蒼龍が試着室へ入ってから数分。ぐだおの一戦がちょうど終わるころに、シャっと音が聞こえ、蒼龍が姿を現した。
「どう?似合うかな?」
似合うも何も、蒼龍は何を着ても似合うんだよなぁ強いて言うとすれば、彼女の補給タンクは大きい故、少々胸元がきつそう。まあそれが何とも色っぽいというか、なんというか…。またタンクだけではなく、腰回りも張っているもんで、大人の女性っぽさもアピールできているんだけれども、童顔だもんだから一見アンバランスだ。またそれが目を惹かせるというか、ともかく色っぽくて可愛いのでした。
「うーん。やっぱり着合わせもいいな、こう夏っぽい感じで。でもさ、なんだからきつそうだな。主に九九式艦爆が」
にやりと俺は笑みを浮かべながら言うと、蒼龍は顔を赤くした。ふへへ。
「もー!男の人ってやっぱりここに目が行くのね!こっちはむしろ大きくて肩がこるのに!」
そうらしい。実際男にはわからん悩みだろう。男の場合かわからんけど、肉体的な悩みなら腰が痛くなる。主に、力仕事でね。大和男子は強い子なのだ。
「ははっ。ごめんごめん。で、まあもう一回り大きいサイズがいいんじゃなかろうか?」
胸元が言うまでもなく張っているので、今後のことを配慮するのであれば、やはりもう少々大きいサイズを選ぶのがいいだろう。そちらの方が仮にまた成長したとしても、買いなおさなくて済むはず。つまりお財布にも優しい。
「むー。まあ、一理あるけど…これ以上大きいサイズあるのかなぁ?」
もっともらしい事を言ったけれども、実のところ言ってない理由がもう一つある。それはまあ蒼龍持ち前の、魅力的なボディが強調されてしまうからだよ!見る物振り向く美しさ故なのはまあいいんだけれども、いやらしい目線で見られるのは少々気に障る。色ボケしてると思うけど、普通じゃないかな。
「どうだろうなぁ。あ、その服サイズなに?」
蒼龍は再び試着室を閉じると、えっーとと言葉を漏らしつつ、タグを探し始める。おそらく取り外してないだろうから、試着室の中にいる彼女はブラだけなんだろうか。って、何を想像しているんだ俺は。どこの高校生だよ。思春期真っ盛りかよ。この歳になってもまだ終わってないんだろうか。
「ありました。Mって書いてありますね。そう言われてみれば、少々小さいかも」
「だな。よし、ちょっち待ってろ。聞かなくとも、置いてあるかもしれない」
先ほど蒼龍と一緒に見た、あそこの陳列段に置いてあるはず。と、言うか飛龍はどこ行ったんだろうか?
「うん、蒼龍。取ってくるがてら、飛龍を確保してくる。それまで待っててくれ」
「はーい。あ、私もついて行った方がいい?」
何気なく聞いてくる蒼龍だが、一人で置いて行かれるのが寂しいんだろうか。いや、さすがにそれはは考えすぎかな。うさぎじゃあるまいし。
「いや、すぐ戻るからいいよ」
そう伝えると、真っ先に俺は商品棚へと向かった。
*
「お、ここだ」
蒼龍が選んだ服の陳列棚を見つけ次第、俺は商品棚へと戻すべく、服をたたみ始める。ちゃんと店のたたみ方を見て、まあササッとたたんでしまおう。
さて終えるやいなや、Lはどこだろうかと探し始める。すると、ふとしゃがみ込む人影が見た。
「あ、飛龍」
顎に手を当てて、ふーむと言いたげな悩ましい表情をしながら、飛龍は商品棚を見ている。欲しい服が山ほどあるけれども、どれに絞ろうと思っているんだろうか。ともかく、その顔は女子特有の服選び厳選の顔をしている―と、思う。実際女子じゃないから、わからないんだけれどもね。とりあえず何かを考え込む、そんな顔をしていた。
「おう飛龍。良い服あったか?」
とりあえず、声をかけてみる。飛龍は近づく俺に気づいていなかったのか、びくりと身をはねると、驚いた顔でこちらを振り返った。迂闊というか、うーんいかんね。実戦では命取りになりそうなんだが。
「う、その、あー。うん提督。いろいろあって迷っちゃいますねぇ。安かったら、パパッと決めちゃうんですけど」
何かを言おうとしたようだけど、それをすべてひっくるめたように、あははと愛想笑いを漏らす飛龍。なんか釈然としないというか、何か間違った事でも言ったのだろうか。と、言うかやっぱりなんだかんだ言って、がっつり選んでるんじゃないか
