武蔵は、なにを言っているんだろうか。俺は思わず、呆けた様に「は?」と呟いてしまう。
「いや、だから蒼龍は一緒に帰ってきてはいない様だったぞ。少なくとも、私の目には映らなかった。おそらく同室に居た、明石と飛龍も同じだろう」
なにを馬鹿な。コエール君は艦娘を送り送れる装置の筈じゃ無かったのか?なら、飛龍ならまだしも、俺が送られるなんておかしい話になる。寧ろだ、蒼龍こそこちらに送られた方が筋も通る訳で、つまり俺が送られてるならば必然的に蒼龍だって送られてなければ、おかしい話だろ。
「う、嘘だよな?だってさ、蒼龍は艦娘なんだぜ?おかしいだろ来てねぇのは…」
「と、言われてもな…。現に私は見て居ない。可能性があるとするならば…。今回、提督の様に別室で送られ、今頃気を失って発見できずにいる…くらいだろう。まあだが、本来送られて来たものはコエール君の前に現れる筈だ。つまり、その可能性は限りなく低いだろう」
なんだよそれ…。なんだか変な笑いがこみ上げて来た。そんな俺をみてたからか、武蔵と加賀は心なしか心配そうな目線を向けてくる。
「いやでもさ、それおかしくねぇ?なんでじゃあ俺は執務室に送られた訳?」
「そうだな、それは謎だが…恐らく『本来そうした人物が居るべき場所』に送られた…と、ふと思い浮かんだ説をあげるしかないな」
「はは…。そっかそっか。ふーん。提督は確かに、執務室に居るべきだよな。ははは…」
やばいな。乾いた笑いしかでてこねぇ。結構ショックが大きいぞ。てっきり蒼龍だって一緒に来てるかと、普通思うじゃないか。むしろそうなれば、まだこの不安定な気持ちだって治ると思って居たけど、うん。キツイなーこの現状。
「あ、あははは。いやーそっか来てないのかぁ。残念だなぁ。お前達にも蒼龍との関係を見せれるチャンスだと思ったのになぁ」
俺はそう言って、無理に笑って見せた。そうだ陽気に笑い、余裕があるように見せなければならない。俺はどうあれ立場上提督だし、意気消沈している姿なんて見せれるわけないよな。それこそ士気に関わることだ。常に平常心で、俺に身を預けている彼女らに不安感をあたえちゃいけねぇわ。
「…本当に大丈夫?」
加賀は今一度、念を押して心配してくれている。無表情ながらも、少し言葉にはそれを感じさせる優しさがある。いいやつばっかりだ。ほんと。
「おうおう。だいじょーぶだいじょーぶ。加賀のそんな顔見ると元気出ちゃうね。おじさん男の子。其れだけでも色々元気になっちまう。で、まあそんな事は重要じゃない。むしろ今重要なことは、原因解明かもしれん。なんで俺がこっちにこれたのかって言うね」
「…ああ、そうだな。私はすまないがそうした話はわからん。明石に聞いてみるのほうがわかるかもしれない」
何処か微妙な顔をしつつも、武蔵はそう答える。まあそうなるよな。コエール君の管理及び、把握しているのは彼女くらいだろう。あいにく、うちは統治の様に夕張ラブどころか、夕張すらいないって言う。マジ運がない。
「あ…。武蔵、そろそろ朝礼が始まるわ。どうするの?」
壁に掛けてある鳩時計をみれば、八時五十分を過ぎた頃合いだった。確か以前蒼龍から聞いた話だと、九時から朝礼があるんだったか。
「ああ、そんな時間か。さて、提督よ。お前はどうする?」
どうするって言われましてもねぇ。此処は参加すべきなのだろうか?でも、いきなり朝礼の前で出て来て、「提督ですよ」って言うのも…。
「どうしようか?参加したほうがいい?」
結局他人に判断を仰いでしまう。正直今更だが、俺って提督向いてないんじゃねぇかな。感情の起伏が激しいとはよく言われるし。
そんな俺の様子を見たからか、加賀と武蔵は顔を合わせると、呆れたような顔をした。
「ふむ、提督よ。それはお前が決める事だ。厳しい事を言うようだが、こちらに来てしまった以上、お前は此処のトップだからな。指揮官としての自己判断は、重要だ」
その通りだ。武蔵の言うことは正しいと思う。誰かにそう言われないと、気持ちの踏ん切りがつかなかった。何処と無く苦言を述べてくれるのは、彼女らしい性格だね。こう言う時は、頼りになる。
