとこ取りにも程がある。挙句宝具でなくとも奪っていく……否、自身の宝具に変えてしまうなどもはや狂戦士の概念が崩れそうだ。

自分のお株を奪われ、激情に駆られる部分もあるが、しかし信長をしてそんな余裕を見せる暇はなかった。当たり前だ、ステータス、技量、宝具……全てにおいて勝るところが無い。強いていうなれば考えて動くものと反射で動くものの差程度しか、今の信長に有利は残されていなかった。牙を剥こうにも、騎士の鎧を貫ける持ち合わせが無い……令呪を使えば、あるいはスペックで上回ることも可能かもしれないが、アレはそんな風に確信もなく使っていいものではない。それは信長が彼に教えた事なのだから簡単に要求できるはずもなく、結局彼女はまた奪われるかもしれぬ三千世界に頼る他ないのだ。

 

「まぁ、言ってもどうなる訳でもなし……是非も無いとはこの事よ」

 

右手に収まった確かな重みを指で弄りながら、自分から奪い取った圧切長谷部で、試す様に空を刻む騎士を見やる。葉脈の広がったそれは確かに黒騎士の持ち物となっており、自身の魔力で形作ったもののはずなのに解体すらできないという有様……試しに一撃撃ち込んでみても、やはりというかいとも容易く弾丸は切り払われ彼方の大地を抉るだけにとどまる。

……選択肢は二つに一つ。一つは有無を言わさぬ一斉掃射、これは出したものを片っ端から持っていかれたら本格的に手が出せなくなる最終手段。そしてもう一つは────

 

「────刀すら触れない密着状態からの銃撃……是非も無い是非も無い、無さ過ぎて発想がつまらん」

 

充分めちゃくちゃじゃと?抜かせ、この程度でめちゃくちゃならわしが相手にしとるのはなんだと言うのか。

 

突撃ならば既に一度している、銃のなんて代物で刀と斬り結べる腕前……日本刀を持った時の実力は想像したくもない。事前に武器を置いておくことも出来ないから、騎士王にした様に隙を生じさせぬ三千段構えも出来やしない。

 

 

 

……うむ、予定通りにいけばよし、無理ならばまた別の方法を試せばいい。

同じく左に呼び出した銃口を背に向けて、自身の踏み込みに合わせて引き金を引く。

反動による加速によって、黒騎士との距離は一気に縮まるが────思考のプロセスがなく、単純な反射で動く狂戦士は動じない。動きに合わせるように振るわれた刀は、このまま行けば正しくこの身を切払う軌道。だからこそ─────そこに至る前に今度は右の銃に火を入れた。それにより加わる力は重力に逆らうように我が身を空へと打ち上げる。

 

「刀は前方へと振るわせた、この弾丸をどう防ぐ?」

 

手の届かぬ範囲、そして余力を残した数、ほぼ確実に殺れる状況─────ここまで持ってくれば一斉掃射も試す価値がある!

 

「零距離射撃とか戦車でやってろってもんじゃ!!」

 

呼び出した三十の火縄銃が、雨霰のようにただ一つの目標めがけて降り注ぐ。

僅かに反応した騎士の声すら、鋼の雨音が打ち消して、打ちのめしてかき消した。

 

勢いのままに放物線を描いて着地する……しかし気分は良くない。本来ならば「やったか!?」とでも言って主をからかう所だが……相手の存命如何を、今のわしは察してしまうが故に、軽口を叩く余裕はやはり復活させることが出来なかった。

 

「……未だに刀は奪われたまま、右手は塞がっていて、耐久度的に三千世界で弾丸は防げん訳じゃから────やっぱりやられてしまったか」

 

“何を”なんて聞くのは主位だろうが、しかし立ち込める土煙に見逃した……聞き逃した戯けのために、ちゃんと口にしてやるのは優しさだ。決して、自身の中の苛立ちを誤魔化すために口を開くのでは無い

 

「────弾丸を掴むて、お前それはもう技術とかじゃなかろうに」

 

