提督に会いたくて   作:大空飛男

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またもや実験回。上・下に分ける予定です。
※タイトルに「上」をつけるの忘れていました。すいません。


地元の友人さんたちです! 上

今日は絶好のお出かけ日和。二月後半なだけあって、既に太陽も春の匂いを感じる事ができる。え?どんな匂いかって?春になればわかるんじゃなかろうか。

 

しかし、まあそんなお出かけ日和であるにもかかわらず、俺と蒼龍は家の中でグータラしている。今日はバイトもないし、まさにTHE暇なんだよね。

 

「この漫画の次巻何処ですか?」

 

蒼龍は本棚で漫画を探す。どうやら書道家が島流しされる話が気に入ったらしい。自分らしさってなんだ。俺は俺らしくってか。わかるかな?

 

「あー多分若葉が持っててるな、勝手に」

 

「え、どうしましょう」

 

やはりまだ妹や親父、お袋の部屋には勝手に入る事を躊躇するらしい。親父は割と怒るが、妹とお袋の部屋には勝手に入っても問題ないと思う。第一、俺のいない間に漫画が消えている事は良くあるし。

 

「取ってくるわ」

 

まあでも、これも次第に慣れていけばいいと思う。おそらく蒼龍は親しい仲にも礼儀ありと、言葉を胸に刻んでいるのだろう。

俺は椅子から立ち上がると、妹の部屋へと入る。お、あったった。机の上に置いてあるな。

 

「はい、どうぞ」

 

「わーい!ありがとうございます!」

 

嬉しそうに、蒼龍は漫画を両手で受け取る。そんなに気に入ったんだろうか?

 

それからしばらく、まあのんびりと本を読むふけっていると。

 

てーてっててってーと、妙に耳につく音楽が部屋に響く。某異能生存体が聞けば、発狂するあの赤肩マーチだ。蒼龍の入れた珈琲は、甘い。

 

「わあ!?なんですか急に!?」

 

蒼龍は身をはねてきょろきょろと慌てる。相変わらずリアクションが面白いな。

普段は軍艦行進曲である俺の着メロだが、この曲はとある友人たちに割り振っている着メロだ。この曲に見合うような、悪友たちでもある。

 

「もしもし」

 

俺は驚き続けている蒼龍にニヤけつつ、電話に出る。

 

『HQ!HQ!こちら國盛!七星!聞こえているか!』

 

いきなりこれである。やはり彼奴らのうちの1人。國盛康清だ。相変わらず、意味不明な

ご挨拶をしてくる。

 

「こちらHQ。要請は許可できない。現状の戦力で対処せよ。通信終わり」

 

そう言うと、とりあえず携帯を耳から離す。すると、少々慌てたような声が聞こえてきた。

 

『おいおい待て待て。ちょっと待て。うそうそ冗談。電話を切るな!』

 

「いちいち面倒なんだよ。で、なんかようか?無いなら切る」

 

もう一度電話を耳に当て、俺は聞く。すると國盛は、ため息をついた。

 

『全くよぉ〜。折角飲み会をしようと声かけてるのに、それは無いんじゃねぇ?』

 

飲み会か、そういえば最近やっていなかったな。

 

「いいね。いい酒でも入ったんか?」

 

『おう。お得意さんが数本持ってきたんだ。一本譲ってもらえたし、丁度いいなと』

 

こいつの家は老舗の和食屋だ。かなり繁盛しており、その人気も高い。わざわざ全国各地から、この店に顔を出しにも来るのという。ちなみにいわずと、その味は素晴らしい。

 

「で、場所は?まあ大体わかるけどな」

 

彼もとい、こいつを含むあのメンツがこのような話を持ち出すという事は、80%の確率で集合場所は決まる。

 

『雲井家に集合な。時間は9時くらいからか、まあ洋画でも見ながら、飲み明かそうぜ』

 

やはりそうか。中学の悪友、雲井浩壱と雲井健次の家だ。

 

「了解。じゃあその時間に、俺も向かおう」

 

『おうさ。ところでよ…』

 

國盛は唐突に、言葉を途切らせた。どうしたのだろう。

 

「どうした?」

 

『ああ、いやな。統治の奴が意味の分かんねぇこと言っててな』

 

意味の分からないこと?統治とは國盛と同じく中学で友人となった、菊石統治のことだ。こいつはメガネをかけている優男だが、言語が割とエグイ。とは言うものそこまでぶっ飛んでいるわけでもなく、意味の分からないことを言うような男ではないはずだ。

