提督に会いたくて   作:大空飛男

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驚きの、別件だ

さてはて、瑞鶴をいじり倒したしホクホク顔で執務室へと足を運ぶ。

 

幸運なことは、執務室に戻るまで瑞鶴以外には誰にも会わなかったことだろうか。庁舎ってひょっとするとあまり艦娘が寄ってこない感じ?と、言うか今は訓練中だからその所為か。

 

「ただいまースッキリだぜ」

 

「うげ、早速出たなデリカシーの欠片もなし発言。一応花も恥じらう女の子の巣窟なんだから、そういう発言控えてよ」

 

気持ちのいい気分で部屋へと帰れば、まずこの一言。言うまでもなく飛龍だが、弄ったつもりもなく純粋に言っているようだ。まあでも、失言だったと素直に認めるのはなんかシャクだし――

 

「花も恥じらう女子は大淀しかこの部屋にはいないからいいじゃん?」

 

と、少々ふてくされるように言ってみる。すると、飛龍はしたり顔を決め込んだ。

 

「ぷぷー。望君子供っぽーい。注意されたら素直に認めるのが大人だよー?」

 

コイツはどうしてこうも逆なでしてくるんだろうか。うん、無視だ。これも大人の対応の一つ。無視だ。しかしうーむ、飛龍がだんだんと妹に見えてくる。義妹ではあるんだが。

 

「ま、すまねぇ。今後気を付けるわ。確かに大淀には悪いしな」

 

一応非があるので、悪ふざけはこれくらいにしておく。大淀だってそう思ってるかもしれないし、飛龍はどうでもいいとして、早速一日目にして嫌われるのは嫌だしね。だが、大淀は首をかしげると、口を開いた。

 

「あ、私は気にしませんよ。男の人って、そういう事は平気で言うと思ってますし。むしろ、少しだらしない方が、私は好みです」

 

「え、なに?俺お前から見れば好みのタイプなわけ?」

 

「ええ、まあ。そこまで整った顔つきとは言いませんが、無精ひげを生やしてずぼらそうなところが、私は好きですね。まあ、タイプなだけで、恋愛には発展しないですが」

 

きっぱりとそう返してくる大淀に、少々苦笑いを浮かべつつソファへと腰を下ろす。続いて加賀もまた、俺の横に腰を掛けた。

 

「あれ?加賀さん、赤城さんと訓練してたんじゃ」

 

飛龍は首をかしげ、加賀へと問う。そういや加賀は飛龍に伝えた後、一緒には帰ってこなかったしな。メシでも食ってたんだろうか?赤城と一緒に。

 

「いえ、そもそも赤城さんとは今日一度も出会ってないわ。先に行ってと言ったのは、少し用事があっただけ」

 

「え、珍しいなー」

 

少々の驚きを含んだ表情で、納得するように飛龍は言う。どうやら赤城と加賀は、セットのように行動することが普通のようだな。容易に想像できるがね。

 

とまあこんな感じで、飛龍が割かし楽観的に加賀へと話しかけて完結したが、ふと加賀は飛龍を見つめた。

 

「ところで飛龍。聞きそびれていたのだけど、貴方変わったわ。なぜ?」

 

加賀がそう呟くように言うと、飛龍は先ほどのお気楽モードから、どこかハッと気が付いたような素振りを見せた。そして、すぐに表情を戻すと、今度は少々諦めたような顔をして、口を開く。

 

「んーアレですかねー。糖分を欲張るのは、よくないと思いまして、丸くなったんだとおもいます。まあ向こうの世界で過ごして、考え方も変わりますよ。それに、私はどうやらそこまで一筋ではなかったみたいですもんね?」

 

唐突に、話題つかめない女子トークだったが、飛龍はなぜかにひひと俺に向かって、いたずらっぽく笑う。いつも通りにしている様子だが、いつもの心底いたずらっぽさとは違う、そんな様子を今は持っている気がする。こう、同意を求めているが、真意は悟られたくない、曖昧な感じだろうか。

 

すると加賀もまた、ふふっと笑いをこぼした。

 

「そう。それはいい心がけね。兵士である艦娘が、過剰摂取で太ったりしたら大変よ。私は欲張らないことにしているけれど、貴方もそうするのかしら?」

 

加賀の問いかけに飛龍は少しの間考えたが、すぐに口を開く。

 

「ええ、まあ。そうします。むしろ、それを作る側に回りたいかなーって。その為にも、まずは切り抜けないといけない。ですかね」

 

独特の空気を持つ二人に、俺は首をかしげる。スイーツトークのように聞こえるが、そんな軽んじれるような話題ではない気がする。それに先ほどの飛龍の様子から、俺に対してなんとなく意味がつながっているような、いないような。