「うん、まあそうだろうね。ともかく、良い服あったら試着室まで持ってきいや。そこにおるで」
とりあえずこうやって声をかけておけば、決まり次第試着室へと来るだろう。そうすれば蒼龍と入れ替わりで試着できるはず。そうしたほうが、実際手っ取り早いからね。
「うし、じゃあ戻るわ」
声をかけたので試着室へ戻ろうとすると、不意に飛龍は立ち上がって、「まって」と服をつかんできた。うお、なんだよ。
「あー、あのね。蒼龍が決まってからでいいけれど、わたしとも一緒に選んでほしいかなー。やっぱり男の人の意見聞きたいから」
なるほど、確かに言われてみればそうかもしれない。若葉も服に関して意見を聞いてきたりするし、男性の意見も聞いておきたいんだろう。でも俺って、ファッションセンス無いんだよねと、毎回思うんだが。
「よし、わかった。んじゃあこれ、蒼龍に届けてくるから。その間に決めておくと、意見を言いやすいかな」
そういうと、飛龍は嬉しそうな顔をする。単純というかなんというか、ダメとは言わんだろ普通。よっぽど急いでいる場合を除いてさ。
「じゃあこう少しここで見てますね。よーし。えーっと」
意気込む飛龍を置いて、とりあえず俺は蒼龍が待つ試着室へと戻ったのだった。
*
さて、蒼龍は持ってきた服を試着し終えると、早速お披露目をしてくれた。
先ほどよりも胸元に余裕ができたというか、そんなに圧迫感は見受けられない。要するにばっちりサイズが合致したようで、蒼龍もどこか満足そうな顔をしている。
「やっぱりLだったな。うんうん。それなら普通に似合ってると言い切れる」
「でも、望は強調してる方がいいんでしょ?」
ふふっと笑いながら、蒼龍はいたずらっぽく言ってくる。こっちから言うのは構わないが、こうやってカウンターを受けると、困惑するのが俺だったりする。まあ言わずと、何とも言えない表情で、俺は頬を掻いた。ちょっと悔しい。
「おほん。それはいいとしてだ。俺は飛龍の服も選んでいかなきゃいかん。一人で買えるよな?」
「あ、はい。もしかして飛龍迷ってました?服」
「そーだねぇ。やっぱり一着だけと限定しちゃうと、迷っちゃうのが女の子じゃないの?」
自宅にある飛龍の服と、今展示されている服。その着合わせを考えると、やはり迷ってしまう。と、いうかそれが普通だと思うし、今回は蒼龍の買い物は、割とレアケースな気もする。実際俺だって、ミリタリーショップへ服を探しに行くとき、自宅の服を思い出しながら選ぶしね。こればっかりは、男女共通の話題だ。
「どうせならもう少し買ってあげる服を、増やしてあげてもいいかなぁ…」
「そうだな。俺も出せるだけは出すよ。…なんかすまん。金が無くて…」
正直バイト歴長い俺が初めて半年くらいの蒼龍に負けるってどうよ。実際日数的に俺より入ってないはずだし、時給だって蒼龍の方が安い。これが性格ってやつなんだろうなぁ。
「そ、そんな!だって望は、最初私のことも面倒見てくれたし、今は飛龍だって面倒を見てるじゃない!それに、外食だって基本ご馳走しちゃうし、私だってやっぱり少しは…」
「みなまで言うな。男は魅せなきゃいけない時だってあるんよ。ふふっ一度言いたかった。かっこいいだろ?」
「…そういわなければ、きゅんと来たのに。なんか残念」
蒼龍には苦笑いを浮かべられたが、金が無いからって彼女に借りるのは、さすがに男として廃っちまうからね。ちょっと恥ずかしいこともあって、こうとぼけたけど、これは譲れない。そもそも蒼龍や飛龍はなんだかんだ言って向こうの住人。この世界に居れる間は、俺が無理をしなきゃいかん。大学生なりにだけどね。
「うーん。それで破産したら、元も子もないとわたしは思いますけどねぇー」
俺が内心カッコつけていると、後ろからどぎつい言葉が突き刺さってきた。言わずとその声は飛龍の物で、振り返ると彼女はあきれ顔で、両手にシャツを持っている。
「…そう思うなら、おじさんバイトしてほしいんだけどぉ。飛龍さん」
「うーん。わたしお嬢様設定だし。不思議がられちゃうじゃない?おじさまやおばさまに」
にひひといたずらっぽい笑みを浮かべ、飛龍は言う。おのれ、その設定にしたのは間違いだったわ。悪用しやがって!
