「いでで…あー。じゃあお前も、気が付いたら夕張がいたってわけか?」
とりあえず酒を飲みながら、俺は統治へと聞く。てっきりうちの蒼龍―いや、うちの鎮守府だけが、そういう特殊な立ち位置になってしまったと思っていたのだが…。
ちなみに当然。俺は人間シャチホコの刑に処された。そのせいで背中がギリギリと締め付けられるように痛い。
人間シャチホコの刑は、わかりやすく簡単に言うと、二人版キャメルクラッチだ。背中から双子二人が上半身と下半身を逸らせるという恐ろしい技で、中学時代はよく統治がその刑に処されていた。なぜかは知らん。今回は久々に俺がやられたが、蒼龍があわあわとしつつ、必死に止めようとしてくれた。もし止められず継続されていたら、俺はブロッケン○ンのようになっていたかもしれない。とは言うが、赤い雨はできないです。ベルリンの。それはジュニアだったか?
「まあね。いわく、会いたくて意味わからん装置を作ったところ、来れちゃったらしい。さすがは夕張だと思ったよ」
それで納得できたのお前?順応力高いっすね。しかし、まあ明石と同じようなこと言ってるな。どうやら統治の場合、夕張が会いたくて自作したみたいだけど。いやぁ、技術屋って恐ろしいわ。てか、それで片づけられるのか?
「で、いつ頃来たんだ?俺は確か、三週間前だったけど」
今思えば、蒼龍が来てもうそれなりに経っているな。思い返せばいろいろと大変だったが、すでに思い出の一ページになり始めている。とは言うもの、まだまだ思い出は始まったばかりだが。
「マジで?俺はおととい。ひょっとすると俺らだけじゃないのかもしれねぇ」
「その可能性はあるな。俺らだけが特別じゃあないとは思う」
正直先にも言っているように、俺だけが特別だと思っていた。しかし統治にも夕張が来たとなると、やはり特別というわけではなさそうだ。俺ら以外が特別じゃないのは、おかしいと思う。
しかしその場合、提督にはそれぞれのカッコカリした艦が現実世界に来ているということか?いや、そうだったら今頃SNSで大騒ぎになってるに決まっている。それが瞬く間に広がって、それこそ世界大戦規模にまで発展してしまうかもしれない。だが現状そうなっていないのは、意味が分からない。
「あのぉ…」
俺と統治の会話が弾む中。蒼龍が申し訳なさそうに割り込んできた。隣には、夕張も居る。
「私たちも、お酒飲んでいいですか?あの人たちがあれだけ楽しそうに飲んでると…」
先ほどからゲスな笑い声が聞こえてくる。おそらく奴らは次の処刑方法を話しているのだろう。奴らはあくまでも優しいが、そういうえげつない話題にはとても興が乗る。恐ろしい。
「俺はまあいいと思うよ。蒼龍はワインが好きなんだよね?」
以前の某イタリア料理のファミレスでワインについて興味を示していたしね。おそらく、蒼龍は洋酒が好きなんだろう。そこは俺と合わないかな。
「おお?蒼龍はワインがすきなのかァ?」
すると、すでに顔が真っ赤になった健次が、蒼龍に言い寄ってきた。おい、さすがにお前らでも、蒼龍に手を出したら許さんぞ。
「は、はいぃ…。ワインが…好きですね」
びくびくしつつ、蒼龍は愛想笑いを作る。しかしそんなことなど気にもせず、健次は腕を組みガハハと豪快な笑いを漏らした。
「ダッハハハ!そうかえそうかえ!じゃあとびっきりのワインをあけてやろうじゃあねぇか!なあ兄者!」
声をかけられた浩壱も、「おうおう!」と豪快に笑う。こいつらは毎回酒が入ると笑いが止まらなくなるんだよね。つられて俺らも、笑ってしまうんだけども。
健次はいったん和室を出ていくと、数分後に酒瓶を手に持ち、戻ってきた。透明な瓶の中には赤ワインとは少し違う、液体が入っている。
「これはよぉ。いちぢくでできたワインだ。とっておきだから今度のさくらまつりまで取っておこうとおもったが、新しい仲間を迎えるためにあけてやらぁ!」
いちぢくで作られたワインか、珍しい。まあ何とも甘くて甘くうまそうだな。地元の特産物の一つにいちぢくがあるし、特産物を生かして売り出そうと考える酒もあるんだな。
「わあ!おいしそうです!早速飲んでもいいですか?」
蒼龍は目を輝かせて、いちぢくワインの釘付けになる。本当にワインが好きなんだな君。俺は悪酔いしちゃうんだよねぇ。日本酒は全然のめるんだけども。
「かまうこたぁねぇ!どんどんのめのめ!おら、そこの控えめなねぇちゃんもよぉ!」
控えめなねぇちゃん?…ああ、控えめってそういうことか。確かに蒼龍と並ぶと一目瞭然だね。統治もその言葉に感づいて、くくくと抑えつつ笑ってやがるし。
「なぁ!?それセクラハですよ!訴えてやるんだから!」
夕張も当然感づき不服そうに頬を膨らませ、健次に文句を言う。と、まあそんなことを言いつつ、コップにワインを注いでもらっているんですけどね。
「甘いにおいがしますね」
すんすんと、蒼龍はワインの香りを楽しむ。珈琲の時ほどではないにしろ、幸せそうな顔をしているな。ちょっと嫉妬しちゃうかも。
「ったりめぇでぇ!なんたっていちぢくだからよ!」
なんでべらんめぇな口調になってんだ。お前は江戸っ子ではないだろう。まあそういう口調が似合うような体型はしているけども。
蒼龍と夕張は、それぞれ両手で律儀にコップを持ち、ワインを口へと入れて行く。と、言うか蒼龍は飲み干してしまったぞ。酒強いのか?
