Fate/Zero ~Heavens Feel~   作:朽木青葉

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宿敵 後編

 アインツベルン城の大広間にて対立する綺礼と切嗣。

 お互い軽く数手交えた後、浮かび上がった疑念を晴らすべく、綺礼は切嗣へと突っ込んだ。

 綺礼と切嗣の間は約20メートル。ただ走って近づくにはあまりに遠すぎる間合いだ。

 しかし――構うものか。

 まっすぐに駆ける綺礼へ、切嗣は冷静に銃口を向け、短機関銃を放った。

 それに対して綺礼は――回避せず、ただ黒鍵で顔を覆うのみで防ぐ。

 

「――っ!」

 

 捨て身ともいえる特攻に、切嗣は驚いたように目を見開いた。

 黒鍵に加え、僧衣も防弾仕様とはいえ、銃弾の衝撃は相当なものだ。

 だが、綺礼は衝撃などものともせず、切嗣目指し直進する。その勢いは全く衰えない。

 それを見て、機関銃は効果がないと判断したのだろう。切嗣はその銃を捨て、腰のもう1丁を引き抜き構える。

 そんな切嗣を眺め、綺礼もまた走りながら思考を巡らせる。

 ――銃弾が防がれたのを見て新たな銃を引き抜いたということは、そちらの銃は黒鍵と僧衣に対し有効であると判断したということだ。ならば、次に放たれる銃弾は黒鍵と僧衣を貫くほどの威力があるだろう。

 しかし――構うものか。

 次の攻撃は防げない。そう悟ってなお綺礼は直進する。

 あと切嗣まで10メートル。この距離ならば、綺礼は2歩で詰められる。

 そして、切嗣の拳銃が火を噴いた。

 綺礼の回避は間に合わない――元より回避するつもりもない。

 更に1歩踏み込んで、迫りくる凶弾に対し綺礼は受けて立つように左手の黒鍵をぶつける。

 渾身の力を込めた1撃。しかし、なおも銃弾は止まらない。

 ――だが、それは綺礼も分かってた。

 綺礼は続けて、間髪入れずに銃弾へ――己の右腕を振りかざす。

 弾丸と衝突し、軋みを上げる右腕。そこから更に腕を捻り、クンフーの相手の拳を受け流す技を応用し、銃弾を体の中心から逸らした。

 銃弾は綺礼の拳から入り、方向を曲げられ、体内を通って肘の先から後方へ抜ける。

 これで片腕が使えなくなった。しかし――構うものか。

 こうして最後の1歩。

 銃弾をその身に受けながらも綺礼は――切嗣の目の前までたどり着いた。

 

「――っ!」

 

 クンフーの使い手に接近を許し、戦慄する切嗣。

 拳銃を放ったばかりの切嗣に、綺礼の拳を防ぐ手立てはない。勝負ありだ。

 しかし――構うものか。

 綺礼は目の前の宿敵を無視し、更に後方へと駆け抜ける。

 

「なっ……」

 

 死を覚悟していたのか。切嗣はしばらく呆けた後、

 

「――っ! アイリ!」

 

 綺礼の思惑に感づき、そう叫びながら、追い抜いて行った宿敵の背中を追う。

 

 ――だがそのわずかなロスが、この男の前では致命的だった。

 切嗣を突破した綺礼は、尋常ではないスピードで城内を駆ける。

 城内の間取りは不明。そもそも、本当に切嗣が頑なに守ろうとした何かがある保証はどこにもない。

 ――しかし、綺礼はこの賭けに勝利した。

 

「――むっ」

 

 思わぬ方向から狙撃され、綺礼は身をかがめ眉をひそめる。

 銃弾が飛んできたのは進行方向。未だ後方にいるはずの切嗣からの攻撃ではない。

 ならば――いるのだ。城内に第3者が。切嗣が気にかけた何者かが。

 だが、自分の予想が当たったというのに、綺礼の表情は暗い。

 その苛立ちを向けるように、銃撃のあった方法へ走る。

 廊下の角を曲がるとそこには、黒髪の女がいた。

 切嗣と同じ機関銃を構え放つ女に対し、綺礼は特に何もせず突っ込み、僧衣のみでその銃撃を防いだ

 

