提督に会いたくて   作:大空飛男

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長らくお待たせいたしました。京都編。そしてたくみん2氏の作品である「旅館大和においでやす」のコラボ第一回目になります。

※今回は一万文字ほどで、普段よりもボリュームがあります。


コラボ1:京都へ行きます!

さて、住まう市を離れ、隣の市へ向かうといざ高速へ乗り込む。

 

ここから京都までは、ノンストップで進めばだいたい2時間ほどで着くらしい。まあまだ活気あふれる若者なんだけど、高速催眠現象とか気分的な疲れとか、様々なことを考慮すればもう少し時間はかかると思う。因みにお得な情報はなんだけど、通常料金ではそれなりに高いのだけど、ETCを使うことで多少は安くなるとか。おそらく人権費を含まない値段なんだろうから、お金のない学生にはずいぶんとありがたいことだね。と、言うか電車を使うよりも、こっちを使った方がやはり正解だったかもしれない。

 

「んふふ~ジャズは心が落ち着きますねぇ」

 

助手席の蒼龍は心地よさそうな顔をしながら、内蔵スピーカーから奏でられる金管楽器の音を楽しんでいる。確かに言うまでもなく心落ち着くし、個人的にもリラックスをしながら運転ができるんだよねぇ。恋人同士が好みの音楽を共通できるのは、やっぱりいいことなんじゃなかろうか。

 

まあでも、それを共有できないものはいるわけで、実際後ろの方々は、割と暇そうな顔をしているだろうね。

 

「あー私はロックな感じの音楽がいいなぁー。ねぇ?キヨさん」

 

そういって、飛龍はキヨへと話題を振る。まったく子供かよ。ジャズの良さがわからんとは…。と、まあ俺もただ好きなだけなんだけどもね。どう好きかと聞かれれば、深く答えれないにわかくんだったりするし。

 

「いんや、俺は好きだね。まあでも、せっかくの旅行だし、もっとアゲアゲな音楽にしようぜと言いたいのは分かる。だから、間を取ってラジオを聞くのはどうだ?」

 

キヨの提案は、良い判断だろうね。ラジオなら多種多様な音楽が流れるはずだし、加えて最近の流行も耳に入る。でも問題は、気が散るんだよねぇラジオって。ニュースとかは別だけれども、商品紹介とかは本当につまらない。あくまでも、個人の意見だけど、わかってくれる方は多いはず。

 

「蒼龍どうする?変えて良いなら変えといて」

 

正直この際、俺もどうでも良い。結局俺は聞き流すだけだし。と、言うわけで蒼龍に判断をゆだねてしまおう。あくまでも運転に集中しているし、聞き入ることはないからね。

 

「まあここは二人の意見を尊重しましょうかね。えっとこうして…ってあれっ?」

 

ぴっぴとカーナビをタッチして、蒼龍はラジオへと変える。割と助手席へと乗っているけれども、操作をたまにしくじり、あわあわとするところはやはり蒼龍というべきか。ともかく横目で見てて、危なげなんだけどもちょっぴり心がほっこりとする。でも、いい加減慣れようか。

 

やっとの思いで蒼龍がラジオへと変えると、陽気な男性の声が車内に響く。どうやらラジオ特有のお便りコーナーをやっているらしく、電話をつなぎながら、会話を行っていた。

 

「そういえば私、こっちの世界でラジオ聞くの初めてかも。むこうのとは違うなぁ」

 

飛龍は興味深そうにつぶやく。まあ平和な国だからこそ、こんなバカけたトークが出来るんだろうね。しかし、向こうのラジオも聞いてみたい。どんなことを放送しているんだろうか。

 

そのまましばしラジオを流していると、気になる話題が耳に入ってきた。

 

『最近の若者では、第二次世界大戦時の船をモチーフにしたゲームが流行っているそうですねぇ。いやー、世の中わからないものですな!』

 

これはつまり、『艦これ』のことを言っているんだろう。まあ、向こうにはいわゆる『世界』が存在しているんだけれど、あいにくそんなことを知っている人間は、世界的に見てもほとんどいないだろう。それこそ、一握りか。

 

「そういえばキヨさんって、提督なんでしたっけ?」

 

そんなラジオトークの話題から思いついたのか、ふと飛龍が、キヨへと問う。キヨは生憎元だけど。

 