「ふぁあ…すごい甘いですねぇ…」
ふわふわとした口調で、蒼龍はゆっくり感想を述べる。うっとりとした表情は俺にとっていろいろとグッとくるものがあるが、まあ今回は我慢しよう。しかし俺も飲んでみようかな。チャンポンはしたくないんだけども。そこまで言うとさすがに気になる。
「俺もくれよ」
コップを差し出し俺はねだってみる。すると、健次は酒瓶を抱きしめ激しく首を振った。
「おめぇにはやらねぇ!やらねぇからな!ウワァァァアア!」
「おい!なんでや!」
そんな血相抱えたように言わんでもいいだろう。キャラぶれまくってるじゃねぇか!
「いいかァ?七星。これはな、女性に似合うワインなんだ。お前には合わんだろう?そもそも鏡で顔を見てから言うんだ」
ポンと肩に手を置き、浩壱が絶妙なタイミングで会話に割り込んでくる。つまり俺はおっさんが顔だから、ワインが似合わねぇと言いたいのかこの筋肉達磨は。
「まあいいんでね?俺たちはこれで」
統治は苦笑いをしながら、日本酒を掲げる。まあしょうがないか、このワインは蒼龍と夕張専用と考えておこう。
すると騒がしい俺たちに誘われた如く、襖が開いた。あのもじゃもじゃテンパは間違いない。國盛だ。
「ういーっす。なんだよぉ。おめぇら騒がし…!?ウオァアアアアアア!?」
國盛はうつむいた顔をあげ次第、蒼龍と夕張に目が行ったようで、まるで溶けるかのように地面へとぶっ倒れた。おいおい、酒瓶持ってるんじゃねぇのかよ。そのいい酒がおしゃかになったら、どうすんだよ。
「ど、どうしたんだキヨ!キヨ!キヨォォォ!」
駆けよって統治は、國盛のあだ名である『キヨ』と叫ぶ。どこぞの片目の傭兵が死んだような風に言うんじゃない。とりあえずダンボールにそいつを入れておけばいいと思う。
「美女たちがいる。俺にはまぶしすぎる。まぶしすぎるんだウワァアアアアアアア!」
うつむいて死んだように國盛は倒れているが、地面から声が聞こえてきた。こいつが一番やかましんんじゃねぇのか?蒼龍と夕張は顔を見合わせ苦笑いしてるしね。
「うーむ。しかしなぜ美女が二人もこのむさい場所へ?」
がばっと起き上がり、國盛は一瞬にして胡坐をかくと、首を傾げる。相変わらず体幹が素晴らしいなお前。そんなこと俺にはできんわ。
「あーついてきた。俺に」
「あ、俺もそんな感じだわ」
俺と統治は声を合わせて言うと、國盛は顔を歪ませた。
「ハァ!?何言ってんだおめぇら。おめぇらいつから女と関係持ったんだ?」
その言い方はちょっと誤解を招くのでやめてくれ。蒼龍も顔を赤くしてるんじゃねぇ!
「うん。でもさ、出てきたんだわ」
統治が酒を口に運び次第、つぶやくように言う。俺も同じような意見だし、「そうだよ」と便乗をしてみた。あ、ホモではないです。
「ハァア?おめぇら頭いっちゃったのか?そんなわけねぇだろよ。で、お嬢さんたちの名前は?どこから来たの?」
心底あきれたように國盛は肩をすくめると、俺たちでは話にならないと思ったのか蒼龍達へと声をかける。蒼龍にはアイコンタクトで、本名でOKと伝えてみた。
「えーっと、蒼龍。航空母艦蒼龍です。大湊警備府から来ました」
「夕張です。ブイン基地からきましたー」
「ホァア!?!…えーっとマジ?え、どういうこと?え、え?」
顔を引きつらせ、國盛は俺と統治へと振り返ってきた。まあうん。そらそういう反応するわ。俺がお前の立場なら、間違いなくそういう顔すると思う。
「どうもこうも、理由はわからん。まあなんていうんだろうか、霊的力とかじゃねぇの?」
まあテレビから出てくる妖怪や霊かよくわからん物もいるんだし、こいつらが出てきたのはそんな類なんだと思う。こいつらに失礼な気もするな。
「じゃあなんで俺は出てこないんだぁ!」
そういえば、お前も元提督だったな。今は何をやっているんだ?惑星探査か戦車でも動かしてるのか?