「――なっ!」

 

 まさか直撃を受け、なお前進されるとは思わなかったのだろう。驚愕の表情を浮かべる黒髪の女。

 そんな女へ、綺礼は容赦なく無事な方の左拳を振りかざした。

 

「ガッ――」

 

 と、悲鳴を上げ、黒髪の女はあっけなく後方へ吹っ飛ぶ。

 その時、無残に廊下を転がりながら女は、ある部屋のドアを目で追った。

 

「なるほど、そこか」

 

「――っ!」

 

 自分の失態に気づいた黒髪の女は這いながら綺礼の行く手を阻もうとするが、構わずその部屋のドアを開ける。

 そこには――銀髪の女がいた。

 

「――何?」

 

 予想外な人物に綺礼は眉をひそめる。

 この女は知っている。先日港にいたアインツベルンのホムンクルスだ。

 その銀髪の女は現在、苦しそうに口元を抑えながら床に突っ伏している。何があったかは知らないが、すでに満身創痍だ。

 銀髪の女の様子、さらにそんな彼女を必死に守ろうとした黒髪の女の行動を見て、綺礼は唇を噛みしめる。

 まさか――まさかこんなものが――衛宮切嗣の気にかけていたものだとでもいうかっ!

 確証はない。だが、どちらにせよ、言峰綺礼のやるべきことは1つだ。

 苦しそうに突っ伏す銀髪の女の首を掴み、引き上げる。

 その時、丁度よく切嗣が駆けつけてきた。

 その光景を見て、切嗣は息をのみ、綺礼へ叫ぶ。

 

「何をしている! アイリたちを離せ!」

 

「アイリ? ああ、この女のことか」

 

 そう呟き、不愉快に感じながらも手元のアイリを見る綺礼。

 

「この女がどうしたというのだ?」

 

 綺礼は険しい表情の切嗣へ向け、問いかける。

 待ち望んでいた、同胞への問いかけ――そのはずだった。

 しかし、尋ねるまでもなく、切嗣の表情を見て、綺礼は気づいた。気づいてしまった。

 だが――ありえない。いや、あってはならない。

 認められず、綺礼は心の中で自分の推測を必死に否定する。

 ――衛宮切嗣はもっと非道な人間のはずだ。彼を愛する者も、彼が愛する者もいてはならない。

 綺礼は切嗣に、この女など気にせず、女諸共自分へ向け発砲して欲しかった。

 だが、

 

「……何が目的だ」

 

 切嗣はそう、人質を取った綺礼へ容易に歩み寄る。

 それが綺礼をさらに苛立出せた。乱暴な口調で、綺礼は尋ねる。

 

「私の望みはたった1つだ。貴様は何のためにこの戦いに臨んでいる?」

 

「……? そんなことを尋ねて何の――」

 

「――御託はいい! 貴様の望みは何だ! 答えろ!」

 

 焦れる切嗣へ、綺礼は叫ぶ。

 ――望みなどない。

 そう答えてほしかった。

 しかし、

 

「――恒久的、世界平和」

 

 少しの間の後、切嗣は意外なほどあっさりと、そう答えた。

 

「ぼくはそのために戦っている」

 

 真顔で答える切嗣。

 もちろんそんな戯言、到底信じられるはずもない。

 

「はっはっはっ、面白い冗談だ――本当のことを言え!」

 

 再度問う綺礼。

 しかし、衛宮切嗣は答えない。

 

「まさか……事実なのか?」

 

 それでも信じられず再度尋ねるが、返ってくるのは沈黙のみ。

 だが、その沈黙が言葉よりも雄弁にすべてを物語っている。

 ――ならば、綺礼にとって、最早戦いなどどうでも良かった。手に持っていたアイリの首を離し、さらに叫ぶ。

 

「ふざけるな! そんなもの子供の戯言だ! ――まさか貴様! その戯言のためにこれまでの人生を――あの途方もない徒労を己に課していたとでも言うのか!」

 

「……ああ、その通りだ」

 

 切嗣は悲し気な表情を浮かべ答える。

 同胞だと思っていた男は、綺礼が生涯を賭け探した悲願を、至福を、初めから持ち合わせていたにも関わらず、愚かにも切って捨てたのだと。結末は同じでも、衛宮切嗣と言峰綺礼は、相容れぬ真逆の人間なのだと。

