提督に会いたくて   作:大空飛男

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それは、衝撃だった

さて、改めて現状を説明しておこう。俺は執務室の書斎机の下に隠れていたけど、バレました。あっという間でした。

 

取り敢えずバレてしまったからには仕方ない。ここは冷静に切り抜けなければ。後が怖い。割と今は、頭が冴えているな。

 

「か、隠れてたって…。え、あの、本当に提督ですか?七星望提督ですか?」

 

「如何にもだ大井。七星望中将…になるよな。提督兼自転車屋バイト兼提督である」

 

大井は驚きのあまりか敬語で訪ねてくるので、親身に答えてみる。まあ敬語だけどどうせ敬いを見せてないだろう大井の敬語も、この場合はガチ敬い語と化している。

 

っと、初霜が泣きそうな顔になりながら此方を見ているな。まあ止められなかった事に負い目を感じちゃってるのかも。うん、気にしないでくれと軽くウインクしておく。自分でやっておいてなんだが気持ち悪りぃな。男のウインク。

 

「ど、どうして…?その身形と言い、本当の提督みたいじゃない!」

 

「いや、そらおまえ俺は本当の提督。…に、なるの?いやわからん。一応登録上、そういうことになる筈。間違いない筈」

 

一応適性検査とか受けないで気軽に登録してデータ上は軍属になってると思う。あ、検査は受けたか、対象年齢的な意味で。

 

「そう…。わかったわ。ようこそと言えば良いのかしら?」

 

すると加賀が、おもむろに立ち上がると、スカートもとい袴を軽く払い始める。いつもの調子の物言いから文字通り落ち着いたんだろう。そうなれば此奴は話がわかってくれる筈だ。うん、普通の加賀なら。

 

「わ、わかってくれればおじさん嬉しい。そういう事だからさ。とりあえず騒がないでくれ。混乱を招きたくない」

 

「はぁ?もう提督がいる時点で大混乱なんですけど。どう責任とってくれます?死んでくれます?」

 

あーこの雷巡。なんつうかよくいるヒス女子高生ですねぇ。イライラしますが、俺とて大学生で男の子。それくらいの嫌味を言われても動じないわけでして。

 

「責任?んー今は取れないからツケといて。で、大井みたいに混乱しない様、今ここでそう促したわけでありますよ。OK?」

 

予想外な返しを受けた様で、大井は「混乱してないし、別に気にしないわよ」とそっぽを向いた。つけは帳消しになったかな。物分かりが良くて助かる。

 

「の、能代はまだ混乱中です。本当の提督なら能代どう接すれば良いか分からないです」

 

「それはまあいつも通りでいい。てか変に気を使われる方が逆に気まずい。さて…」

 

話に一区切りつける様に俺は言葉を切る。おそらく彼女らに色々と語ったところで埒あかぬ。とりあえず話のわかる――そうだな、鎮守府の仮代表である武蔵が来てくれると助かるわけだな。

 

「あー初霜ちゃん。さっきも言ったけど武蔵を呼んできてくれないかなー。あ、あとバレちゃったのは俺が我慢出来なかったからだ。だから気にするな。一応命令ね?」

 

親しみやすい口ぶりで初霜に言葉を投げかけると、初霜は俯いてやはり何処か申し訳ないと感じていた顔から顔を上げ、「はい!」と元気よくいうとその場から駆けていった。うん。いい子だいい子だ。

 

「…提督。私質問があるわ。よろしいかしら?」

 

「んー答えられる範囲ならいいぞ。っと、北上さんや、すまんが執務室の扉を閉めてほしい。頼める?」

 

取り敢えずの現状、総計五隻の艦娘にバレてしまったわけで、これ以上執務室に来られると火の如く噂が広まりかねないし、変な尾ひれも付きかねない。ので、一時的に初霜を除いた四艦を一時的にこの部屋へ釘付けにしようと考えた。んー別に両手に花どころか手持ちいっぱいにお花畑レベルではありますが、残念ならがそういう感覚は今んとこあまりない。断じてホモではないぞ。

 

「ほーい。これでいいー?」

 

北上は案外素直に聞いてくれて、バタンと執務室の扉を閉める。案外って言い方失礼かもしれない。思い返せば北上、結構いいヤツなんだよね。

 

「ちょ、私たちを隔離してどうするつもりです!?まさか…最低なことを…」

 

「はい、大井くん黙って。自分、蒼龍一筋なんでそんな気は起きません。もう少し煽り力、頑張りましょう」

 

実際そうだから仕方ない。そらまあ艦娘って総じてべっぴんしか居ませんがね。あくまでも誘惑されれば危ないこともありそうだ。男ですもの。だが、まあよっぽどのことがない限りはになります。

 

「む、どういう意味それ?てかなんで『くん』付け!?私は女として見れないほどブスってこと!?」

 

なんだこの生き物。うんなんだこいつ。会話がバッティングセンターのボール射出機かよ。なんか何処と無く若葉に…あ、妹の若葉に共通する部分があるな。まさに大いにめんどくさい。てか北上もにやにやしてないでくれますかね。