「うん。ならこうしよう。どうせ隠しきれるわけもない。武蔵、お前は俺が此処に来たって事を、あらかじめ伝えてほしい。だが、此処が重要。大々的にじゃなくだ。あくまでも話の流れで、自然に、漠然とした感じで頼む」
「ふむ?それはまた如何してだ?そもそも提督自ら出て名乗りを上げたほうが、いいのではないか?」
「いや、それじゃダメだ。いきなり俺の姿をみれば、恐らく先々から言うように混乱する者も出てくるはず。つまりさ、その覚悟期間を作ってやるんだ。そうなれば、混乱も最小限に抑えれるはずだろ?例えば提督が来れる可能性が出来たとか、嘘をついてくれ。…まあ嘘をつきたくないなら、そっちに判断は任せる」
人にはある程度の事実を受け入れるために、時間が必要だったりする訳で、大きい話をすれば死に関係する事だったり、小さい事ならちょっとした失敗だろう。別に達観した事を言っているつもりはないんだけど、これは確信を持って言えると思う。
つまりだ。これから起こり得る「俺が来た事実」を艦娘達に受け入れさせる為、まず起きた事実を口頭で伝えて、後に自身の目で見せる。こうするだけでも、あらかじめ聞いた事で相応の驚きに対する耐性がつくはずだ。それこそ、死に関してのことじゃないし、長い時間だって、いらないはず。
ただ此処で重要なのは、少しばかり事実を暈すことにある。事実を暈せば、核心は持てずとも、もしかしてと言った、曖昧な事実を植え付けることができる訳。たぶんだけど。だって俺、心理学専攻じゃないし。経験談だし。
「どう?できそうかな?」
俺の案を武蔵は聴き終えると、武蔵は口元をにやりと動かし、口を開いた。
「当たり前だろう?私は大和型の二番、武蔵なのだからな!造作もない!それに、その嘘は必要な嘘で、誰も傷つかないだろう?なら、一肌脱いでやろう」
ビシッと言い放つ武蔵。こう言う時は、頼もしい言葉だろうさ。たまに見せちゃう残念な部分が勿体無いね。
「ははっ…もう既に脱いでるじゃん。とか、言ってみたり」
「い、いや!これはそのだな…こうした格好は、嫌いか?」
急にしおらしくいう武蔵。いえ、嫌いじゃないです。かっこいいと思います。だから武蔵さんは、自信満々の状態でいてください。さっきの威勢が、どこか行っちゃうから。
「ふふっ…。少しは提督らしい事を言えるのね。ま、そうでもしてもらわないと、困るのだけど」
加賀も言葉こそこう言うが、笑顔を見せる。俺の提案には、賛成のようだ。いい部下を持ったって感じだなぁ。
「ごほん。では、私たちはそろそろ向かう。何、心配するな。この武蔵に任せてくれ!」
そう言って、武蔵と加賀は執務室から出て言った。現時刻は十時まであと二分くらいなんですが、大丈夫なのだろうか?
*
さて、外からは武蔵の威勢がいい声が聞こえてくる。朝礼の真っ最中のようだ。一応聞き耳を立てておくけど、聞いている限りは順調そう。まああの感じなら、ポカはしないだろうさ。
「さて、現状を整理するかな」
ぎしりと、俺は書斎椅子にもたれ、天井を見上げた。
まず、なぜ俺が此処に来たのか。コエール君に何らかの理由で、巻き込まれたのだろう。だが、その巻き込まれには蒼龍は入っておらず、俺と飛龍だけがこちらの世界に来たことになる。あ、飛龍は戻ったことになるな。
で、その理由は現在不明。おそらく明石に聞かなければ、その解明はできないだろう。むしろ明石ですら把握してないような問題なら、どうなるんだろうか。いやいや、今は考えないほうがいい。おそらく悲観的に物事を考えてしまう。思考の邪魔だ。
しかし、その巻き込まれた理由が、どうしようもなく解明できない場合なら、素直にコエール君がクールタイムを終えるまで待つしかない。いや、だがコエール君は艦娘を送り送られの装置だ。艦娘が亜人とは言わないけど、ガチ一般ピーポーな俺にコエール君が使えるかが問題になる。と、なれば現代に変える方法は無い。此処で提督として、生きていくことになるのだろう。