 あまりの事実に呆然と立ち尽くす綺礼。

 その間に黒髪の女が足元で苦しそうにせき込むアイリへ歩み寄り、2人で部屋から離れていった。――しかし、そんなことはどうでもいい。

 綺礼は壊れたように笑いながら、目の前の切嗣を睨む。

 

「そうか……なら―――貴様はここで死ね!」

 

 叫び、残った片腕で素早く黒鍵を取り出し、放つ。

 切嗣もそれを予期していたのだろう。

 

Time alter(固有時制御)――double accel(2倍速)!」

 

 呪文を唱え、倍速となり躱す。

 だが、避ける切嗣へ――綺礼は更に踏み込んだ。

 

「何っ!」

 

それを見た切嗣が驚愕の表情を浮かべ、叫ぶ。

 相手が倍速で動くというのなら――それすらも凌駕した速度でこちらも動けばいい。常人の5歩を1歩で詰める異常な歩法で瞬く間に綺礼は間合いを詰めた。

 そして、綺礼の拳が切嗣へ刺さる。

 切嗣はその拳を寸前のところで手に持っていた機関銃でガードした。しかし、勢いまでは殺せず、そのまま後方へ吹っ飛び、廊下の窓から中庭へ落下する。

 間髪入れずに綺礼もその後を追い、壊れた窓から中庭へ飛び降りる。

 そのとき――思わぬ角度からの強襲が綺礼を襲った。

 ――手榴弾だ。切嗣が落ちていった窓の枠に引っ掛けられていたのである。

 

「――ぬっ!」

 

 驚きながらも、綺礼は爆破の寸前でそれを避け、中庭に着地する。

 そこへナイフを構えた切嗣が突っ込んできた。

 飛びのいたばかりで無防備な綺礼。避けることは不可能だ。仕方なく、ナイフの切っ先へ先ほど銃弾で壊滅した右腕を振り、自ら突き刺す。

 

「――ぐうっ!」

 

 ただでさえ重症だった腕にナイフが刺さり、綺礼は思わず悲鳴を上げる。

 しかし、これで切嗣のナイフは腕に深く刺さり、抜けなくなった。

 捨て身の強襲を防がれた切嗣は悔しそうに顔を歪めながら後退する。

 再度、10メートルほどの間隔を空けて対面する両者。

 ――綺礼は重症だ。このまま戦闘を続ければ腕が完全に壊死し、回復魔術でさえ再起不能になるだろう。

 ――また切嗣も追い詰められている。無傷ではあるものの、短機関銃、手榴弾、ナイフ、と立て続けに武装をなくし、残されたのは己が魔術礼装である拳銃のみ。

 お互いに追い詰められた状況で、綺礼は己の枷が完全に外れ、邪悪な笑みを浮かべる。

 

「そうだ! 私と貴様の戦いは雌雄を賭したものでなくてはならない!」

 

 叫びながら、綺礼は黒鍵を構えた。

 最早、聖杯戦争など知ったことか――この者を殺せれば、それでいい。

 衛宮切嗣の在り方を、言峰綺礼は認めない。絶対に。刺し違えてでもこの者を殺す。

 憤怒にその身を焦がし、宿敵へ叫ぶ。

 さあ、

 

「――命を賭けろ! でなければ、この身には届かぬぞ!」

 

 黒鍵を放ち、同時に跳躍した。最後の拳銃を構える切嗣へまっすぐと。

 黒鍵は切嗣を囲うように投擲した。切嗣は左右に逃げられない。

 そして、正面には綺礼。

 銃弾を放てば、同時に黒鍵が突き刺さる。

 銃弾を放たなければ、綺礼の拳が懐に届く。

 殺った――双方が共に確信する。

 殺られた――双方が同時に理解する。

 共に必殺を確約された拳と銃身とが――。

 

 

「――さあ、決着をつけよう」

 