 

「んなこと言ってねぇよバカ。だから何しねぇってことだよ。で、加賀。質問ってなんだ?」

 

「ええ、その服。私が仕立てた物?」

 

「いぐざくとりー。よく寸法教えただけでぴったり仕立てれたね。そうそう、これ加賀の趣味なの?それならすごいわ加賀藩百万年無税」

 

まあ寸法さえわかれば仕立てられるとは言え、実際に素人がやるとうまくいかないもの。だがこれが問題なく着やすい物だから、その腕はプロ並みってことになる。ガチ嫁入り修行でもしてんのか。

 

「やりました。褒められれば気分も高揚するわ」

 

そう言ってにやりと、加賀は大井に顔を向けた。すると、大井は何処かむっと表情をする。意図不明。何故むっとする必要なあるのか。

 

「あ、そういや大井も…そうそう。球磨型のみんなも御人形さん作ってくれてたな。ちゃんと部屋に飾ってるぞ。それにみんなの訴え、ちゃんと答えただろ?」

 

一応あの球磨型人形ズはプラモなどを飾るスペースを開けて飾っている。以前若葉が「それくれ」とか吐かし言い争ったレベルにまあ愛着がある。それにちゃんと、育てましたよ球磨型。練度的には平均40くらいですけど…。

 

「え、あ、ああ。そう?なら良かったですけど。姉さんたちにも教えるの大変だったんですよ?それに…ふふっ…聞いて驚いてください。あの人形御は守りとして使えますからね?私の場合、中に大井神社の御守りが…」

 

なんだか得意げに話し始めた大井だが、ふとピタリとそれをやめ、再びそっぽを向いた。へえ大井神社ってことはあれか、艦内神社に倣ってなのか。もしかしてわざわざ取り寄せたとか?と、なるとかなり手が込んでたりするかもしれないな。気がつかなかったけど。

 

「ってそうだ加賀。俺の胸元にこれが入ってたんだが、これも御守りかなんかか?」

 

そうだそういえば、服の内ポケットによくわからん御守りらしき物が入っていたんだ。加賀に聞こうと思ってたし、ちょうど良かった。

 

胸ポケットからその物体を取り出すと、加賀は表情を少し歪めた。

 

「え…?」

 

「え。じゃないだろー。加賀が入れたんじゃないのか?だってお前が仕立てたんだろこれ」

 

そういうも加賀の表情変わらず、むしろ顎に手を当て、首をかしげる。ん?

と、その刹那だった。再び扉ががちゃりと音を立て、そこから人影が現れた。

 

「…まさか本当だったとは。提督よ、待たせたな」

 

室内に入って着たのはいうまでもない。褐色肌に勇ましく麗しい顔つきの武蔵であった。

 

 

*

 

 

武蔵が来たことで、大井と能代、北上と初霜は一旦この場から省かれた。武蔵は彼女らに自分が良いというまで俺が来たことを他言無用とし、しばらく自室待機を言い渡していた。うーむ的確な指示なのか?で、初霜や能代は命令に従順故に良い返事で答えたものの、大井と北上は何処か不服そうにしながらも、渋々了解したという感じだった。

 

それから、俺は書斎机に備え付けの椅子に座り、武蔵と加賀が、机を挟んで俺の前に立った。おお、何ともこう提督っぽくなった感じ。

 

「…さて、改めて言わせてもらうぞ提督よ。ようこそ大湊警備府へ。まさか貴様から赴いてくるとは思いもよらなかった。丁重な出迎えもできず、申し訳ない」

 

そう言うと武蔵は深々と頭を下げる。いやいやいやそんな大それた存在でもないし、来たこと自体はともかく、むしろこんな感じで良かったんだ。

 

「おいおいやめろよ武蔵…さん。顔をあげてください」

 

しかしまあ言い方が悪いけど、生きている武蔵を肉眼でみると、これがガチめにカタギではない印象を受ける。何と言うんだろうか、纏う雰囲気そのものが隣町にいるはちきゅうさんのそれだ。下品と言われようと玉が縮こまるわ。

 

「なにを言うか、頭を下げるのは必然だ!お前は提督だからな!私は申し訳ない一身なのだ!どうか好きなように罰してほしい!」

 

ぴしゃりと威厳を放つ様に言う武蔵。うーん間違いだと思いたかった。俺が半年くらい前のときに抱いた印象が。てか、加賀も若干「えぇ…」みたいな顔してるし。

 

「な、なあ加賀。ちょっと」

 

俺はそう言いながら加賀を小さく手招きし、寄ってきた加賀に屈む様に促すと耳元で囁く様に聞いてみる。

 

「な、なあ。武蔵っていつもこうなの?」

 

すると、今度は加賀が耳を貸すように促してきた。

 

「見たことありません。寧ろ、私も少し驚いたもの。どうにかして」

 

