提督に会いたくて   作:大空飛男

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メールのやり取りです!

私たちは統治さんの家から移動し、現在カフェに腰を据えていました。理由は一つ。メールの届くのが遅かったこともあり、もしもの事を考えて大滝さんと相談するため、合流する予定でしたからです。そして、彼らを待つ中、ピロリンと私の携帯が音を立てます。

 

メールを送ったのは、昼に差し掛かる前でしたので、だいたい二時間くらい間が空いています。言うまでもなくその間は、ちゃんとメールが届いたかどうかだったり、向こうに飛ばされたショックでどこか怪我してたりとか、いやないやな方向へ思考が進んでいました。頼んだ料理も、全然喉を通りませんですし。

 

「ああっ…!メールですよ統治さん!」

 

でも、そんなマイナス思考もおしまいです。だって、メールが返ってきたんですから!まずその事に私は安堵して、自然と笑顔にもなります。

 

コーヒーをすすっていた統治さんも、「おっ」と声を漏らし、カップをソーサーへと置きます。

 

「うし、読んでみてくれ」

 

「はい、えーっと…」

 

統治さんに言われた通り、私は文章を読み上げていきます。

 

『コチラノゾム。ブジイきている。ゴタイマンゾク。ソチラはどうか?』

 

と、文章通りに読み終えて、私は顔を上げます。えらく簡潔な文章でしたが、それを聞き統治さんも、どことなく安堵したような表情になりました。

 

「ははっ、なんだよ。無事なのか。まあだろうとは思ったよ。で、それにしても、メールが届くのにこんな時間がかかるもんなのかね?」

 

「どうなんでしょう?飛龍にそんな話、聞かなかったけど…」

 

そう私はつぶやくと、夕張さんがもしかしてと口を挟みます。

 

「やはり他世界と通信を試みれば、タイムラグも起きるんじゃないですかね?まあ、憶測なんでアレですけども」

 

「いや、そういうお前の憶測は当たるもんだろ。俺もそうだと思うがね」

うんうんと統治さんは、そういいながら頷きます。あれ、でもそういえば―

 

「確か…以前飛龍とメールのやり取りしている時は、そこまで時間がかかりませんでしたね。うん。確かにかからなかったです」

 

「お、おう。そういう事早く言おうぜ…。夕張が適当な事言ったみたいに聞こえるやん」

 

苦笑いをしつつ、統治さんは言葉を返してきました。あはは、夕張ちゃんも若干居心地悪そうに、メロンソーダをストローですすってます。

 

「しかしまあ、こんなことならわざわざ大滝ってやつをわざわざ呼ぶ意味がなかったか。でも現状奴を覚えているのは、大滝だけだしな…俺達だけじゃ、深い相談はできないしな」

 

「そうですよ。そうした意味でも、やっぱり対策を練りあった方がいいでしょうねー」

確かに夕張ちゃんの言う通りかも。確かに統治さん達は心強いけど、さすがにもう一組くらいは相談相手がほしいですね。

 

それから、私もごはんが喉を通るようになってすぐです。かららんと音が鳴り、私に目線に大滝さん達を捉える事ができました。少し遅いような気もしますが、何かあったんでしょうか?

 

「あ、大滝さーん」

 

私は大滝さん達を呼ぶと、彼らは私たちに気が付きます。あ、鳳翔さん着物なんだ。

 

「ごめんごめん。遅くなった。ちょいと準備に手間取った」

 

そういって軽く謝ってくる大滝さん。すると、鳳翔さんがふるふると首を振ります

 

「いいえ。提督は悪くないわ。もう、素直に私が着付けに手間取ったとおっしゃればよいのに」

 

「ん?俺も財布がどっかいっちまって探してたぞ?それに待たせたのは、俺だったじゃねぇか」

 

「それは提督が見つけた財布をわざわざ家に置いていってしまうからじゃないですか。私、机の上に置いていたの、見てましたからね?」

 

「いいやそれは――」

 

来るや否や、早速熱々な展開を見せてくるお二人。統治さんと夕張ちゃん。なんと声を掛けようか戸惑ってるみたいだし。

 

「あーその!とりあえず座ってからにしましょう?それに、望から連絡来ましたし」

 

「む、そうなのか。…とりあえず座るか鳳翔」

 

「ええ。そうですね」

 

申し訳なさを押し込んで私は二人の会話に割り込みますと、二人もそう承諾して、大滝さんは統治さんの方へ、鳳翔さんは私たちの方へ座ります。

 

「しかしまあ、久々に見たな。えっと…」

 

座るや否や、大滝さんは統治さんへと目を向けます。あ、そういえばお二人、あまり接点といいますか、顔を合わせたことがないんでしたっけ?

 

「菊石統治。こんな形じゃああるが、改めてよろしく大滝」

 

「うむ、そうだな。よろしく菊石。さて、それで七さんからは何と?」

 

なんだか簡単なあいさつで済ませましたね。まあでも、数回あってますし、普通かも?