「まあね。正確に言えば『元』だったかな。実際、俺は陸の方が好きなんだけど。でも、最近は復帰したよ」

 

意外な言葉に、俺も純粋に驚きが、顔に出たはず。以前は「飽きたわ」とか言っていたのに、どういう風の吹き回しなんだろう。

 

「復帰されたんです?」

 

俺も蒼龍にはたびたび言っていたんだけども、それゆえか蒼龍は黙っていれず、口にした。俺もなぜかは気になるし、耳を傾けてみる。

 

「…ああ、なんというかさ…蒼龍達に出会って、俺も放置していた鎮守府が気になっちゃったんだわ。と、言うか悪いと思ってな。あれだけ親身になって皆と接していたが、急にいなくなるなんて向こうは寂しいはずだろ。それに、むこうに世界があるってわかっちまったんだしな、たとえ声は届いてなくとも、サービスが終わるまで、付き合っていくつもりだ」

 

事実こうして蒼龍や飛龍がいるんだから、向こうに居るキヨの鎮守府メンバーだって、血が通っているんだろう。そう考えれば、自分の飽きで顔を見せなくなってしまうことは、必然的に面目ないと感じてしまうはずだ。特にキヨは義理や人情がなんだかんだ言って深い奴だし、そのまま放置ってわけにもいかなかった。そのはずだ。

 

「そうですかー。それで、皆はなんといってたんです?」

 

バックミラーでふと見れば、飛龍はキヨの言葉に感心したのか、言い寄っていた。それに対し、キヨは若干身を引きながら、答える。

 

「お、おう。そうだな…久々に迎えてくれた雷は、俺の母になってくれる存在と感じたよ」

 

その言葉に対し、まあ言わずと周りの空気は凍り付いた。せっかくいいことを言ったのに、それで台無しだわぼけぇ!

「お、お前加賀さんが好きだって言ってなかったけ?」

 

「うん。好きだよ。でも、母にはなれなかったな」

 

つまりどういうことだよ。と、いうか加賀の方も十分母性がある気がするんですが。、あ、いや。彼奴は愛人寄りか。…全国の加賀さんファンさん。ごめんなさい。個人の意見です。と、言うか偏見です。

 

「うげ、キヨさんってまさかロリコンだったの?」

 

先ほど言い寄っていた飛龍は打って変わって、まさにうげっと身を引いた。俺が隣でも、そうなるわ。

 

「ふふっ…俺の目標…と、言うかあこがれの人は、通常の三倍を好む人だからな」

 

不敵な笑いを浮かべながら、キヨは言う。その人同時にマザコンでもあるんですよね。つまりキヨは、幼女で母性の強い人が好みなの?それってただの変態じゃねぇか!ロリコンでマザコンっていろいろと終わってるじゃねぇか!

 

「うーん。その言葉どこかで聞いたような…。それに通常の三倍って…」

 

蒼龍はうーむと腕を組んで考え込む。まあそうだろうね。だってお前、以前俺と一緒に見てたしね、元ネタ。長門なら石ころ押し返せるんじゃないですかね。

 

「ともかくだ。これからも細々と続けていくつもりさ。雷と…いや、あいつらと一緒にな。ま、こっちに来られたらそれはそれで困るけど。コエール君なるものが無いとダメなんだろう?うちには無いと思うし、少々残念ではあるが…」

 

キヨは俺とハ○チを繋いだこと無いし、感染しろってのが無理な相談だろう。それに、ハ○チを繋いだとしても、確実に流出するとは限らないだろうし。明石だって対策を施しただろうし。

 

「でも、キヨさんの声も、きっと届いてると思うなぁー」

 

そんな事を思っていると、蒼龍は懐かしそうな口ぶりで口を開いた。

 

「私だって、毎回望に声をかけてもらってたもの。きっとその時、望は聞こえてないと思っていたけれど、私には…私たちには確実に届いていたもの。だから、きっとキヨさんの声も届いていると思うなー」

 

今思えば恥ずかしいことだったかもしれないが、同時に良かったと思える行為だったかもしれない。現にそうした何気無い独り言が、俺と蒼龍を結んでくれたしね。ただのイタい奴だけれど。日本には言霊というものがあってだな…。ともかく聞こえていないと分かっていても、言葉には力があるとか思うじゃない。

 

