提督に会いたくて   作:大空飛男

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投稿が遅くなり、申し訳ございません。


コラボ10:伏見稲荷です! 中

おもかる石の結果を若干引きずりながらも、俺たちは次なる目的地へ向かうべく、歩みを進める。何度も言うが、所詮はまじないの類に過ぎないから。うん、過ぎない。

 

因みに、最後のキヨはというと、あいつの事だからまた「クッソ重テェ!」とか叫びやがるかと思いきやそうでもなく、むしろ「あ、軽くね?」と奴のキャラにしては珍しいことをつぶやいていた。いったいどんな事を願って持ち上げたんだろうか。商売繁盛かな?いや、でもこのにやにやとした顔つきを見ると、そうではないっぽいが…。

 

さて、そんなキヨの事などどうでも良いいだろう。おもかるいしから歩いてしばらくするとまず、一発勝負に掛ける際、参拝した方がいいとか言われている熊鷹社が見えてくる。ここもかなりの異空間っぽさが漂い、非日常な景色を求めるなら、個人的にはお勧めの場所。

 

次に三つ辻から鳥居のトンネルをひたすら上り続けると、三徳社に。そして少し上ると、やっと小休止ができるであろう、四つ辻に到着をした。

 

「おおー!これは絶景ですね!」

 

四つ辻に上がるや否や、俺たちの目に飛び込んできたのは、稲荷山から見る正面の京都だった。それなりに山を登っただけあってか、やはり相応の景色を拝むことができる。疲れがすべて吹っ飛ぶわけではないけど、多少は登って価値があるなぁと実感できるんじゃなかろうか。

 

「ヒィ、ヒィ。ちょっと休憩したいんですが」

 

と、ここ顔を歪めて汗だくのキヨが、しんどそうに手を挙げて意見してくる。まだ山の中腹なんですけど。大丈夫か…?

まあ、そんなキヨのように体力のない人のためなのかはわからないが、四つ辻を上がってすぐに、この稲荷山にはベストマッチな茶屋が二軒ある。まさに古き良き建物というべきだろうか。年季の入った木製の建物で、なんとも味がある。こういう建物を見るとわくわくしてくるよね。あ、しない?

 

とりあえずキヨのクールダウンを兼ねて、その風情ある茶屋で休憩を取ることに。しかし店内には入らず、茶屋の外に置いてある床几に腰を掛け、お品書きを確認。あんみつやら冷えた甘酒など、夏にはうれしいものが取り揃えてある。冬だとまた、商品が変わってくるのだろうか?

 

「あ、ラムネがある!私これにしよっと」

 

数ある品物の中から、蒼龍が目を輝かせ他のはラムネだった。いいねぇラムネ。このくそ熱い京都にはもってこいの代物じゃないか。のど越しに伝わる炭酸が、心地よいピリピリさを感じさせてくれ、気持ち涼しくなるよね。

 

「じゃあ、おれもそれにするかなぁ。あーキヨは?」

 

「俺もそれで…ってか、二本で頼むわ…」

 

いくら山の中といっても、やはり夏特有の熱気にやられてしまっているキヨ。それなりにごつい体格のくせに、あまり体力はないらしい。過去はそうでもなかったような気がするんだけど。まあ、アークスに力を入れ過ぎてるからなぁ。

 

「んじゃあ買ってくるわ」

 

と、茶屋へと入っていき、ささっとラムネ注文。どうやらビンをそのまま出してくれるようで、待ち時間などはいらなかった。

 

さて戻ろうとすれば茶屋の店内から、床几に座る蒼龍がちょうど見えている。それもそのはず、店へと入る入口すぐの、床几に腰を掛けているからだ。

 

しかし、ここで良く注視すべきであると論じたい。そう、境内の神秘さというか、現世から若干逸脱してる景色と蒼龍がマッチして、えらく見ごたえのある一枚になっているのだ。

 

客はちょうど蒼龍とキヨしかおらず、かつキヨは入り口側壁ではないため見えないから、その景色は蒼龍が独り占めしている様子。若干火照った感じに頬もほんのり赤く、何とも夏美人。そんな蒼龍を見ると、真夏に見かけた美人のお姉さんに惚れる、子供の気持ちが痛くわかるはずだろう。

 

それに乗じ、ここからは私的な感性になるが、蒼龍の汗ばんだ際の甘い香り。髪から感じる彼女特有の香りを思い出す。するととたんに胸がドキドキし始め、見惚れてしまいそうになる。いかんいかん。平常心平常心。

 