 解放された聖剣を前に、アサシンは愕然とする。

 あの聖剣にアサシンは――この腕の英霊は――絶対に敵わない。

 あれは彼らの知る限り、最強の剣だ。

 ――しかし、諦めるわけにはいかない。ここで死ぬなんて許されない。

 今のアサシンには絶対に敵わない――ならば、超えればいい、今この場で。目の前の敵を。過去の――未来の――自分を。

 元より、アサシンに――衛宮士郎に――できることなど1つしかない

 

「――投影(トレース)開始(オン)

 

 この身に許されたたった1つの呪文を唱え、アサシンは目の前の聖剣を睨む。

 立ちはだかるは最強の聖剣。

 ならば――その聖剣を一寸違わず複製して見せよう。

 しかし、

 

「ぎ――くう、う、あああ、あ――」

 

 構造を解明しようと試み、理解した。

 自分では理解できないと理解した。

 

 ――基本骨子、不明。

 ――構成材質、不明。

 

 弾かれる。

 弾かれるわけにはいかない。

 届かない。

 届かないなどゆるされない。

 手を伸ばす。

 手を伸ばす。

 手を伸ばす。

 焼き切れる眼球、焼き切れた脳神経のまま、伸ばして、伸ばして、伸ばして、伸ばして――――――

 届け――

 届け――――

 届け――――――

 届け―――――――――――――――――――――――。

 

 ――そして、いかな奇跡か、ここに幻想は結ばれ剣と成す。

 

「――なっ!」

 

 アサシンの手に表れた剣を見て、セイバーは驚愕の表情を浮かべた。

 無理もない。彼の手には、セイバーの聖剣に瓜二つの剣が握られていたのだから。

 だが――

 創造の理念を鑑定し、

 基本となる骨子はでっち上げ、

 構成された材質は憶測、

 制作に及ぶ技術は到底模倣できず、

 成長に至る経験に共感したものの、

 蓄積された年月までは再現できなかった。

 あらゆる工程を凌駕し尽くし――できたのは張りぼての偽物だ。セイバーの聖剣には遠く及ばぬ劣化品。

 だが、その剣もまた、紛れもなくエクスカリバーだった。

 

 そして、2騎はお互いの聖剣を天へ掲げる。

 

 星の光を束ね、セイバーが真名を開放した。

 

約束された(エクス)――」

 

 己が生み出しだ贋作を信じ、アサシンも叫ぶ。

 

「――永久に遥か(エクスカリバー)

 

 光り輝く二振りの聖剣。

 そして、今まさに2振りの聖剣が振り下ろされようとした――その時、

 

「――両者、剣を納めよ!」

 

 ――2騎の間を戦車が駆け抜けた。

 

「――なっ!」

 

「えっ――!」

 

 思わぬ乱入者に、2人は思わず同時に構えを解いた。

 唖然とする2人へ乱入者――ライダーは笑いかける。

 

「ようセイバー、久方ぶりよのう。アサシンは昼以来か」

 

 呑気にあいさつをするライダーを見て、セイバーは鬼の形相で詰め寄り叫ぶ。

 

「ライダー、また貴様か! 貴様は騎士の果し合いを何だと――」

 

「そう怒るなセイバー。アサシンも。先の競い合い、まことに見事であったぞ」

 

 ライダーは2人へそう笑って言う。

 しかし、2度にも渡り果し合いを邪魔されたセイバーがそんなことで引き下がるわけもなく、今度こそ仕留めようと剣を構えようとしたその時、ライダーが突然笑みを消し、真剣な面持ちで口を開く。

 

「だがな――そんな場合でもなくなったらしいぞ」

 

「何?」

 

 首を傾げるセイバーに、ライダーは黙って城の方を顎で示す。

 そこでようやくアサシンはあることに気づいた。

 

「――っ! しまった! 爺さん!」

 

 叫びながら、アサシンは2人に背を向け、城の方へ駆ける。

 

「貴方まで……待て、アサシン!」

 

 決闘をすっぽかされたセイバーもそう言って、慌ててアサシンの後を追う。

 2人に置いて行かれてしまったライダーは呆れたように肩をすくめ、

 

「やれやれ、世話の焼ける奴らよのう」

 

 と、まんざらでもなさそうな様子で2人の後をゆっくり追った。

 

 

 ――そしてアインツベルン城。

 綺礼と切嗣――拳と銃身とが交わる瞬間、

 ――2人の目の前に剣の雨が降り注いだ。

 