「あー。私も良く言われたなぁ。なにやってんだお前はとか、バカやろーとか。まあ被弾して戦闘できなくなったら、バカやろーって言いたくなるだろうしねー」

飛龍は俺の突かれたこく無い事をニヤニヤと言う。そら人間だし、ふと言いたくなりますわ。でもはい、反省しています。そういうところは、今後気を使います。

 

「はは、なんかそう言われると、いずれ雷がこっちに来てくれるかもしれないな。毎日、ママとか言ってるしな!」

 

ウハハと笑いながら、キヨは嬉しそうに言う。…お前には悪いけど、それはさすがにドン引きだわ。

 

 

 

 

それからしばらくして、ヘルブラザーズの方からSNSが届いた。

 

言わずと分かると思うけど、俺は運転中で手が離せないから、蒼龍に読み上げてもらった。内容は曰く、腹が減ったからパーキングスエリア(以下PA)によりたいとのこと。まあ俺もトイレに行きたかったし、個人的によりたいという願望もある。なんかPAって、ワクワクするよね。

 

「望。PAってなに?」

 

蒼龍は不思議そうな顔で、俺へと答えを求めてくる。恒例行事というか、これにも慣れたね。

 

「えーっと、PAってのは、簡単に言うと高速道路にあるお店だね。規定とかはないけど、だいたい15kmおきに設置されてるらしい」

 

ちなみにPAの他にサービスエリア(以下SA)と言う施設が存在あるが、明確な線引きはないみたいだ。だけれどもSAの方は大きく、PAは規模が小さいものを指すのが一般的らしい。それでもSAよりも大きなPAもあるみたいだし、ずいぶんといい加減な通説だったりもする。

 

「あ、そういえばこの先にでかいPAあったよな。たしか長嶋PAだっけ」

 

地図を見れば、まさに次のPAにその名前があった。長嶋って言うことは、遊園地とかあるレジャー施設を思い浮かべるが、ここもその一環なのかもしれない。

それから数キロ車を走らせると、標識にPAの文字が見えた。すでにヘルブラカーには連絡が行っているはずで、CX-5はPAへと入っていく。

でかでかとした駐車場へ俺はCX-5を止め、外へと出る。次いで蒼龍と飛龍、それにキヨもそれぞれ出てきて、俺を含む全員は体を伸ばした。キヨ、お前もか。

 

「んーやっぱり長時間の運転はタルいなぁ」

 

そんなことをつぶやきながら、俺は全員に目を合わせると、店の方へと歩くように促す。

 

「お疲れさま。あとどれくらいで京都に着くの?」

 

蒼龍は俺と並んで歩きつつ、俺の顔を覗き込むように聞いてきた。ぐっと体を前に出すその仕草は、彼女の着る服とマッチして、かなり魅力的。うん、やっぱりデパートまで買いに行った甲斐あったね。

 

「そうだなぁ。ちょうど中腹くらいか?」

 

カーナビに記されていた情報では、ちょうどこのPAが真ん中だったはず、つまり先ほど言った15km感覚で設置されているPA、SAを考えると、京都まであと半分だと言うことだ。

 

「まだ半分もあるのねー」

 

「そうだなぁ。まあ正直ここまで長距離運転をしたことが無いから、ちょっぴり心配だったけど、ここまで来れれば気持ち楽だね」

 

正直今日この日まで高速道路に乗ったことは、自動車学校以来だったりする。まあそこまで遠出することが少なかったし、遠出と言っても、県を数個跨ぐような場所へは、行ったことが無かったり。

 

しかし、あの頑固な親父が良く許してくれたもんだ。最初この話を切り出したときは何かグチグチと文句や否定的なことを言われ、最終的にうやむやにされ、やめさせてくるかと思ったが…。あの人曰く、『若いうちにそういうこともやっておくべきだな』と、何時に増して珍しく、許可をくれたからね。今でも内心、驚いてはいる。やはり蒼龍と飛龍効果が、大きかったのかもしれない。

 

それからPAの店前でヘルブラ達と合流すると、朝食を取ることにした。できるだけ軽いものを食べようと思ってはいるけれど、PAの売店って結構おいしそうなものが並んでいるし、ついつい食べたくなってしまうよね。牛串とか夏場では見ないけど肉まん豚まんとか。ともかく嫌な言い方をすれば、お金を落としてくれるように頑張っていると言うことですね。はい。