 

「えっと。あ、はい。これです」

 

とりあえず私は、机の上に画面を開いたまま、ゆっくりと置きました。大滝さんはそれを手に取ると、「ふむ」と唸って、再び置き直します

 

「んー簡潔すぎるな。本人かこれは?…まあいい。それを含め、返信を送れば良いだろうな。で、したのか?」

 

「いんや。まだだな。大滝達が来るまで、とりあえずやめとこうってしておいた」

 

「そうか。んまあ俺達ができる事ってったら、奴に聞くことの確認くらいか」

 

「そういう事。そうした意味で、待ってたわけ」

 

統治さんがそういうと、大滝さんは「なるほど」と考え込むしぐさを取ります。統治さんもまた、うーんと唸ります。

 

「よし。ひとまずこうしてみないか?七星にログイン情報を教えてもらう。そうすれば、奴とじかに話ができるんじゃね?本人確認にもなるし」

 

「それはそうだが、話すことが可能なんだろうか?奴は艦娘じゃない。秘書艦に置ける人物でなければ、会話が不可能じゃないのか?」

 

その指摘に、統治さんは「そうやん」と言葉を漏らし、面倒そうにため息を吐きます。

 

「んーじゃあやっぱりメールでやり取りするしかなさそうか。っとそうだ…この件に俺たちも噛んでる事は伝えたっけ?てかそもそも、七星の存在が一部を除いて忘れ去られてるって、教えたか?」

 

「あ…それ伝えてませんね…。まずはそれでしょうね」

 

私は言われるや否や、キーをカチカチと打ち込みます。

 

「ま、案外ショックを受けねぇかもよ?それに俺たちが付いている事が分かるだけでも、奴は安堵するはずだ。伊達に腐れ縁じゃねぇしな」

 

確かに私も向こうに飛龍がいると思うし、なんとか安心はできています。ですので望も、統治さんと大滝さんが存在認識をしてると分かるだけでも、安心できるでしょうね。

 

「他にはどうしましょう?向こうの状況も聞いていた方が良いのでは?」

 

夕張ちゃんの指摘に、大滝さんは頷きます。

 

「それもアリだな。しかし、あまりにも聞くことを書きすぎると、本質的に聞きたいことを見失っちまう恐れがある。そこんところ、吟味しねぇとよ」

 

「じゃあこの話はお流れにしますかね?えっと、じゃあなんだろー」

 

頬杖を着いてうーんと唸り、夕張ちゃんはメロンソーダを啜ります。そして空になると、「おかわり」と統治さんに強請りました。気に入ったのかな?メロンソーダ。

 

「えーっとではこれは如何でしょう?今後の蒼龍ちゃんの身振りとか」

 

鳳翔さんの提案に、統治さんが「それだ」と指をさします。

 

「それは確定だな。そもそも七星自身の記憶を持ってないヘルブラをはじめとする、キヨや大学メンバーとの関わり合いはどうすんだ?一応そのまま友人として付き合っていくのが、ある意味安全策じゃね?」

 

「そうした関係性は、大事にした方がいいかもしれない。大きなズレを起こしてしまえば、奴が向こうから戻ってきた際に、存在そのものがあやふやになる可能性もある。それを防ぐためにも、菊石の意見に俺も賛成だ」

 

「私も統治さんに賛成です。むしろですよ、そうしないとたとえ七星さんが此方の世界に戻ってきても、存在があやふやになって本当に消えてしまう恐れがあります。まあこれも…憶測なんですけどね。…蒼龍さんには酷かもしれませんが…」

 

自信無さげに言う夕張ちゃんですが、憶測ではなくむしろ、的中していると思います。でも、望がこれまでいろいろやってきたことを振り返ると、ちょっと心配ですね。

 

「…でも、やらなきゃいけないでしょうね。わかりました。だって、望に笑顔で帰ってきてほしいですし」

 

そうです。望の名晴れてしまったけど、帰ってこれる可能性がないわけではないですし、むしろ私が、帰ってこれる場所を確保しておく必要があると思います。それがきっと、私の試練なのかもしれません。

 

「えーっと。ひとまずはこんな感じですね。一旦送った方が、いいと思いますけど」

 

字数的にもそうですし、何より望も望でこっちの情報が知りたいはず。とりあえず安心させるためにも、先んじて送った方がいいでしょう。そんな私の意見に大滝さんと統治さんも賛同したようで、大滝さんが「じゃあ頼む」と決定したのでした。

 

 

返信が帰ってくるまでの間、俺は艦娘達――つまり通信室まで来てくれた奴らと、適当な会話をしていた。

 

「なるほどねぇ。艤装を装備すれば、お前らは力が数倍に跳ね上がると」

 

その内容は、どうして艦娘は深海棲艦と戦えるの?と、行った議題である。で、その答えは、すごく簡単に言うと「艦娘ぱわぁ」らしい。

 