もちろん、片手で三十発もの弾丸を掴めるわけもない。だがわしの不意な軌道変化にも惑わされず、あの刀を振り切っていたとしたならば?大地を割った衝撃が、弾道を歪め、再び弾きの様に干渉しあって“死角”を作ることは可能だろう。だとすればまともに当たりそうな二、三個の弾丸程度、あの宝具とバーサーカーのステータス、頑丈そうな西洋鎧で持って押さえ込むことくらい訳ない。

明らかに着弾よりも早く、地面を撃つ音が聞こえたのだから間違いない。あの黒騎士はその逃げ道を、一瞬で判断して作り出したのだ

 

「卓越したその技術……騎士の中で、それ程の腕を持つものといえば、それこそ彼の騎士王と卓を囲んだものくらいじゃろう」

 

まぁ、今更わかったところでというやつだ、なんの意味も無い。弾丸すら掴むと知れた以上、今度こそ本当に射角(ゼロ)、空間零の一撃を加える以外に勝ちの目は無い。

 

労せる小細工は既にもう無い。出来ることはもうやった……ならば次の衝突こそ、最後になるだろう。一度近づいて、あの騎士が離れることを許すはずがない。だから、どうあっても次の接触の内に決着は付く。

黒騎士の方も、ここまで来て漸く闘争心に火がついたか、意識をこちらへと完全に向けて獣の様に叫びながら鋭い眼光を覗かせている。

 

……本当に、相性の有利不利がはっきりしているのも考えものだ。今回の特異点は楽勝だと、そう高を括っていたがこんな先兵相手に苦戦させられるとは、ままならないものである。

 

「……負けてやらんぞ、黒騎士。貴様のその慟哭は、正当な相手へと向けろ」

「────Arrrrrrthurrrr!!!」

 

やはり、会話が通じないのは味気ない。

そんな気持ちとは裏腹につり上がった頬をそのままに、両手の銃を装填し直し、脚に力を込める。

攻めるのはやはりわし、むしろ勝手に動かれるのも困るので文句は無い。地面を炸裂させながら、上昇したステータスの限りを尽くして突撃する。

不意を打て無い以上、銃撃による加速や牽制に意味は無い。正真正銘掛け値なしの正面突破────ぶつかり合うのが騎士と武将であれば、その構図は必然だ。

先程の再現のように、完全にわしの体を捉えるように振られる刀─────必要なのは三手だ。第一に刀を防ぎ、第二に空いた手を抑え、第三で弾丸を叩き込む。

だが敵の奪取の力を考えれば、用意できる弾丸は両手で使える二手まで……残った一手は別口で用意しなければならない。だから─────

 

「─────これが一手じゃ」

 

腰から垂れ下がる鞘を蹴飛ばし、既に振るわれた刀を覆うように差し込む。

抜き身であれば弾丸は切られるが、ぶつかるのが面であれば、黒騎士がして見せた芸当のように弾丸は跳躍する。

 

「そしてこれが二手ぇ!」

 

ほぼ同時に左で撃ち込んだ弾丸は、鞘に包まれた刀ごと右手を弾き、鋭い角度で空いた左腕を抉っていく。破壊までは至らないが、鎧が捻れたことで動きは大きく制限出来た

騎士の両の手は浮き、こちらは一発を残している──────()った。

 

確信と共に回避すら許さんと銃口を押し付けたところで、その伸ばした腕を下から光が突き抜けた。

 

「まさか────?」

 

視線を下ろせばそこには今の悶着の間に落下したらしき一丁の銃が転がっている。

奪われたのは二十七丁、飛んできた弾丸も確かに二十七発……だがそれがもし、誤魔化された数値だとしたら?一度撃たれた弾丸を、弾き直して一発誤魔化されていたとしたら────宝具とはいえ、構造は火縄銃。発射可能な状態で地面に落とせば暴発もする

 

「────んなアホな!」

「Arrrrthurrrrr!!!」

 