 

さて、そんなお金云々のことはいいとして、俺たちは入るや否や、フードコートで適当に席を取ると、総勢八人は食券を買うことにした。先頭は俺から始まり、蒼龍、飛龍と後の5人が続いている。

 

とりあえず俺は、このPAで名物だという伊勢うどんのセットを頼んでみた。個人的には地元名産のきしめんが麺の種類だと好き。でも、あくまで地元品だし、ここには置いていないだろうね。悲しみ。

 

「あ、望うどん頼んだんだ。じゃあ私もそれにしよー」

 

食券を買い終わると続いて蒼龍が買うことになるが、彼女も俺に便乗してか同じものを頼んだ。別にそこまで一緒にしなくてもいい気がするんだけど。こうしたことが、蒼龍にとっては恋人らしいことだと思っているのかもしれない。ピュアというか、なんというか。

 

 しかしながら、そんな蒼龍の行為に神様が微笑んでくれたのか、俺とほぼ同時に料理を受け取ることができたのは、まさに幸運だったのかもしれない。と、まあ同じものを頼めば、それもそうか。

 

「さてと、じゃあ先に食べてますかな」

 

俺と蒼龍以外はあいにく違うものを頼んでいた故に、少々料理が出るのにズレが生じているようだ。受取場に居る飛龍の視線を一瞬感じたが、特に意味はないだろうと、蒼龍へと視線を向ける。

 

「では、いただきますか」

 

「はい。いただいまーす!」

 

初めて口にした伊勢うどんは、どことなく麺が堅かった。

 

 

 

 

さてさて、早々に朝食を食べ終わった俺と蒼龍は、長嶋PAをぶらぶらと歩くことにした。

 

飛龍を待とうとはしたのだけれど、彼女は「二人でどこかへ行ってきなよ」と、変なものでも食ったの?と言いたいほど気の利いたことを言ってくれたので、今に至るというわけだ。

 

「お土産屋さんですねぇ」

 

蒼龍の目に入ったのは、どうやらPA特有の土産物コーナーだ。まだまだ京都へのたどり着いてはいないのだが、ついついと目が行ってしまうのは商品陳列の作戦に、まんまとはまっている証拠だろうね。悔しい。

 

「あ、これおいしそう」

 

「あーそれよく見かける奴だ」

 

信州土産としては定番だろう、リンゴのハイ〇ュウ。確かにおいしいんだけど、小さいころよく信州方面へ旅行へいったからか、食い飽きているんだよねぇ。てか、ほんと東海三県のSA、PAにどこでもあるな。

 

まあでも、蒼龍は食べたことないだろうし、道中のおやつとして買っておくのもいいかもしれない。こうしたトラップ、本当にずるいもんだ。

 

「たべたいなぁ…その、私買ってきてもいいですか?」

 

やはりというべきか、蒼龍は目を輝かせて俺へと言う。どうぞ、ご勝手に。まあでも。

 

「いいけど、京都へ着いて、欲しいもの買えなくなってもしらんぞ」

 

「あはは。そ、それは困るなぁ…うーん。でもおいしそうだし…」

 

じーっと箱を見つめる蒼龍。うごご、やめてくれ、その仕草は俺の財布を緩めてしまう。

 

「…俺も久々に食ってみようかなぁ。よし、じゃあ買うかぁ」

 

と、蒼龍の思惑通りになるのがこの俺である。まあ600円くらいだし、まだ慌てるような金額じゃない。今の俺に盛大な先ほどの俺から盛大なブーメランがとんできそう。

 

「い、いや。さすがに申し訳ないというかなんというか…。あ、じゃあこうしましょう!」

 

蒼龍はひらめいたように言うと、肩掛けバックから財布を取り出して、300円を俺の手元へと渡した。

 

「割り勘ってやつです!」

 

にこっと笑顔で言う蒼龍。確かに妙案だろうけど、これは男としてどうなんだろうか。いや、でも蒼龍がそうしたいというなら、素直に行為を受け取っておくべきか…。うーむ。

 

「…いや、こうしよう」

 

と、俺は蒼龍に百円玉を手元へ渡す。

 

「俺が四百円だすから、蒼龍は二百円ね。くっそ小さい見栄を張らせてくれい」

 

蒼龍は受け取った百円玉を確認して顔を上げると、俺に対し苦笑いを送ってくれた。

 

