提督に会いたくて   作:大空飛男

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前回少なかった分、今回は少し多め


なるほど、そういう訳か。

執務室の扉が開き武蔵と加賀、それに加え明石が姿を現した。どうやら朝礼は終わったらしい。まあそんなに長くやる必要も、ないだろうしね。朝礼って。

 

「…何してるのだ?提督よ」

 

そう武蔵が疑問を投げかけてくるのも、まあ無理はないだろう。現状の俺を見れば、そうもなる。何を隠そう執務室の床で、正座をしているのだから。

 

「見ての通り反省中です。ほら俺の目の前に、リトルフェアリー氏がお怒りでいらっしゃるでしょう?」

 

俺の前には、先程ぶっ叩いてしまった妖精が、頰を膨らませて地団駄をし、腕をぶんぶん振り回している。多分くっそお怒りなんでしょうが、それがイマイチ伝わらないし、むしろ可愛いとか思っちまうが、そう態度で見せるとさらにお怒りを加速させてくる。さっきそうなったから、間違いない。可愛いとか呟いたらこうなった訳だし。

 

「…何をしたのだ?妖精も此処まで怒ることは珍しい…と、いうか此処まで怒っているところは見たことないぜ?」

 

呆れた様に言う武蔵。え、そうなの?いやでも不可抗力だったと言うか、自衛本能といいますか…。と、いうか分かるわきゃねぇだろ。妖精とかそんな非現実的な生き物。てか非現実的な事ばっかり起きてるから説得力ないけどね。でも慣れろと?科学が蔓延ってる現代生まれの俺に?むずくね?

 

「…なあ武蔵。この怒りを御抑え出来る方法知らない?」

 

「いやまあ…怒らせたことがないものでな…。加賀、明石。何か知らないか?」

 

武蔵は後ろの二人にそう聞くが、加賀は首を横に振り、明石はにやにやしながら、「しりませーん」と答える。明石ぜってぇ知ってんだろお前。

 

「…何故怒っているか聞いて見たのか?」

 

「そらおま…ぶっ叩いたからだろうけど…」

 

と、言うか妖精さんって人語喋れるの?怒鳴られてもないし、小言も言われてないし。むしろぶっ叩いた際に叫び声も聞こえなかったし。

 

すると、武蔵は何かを察した様で、しぶしぶ書斎机においてあるメモ用紙を破り、鉛筆を引き出しから取り出すと、それを妖精さんへと渡した。成る程喋れなければ、筆談か。

 

「お、なんか書き始めた」

 

妖精は武蔵に一礼して、自分の図体よりデカイ鉛筆を器用に動かし、メモ用紙に何かを書き始める。

 

「えっとなになに…」

 

書き終えたのか妖精がばんばんとメモ用紙を叩き始め、俺に取る様に促して来たので、ひとまずそれを手にとって読んでみた。

 

「『いきなりたたくとか、ばか?あめだまくれたらゆるす』うん…全部ひらがななのね」

 

やはりと言うべきか…。いや、やっぱりそうだった。なんかごめんよ。ほんとわからんかった。と、言うか飴玉で許してくれるのか。やさしい。

 

「あー。誰か飴玉持ってる?」

 

「持ってるわけないだろう?…っとそうだ。以前叢雲が執務室の掃除をした際、机の中にドロップ缶を入れておいたとか言っていたぞ。楽しみを作っておくとか言ってたが」

 

「よしそれだ。ナイスツンデレ駆逐。今度ツンしてデレても気がつかないふりをしよう」

 

と、言うわけでまあ書斎机を探せば確かにサ○マドロップの缶が入っていたので、それを取り出し適当に飴玉を振って出し、それを妖精に手渡した。これで機嫌も直るだろうと安堵する。が、しかし。

 

「…なんかすげぇ不服そうな顔してるんだけど」

 

妖精はむむむと頬を膨らませて、じっと俺の方を見てくる。飴玉くれたら許してくれるって言ってましたやん。もしかしてドロップだから?いや、ドロップと飴玉の違いって何だ。英名か日本名の違いじゃんか。と、まあそんな事を思っていると、加賀がその答えを教えてくれた。

 

「その飴玉、白色よね?ハッカじゃないかしら。駆逐艦の子達、よく残すのよね」

 

「そんな子供じみた理由で不服になっちゃうのか。いやまあハッカは子供に人気ないですけどね」

 

まあついつい残しちゃうよね。ハッカ。子供の時はまあ苦手だった。と、言うか美味しくなかった。今は普通。

 

