Fate/Zero ~Heavens Feel~   作:朽木青葉

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開幕

「――問おう、あんたが俺のマスターか?」

 

 敵意を隠そうともせず、少年はそう綺礼へ問いかける。その隣で時臣が息をのんだ。

 

「こんな少年が……サーヴァント……だと?」 

 

 時臣は愕然とした表情を浮かべていたが、無理もない。

 何故なら、召喚に応じたのはまだ10代ほどの少年で、身に着けている衣服も現代の人間の見知ったTシャツにジーパン姿だったからだ。

 英霊とは、歴史的な伝承に名を残す超人、偉人たちの伝説。彼らが死後、人間というカテゴリーから除外され、精霊の域にまで昇格したものをいう。神秘の薄い現代では、人間が英霊の域にまで到達するのはほぼ不可能とされている。そのため、必然的に召喚に応じるサーヴァントも過去の偉人たちに絞られる。

 しかし、目の前にいる少年の身なりは、どこからどう見ても現代のそれだ。もしも彼が本当にサーヴァントで、その衣服が生前のものなら、彼は現代に近い時代から呼ばれた英霊ということになる。

 

「ああ、お前を呼んだのは私だ。――確認するが、アサシンのサーヴァントで相違ないな?」

 

 師の疑問を感じ取り、綺礼は目の前のサーヴァントを警戒しつつも、答えながら問いを投げかける。

 

「ああ。サーヴァントアサシン、召喚に応じ参上した――といっても、別に俺は暗殺者なわけじゃない。かなり半端なアサシンだけどな」

 

 と、少年、アサシンは自嘲気味に笑う。

 

「何――半端なアサシンだと?」

 

 言われてすぐ、綺礼はアサシンのステータスを確認する。その内容を見て、彼はあからさまに苦虫を噛み潰した。

 アサシンのステータスは軒並みC以下。Bに届くものは1つもなく、クラススキルの気配遮断はDしかない。これでは一対一での戦闘はおろか、隠密行動さえ期待できない。さらに、何故かサーヴァント戦の要である宝具のランクも不明となっていた。

 ――失敗だ。これではハサンの方がまだましだった。

 時臣も同じことを思っているらしく、綺礼の横で悔しそうに顔を歪めている。

 しかし、一度召喚してしまった以上、このサーヴァントと共に聖杯戦争を駆け抜けるしかない。

 いまだアサシンを見ると意味もなく気分が悪くなるが、綺礼は気持ちを切り替え、目の前のサーヴァントに問いかける。

 

「して、お前は何の英霊だ」

 

「それは……」

 

 と、ここで初めて、アサシンが困惑した様に言いよどむ。

 そして、

 

「……秘密だ」

 

 そう顔を背け、不機嫌そうに口を尖らした。

 アサシンの不審な様子に綺礼も眉を顰める。

 

「悪いけど、俺がどんな英霊なのかは答えられない」

 

「ほう。己のマスターに自身の正体を明かせないと言うのか」

 

 正体のわからぬ不信感から確かな敵意を持って、綺礼は自身のサーヴァントを睨みつける。

 

「ああ。何故なら――」

 

 睨まれたアサシンは弱ったように口を開き、

 

「――俺にも分からない」

 

 そう答え、やれやれ、と肩をすくめた。

 アサシンの回答に、綺礼は頭が痛くなる思いだった。隣の時臣も呆気に取られ、口を開けている。

 

「……私を馬鹿にしているのか?」

 

 怒りを懸命に押し殺し、綺礼はアサシンに問いただす。

 綺礼が一個人にこれほどの怒りを覚えるのは生まれて初めてだった。何故だかはわからないが、アサシンの言葉1つ1つが綺礼の心を逆なでる。

 一方的に攻められ、アサシンはムッと額にしわを寄せながら口を開いた。  

 