「もーそういうところが頑固なんだから―。ま、でもそれを立てるのも、恋人のつとめね。わかりました!」

 

なんだかんだ言って、くだらない俺のこんな行動を笑う蒼龍が、なんともありがたい。本当に自分で言うのもなんだけど、良い恋人だと思うよ。

 

「んん…?あれって」

 

蒼龍を見ながら和やかな気分になっていると、蒼龍が俺の奥を、何かを見つけたように横から見越した。何だろうかと俺も振り返ると、そこには―

 

「…足湯?」

 

 

 

 

確かに、見た限りこれは足湯。木造の浴槽らしき場所に張ってあるお湯といい、間違いないだろう。

 

「ふつう、PAには足湯があるんですか?」

 

若干苦笑いに、蒼龍は聞いてくる。変に誤解はするよね、やっぱり。

 

「いやいや、まさか。むしろ珍しいわ」

 

これは後でわかったことだけれど、どうやらこの長嶋PAにはこのように足湯が設置されているらしい。一風変わったこの設備は、PA利用客の間で人気だという。確かによくよく考えれば、長嶋には温泉施設もあるし、PAにこうした設備があってもおかしくないのかもしれない。

 

「どうします?せっかくだから浸かってみます?」

 

「そうだなぁ。うん、そうしようか」

 

なんかこうした施設があると、使わなければもったいないと思うよね。と、言うわけで京都へ行く前だけれども、浸かってみよう。しかし夏場なので、ぶっちゃけ季節感ないなぁ。

 

もわもわと立ち込める湯船に俺と蒼龍は足をいれる。人肌より少々暖かい温度が足へと伝わってきて、まさに気持ちが良い。だが、同時に熱い故に汗ばんでもきそうだ。

 

「ああ…気持ちがいいですねぇ」

 

和やかな顔をして、リラックス感マシマシの蒼龍は、つぶやくように言う。足湯でこれだから、温泉に入ったらどんな反応をするんだろうか。ま、みんたく曰く混浴ではないらしいので、見ることはかないませんけどね。残念。

 

「いやー正直足湯を使ったのって何年ぶりだろ。下呂へ旅行に行った小学生の時か?」

 

小学生の頃は、今思えばよく旅行へ連れて行ってくれたものだ。家こと七星家は割といろいろな場所へと旅行するからね。グアムで銃を撃ったこともあったなぁ。あ、射撃場でね。

 

「下呂ですか。いいですねぇ。下呂も行ってみたいです」

 

蒼龍はひょっとして温泉好きなんだろうか。いいよねぇ温泉。赤城や加賀も好きそうだし、空母勢は全般好きそうだ。そう考えると、風呂が長いのも納得できる。ひょっとして入渠所って、スーパー銭湯のような娯楽施設なのかもしれない。

 

「でも、バケツって何のためにあるんだろ…」

 

「え?なんです?」

 

どうやら思った事が、口に出てしまったようだ。とりあえず「いや、こっちの話」と、ごまかしておいた。って、別にごまかさなくてもよかったかもしれない。

 

それから5分ほど湯船に足を浸けていると、店の方から聞き覚えのある声が耳に入った。

 

「おおん?七星と蒼龍じゃねぇか」

 

「おほー。こりゃお二人仲良く、リア充してますなぁ。んんん」

 

厳ついエセ江戸っ子口調の浩壱と、隣には健次だった。こいつらも、おそらくこの足湯が目に入ったんだろう。

 

「どこにいるかと思えば、先に浸かってたのか。かぁー先越されちまったなぁ」

 

がははと笑う浩壱。口ぶりからして、どうやらここに足湯があることを知っていたらしい。こいつらはこういう穴場的な場所を、探しては利用する抜け目ない奴らだ。来たからにはめいっぱい楽しむのが、モットーらしい。

 

浩壱と健次は俺たちの真正面へと腰を掛けると、まさに顔つき通り「うぃ~」とオッサン臭い声を出す。気持ちいのは分かるが、正直周りの目が痛いし、恥ずかしいからやめい。

 

「しかし…あと半分だな。みんたく、元気にしとるかねぇ」

 