標準がブレ、詰めの一手で計算が狂う。

その隙は────騎士が体勢を立て直すには十分過ぎた。

鞘を刀を振る勢いで吹き飛ばし、そのままにわしを地面へと倒すように刀を突き出す。自然、左肩で地面へと縫い止められるように押さえ込まれたわしの上に騎士は覆いかぶさった。

色気なんてかけらもない。優雅さなんて端からない。その状態で騎士はただ拳を振り上げ、下ろしてくる

バーサーカーの膂力にで繰り出される一撃は、万全のわしですら受け止めきれない。相手がいくら神秘の時代に生きた存在であろうとも、上昇したステータス分ではまだ足りないのだ。

 

「ガッ────!?」

 

────重い。痛いし、吐きそうですらある。

バーサーカーからすれば、今から武器を回収している余裕はなく、満足に動く右腕のみでただわしを殴り倒す以外に出来ることがない。もっとも、それだけでわしは右腕を持ち上げる余裕すら消えるのだから、選択肢として間違えてはいない。

 

 

 

ガッ!

 

 

 

ゴッ!!

 

 

 

 

 

ドゴンッ!!

 

……何度も何度も、上げては下ろされ、その度に幼い体躯は微妙に跳ねながら、少しでも内部への負担を減らそうと骨を軋ませて、皮をすり切らせていく

このまま行けば、間違いなく負けるだろう。後方の連中に遠距離攻撃を持つものがいない以上、擁護は間に合わない─────ここまで追い詰められれば、認めざるを得ないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

─────そう思わされるほどに、敵に追い詰められる。第四手の……否、第三十三手の完成だ

 

 

 

その一撃は、空から降ってくる。拳を振り上げた、黒騎士のその腕の先から真っ直ぐに────ものを投射した際、地球からの引力に引かれる物体は放物線という緩やかな線を描いて落下する。投射角が直角に近づくほど、描く弧は鋭く変化する。それが直上への投射ともなればその軌道はもはや線である。真っ直ぐに上がり、真っ直ぐに落ちる……当然被害は射線上になるわけだ

 

「この状態じゃ……この状態でなければ貴様はまた何かしら対処してしまう」

 

だから、油断してもらった。さっきのわし同様に、止めを指すその瞬間の最大の隙を、ずっと狙っていた。

わしに多い被さるその背中に、次々と落下してきているのは、先程弾丸の雨を降らせた時に反対側へ同数撃ち込んだもの……確かに打つ手はもう無いが、撃っておいた弾ならあった。

眼前の騎士に、最早わしの動きを止める余裕はない。殴られている間も離さなかったその銃を持ち上げ、兜の継ぎ目へ銃口を合わせる

 

「零距離射撃────ほれ、嘘はついておらんぞ?」

「────AAAAaaaaaaaaa!!!」

 

有言実行。渾身の力で引き金を引くと、驚くほど簡単にバーサーカーはその命を散らした。身にまとい、あれほど振りまいていた狂気も今はない。

 

「────th、urrr」

 

消え入る断末魔の声が、ようやくその意志を伝える。アーサー(Arthur)、以前下した古きはブリテンの王……騎士の王。

結局、その者が円卓に並ぶものだったのか、はたまた別の騎士だったのかまではわからない。遺志も意図も、わしに伝えたところで意味はない。

だから、この騎士からすればわしとの会話に意味なんてなかったのだろう。会話なんてしなくて良かったのかもしれない。

 

「……だとしたらわしのこの苦労の意味は何じゃったのかのぅ」

 

鋼の雨もやんで、陰気な靄もようやく消えて。地面に寝転んだままの視界には綺麗な青空が映る。大きな穴と共に、それ以上に大きく広がる空が映る。

 

「まぁ、ちっぽけな悩みとはこのことかのぅ」

 

そもそも空と比べるのが馬鹿らしいのだが。何をもって空と張り合えばいいのやら、考えたやつは確実に馬鹿である

全身を走る痛みから、身体を起こすのも億劫なので結局空を眺める事はやめないのだが……というより主がさっさと回復の魔術を打ってくれん限りやめられないのだが……まぁ、起きて早々向こうのフランス組とやらの戦いに巻き込まれるのもアレなので、しばらくは寝ているとしよう。