「いや、あんたを馬鹿にしているつもりはない。本当にわからないんだ。自分の名前も素性さえも――ただ、これにはあんたにも責任がある」

 

「私に?」

 

「ああ。たぶん、この不完全な召喚のツケだろう。誰かさんが乱暴な召喚をするから、記憶が混乱してるんだ」

 

「むっ」

 

 それは確かにありそうなことだった。綺礼も怒りの矛先を失い、顔を歪める。

 しかし、アサシンへと不信感が消えたわけではない。それはあちらも同様らしく、両者は静かににらみ合い、火花を散らせる。

 そんな2人の不毛な争うに終止符を打ったのは――意外なことに時臣だった。

 

「――よさないか2人とも。君らしくもない。気を張るのもわかるが、常に余裕を持つことも大切だ」

 

 ため息を吐きながら、己の弟子をたしなめる時臣。綺礼も我に返り、師へ向けて一礼する。

 

「……申し訳ありません、師よ。感謝します」

 

「気にすることはない。――アサシンもだ。己が主への口の利き方には気を付けたまえ」

 

「……そうだな。悪い、マスター」

 

 アサシンも綺礼に頭を下げ、自分の状況を説明する。

 

「混乱しているとはいえ、聖杯戦争の知識はあるから安心してくれ。戦闘も問題ない」

 

「……よかろう」

 

 その説明に満足したわけではないがとりあえず納得し、綺礼は頷く。

 そして、ここでアサシンが何かに気づいたのか、あっ、と声をあげ、綺礼へ問いかけた。

 

「――そういえば。俺、あんたの名前を聞いてない」

 

 確かに、召喚のごたごたでまだ名乗っていなかった綺礼。仕方なく、仏頂面で答える。

 

「……私は言峰綺礼だ」

 

 その瞬間、アサシンの表情が変わる。

 

「言峰……?」

 

 綺礼の名を聞いた途端、アサシンは眉にしわを寄せ、額に手をあて考え込んだ。

 

「待ってくれ……あんた、本当に言峰か?」

 

 鬼気迫るアサシンの様子に混乱しながらも、綺礼は問いに答える。

 

「そうだ。厳密には、この聖杯戦争を管理する私の父も言峰だが。言峰綺礼はまぎれもなく私だ」

 

「言峰……そうか……」

 

 しばらくそうして俯き、考え事をするように額に手を当てた後、何かを納得したようにアサシンは顔を上げた。

 続いて、時臣の方へ問いかける。

 

「隣のあんたは?」

 

「私は遠坂時臣だ。この冬木の地の管理を任されている」

 

「遠坂……なるほど」

 

 神妙な面持ちで顎に手を当てるアサシン。

 そんなサーヴァントの様子に、綺礼は眉をひそめる。

 

「何か思い――」

 

 と、綺礼は尋ねようとしたその時、突然部屋の中が黄金の輝きに照らされ、口を閉ざす。

 光源を確かめる必要さえなかった。薄闇を払うこの輝きを放つ者など、人類史において1人しか存在しないだろう。

 綺礼と時臣は、黙ってそのサーヴァントの方へ向き直る。 

 

「――ほう。随分と面白い者がいるではないか」

 

 黄金の輝きの主は霊体化を解き、部屋の中央に実体化しながら呟いた。

 磨き抜かれた黄金の鎧を身に纏い、燃え立つ炎のように逆立った金髪の青年。見つめられた者すべてを委縮させる神秘の輝きを放つ彼こそ、時臣のサーヴァント、アーチャー。人類最古の王、『英雄王』ギルガメッシュだった。

 

「これが新たに召喚された雑種か。時臣?」

 

 アーチャーのその問いに、時臣は恭しく一礼した。

 

「はい。その通りでございます。王の中の王よ」

 

「ふん。また随分と半端者を引き当てたな」

 

 アーチャーは吐き捨て、ゴミ虫でも見下すかのような視線をアサシンへ向ける。

 アサシンはその視線に対し、不愉快そうに顔を歪め、

 