「ええ、まあそんなとこ。厳密に言えば、艤装その物の力を、私たちが引き出す媒体になっているようなものだけど。だから艦娘は、人ではなく、ヒューマノイドとしての位置づけが正しいわ」

 

加賀の説明に、他大淀や飛龍も、うんうんと頷きを見せる。おら難しい事わからねぇべ。

 

「あ、提督。返信届きましたよ?」

 

腕を組みおそらく難しい顔をしているんだろうなーとか思っていると、大淀がレシートを出すマシンのような物体から紙を手に取った。おそらくまず俺から読ませるべきと判断したのか、取ってすぐに、俺へと差し出す。

 

「おう、サンキュー。えっとなになに…」

 

電報に目を通すと、まず安心したと蒼龍からの一言。そしてこの件は、大滝と統治に知らせたらしいと有るが、ふと疑問が過ぎる。

 

――あれ、ヘルブラやキヨとかには伝えてないのか?

 

と、思うや否や、読み進めていけばその答えが書いてあった。これは相当面倒な事になっているな…。うん。どうしようか…。

 

「なんて書いてあるの?」

 

やはり一か月は一緒にいただけあるのか、飛龍は俺が見せた表情の変化に気が付いた様子だ。俺は一つ息を吐くと、笑って見せる。

 

「いんや。これからどうするかーってな。こっちは大方決まったが、あっちはまだ決まってないからな。まあ大滝と統治が事情を理解したらしいし、蒼龍の事は心配ないかもね」

 

「んーホントに?心配無いの?」

 

「…嘘です。すごく心配。まあだからと言ってここでどうこうできないしな」

 

少しむっとした飛龍は何か言おうと口を開いたが、すぐに何かを納得したようで、口を紡ぐ。

 

「それに、向こうは向こうで俺が色々と指示を出す必要があるらしい。はー参ったな」

 

「たとえば?」

 

「んーそうだな。たとえば俺が戻るまでの間、大学へ出席をしてもらうとか」

 

その受け答えに飛龍はいやいやと首を振る。

 

「いや、さすがにそれはだめでしょ。と、言うか望君はゼミとかある訳で、本人じゃないと出席できないでしょ?いっそ蒼龍は、ずっと自宅で待機してもらった方が、いいんじゃない?」

 

確かに俺もそうさせたいが、それができない理由がある。ここであーだこーだ言うのも無駄だと思うし、正直に内容を告白するか。

 

「…まあそうだな。はぁ…うん。じゃあ言うけど、どうやら俺は、向こうの世界では居ない事になっちまったらしくてな。代わりに蒼龍が、俺の代わり立てされているらしい。夕張の仮説曰く、俺が向こうの世界に戻ればそれは何事もなかったかのように戻るらしいけど、すなわち生活にズレを生じさせちゃいけないと思うんだわ。だから酷かもしれないが、蒼龍は俺と重なることを、行う必要があると思う」

 

「そうかもしれないけど…って、は、はぁ?何其の御伽噺的な展開は?って、そうなると望君がこっちに来ているのも、御伽噺的展開じゃん」

 

まあそうなんだよね。提督勢誰もが羨むであろう時空越えの艦これ世界着任なんですから。だから今更何がおきても驚きはしないわ。驚きはね。

 

「…そもそも蒼龍が向こうの世界に来た時点で御伽噺だし、お前とこうして話してることも御伽噺ーーってそれはいい。つまりわかりやすく言うとだ。蒼龍は俺が常日頃行っていた通学やバイト、友人付き合いなんかも熟す必要がある。…当然酷だと思うが、蒼龍の事だ。恐らく…」

 

そう言葉を続けようとした際、飛龍が先に口を開く。

 

「うん。あの子の事だもん。熟そうとするだろうね。健気というかなんというか…」

 

健気すぎて涙が出てきそうになる。泣かないけど。それくらい心にグッとくるものがあるし、何よりこうした状況で何もできない自分が嫌になる。

 

「まあそういうわけなんだわ。だからいっそ蒼龍に全て任せると、伝えた方が良いのかもしれない。しかしそれは、逆にプレッシャーが掛かるだろう。だからある程度の指示はした方が良いと思った訳」

 

これだけ言えば、流石の飛龍も承諾せざるを得なくなったようだ。過保護なワンツーの俺たち。ついに決定を迫られる。

 

「それで?結局どうするの?私はこの件に関しては、口出しできないから」

 

加賀も催促をかけているようにも見える。まあこれだけどうするか否かを話していれば、そうも思うかもしれない。いや、逆に加賀にはその気がなくとも、俺がそう感じているだけなのかもしれないが。

 

「じゃあ指示を出すよ。でも出来るだけ、蒼龍ができる事…だけね」

 

こうして、俺はタイプライターを打ちこみ始めたのだった。

 




どうも飛男です。
約一か月…というか一か月ぶりの投稿ですね。お楽しみにしていた方は、お待たせしましたといった感じでしょう。
今回は双方のやり取りの試行錯誤を描いた感じでしょうか。

では今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう!

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