それでまあ、お子供じみた理由だが原因わかったので、ドロップ缶をガラガラ鳴らしてハッカ意外を取り出そうとする。しかし一向に他色のドロップは出てこず、俺の掌は一面ハッカだらけとなった。

 

「ハッカしかねぇ!どんだけハッカ嫌いなんだよ!ハッカに謝れ!」

 

「し、仕方ないだろう!私だって好きじゃないんだ!加賀も明石もわかるだろう?」

 

「なんで武蔵が反応するんだよ。てかあんたもドロップ食べてたアレか、場所知ってたし。しかもハッカは食べないと。イチゴ味とかばっかり食べたんだな。乙女やな」

 

「い、いや!メロンも好きだぞ!って何を言わせるんだ貴様は!」

 

なんか意外ですわ。と、言うかながもんじみてないかお前。彼奴もなんかこう、嫌いそう。

とりあえずハッカだけのドロップ缶だったので、妖精には後に用意してやろう。で、これ以上妖精を弄るのは話が進まないので、とりあえず置いておく。

 

「さて、妖精がいる理由だけど…この黒い塊から出て来た。なにこれ」

 

「いきなり話を切って来たな…まあ良いか。しかしふむ…それは何だ?石か?」

 

武蔵が机の上にある黒石に興味を持ち、目を寄越した際、ちらりと下を見れば、妖精もなんか空気を読んだらしく、ハッカ飴をしぶしぶ口に中入れた。おおう…何気に衝撃シーン何だが。丸ごと行くのか。

 

「…私が持ち主よ。それ」

 

妖精の衝撃シーンを見ていた最中に加賀がぼそりと口にした。言わずと知ってましたがね。

 

「だろうね。でさ、これは何?お前がこの服の中にお守りとして入れた事は分かる」

 

そう聞いてみると、加賀は少し言うのを躊躇する様な態度を見せたが、渋々といった様子で口を開いた。

 

「…それは私の…私の艤装の破片よ」

 

「は、破片?え、何で入れたんだそんなもん」

 

どういう事だ?それがお守りの正体ってわけか?いや、むしろ艤装の破片って…艤装って破片が出る物なの?

 

「もしや加賀よ。最初からこの事を狙って入れたのではあるまいな?」

 

何か深読みしたらしく、武蔵は若干むっと表情を歪め、加賀へと問いただす。だが加賀は首を横に振って、それを否定した。

 

「そんな訳ないわ。そもそも、それが原因とは限らないでしょ?…それは御守り。本当に御守りとして、入れたのよ」

 

「でも艤装の一部なんだろ?欠損してていいわけなの?それ」

 

ぶっちゃけ艤装の技術は謎技術故によく知らないが、欠損したら直すのが修理バケツとか妖精さんなんだろ。と、憶測はしていた。故にそうした破片は、修理とともに直るんじゃないだろうか。こう、謎パワーによる再生的な感じで。

 

「あー、欠損してても大丈夫ですね。ほら、空母の方々はそれこそ中破レベルにまでなると、発着の関係で戦えなくなっちゃいますが、他の艦種なら戦えていますよね?つまり、そうしたパーツは修理完了と同時に新品の様になるんですよねー。原理はそれこそ、妖精さんにしかわからないですけど」

 

意気揚々としつつ、明石はすらすらと答える。ふむ、解説ありがとう。つまり欠損していても、修理すれば問題ないと。たとえ欠損部位が残っていても、修理すればそれは単なる鉄くず同様になる訳だ。だからあんなに資材とか食ってるのか?

 

「ま、原理はわかった。でもよ、そうなるとなんでこの鉄くずに妖精が宿ってるんだ?と、言うかこの法被姿と良い、ねじり鉢巻といい…どこかで見たことあるんだが…なんだったか」

 

「…応急修理女神よ。その子」

 

加賀の言葉でやっと思い出した。ああ、そうだわ。全然使ったことないから、久かたにその姿を見たわ。ん、でも。

 

「応急修理女神?お前の艤装に応急修理女神が宿ったってことか?」

 

そう何気なく聞いたこの言葉だったが、加賀はどこか寂しそうな表情をして、ぼそりと呟いた。

 

「…そうね。もう三年を迎えそうだから、貴方は覚えていないかもしれないでしょうね。提督、貴方は以前、私を轟沈の一歩手前まで追い込んだことがある。その時に私を助けてくれたのが、この子」

 

「えっ」

 

その言葉に、俺は一瞬思考が停止した。それもそうだ。唐突過ぎて、その覚悟が追いつかなかった。

 