懐かしみを含んだ声で、健次がつぶやいた。確かに去年は高校生で、進路は大丈夫だろうとか言っていたのだけれど、冬に彼から「浪人なう」とネットスラングでいう「草生える」で報告をしてきた。だが、それから夏に入りたて―7月ごろには旅館へと就職したとかいっていたもんだから、奴もいろいろとあったと思われる。てか、大学はどうしたんだ。

 

「自暴自棄になって旅館へ行ったとは考えられんしなぁ。何かあったとしか思えねぇ」

 

「まあ、とりあえず会えばわかるさ。それに、確かめたいこともあるからねー」

 

以前も話した通り、奴には高確率でコエール君の設計図が流れたと考えられる。だがそうなると一つ気掛かりなのは、なぜ奴がそれを報告してこないのかだ。まあ俺や統治、それに大滝と同じく面倒ごとを起こさないためだろうけどね。そもそもこっちも念のため報告を控えていたし、お互いさまと言えばそうなのだけれども。

 

「確かめたい事…ああ、なるほどな。まあ、向こうがそうじゃなかった場合、伝えない方がいいだろうよ。ばれる可能性は、無きにしも非ずだが」

 

俺の言葉に合点がいったのか、いつになく真面目な顔つきで言う健次。地元メンツは、基本根は真面目な奴ばかりなんだよね。まあ、大学メンツもそうなんだけど。

 

「ともかく、あってみなきゃわからねぇな…。うし、そろそろ行こうか」

 

と、俺は立ち上がろうとする。正直そろそろ、熱くなってきた。

 

「もう上がるんです?」

 

若干名残惜しそうに蒼龍は顔を向けてくるが、今は夏だし、そこまで長居する意味ないよね?

 

だが、再び店の入り口方面から聞きなれた声が聞こえてきた。まあ言わずと統治と夕張、それに飛龍なんだけどね。おそらくもう少しだけ、浸かってなきゃいけなさそうだ。

 

 

 

 

さて、なんだかんだで長嶋PAから発った俺たちは、京都東ICを降りて京都へ入ることができた。約一年ぶりの京都だ。しかし、以前は京都駅で目的地到着だったが、今回は車。そう、ここからが本番―と、言うか道のりはまだ続く。

 

みんたくが勤める旅館は、源義経が幼少期の頃―牛若丸に剣を教えたとされる天狗を祀った某神社方面で、ここからさらに一時間半くらいはかかる。つまり詳しく言うと、ここでやっと半分なのだ。

 

あーだこーだと文句を言う飛龍をなだめつつ、CX-5は京都の街並みを走りゆく。蒼龍はそんな歴史的景色を見て目を輝かせている様子で、早くこの街並みを歩きたい様子だった。

 

それから町を抜け、しばらく進むと山が続くことになる。向山と竜王岳の間を進んでいき、鞍馬山の近くまで来た。そして―

 

「やっと着いたな」

 

ついに、目的地の旅館へとたどり着くことができた。旅館名は『都』と言うらしいが、都より離れてるんですけどそれは。と、まあそんな疑問を浮かべつつ、駐車場へと入っていく。すると、2人の人影が見えた。

 

「あれがみんたくさんです?」

 

助手席の蒼龍が、その二人に対して指さした。どこか童顔だが、眉毛がきりっとしていて、メガネをかけてもなおなかなかに整っている顔立ち。まさしくみんたく―本名、北大路拓海の姿だ。町を抜けて「もうすぐ着く」と連絡しておいたから、待っていてくれたんだろうか。

 

「ああ、あいつがみんたくだよ。俺と同じく、奴も提督業をやっているからな。くれぐれも自分の身分。明かすなよ」

 

何度も言うように、彼も提督だ。みんたくも蒼龍や飛龍のように、俺とハ〇チでつないだ以上、だれかが来ている可能性はあるだろう。だが、現状それがわからない故、蒼龍と飛龍の身分を明かすわけにはいかない。とりあえず蒼龍はポニーテールにダテメガネ。飛龍には帽子を深くかぶるようにと、変装をさせてはいるが…。できるだけ、みんたくに悟られないようにしなければな。

 

「わかりましたー。それにしても、なんか提督よりもかっこいいですねぇ」

 

「まったくなぁお前は…。まあでも、それは認める」

 

飛竜と、そんなやり取りをしている矢先、拓海もこちらに気が付いたのか、隣の女性へと何かを指示を出したようだ。女性はあわただしい様子を見せて、フロントへと入っていく。まあ手を煩わせるのも悪いし、早いところ荷物を下ろしてやらないと。