 

「どういうことさ?」

 

『しらねぇよ。なんか出てきたの一点張り。とりあえず来るとは言っていたけどよ』

 

出てきた?何が出てきたのだろう。正直言っている意味が俺にもわからない。

 

『まあともかく、雲井の家で詳しく聞けばいいか。それじゃあまた夜にな』

 

俺が「おう」と返事を返そうと口を開くころには、すでに電話は切れていた。まあ、そもそも電話をすること自体も珍しい。普段はSNSで来れるかどうかを聞くだけだし、相当その酒がいいものだったのだろう。口頭で伝えたくなるほどにね。

 

「誰からだったんです?お友達ですか?」

 

蒼龍が漫画から目を離して、不思議そうな顔をする。

 

「ああ、まあね。ちょっと夜に飲みに行くことになった」

 

「夜にですか?えーっと、いつお帰りに?あ、そもそも帰りを考えますと、車を運転できないのでは?」

 

いや、帰るつもりはなかったんだけど…。大体飲み会をする時は雲井の家で夜を明かすことが多いし、おそらく歩いて行くとも思う。

 

「うん。だから車は使わないよ。歩いて行くからね。ついでに泊まっていくだろうし」

 

それを聞いて蒼龍は困惑した顔をする。

 

「そんな!じゃあ私も連れて行ってください!いい子にしますから!」

 

「いや、なに言ってんのお前?いい子にするしないは別として、男ばかりのむっさいとこだぞ?行きたいか?」

 

奴らはごつく屈強な男たちだ。それに蒼龍が加われば、いろいろと気まずい気分になると思う。主に蒼龍が。

 

「私、望さんと離れたくないですもん!」

 

お、おう。そう言ってくるか。そういっちゃうか。くそう、反則だぜ。そんな寂しそうな目をされては、連れて行くしかないじゃないか。

 

「…ったく。わあったよ」

 

まあ奴らのことだ、どうせ暖かく迎えると思う。意外と紳士的なんだよね。まあ殴る蹴るはされるだろうさ、じゃれ合いだけれども。

 

 あいつらの暴力は、じゃれ合いでも相当痛いのだが…。

 

 

雲井の家は大体歩いて三十分と、意外に遠い。もともと住む区域が違うこともあり、それは仕方ないよね。

 

 歩くのがしんどいと思っていた俺に対し、蒼龍は夜のウォーキングだと考えていたようで、それはそれで楽しんだようだ。まあ夜は夜でいつもとは違う街並みを、体験できたことが新鮮だったらしい。

 

 「それで、どんな人なんですか?雲井さんたちは」

 

 雲井家付近までたどり着き、蒼龍が聞いてくる。うーむ。なんといえばいいだろうか。

 

「あー。まず雲井兄弟は、双子なんだ。とりあえず会えばわかるさ」

 

「双子ですか?すごいですね」

 

 すごいことなのだろうか?まあ確かに、奴らは阿吽の呼吸如く、連携がすさまじいのは確かだ。

 

中学の頃に聞いた話だが、喧嘩で彼らは見事な連係プレーを見せ、当時同じ学年を牛耳っていた一派から最も恐れられていたという。そもそも中学の時から頭一つ分大きかった奴らは、まさにア○ンとサム○ンのようだった。ボディビル!

あ、ちなみに俺はどちらかというと、そんなやつらとのグループに属さず、のらりくらりとしていましたとさ。そもそも、そういう面倒な奴らとつるむことが嫌いだったしね。でも以前聞いた話では、道場で同学年の部員をボコボコにしていた俺が鬼神のごとく恐ろしく、故に認められてはいたんだと。ハッハハ、そんなバカな。悪い噂だと思う。

 

さて、そんなくだらない昔話はさておき、俺は雲井の家のインターホンを鳴らす。すると、しばらくしてヌっと、巨漢の男が出てきた。

 

「おう、よく来たなぁ。って…その後ろの子、だれでぇ?」

 

例えるなら、彼は仁王像だ。身長190以上もある巨体はまさに巨人。おまけに岩を切り出したようなごつく厳めしい顔は、到底堅気と思えない。彼こそが雲井家の長男、雲井浩壱だ。

 

「へぇ!?あ、あ、あのの!わたわたしは!」

 

蒼龍相当ビビってるねこれ、まあそうだわ。こいつ長年付き合ってきてるけども、怖すぎるもん。魔除けに使えそうだもん。てか艦娘までビビらせるって、お前なんだよ。

 