思い返せば、当時の俺は、現在の様に艦娘を大切に考えない時期が確かにあった。言うなれば、戦果に囚われた亡者だったわけだ。思い起こせば懐かしい、魔の2―4。其処を突破すれば一人前の提督だと、当時SNSや噂でそう言われたことが確かにあった。

 

即ちだ。俺はその一人前の提督の称号欲しさに、無理な行動をした。当時は大破撤退なんて情報がなくて、加賀以外の艦娘は全て平常だった故の行動だった。それに、おそらく当時の俺は百を得て一を失うことを考え、沈んでも致し方ない事だろうと、思っていたに違いない。それが最低の事だとわかっていても、当時の俺はそうしてしまった。

 

「か、加賀…その…」

 

俺は責められるのを覚悟した。たとえ戦績を残したとしても、今思えば後悔が残っただろう。今でもその事に後悔を抱いてしまったんだ。もはや加賀に上げる顔がない。

しかし、以外にも加賀は少し微笑み、首を横に振った。

 

「もういいのよ。もう過ぎたこと。それに、新人提督だった故のことよ。覚えていないのも分かっていたし、結果的にこの子に助けてもらったもの。当時は貴方に対して不信感を抱いたけども、今はもうないわ。むしろ、あの行動は当時の貴方を成長させた。そう思っているのよ。違うかしら?」

 

加賀の言う言葉は、おそらく本心からなのだろう。偽る表情をしているようにも見えないし、取り繕ったような言葉でもない。時間をかけて、出した結論のようだ。

 

それに、そういえばその際から俺は、大破撤退を心がける様にもした。同時期にそうした情報がちらほらと出て来たこともあって、反省して今に生かしたのは恥ずかしい過去だ。

だが、それでもこうした問題はきちんと解決したい。だからこそ俺は、口を開いた。

 

「いや、ちゃんと謝らせてほしい。…すまねぇ本当に…。痛かっただろう?苦しかっただろう?俺の未熟が招いた事だった。今後、絶対に強欲にはならないよ。戦果にね」

 

そういうと、加賀は少し呆れたような表情を見せたが、すぐに微笑んだ。

 

「もう良いのに。でも、そう言ってくれると、改めて提督を許す気にもなるわね。不思議な気持ちよ…。いいわ、許します。加えて、どうせなら言わせてもらうけど…もっと立派になって頂戴。まあ今のあなたなら、信頼できるけど」

 

「ああ、ありがとう。ははっ…なんかいきなり湿っぽい話になっちまったな」

情けないような表情をしているんだろうな、今の俺は。こう、顔が無理に笑おうとひきつっているのがわかる。

 

「さて…それで話を戻すのだけど、そのあと貴方は、当然私を入渠させた。艤装は修理に回されたけど、その際に私は艤装の破片を御守りとして持つことにしたのよ。それで、修理の際に変形したこの屑鉄を、私は持っていたわけ」

 

加賀も話を続けたいようで、聞く姿勢を俺は取る。ふむ成る程、経緯はどうあれ、そうして加賀は自らの艤装を御守りとして持っていたと言うことか。そうなれば、何故この破片に応急修理女神が宿っていたか、大よその答えが見えてくる。

 

「つまりだ。こいつはパーツとしての応急修理女神ではなく、分霊的な何かってわけか…」

 

妖精もとい、応急修理女神の分霊を俺は見る。彼女も俺を見つめ返して来たが、首をかしげた。あらかわいい。

 

「でも変なのよ…。その御守りを、私は現に御守りとして梱包して、貴方に渡すつもりだった。けど、辞めたはずなの。流石にまずいかと思って。…如何して服の内ポケットに入っていたのかしら?」

 

「ん…?ふむ女神よ。何か言いたそうだな」

 

俺と加賀が顔を合わせ、考え込むしぐさをしていると、ふと武蔵が妖精の動きに気が付いたようだ。武蔵は再び机へと脚を運ぶと、今度はメモ帳ごと持って、応急修理女神へと渡した。女神はメモ用紙の上をてくてくと歩いて鉛筆を動かし、文字を書いていく。

 

『わたしがはいりました』

 

と、ミミズの這ったような文が姿を現す。うん。意外にあっさり犯人が特定できたな。悪びもなく、普通に白状したな。

 

「ま、まさかあなたが…。でも私が持っていたころには、貴方が宿っていた事なんて知らなかったのだけど…それはどうして?」

 

加賀の質問に対し、女神は再び鉛筆を動かす。

 

『ずっとねてました。あとむこうのせかいにいけるときこえたので、いってみたかった。でもでれなかった』

 

そう女神は描き終えると、俺の方を見て再びむっとハムスターのように、頬を膨らませる。いやまあ、わるうござんしたね。てか、一般ピーポーはあんなもん着ないからね?コスプレになるからね?現代の世界じゃ。それに気が付いたの、ついさっきだからね?