後ろから来ている一騎は……盾子に任せればいいだろう。

 

 

 

 

目を閉じた時に感じた風が、どこか清々しく……遠い異国の地にも関わらず、信長は生前の尾張を思い出していた

 




いろいろサーヴァントが溜まってますが、今回はこの人をやらざるを得ないでしょう。
今回信長を追い詰めた黒騎士こと、サー・ランスロット卿です。Fateの顔、アルトリアの仲間と考えたら割と美味しいポジションですが、扱いというか立場はあまり宜しくありません。
というのもこの人、アーサー王伝説ではぶっちゃけ戦犯だからです。型月ではアーサー王が女なため少し複雑ですがなんとこのランスロット卿、アーサー王に使える騎士の癖に王妃のギネヴィアとの恋に落ちてしまいます。また問題なのがアルトリア、彼女も彼女で「女と結婚させられた王妃」に罪悪感があるために二人の逢い引きを見て見ぬ振り……しかし問題なのはやはり周りの目です。いくら当事者3人がそれで納得していても、立場がある以上その関係は許されません……それによりアーサー王の円卓の騎士は決裂し、ランスロットの不義理、モードレッドの反乱に繋がるんですね。
とはいえこの人、スペックだけ見ればすごく優秀。また王様のことを一番考えている描写があるのもこの人(zero以外で)。というのも剣の腕では伝説の中で最強であり、他の騎士を複数相手にしても余裕で切り抜けたり、木の枝でとある騎士を打倒したりとやりたい放題。王の葛藤に気づいていたり、愛に振り回されたとはいえ忠誠心だけは最後まで持ち続けたところなど、他の円卓民のボロボロ具合から見ればなんだこの天使は状態です。
そんな彼ですが、聖杯戦争ではセイバーではなくバーサーカーとして呼ばれます。理由は「王に対する罪悪感を忘れてしまいたい」とかそんなの。正式には王に裁かれずに死んでしまった自分が許せず、しかしどうすることも出来ぬその感情を忘れるために狂戦士になったということですね。生前の卓越した技術から強化してもなお最強クラスの技量を持った戦士として戦えます。その上手にしたあらゆるものをDランク相当の宝具として扱えるようにする、または手にした宝具をランクそのままに自身のものとする宝具。そして姿を変えたり、存在を隠蔽する靄状の宝具を常時発動しています。雰囲気だけでいえばラスボスです。金ピカが居たのでそうでもない感じになりましたが……えぇ、逆に金ピカのせいでお前らの戦いだけなんか俺らの知ってる聖杯戦争じゃねぇ状態になりました。ゲームの宝具はその名残です。
ちなみに上の二つを封印すると「無毀なる湖光」なる魔剣が使えるようになりますが、効果がいまいちわかりづらいのと、ビームが出ないことからバカにされてます。でもすごいですよ。身体能力も上がり、回避力とかに補正がつき、龍殺しの因子も含む……全然わからないですか?じゃあ簡単に言いましょう、ヘラクレスのステータスを持った佐々木小次郎がバルムンクを振り回している……そんな感じです。
アルトリア似た魂の輝きを持つ人間を見ると、アルトリアと勘違いして襲いかかります。これは理性を失ったことと、苦しみの原因がアーサー王にあったことに由来しての八つ当たりですが、本心はあくまでも自分の断罪ですのでお間違えなく。
ちなみに午前中3倍界王拳の人の攻撃を時間切れまで耐えきって一撃加えるほどの腕前らしいですが、どんな状況だったかは不明。ランスロットさんの強さは本当によくわからないんですよね……個人的にはすごい強いと思うので信長はボコボコになりました。相性が良かったら信長の弾丸止められなくて逆にやっぱり瞬殺されますけどね。
それではまた次回。年明ける気がしますけどね!では!

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