 

旅館のフロント前で車を降りると、みんたくが駆け寄ってきた。旅館の従業員が着る羽織姿の彼は、割と汗を掻いている。おそらくそれなりに長く、外で待っていたのだろう。

 

「おう、久々だなみんたく」

 

「いやーほんとですわ。そっちも元気そうっすね~。しかし、連絡が来てからそれなりに時間がかかったみたいですけどぉ?」

 

どうやら予想通り、長らく外で待っていたようだ。とりあえず「すまねぇ」と誤っておく。まあ京都へ車で来るのは初めてだし、割と迷ったんだよね。交通量も多いし、軽視してなかったと言えば嘘になる。

 

「まあ、いいですけど。仕事なんで。とりあえず、荷物はあの台車へと乗せてください」

 

みんたくもとい拓海はそういうと、先ほどの女性職員が持ってきた台車へと指をさす。就職して一か月ほどだろうけど、なかなか板についてきているらしい。感心感心。

 

しかし…あの作業員なんか見覚えがある気がするな。えりあしで結ったツインテールに枠の太いメガネ、おそらく女性用の従業員服であろう着物姿ではある。京都在住の知人はそれこそ拓海だけだから知り合いと言うわけではない。どちらかというと彼女の姿はどこか偽物のような…。そう、彼女にすべてがなじんでいないように思える。

 

「あの、どうしました?」

 

若干引きつった顔をして、拓海が声をかけてくる。おそらく、仕事を早く終えたいんだろうと思い、窓ガラスを叩いて中にいる蒼龍、飛龍、キヨを呼び出す。

 

「んー。気持ちがいいですねー!自然豊かで、気持ちがいいです」

 

蒼龍は車から出るや否や、周りの景色を見まわした。一時間半近く車の中にいたんだから、そう思うのは必然だろうね。それに加え山に囲まれているんだから、より一層それを感じることができる。

 

「…あれ、この声どこかで」

 

ふと、隣の拓海から独り言が聞こえてきた。やはり、さすがは提督か。蒼龍の声に違和感を覚えたようだ。

 

「うっし、荷物下すか。えっと、龍子ちゃんと龍美ちゃんは俺が出す荷物を受け取ってくれ。七星、さっさと下すぞ」

 

そんな若干の焦りを孕んでいると、助け舟如く先に車のトランクを開けたキヨが指示を出してきた。まあ的確ではあるし、反論する意味も無い。とりあえず言われた通りにすべく、それぞれ持ち場へ着くと、バケツリレーの要領で荷物を下ろし始める。正直蒼龍と飛龍は見ているだけでも良いと言いたいが、それは承諾しないだろうね。彼女たちの性格的に。

 

「あの、手伝いましょうか?」

 

すると、先ほどの女性職員が蒼龍へと声をかけてきた。この声もどこかで聞いたことある。やはりこの女性は…と、思った刹那だった。

 

「…あれ?その声…もしかして大和さん?」

 

ふと、蒼龍が振り返るように女性職員を見ると、その女性職員も心底驚いたような顔をした。

 

「えっ…?蒼龍さんですか?」

 

鈴の音候の声を聞き、やはり、俺の抱いた違和感は間違いじゃなかったと確信した。そして同時に、拓海のところへコエール君が流出してしまったことも、これで確認することができた。

 

この女性職員の正体。それは、かの有名な超弩級戦艦である「大和」だったのだ。

 

 




どうも、就活マンの飛男です。
今回からコラボです。コラボ先であるたくみん2氏とは時間の合間を縫って、現在構想を進めております。ですので更新はゆっくりになっていくと思います。
一応、それぞれの作品だけでも楽しめるように構想を練っているつもりですが、両者の作品を見ることで、面白さも倍増するように作っております。つまり両者の作品で、描かれなかった部分が、保管されていく感じですね。

それと、今回は正確な文字数10764文字ですが、次回からはこれほど多くないと思います。今回はコラボ一発目と言うこともありまして、ボリュームを多くして見たんですよね。まあ、本来私の書く作品って、大体一万文字は超えるんですけどwえ、聞いてない?

ともかくまあいろいろあると思いますが、どうか難しく考えず、気軽に読んで下さることを期待します。それでは、また次回に!


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