「あーこいつは蒼龍。事情は中で説明するさ」

 

「ふーむそうかぃ。おいぃ健次ィ!まーた新しい仲間がふえたぜぇ!」

 

浩壱が、奥にいる弟の健次を呼ぶ。またとはどういうことだ?と、まあ憶測を立てていると、またもやどすどすと聞こえそうな巨体の男が顔を出す。

 

「おお?これもどういうことですかえ?七星くぅううん?」

 

先ほどの浩壱よりはまだ優しい顔をしているが、それでも威圧感は変わらない雲井家次男、雲井健次が低い声でうなる。まさにこいつらは、生きた阿形像と吽形像なのだ。この二人のことを、俺の同期は通称ヘルブラザーズと呼ぶ。

 

「の、のの望さぁん…ここってヤクザの事務所なんですかぁ!?私売られちゃうんですかぁ!?いい子にしますって言ったじゃないですかぁ…!」

 

 蒼龍、お前さすがにそれは失礼だぞ。こいつらこんな形だけど、実際はそんな怖い奴らじゃないんだ。浩壱は以前出てきた神杉には劣るものの、趣味は料理でスイーツも作れる。健次はなんだかんだ言って情にも熱いし、以前は子猫を保護しようと奮闘していたくらいだ。まあ総じて言えることは、顔が怖い人ほどいい人なんだよ。おそらく。確証はない。

 

 「んん?七星ィ。女の子を泣かせるとは感心しねぇぜぇ?」 

 

 ほら、紳士筆頭浩壱が俺に刃を向け始めたじゃないか。あと俺の所為でないてるんじゃねぇ、お前の顔がこえぇからだわ。

 

「あー。これは人間シャチホコの刑ですわ。おう兄者!ひっさびさに望を生贄にしようぜぇえ?」

 

うん。こいつらはいい奴なんだ。ほんとだよ?僕嘘つかないよ?こいつら言動が怖いだけだから。実際はやらないから。俺には。

 

ともかくビビりまくってる蒼龍を後押しすると、雲井家へと入る。うわぁ、蒼龍のビクビクとしている体の動きが伝わってくるよ…。だから言ったのに…。

ちなみに、俺たちが酒を飲み明かす場所は基本的に一階の和室だ。おそらくいくつもの様に、酒がすでに封切ってあるだろう。

 

 まあそんなこんなで蒼龍をなだめていると、この家では少しおかしい若い女性の声が聞こえてきた。彼らに女兄弟はいない。この二人の怖さがどこに行ったのかと思えるほどの、優男面の三男がいるくらいだ。名前は忘れてしまったけど。

 

「あれ?この声どこかで」

 

蒼龍はどうやら、この女性の声に反応したようだ。俺は正直心当たりないのだが、どういうことなのだろうか。

 

と、そんなことを思っている間に、襖を雲井兄弟が開く。彼らのせいで前が見えない。お前らでかすぎなんだよ。

 

「オイィ!キクボー!おめぇと同じ境遇の奴がきたぜぇ?」

 

キクボーは菊石統治のあだ名だ、しかし同じ境遇とはどういうことなのだろうか。

 

「ヘァァ!?七星おめぇも!?」

どうやら統治は蒼龍を見て、目をまんまると見開いてしまったようだ。無理もない、奴も提督だからな。おそらく感じ取ったのだろう。彼女が蒼龍だということを。

 

しかし、俺もまた驚きで絶句をしていた。そう。同じ境遇とはつまりそういうことで、統治もだったのだ。

 

彼の隣には、夕張型一番艦である夕張が、ちょこんと座っていた。

 

 




どうも、セブンスターです。相変わらず遅くなり申し訳ない!

さて、今回も濃いキャラがいくつか登場しました。彼らが以前に記載した「地元メンツ」です。以前にも話した通り、もちろん苗字はすべてお酒になっております。
さて、次に読者様たちも驚いたでしょうが、夕張が現代に来ちゃいました。まあ友人に書いてくれと言われたので、いわばゲスト出演的な感じですね。まあ蒼龍だけですと話がワンパターンになってきてしまう可能性もあると、実験的な意味で追加してみました。今後話に関わってくるのかは、皆さまの反応次第でしょう。

さて、今回のネタですが言わずと地元メンツの酒です。
「國盛」は愛知県半田市のお酒。
「雲井」は愛知県愛西市のお酒。
「菊石」は愛知と言えばトヨタ!豊田市のお酒です。

では、今回はこのあたりで!明日はもしかしたら、投稿できないかもしれません!



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