「「――っ!」」

 

 突然の襲撃に2人は同時に立ち止まる。

 こんなことをする者を、綺礼の知る限り1人しかいない。

 果し合いの邪魔をされた怒りをぶつけるように綺礼は叫ぶ。

 

「――アーチャーっ!」

 

「フハハ。そう怒るな、綺礼。――少し見ぬ間に、随分とらしい顔をするようになったではないか」

 

 と、綺礼の呼びかけに特に悪びれる様子も見せず、むしろそんな楽しそうな高笑いを浮かべ、アーチャーは姿を現した。

 

「貴様っ! サーヴァントの分際で私の戦いを邪魔するつもりか!」

 

 激怒する綺礼。しかし、対するアーチャーは彼の予想とは反し、つまらなそうに答えた。

 

「フン。貴様らがいくら殺し合おうが我は知らん。存分に暴れるが良い」

 

「ならば――」

 

「だがな、今回は別だ。――甚だ不本意だが、臣下の誠意には答えねばならんのでな」

 

「何? それは――」

 

 アーチャーの意外な一言に、そう綺礼が首を傾げたその時、

 

「――仲裁。感謝いたします、王よ」

 

 と、その人物はゆっくりと姿を現した。

 思わぬ人物の登場に、綺礼は今度こそ怒りを忘れ、目を見開く。

 驚く綺礼を見て、その人物は優雅な微笑みを浮かべ、こう言った。

 

「やれやれ、激昂し我を忘れるとは君らしくもない。君にも教えただろう――常に余裕を持って優雅たれ――それが我らの信条だ」

 

 そう愛弟子へ諭すように言う時臣の姿を見て、綺礼はようやく我に返り、頭を垂れる。

 

「――っ、申し訳ありません、我が師よ。この償いは――」

 

「――何、気にすることはない。君のことだ。我々が有利になることを期しての行動だったのだろうと理解している。事前に相談してくれなかったのは遺憾だがね」

 

 本来なら破門されても仕方のない失態だ。その寛大な時臣の処置に綺礼はさらに自分を戒め、深く頭を下げる。

 

「……ありがとうございます。しかし、このような場所に師自らお越しとは」

 

「ああ、少々不測の事態が起きてね」

 

「不測の事態……ですか?」

 

 ここは敵の本拠地。そんな場所へ当主自ら足を踏み入れるほどの事態に心当たりがなく、綺礼は首を傾げる。

 ――しかし、事態はこれで終わらなかった。

 

「――その通りだ、綺礼」

 

 と、時臣の言葉に割って入り、更にもう1人の人物が姿を現した。

 その人物を見て、綺礼は思わず声を上げる。

 

「父上!」

 

 その驚きは、切嗣も同じだったようだ。拳銃を仕舞い、神妙な面持ちで尋ねる。

 

「聖杯戦争の監督役までお越しとは……よほど重要な事案のようだ」

 

 警戒しつつも臨戦態勢を解く切嗣へ、璃正は笑みを称えながら言う。

 

「その通りだ、アインツベルンの番犬よ。そのことで君たちアインツベルンも交え、1度話し合いの席を持ちたい」

 

「というと?」

 

 疑わしそうな眼差しを向け問う切嗣に対し、璃正は柔らかな表情のまま、しかし厳粛な態度で口を開く。

 

「今朝、教会へ匿名の投稿があった。曰く――」

 

 と、神父は聖杯戦争の根幹に関わる、その内容を口にする。

 

「冬木の聖杯は――汚染されている」

 

 驚愕の内容に綺礼は言葉を失い、

 切嗣は呆然自失となり、

 時臣は悲痛な面持で俯く。

 告白した神父でさえ暗い表情を浮かべる中、

 アーチャーだけが、口角を吊り上げ笑っていた。

 

 

 ――こうして運命は回り、舞台は反転した。

 ――これより、聖杯戦争は次の局面を迎える。




 ――第1部完。
 序章は終わった。
 さあ、Heaven's Feelを始めよう(始まらない)。

 ということで、アインツベルン城編完結です。
 はじめは1話構成だったのですが、あれよあれよと増え、前後編に分かれることに……。

 ――そして宴が始まる。

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