「…悪く無い話ではあるけど。俺はそれを務めれるのか?本来提督は、こんな簡単になれていいものじゃないしな。それに、蒼龍と一生離ればなれになるのか?…メタい話、ドロップすれば会えるかもしれないが、それは俺の知ってる蒼龍なのか?青柳龍子の偽名を持つ、少しばかり抜けていて、可愛いものに目がなくて、大滝ん家にいる鳳翔の様な、良妻賢母を目指す俺の知っている蒼龍なのか?」
いや、それは違う。間違いなくそれは、蒼龍では無い。強いていうなら、航空母艦蒼龍としての蒼龍だ。もっとも、不思議なことに蒼龍と飛龍が、このところドロップや建造で出たことがないんだけどね。仕様なら、結構恐ろしい事になってる気がするぜ。
「はぁ…何でこうなっちまった?確かに此処は理想の世界だろうけど、俺の理想とはかけ離れちまった…」
やっぱり心的ダメージは大きい。どうにも、思考が、悲観的にばかり考えてしまう。いや、そらまあ何事もなくコエール君が直って俺に使用できるのであれば、おおよそ一か月くらいで帰れるわけで、それまで我慢しろと言われれば、できなくない。いや、やっぱりできない。ダメだわ。
そうやってしばらく呆然と天井を眺めていると、胸元で何か動いている様な感覚を覚えた。…と、言うかこれ虫とかってレベルじゃねぇな。ぼけっとしててこんなことまで気がつかなくなってるらしい。やばい感覚死んでる。
「うわわ、こしょばい。てか、なになになに!?」
一人さびしく、騒がしくなる俺。と、言うかどうやら、内ポケットの部分で何かが跳ねている様だ。ってどこぞの某パッションな芸人の様に胸元を叩くわけにもいかねぇよな…。古いか。今のキッズにわかるのだろうか。あ、もしパッションを注入して中の、仮称生き物君が潰れたら、きっとグロ画像ですよ。
とりあえず、内ポケットに手を突っ込んでみる。どうやら何かが硬い物体が、動いていた様だ。…ん?待てよ確かに内ポケットには…
「お守りが入ってるよな…加賀はマジで何入れたんだよ!」
パワーストーンか何かだと思っていたが…。ともかくそう叫びながらお守りを取り出すと、袋越しに何かがもぞもぞ動いている様だ。うわっ!気持ち悪っ!?
「え、なにこれ。エイリアンの卵とかじゃねえだろな…。エイリアンって…あ、この資料で潰せるかな…?最悪武蔵から譲り受けた、この南部拳銃で殺すしかねえ…」
艦これの世界でまさかのエイリアンに殺されるとかどんなお花畑設定だよ。ともかく意を決した俺は、手元でもぞもぞ動いているお守りを机の上に置いてみる。そして仮称二、もぞもぞ袋くんを注視して身構えつつ、何かを見切ったかのように、刹那的に丸めた資料で思い切り、ぶっ叩いた。室内に、バチリと乾いた音が響く。
「…お、なんか動かなくなったな。もしかして死んだ?」
こう、血とか緑の液体とか飛び散らなかったが、もぞもぞ袋くんはお静かになられた。今はシーンとして、動かない。
「…中身が気になるんだよなぁ。なんだこれ」
とりあえず何が入っていたのか確かめるべく、書斎机の引き出しに偶然入っていたハサミを取り出し、もぞもぞ袋くんの上の方を綺麗に切り開いた。 そして、切り口を下に向けると、何か黒い塊がぽろりと落ちた。と、その刹那―パッと何かが光ったと思うと、人の形をした物体―おそらく俺の感性では人形と言わざるを得ないような物が、横たわっていた。
「…小人?ってあっ…まさか」
そんな乏しい感性な俺だが、そういえばと思い出すと、横たわる人形らしき物を仰向けにする。うん、やはりと言うべきか見覚えのある顔だこれ。いや、まあ同じ顔だけど。
「妖精だコレー!?」
俺、妖精と遭遇。いや、遭遇って言えるのかこれ?
どうも、そろそろ卒論きつくて鼻血でそうな飛男です。
息抜きのような感じで最近は作業しているため、内容が薄いかもしれません。どうか許してください。何でもは、しません。
さて、今回はシリアス?八割、ギャクっぽい感じ二割でしょうか。当初はもう少し内容のある話を書いていたのですが、そういえばと思い出した設定があったために全面カット。一割くらいの状態から、書き直した感じになります。まあ個人的には、納得できたかな?
では、今回はこのあたりで。
最後にお願いですが、『文字の指摘、誤字脱字の指摘』は個人のメッセージでお願いします。確かハーメルン、そんな機能ありましたよね?
また次回お会いしましょう!