「――あんたは?」

 

 と、アサシンが憮然とした態度で口を開いた。

 途端、綺礼は黙って眉をひそめ、時臣の顔から血の気が失せる。

 そのあまりにも無礼な態度に、アーチャーは顔色一つ変えず、

 

「――口の利き方に気をつけろよ、雑種」

 

 と、問答無用でアサシンを攻撃した。

 直後、部屋は爆音と粉じんに包まれ、壁には攻撃の跡らしき穴が開く。

 一瞬の出来事だった。

 その圧倒的破壊力に、当然ステータスの低いアサシンはなす術もなく、瞬殺――されていなかった。

 

「ほう」

 

 土煙の中堂々と立ち、アーチャーを睨むアサシンに、ギルガメッシュは感心したように息をのむ。

 

「運だけはいいようだな。――だが、次は外さん」

 

 何が起きたのかわからず、目を白黒させるマスターたちは無視し、次なる攻撃の用意をするアーチャー。

 アーチャーが腕を軽く上げた瞬間彼の背後の空間が歪み、空中から忽然と剣や槍が現れる。その数は3。その1つ1つが宝具であり、必殺の威力がある。

 その必殺の一撃が3つ同時に放たれた。

 この猛攻を凌げる英霊は稀だろう。

 しかし、アサシンは臆さず、矢のように迫る宝具をまっすぐ見据え、小さく呟いた。

 

「――投影(トレース)開始(オン)

 

 瞬間、空拳だったアサシンの手に、黒と白の双剣が出現する。

 アサシンはその双剣を持ってして、迫りくる3つの宝具をことごとく叩き伏せて見せた。

 同時に部屋を爆音が襲うが、破壊の嵐の中アサシンは無傷でアーチャーの猛攻を凌ぐ。

 

「――貴様、贋作者か」

 

 凌がれたアーチャーは、アサシンの握る双剣を睨み怒りを露わにする。

 

「贋作者の分際で、俺の財を真似ようなどと――身の程をわきまえよ!」

 

 アーチャーの怒声を合図に、再び空中から無数の宝具が顔を覗かせる。その数は次第に増し、先ほどの2倍、3倍、ととどまることを知らない。

 圧倒的量の宝具を前にし、アサシンは――臆すことなく、品定めでもするかのようにゆっくりと無数の宝具を眺め、そして――

 

「――工程完了。全投影、待機」

 

 アサシン呟くと同時に、アーチャーの顔色が変わる。

 両者を見ていた綺礼と時臣もその光景に息をのんだ。

 何故なら――アーチャーの背後にある宝具と、まったく同じ数、形の宝具がアサシンの背後にも表れたからである。

 アーチャーは苛立った様子で、自身の宝具の名を叫ぶ。

 

「我の財を舐めるなよ! ――『王の財宝(ゲートオブバビロン)』」

 

 対するアサシンも、迫りくる宝具の雨を見つめ、淡々と呟く。

 

「――停止解凍、全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)

 

 その掛け声を合図にアサシンの宝具も射出される。

 ぶつかり合う幾重もの宝具たち。

 

 ――こうして、マスターたちさえ予期していなかった、聖杯戦争第一戦目が幕を開けた。




 アクセル全開のギル様。
 チームの中が悪すぎて時臣の胃痛がマッハ。ファイトだ時臣!

 はい、そんなわけで開戦しました第2話目です。
 いろいろあってアサシンのステータスがかなりボロボロなことに……。
 仕方がないね、士郎だもん。

 拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます。
 未熟者ながら精一杯精進いたしますので、どうかよろしくお願いします。

以下アサシンステータス

 アサシン(英霊士郎)
 筋力D 耐久C 俊敏C 魔力C 幸運D 宝具??
クラススキル
 気配遮断D
保有スキル
 千里眼C 心眼(真)B 魔術D

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