しかし、このままこの絶景を見逃す訳には行かないのが、俺の性格だろう。思わず、こっそりとスマフォを取り出して、ぱしゃりと一枚。今思えば、俺はこんな風に旅行を楽しみたかったかもしれない。京都に溶け込む蒼龍を、唯々記録に残したい。

 

さて、くどいとも思えるほど満足したことだし、ラムネのビンを両手で四本つかみながら、ちょっぴりいたずらしてやろうと、こっそりと蒼龍へ近づいてみる。蒼龍は景色に見とれているのか、気づいていない様子だ。よしいける。

 

「ハイ、ラムネもってきたぞ」

 

と、言いつつペタリと蒼龍の頬にラムネを当ててみた。

 

刹那―やはりというべきか、蒼龍は「ひゃん!」と、聞いただけで心奪われそうな愛くるしい声で、跳ねるように床几から立ち上がった。

 

「も、もぉ!何するんですか!」

 

「うははは、役得ってやつだな。冷たくて気持ちよかっただろ。ほれ」

 

思わず笑みがこぼれつつ、俺は蒼龍にラムネを手渡す。蒼龍は少しむすっとしつつもまんざらでもないらしく、「まあ、気持ち良かったけどぉ…」と言葉を漏らし、ラムネを受け取った。

 

しかし、いい反応いただけましたなこりゃ。これだけでも、稲荷山登った価値があるんじゃなかろうか。

 

え、それならいつでも、拝めるじゃないかって?ここでやるから意味があるだろうに。

 

「むー。お返し!」

 

と、内心ほっこりしている刹那に、蒼龍も俺の頬にラムネをぴとっと当ててきた。ひんやりとは言い難い、ピリッとした冷気に滴る水滴、そしてキンキンに冷えた瓶をもろに受け、びくっと体が跳ねる。

 

「お、おまっ…返してくるとは思わんかったわ…」

 

「ふふっ。これでお互い様でしょ?」

 

いたずらっぽく笑う蒼龍には、もう何もいうことはありません。むしろ、お返しされたことで、それはそれで心地が良い気分。完全に周りに糖分をまき散らしている気がする。

 

「かぁ~。おめぇらここぞとばかりにいちゃいちゃしやがってよぉ…」

 

そして案の定、糖分のくどさにやられたキヨが、けだるそうな一言。俺と蒼龍は「ははは…」と我に帰り、立ったままその場でラムネの蓋を開いた。

 

正直、キヨの存在を少しの間忘れてました。なんかごめん。

 

 

 

 

キヨは無事復活した様で、体力ゲージ行動は行動活動領域まで達したそう。お前はなんかのバトルロボかよと突っ込みを入れたい。ででんでんででん。

 

まあキヨも動ける様になったし、もはや長居は無用—と、言えなくも無い場所ではあるけど俺達一行は、時計回りの道なりを進む事とした。ここからはただただ再び歩き続けることになるけど、先ほどと違う点は木葉の密度。いわゆる緑生い茂る木陰道なので、先ほどのようにキヨもダレる確率は減るはず。寧ろ境内のこうした道ほど、雰囲気と相合致して、自然の風が心地よく歩くのが苦では無くなるだろう。

 

さて、その木陰道が続くルートは、続々と社が絶ち並び、観光しがいがあると思う。眼力社、御膳谷、薬力社、長者社など、社はそこまで大きく無いにしろ、何れも祀られているのは有難い神様がばかりだ。ここで一つ一つ念入りに参拝していけば、願いの内、一つを一柱の神様が叶えてくれるかもしれない。まあ、実際は神様の気まぐれだろうから、望み薄ですが。

 

と、まあそんな感じで、これから見え行く社を楽しみに歩いていると、本道から数分ぶりに朱色の鳥居が並ぶ社が見えてきた。あれは何社だったか?

 

「えーっとあれは…あ、大杉社か」

 

ばさりと地図を開き、俺はその名を確認する。しまったな、ここを忘れていた。どんな恩恵をいただけるんだろうか?