武蔵を見直せば、まだ深々と頭を下げている。んーなんかこの。んーとりあえず何か言わないと。

 

「あ、あー。んーそのですね。自分、あまり歓迎されると逆に恐縮してしまって、気分がよくなくなるかもしれないっす。だから、こんな感じで自分は十分満足なんで。いやほんと」

 

とりあえずこうでも言わないと、この武蔵は腹でも切り裂きそうな勢いがある。何と言うか、いろいろ残念な感じなのだろうか。ウチの武蔵は。

 

「そ、そうか?ふふん、流石は提督だ。真の男は静寂を好むのだったな。この武蔵、その意図を気づけず申し訳ない」

 

んーなんか駄目みたいですね。まあ、武蔵は色々と間違った知識を持ってるっぽいが、納得した様だしこれでいいか。

 

「さて、非礼を詫びた矢先だが、一つ質問しても良いだろうか?」

 

「なんで俺が此処にいるってことだったりする?その質問。だったら答えは一つ。わからん」

 

まあ多分そうだろうなーとか思いつつ質問を先んじて答えると、武蔵は心底驚いた様な顔をして目を見開いた。

 

「な、何故わかった!?凄まじい洞察力を持っているのだなお前は!流石はこの武蔵の提督なだけはある。私は誇らしい!」

 

いやー武蔵さんなんなんだろうこの…この…。取り敢えず当たってたらしいし、まあ予想は誰でもつくよね。バカじゃない限り。

 

「あー何はともあれ武蔵さん。自分がなんで此処へ来たのかマジわからんのですわ。で、本日コエール君により飛龍が帰って来てるはずだけど、どうなってるの?把握してる?」

 

「ああ!無論だ。飛龍は確かにマルハチマルサン(08:03)に帰投。今頃は思い出話をラウンジで話しているだろう。一応簡単な身体検査を行なったが、どこも問題は見受けられなかった。五体満足健康状態良好。ただ少し、太っていたな」

 

「ご丁寧にどうもですわ。って彼奴太ったのか…まあ最近狩猟ばっかりだったしな。運動もせずに」

 

「なに!?提督は飛龍に狩猟を教えていたのか!?なるほど、この武蔵も是非ご教授願いたいものだ。天性の狙撃手は、狩猟でその才能を開花させると聞く。私も自慢の主砲を確実に当て必殺を狙いたいのでな。ここは是非是非と言ったところだ!」

 

「えーあー。うん、武蔵さん。まあその、そう言う遊びなんですわ。いわゆるボードゲームです。室内で行う危なくなくて誰でもできる奴です。だから射撃の腕は上がらないかと。あと改善したいとは思ってるんですね」

 

「当たり前だろう!…しかしまあ…そうなのか。ふむ…それは残念だ…」

 

しゅんとする武蔵。あ、やべぇちょっと可愛いとか思ってしまった。ギャップ萌えって奴か。恐ろしい。

 

と、言うか蒼龍も狩猟に熱中してたし、太ったのは当てはまるんだよなぁ。そら本人の前では言わないけどさ、拗ねるし。まあ、あの子の場合胸の方にも行ってましたけどね。増してましてね。抱きついてくるときにまあよくわかるんですわ。

 

「っと、そうだ。蒼龍も一緒だったろ?なら今すぐ呼んでほしい。これからの事を話さないと」

 

一応、数ヶ月は此処に滞在することになるだろうから、蒼龍との関係をどう進めていくかが結構重要だったりすると思う。まず出撃だけど、怪我するところは見たくない。だが艦娘はこっちに戻れば戦う義務が生じてくる訳で、特別扱いはできないだろう。加えて俺と蒼龍がこう恋人っぽい行為を見せつけると士気の低下も生じそうだし、信用も失いかねない。まあそれこそ俺と蒼龍の関係は鎮守府全体には知られてるそうだが、それでも見て不快に思う艦娘はいるはずだ。特に大井とか。こう、目障りだとか言ってきそうだし。

 

「さて、どうしたものかな…」

 

「ん…ちょっと待ってくれ提督よ。なにを言っているか理解できないぞ。飛龍を呼んでこればいいのか?」

 

キョトンとした様子で、武蔵はそう言う。いや、いま蒼龍って言ったよな俺。聞き間違えたのか?武蔵は。

 

「いや、蒼龍だよ蒼龍。一緒に帰ってきてる筈だろう?飛龍もまあ呼ぶのはありか…」

 

「…そのだな。提督よ。もしや勘違いしているかもしれない。いや、その様だから言わせてもらうぞ」

 

少し気を使った様な武蔵声に、俺は思わず「え」と言葉を漏らす。

 

「蒼龍は、こちらに戻ってきていない。うむ、確かにコエール君の目の前に立っていたのは、飛龍だけだったぞ」

 




どうも、飛男です。まさかの連日投稿が可能になるとはおもわなんだ。

今回もまあ導入って感じでしょうね。あと数話くらい続くでしょう。いつペースが極端に落ちるかわかりませんが。

では、今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。

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