 

「…つまりだ。俺がこっちの世界に来てしまったのって、こいつの所為なんじゃね?」

なんというか、色々と疑う要素がありすぎて困る。てか、決定でしょこれ。

 

「そこんとこどうなんですかね。明石さん」

 

「お、やっと私に話題振ってくれましたか。いやー忘れ去られてるのかと」

 

あははーと明石は能天気な様子で後頭部に手を当ててそういうと、「さて」と一つ咳払いをする。

 

「まあ大方答えに迫るような言葉が飛び交っていたので、結論から述べますと、おそらくご明察と言ったところでしょうか。まあ私も仮説の段階なので、確定とはまだ言えませんが、この仮説は極めて確信をついていると思います」

 

「お前も仮説の段階なのね。で、その仮説って?」

 

「ええ、まずコエール君が反応する存在…それは周知の通り艦娘に反応します。これは確定と言ってもいいでしょう。で、その判定基準ですが、おそらく艦娘に宿る御霊が関係していると思います。正確に言えば、艤装適正のあるヒューマノイドって感じですかね。私たちは、まあ純粋な人間ではないので」

 

すらすらと明石は言うが、その純粋な人間じゃないってのはどういう事だろうか。蒼龍や飛龍は、そんなことを言っていた記憶はないんだが…。とりあえず触れないでおこう。

 

「さて、それで私たち艦娘は要するにその艤装適正があるわけですが、ここでおかしいのは、提督が何故かコエール君の反応によりこちらに来てしまった。その理由は、まさしく妖精さんと、艤装の破片にあるでしょうね。妖精さんは普通、艤装や武装に宿る存在で、いわゆる御霊の分霊のようなものです。たとえ破片でも、どなたか妖精が宿っていれば、それは理論上艤装として分類されます。つまり、提督は艤装を装備して、且つこの世界で作られた服装と武器等を身に着けたことで、蒼龍さんや飛龍さんと同じような存在だとコエール君が誤認をしたんでしょう。そして、提督をこちらに召喚してしまった。ま、こんなところですかね」

 

途中から大学の講義を受けているような気分になったが、理解はできた。ねむくなったりはしてないぞ。つまり妖精さんの宿った破片を持ってたから飛ばされたってことだ。うん、かんたんダネ。

 

「…まあ妖精さんの所為ってことなんですかね。これ」

 

じとーって感じで、女神を見てみると、女神は口笛を吹く様子でしらばっくれた。こんのくそチビが…。かわいいのでゆるす。

 

「あーしっかしやらかしたなぁマジでさぁ…こんなことになるなら加賀には悪いけど、着なきゃよかったわマジで…。はぁー」

 

ため息も出ますよそりゃ。よかれと思ってやったことが、こうして取り返しの解かない事に飛躍してしまったわけですし。まあ数か月の遅れ―いや正確にはわからんけど、とりあえず行方不明による休校届けで、不幸な事故ってことで少しは大目に見てもらえるとは思うが…楽観視し過ぎだろうか?

 

「え、私たちは良かったですけどね。だって提督基本、私服しか見たことなかったですし、こうしてシャキッとした服装を着てる方が、やっぱりかっこいいですし」

 

そう明石はにこにこといいやがる。って加賀や武蔵も頷くなや。純粋に褒められるとこっぱずかしいったらありゃしねぇ。愛されてるって捉えて言いわけ?ライク的な意味でさ。

 

「はぁー。とりあえずどーっすかなぁ…。提督業やろうにも、俺ってば軍事的な事はプロと比べりゃ当然素人だぜ?そりゃあまあ現代でかじってはいたけどさぁ…」

 

「ふふ…そのためにこの私がいる。雑務などは任せてくれ。それに、何も指揮や書類整理だけが提督の仕事というわけではない。もっとも重要な事は、コミュニケーションだろう」

 

両手を腰に当てて、武蔵は堂々と言い放つ。んー要するに仲よくしろってことか?

 

「ま、やれるだけやってみますかね」

 

こうして、俺の鎮守府生活が始まるわけなのでした。まる。

 




どうも、飛男です。気ままに投稿継続です。

さて、今回もまたギャグ多めにシリアス少しって感じの構成になりました。2-4のくだりは、まあ実際にそういわれてた時期も確かにあったと思います。で、まあいやなことを思い出させてしまったのであれば、申し訳ありません。自分もその、被害者のようなものですので…。

では、今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。

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