 

まあ、多くのファクターがちりばめられているから、飛龍が自分なりの答えを出し、それを加賀に伝えているのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。

 

そう。おそらく、一度飛龍が向こうの世界へ行く前に、彼女らは何かを話したんだろう。そしてこの何気ない会話は、その答え合わせなのかもしれない。つまり、俺が知る由もない会話だし、これ以上詮索するのは野暮ってもんだ。

 

「さて、この話はこれでおしまい。いいですよね。それよりも望君、大淀ちゃんから別件の話、聞かなくていいの?」

 

「ん?ああ、うん。そうだな」

 

とりあえずそう曖昧に、言葉を返しておく。要するに空気呼んだ。えらいぞ俺。

 

「あーうん。それで大淀。別件ってのはなんだ?」

 

そう問うと、大淀は「はい」と返事をして、一枚の紙切れを俺に渡してきた。なんだろうかと紙切れに視線を向けると、その内容に俺は目を見開く。

 

「え、どしたの望君」

 

どうやら俺の様子が少し変わったことに、反応したのだろう。飛龍はそう言うと、俺の隣に寄ってきて、俺が持つ電報を見てきた。と、そんな中大淀が、口を開く。

 

「実は先ほど、コレが電報で届きまして…おそらく提督にとっては、重要なのでは?」

 

 

 

 

無論、言うまでもない。トイレを除きまずはじめに向かったのが、通信室だった。まあ見栄えしないのは仕方ないね。訓練視察とかは、もう少し先延ばしと言う事で。

 

先ほどの別件。おそらく言うまでもないかもしれないが、蒼龍からのメールだったわけ。その内容はむちゃくちゃで、所々言葉が繰り返されており、まあ文章として引っ掛かりを覚えた故に、要約すると「無事かどうか連絡が欲しい」との事だ。そこまで文章が崩壊していたのだから、やはり相当困惑している様子がわかる訳で、マジ見てて辛かった。

 

まあだからと言って、表情にも出さないし、大声で叫び散らすこともしない。飛龍ならともかく、やはりほかの艦娘たちに、そうした様子を見せるのは良くないだろうからね。

 

で、通信室は言うまでもなく古臭い通信機が列を成しておいてある。正直俺にはどう使うのかわからんし、何より何に使うのかわからん。ただ、これを使って連絡することはできるんだろう。小学生でももう少し、まともな感想を述べそうだ。

 

「で、メールを送るのは、どうやんの?」

 

「えっと、そこにタイプライターありますよね?それでカタカタとしますね」

 

大淀が指差す方向には、確かによく洋画で出てくるあのカタカタマシンくんが置いてある。えっと、PCみたいにローマ字で打つんだろうかね?なら、話は早いんだけど。

 

「お、普通にキーボードと変わらん感じなのか。これなら打てそうだ」

 

実際にタイプライターは、ガチキーボードと変わらない文字の羅列になっている。そういえば中学の友人が依然、タイプライターおよびキーボードは良く使う文字を中心に置いていて、打ちやすくなっているとか聞いたことあったっけ。ん?それはかな入力だったか?

 

「でも、タイプライターと違うのは、普通に文字を打つと、この画面に表示されるってわけだな?」

 

「はい、ご明察です提督。流石ですね」

 

現に、タイプライターの前方には、ケーブルみたいなのにつながれ古臭い白黒テレビみたいなモニターにつながっていた。あれだな、超級式パソコンだなこれ。

 

そういえば蒼龍が来て間もないころ、パソコンについて驚きの言葉を漏らしていたが、今目の前にあるこれが彼女にとってのパソコンだったんだろうか。と、なれば彼奴が驚愕していた事を、今度は俺が逆にカルチャーショック的な感じで受ける事になっていくのか…?確かに民俗学を学んではいるが、カルチャーショックの達人にはなれそうにないんだが。

 

「どうしました提督?」

 

「え、ああ。ちょっと考え事をな。それに、呑み込みが早いのが俺の特技でね。しかしなぁ…大淀さんに褒められると、なんか委員長に褒められてるって感じ。不思議だ。ははは」

 

と、笑ってごまかしてみる。彼女らにとってはこれが普通だし、数日間で慣れないと、この先やっていけなさそうだ。話の相互は、コミュニケーションを崩す危険もあるしな。

 

「え、えーっと。まあ私は委員長キャラですし。実際も雑務は好きですし」

 

大淀はそう言うと、少々照れくさそうに微笑みを浮かべた。ああ、やっぱりこいつかわいいよな。蒼龍の笑顔には、それこそ勝てないがね。まあ任務画面から引いてく際の微笑みは、かなり可愛いよね。