「ともかくだ。うらやましすぎて素っ裸で走りたいくらいだけど、つかまりたくもない。とりあえず新しい仲間が増えたことに乾杯だな」
なんだかんだ言って、ヤスも受け入れれたらしい。まあこいつらは総じてサツや市役所にチクることもないだろう。それほどこいつらは、信頼ができるんだ。
「さぁて!気を取り直してこの酒を開けるぞ!これはなぁ!」
いつものハイテンションなヤスに戻り、俺たちはそのまま、夜通し騒ぎ立てたのだったとさ。
*
夜が明け、新しい朝が着た。
本日もお日柄良くというべきなのか。俺たちの帰路は、雲一つないまさに快晴よろしくの青空が広がっていた。
「いい天気だなぁ。すがすがしい朝だ」
俺はそんな天気を体に浴びて、改めて酔いがさめた気分になる。そもそもチャンポンしまくったけどそこまで酔ってない。と言うか無意識にセーブをしていたかもしれない。
「ふふっ…のぞむさぁあん」
耳元でささやかくかのように、蒼龍の寝言が聞こえてくる。意識なくてもまだ甘えてくるのか…。たまらねぇけど、ちょっと疲れを感じてはいる。
「はぁ…まったく飲みすぎだよこいつ。今度からは少しセーブしてほしいわ…」
言うまでもなく蒼龍は飲みすぎにより、そのまま寝てしまっている。まあいちぢくワインから酒が進み、俺と同じくチャンポンをしまくっていたしね。夕張はそれこそセーブしていたが、蒼龍はいわゆる甘え上戸で、飲めば飲むほど彼女の枷がはずれ、俺にべたべたとくっついてきた。さすがにあれだけ甘えられると、俺の自制心が崩壊寸前であったことは言うまでもない。雲井達の家にいたことが、俺の最期の砦となっていたな。
「ふふふっ…ううん…あれ?」
しばらく歩いていると蒼龍が目を覚ましたのか、俺の背中から起き上がり、周りをきょろきょろとし始める。
「おはよう。酔い覚めたかー?」
「ひやぁ!?の、望さんの背中に!」
蒼龍は気付き次第、あばれ始める。おい、アスファルトに落ちたいのかお前は。とりあえず落ちないよう、必死に蒼龍を支える。
「…私眠ってたんですか?」
「そうだよ。覚えてないか?昨日のこと」
その声かけに蒼龍はしばらく無言だったが、じわじわと体が震えはじめ。再び俺の背中で暴れ出す。いてて、背中を叩くな。
「恥ずかしぃ…死にたい…望さんすいません…忘れてくださいぃ…」
おうおう、ずいぶんと可愛い声で言うな。照れすぎてもはや消えそうな声になってるぞ。まあ、ちゃんと聞き取れてるさ。
さて、それから蒼龍は自分で歩くと言い張り、地面へと下してやる。できればもっと彼女の温かみを感じたかったが、さすがにそこまでは強要できない。
「どうだった?あいつらは」
しばらく歩きそろそろ家へと着きそうな頃、俺は空を見上げながら蒼龍へと問う。なんだかんだ言って、奴らのことをどう思ってくれただろうか、なんだかんだ言って親友たちだし、ひどい言葉は聞きたくない。
だが、彼女は笑顔でこう言った。
「みなさん。本当に面白くて、いい人達だったと思います!」
「そうだな。またあいつ等と、飲みたいか?」
「はい!あ、でも…」
蒼龍は再び恥ずかしそうに顔を赤らめ、明後日の方向を向く。
「今度はちゃんとセーブするようにしますね。望さんだけならともかく、みなさんに見られるのは、やっぱり恥ずかしいですし…」
俺は一向に、構わんのだけどね。
どうも。セブンスター改め、大空飛男です。これが、私の本来の名前ですので、改めましてどうかよろしくお願いします。
さて、まず第一になぜ匿名を外したの?と、聞きたい人が多いと思いますので、あらかじめ説明します。それは、純粋に匿名を使うことがの逃げと感じたからです。やはり酔いのクオリティとは言いつつも、私が作り出したこの話。それを恥ずべき意味はないと感じました。むしろ作品に誇りを持たないといけないとも感じ、匿名を外したというわけです。
また、感想の方もありがとうございます。今後の参考にさせていただきますね。
それでは、また明日!