 

実際、俺も全ての神様がどんな恩恵を下さるのか、全て把握している訳が無い。なんたって八百万ですからね。あ、単純に八百万人いる訳じゃなく、要するに大まかな数字であり、その数がわからないって事。よろず屋とか、そういう語源からきてるはず。

 

「うーん。やっぱり不思議な感じがするなぁ。異世界の入り口みたい」

 

稲荷大社は先んじて言ったが、外人人気理由としてその異空間さにあると言う。まあこの朱色の鳥居群は見方と思考をファンタジックにさえすれば、まさに新世界の入り口と繋がる場所の様。鳥居を抜ければそこは別世界と、考えざるを得ない。

 

「そうだなぁ。高天原にでも続いている鳥居道が、あるかもねー」

 

だが、ファンタジックな思考よりも、神の住まう世界―高天原に続いていると考えるのが、俺の思考。と、いうかそう考える人が多そうだ。あくまでもなんの根拠も無い、妄言ではありますが。

 

「また望はそんな難しい言葉をー。って、私が無知なだけなのかなぁ…?」

 

ちょっと抜けてるというか、それが普通の思考なのかよくわからない事を言う蒼龍。

 

正直、一般人の何れだけが高天原を知ってるかわからない。つまりそれを知ってるのが当たり前と考えるのは、凝り固まった考えかもしれないな。

 

「安心しろ蒼龍。俺もわからんわ」

 

キヨまでもそういうか。うーん凝り固まった脳みそをほぐさなきゃいけないのかもなぁ。

だけれども、艦娘はそうした勉強はしないのだろうか?向こうの世界が日本のどの時代かわからないが、戦前、戦中なら勉強していてもおかしく無いとは思う。少々疑問が浮かび上がる。

 

「まあ高天原は神界だし、俺たちゃ行けないだろうねぇ」

 

そもそも行ったところで何もできないでしょうね。むしろ、行って何するんだ?神様に直接何かお願いでもするのか?神様はそんな便利な存在じゃないんだよなぁ。

 

「あ、じゃあその高天原じゃなくて、異世界に繋がってたら行きたいとか思う?」

 

あくまでも「異世界」押しをする蒼龍。高天原云々よりは、そっちの方が楽しい会話かもね。

 

「んー。例えばどんな異世界?」

 

「そうそう!モンスターとかはスライム状の生き物や、丸い体のコウモリとか!魔法はメラメラした炎の魔法とか、バギバギした風の魔法とかー」

 

「それ以上はいけない」

 

そろそろ怒られそうなので、あえて蒼龍の言葉を俺は遮る。今のはメラゾー○ではない。メ○だ的な。某龍なクエストの大冒険ですね、はい。

 

しかし異世界か。最近流行ってるよね、異世界。俺も中世期レベルの異世界行って、大儲けしたり、現代の知識を生かして圧制者に革命起こしたいわ―とは思わない。ま、実際そう上手くは行かないのが世の中の摂理ってもんだろうしね。そもそも、怪しいヤツだとしょっぴかれるのがオチだろうに。ああいうのはファンタジーだから、面白い。

 

それはさておき、そもそも俺にとっては蒼龍達の住む向こうの世界が、もはや異世界なんですけどね。そもそも現代に艦娘なんて、存在しませんから。どんな謎技術を使ってるんだよっと。全否定の様に聞こえそうだが、こうして現代に存在してしまってるんだから、決して謎技術では無いんだろうね。解明出来ませんが。

 

でもそう考えると、やはりそんな謎技術があるであろう異世界には行ってみたい気もする。ぶっちゃけると魔法とか、呪文とか、獣人とかだって見てみたいし。

 

「んー。まあ行きたいかもねぇ。俺も獣人っ娘とか見てみたいし。亜人種と触れ合ってみたいし」

 

亜人種ってなんかいいよね。理由とかは大いにあるが、やはり犬耳とか最高ですわぁ。

 

「え。そ、それはやっぱり困るかも…。異世界で…サキュバスでしたっけ?ああいうのに望を取られたくないですしね…」

 

蒼龍はそういって、苦い顔をする。いや、まあ心配しなくても俺はお前にゾッコンなんですけどもねー。…ってあれ。でもたしかサキュバスって…。

 

「あーれ?サキュバスって確か、夢でその人物が理想としてる女性を映し出すんだったよな…ってことはつまりよぉ」

 

どうやらキヨも同じ考えにたどり着いたらしい。つまりサキュバスが映し出す女性は―

 

「蒼龍になるな。うん。あれ?俺は夢を見せられてるのか?蒼龍サキュバスなの?」

 

と、言った結論に至るわけ。しかし、蒼龍はそれを聞くと、ぶんぶんと首を振った。

 

「ちーがーうー!私はそんなのじゃないもん!って…待って。それって結局うれしいことなのかな?これ」

 

むうと反論する蒼龍だが、思い直したのか首をかしげたのだった。




どうも、一か月ぶりくらいですね。飛男です。
今回は結構間が開いてしまいましたね。すいません。
今回は久々?のイチャイチャ回。一度書いてみたかった。夏のこんな感じの風景を。
では、今回はこのあたりで。またまた不定期になるかと思いますが、気長にお待ちください。

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