 

「お、そうかい。飛龍よりもお前を秘書にした方が、仕事とかはかどりそうだな」

 

「ちょっと、私だってまじめにできるよ?朝も思いっきりおふとんはがすよ?」

 

不服そうに飛龍がかみついてきたが、まあ適当に「はいはい」と流しておく。まあまじめなのかは意義を申すが、お前とは相性がいい。性格のね。だから外しはしないと思う。

 

「それにしても高校生チックにキャラ付けするならば、加賀さんは大和撫子な男子に人気な生徒で、明石はちょっと変わった工業系女子。武蔵は姉御肌な女教師って感じか。あ、武蔵は先生じゃねぇか」

 

何気なく言ったつもりだが、ふと横目で加賀を見ると、若干嬉しそうに口角を上げていた。実際に加賀先輩に変な子明石、大淀は委員長で面倒見がいいってこう、何つう理想的な学園生活が送れるんだろうねぇ。ま、現実はそんな子一人もいなかったし、むしろ男子クラスだったもんでホモはいましたね。童顔ホモが。

 

「え、じゃあ私は?んー予想は学園のアイドル!って感じかな?」

 

どこからそんな自信わいてくるんだオメェは。まあ事実美人だし、普通に誰もが振り返る美少女ではあるぞ?でも、素直に認めるのは調子に乗るので――

 

「いや、お前は犬だな。蒼龍が柴犬に似てるって言ってたし」

 

「えぇ!?なんか私の扱い酷いんですけどー!?それにさぁ、こんなかわいいワンちゃんいたら擬人化待ったなしだよ!?高校で一般ピーポーな望君の、悲しい妄想の産物として出てくるよ!」

 

悲しい妄想の産物ってなんだよ。つうかそう来るか。むしろオメェは軍艦の擬人化だろ?と、まあなんかアピールしてる飛龍は白けた目で見つめといて、さっさと視線をタイプライターに戻す。

 

「ヨーシじゃあ打ってみるか。おっと、そういえば返答はどこから帰ってくるんだ?」

 

「あー!無視するとかひどいー。ん?あ、もしかして擬人化わんわんの私想像しちゃった?」

 

そういって、飛龍はがくがくと肩を掴み揺らしてくる。なんだこいつ、子供かよ。子供か。

 

「あーもーうるせぇーよおめぇはよぉお。まだいうの?もう引っ張らなくていいからね?話進まないからね?よし、もうわかった。じゃあお前はクラスで一人は居るなんかすっげぇ元気でむしろうるせぇ奴で不良生徒とかにも気兼ねなく話しかけて一目置かれてるなんだかんだ言って憎めない教室内のムードメーカーな!だいたいそういうやつ黄色が似合うしな!はい、終り!」

 

そうマシンガンのように言い放つと、さっさと委員ちょ…じゃなかった。大淀に視線を向ける。飛龍が後ろで、「お、調子もどった」とか言ってるが、ひょっとして元気づけていたつもりだったのか?うん、まあなんかありがとよ。

 

「それで…えっと…ああ、返答ですよね?それは、そこから出てきます」

 

そういって、大淀はタイプライターの隣についている、なんかレシート出すような機械を指差した。さっきの電報と言い、まあこんな感じだよな。察しはついた。

 

「じゃあ早速打ってみるわ。えっとカチカチと…」

 

言葉に出さなくともいいだろうけど、まあその場のノリでカタカタとキーボードを叩く。エンターを押せばガチィンとか言うのが、癖になりそうだ。タタタッタ。タッーン的な。

 

「よしできた。じゃあこれを送信すればいいわけか」

 

「はい、送信はそのボタンですね。画面隣りの」

 

さっきの白黒モニター周辺をよく見ると、まあそれらしいボタンがあった。わかりやすいように、あえてこんな赤丸のおっきなボタンを付けたんだろうね。駆逐艦たちにもわかりやすいようにね。

 

「じゃあ押すわ。ぽちっと」

 

また擬音を発しながら、ボタンを押してみる。すると、白黒画面にノイズが入り、十秒も満たないうちにそれは収まると、画面にでかでかと「完了」と出てきた。ワーオなおわかりやすい。おとななれでぃでもできそうですね。はい。

 

「これでいい感じ?」

 

「ええ、これで大丈夫ですね」

 

そう大淀は言うと、隣の椅子へと腰を掛ける。ご指導ごくろうさまっす。

 

「さーて、返答が来るのを待つかね」

 




どうも飛男です。少々時間が開いてしまいましたね。
今回もネタ回。と、言い難い部分もありますね。望の内心は現在いろいろ渦巻いている感じです。
さて、短いですが今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。

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