「それで飛龍。一緒に選ばなくてよかったのか?わざわざこっちまで服を持ってきてさ」
さっきはあんなにうれしそうだったが、なぜか考えが変わったようで、こちらへと来たようだ。手っ取り早くはなったが、どういうことだろうか。
純粋な問い掛けに一瞬飛龍の顔が陰ったような気がしたが、何事もなかったように明らかな、愛想笑いを作った。
「ほら、やっぱり蒼龍も一緒にと思いましてね。どう二人とも?」
両手にシャツを持ち、飛龍は見比べてほしいのか商品を器用に見せてくる。双方落ち着いた色で、片方は黒の半そでのシャツ。もう片方は、鼠色のワイシャツのような服だった。
「へぇ。センスいいな。って、俺はよくわからんけどね。俺の感性からそういっただけ」
「いえ、でも両方ともおしゃれじゃない?私は普通に可愛いとおもうけど」
思わず俺と蒼龍はべた褒めしてしまったが、実際飛龍に似合いそうな、かつ彼女の個性を生かせそうな服で、センスがいいのは間違いないだろう。
「どぉよ。私はセンスに自信があるもの!でも、やっぱりどちらかってのは決めかねちゃって」
これは悩むわけだ。と、言うわけで俺と蒼龍は顔を見合わせると、うなづいた。
「じゃあ、両方買おうじゃないか。今回は特別の中の特別だ!」
「え、いいの!?やったぁ!じゃあ早速、レジへゴー!」
嬉しさのあまりか飛龍は飛び跳ねると、そのままウキウキ感を出しながらレジへと先陣を切っていく。俺と蒼龍もそれに続いて、歩き始めた。
「んー!早く着たいなぁ。がまんがまん!」
ぎゅっと服を抱えながら言う蒼龍。どうやら彼女は旅行へ行くと同時に、初めて着るようだ。正直今ここで来てもいい気がするけど、それをやらずに我慢するのが、女の子のこだわりというやつなんだろうかね。俺は正直、わかりかねることだけれども、実際どうなんだろう。
「それにしても、あと三日だな。俺も一年ぶりに、あいつに会いたいかな」
一年前にも京都には行ったけれど、やはり遠くの友人に会えるのは限られてくる。所詮一年とは思うかもしれんけど、体感的にはやっぱり久しいと感じるだろう。
彼はいったい、この一年でどう成長したんだろうか。そして、蒼龍と飛龍を見て、どう反応するのか。はしゃぐ二人を見守る立場にあるけれど、内心俺だって、楽しみでしょうがないや。
*
朝の陽ざしは気持ちいものだけれども、夏場のすがすがしい日光は、この時期特有の良さだ。昼間から午後にかけてはまさに暑いと言わざるを得ないが、それでも午前八時ごろはまだまだ気持ちがいいと思う。
待ち合わせはキヨの家だ。駐車場も広いし、何より高速を乗るにあたって最も距離が近い。まあ結局ほかの市まで走らせなきゃいけないから変わらないと言われればそうかもしれないけどね。
まだ開店をしていない國盛家の駐車場へと車を止めると俺と蒼龍、後部座席に乗っていた飛龍が、それぞれ車から降りた。
「俺たちで最後だったか?」
すでにヘルブラザーズ、菊石夕張ペアはそろっていて、キヨも荷物を店の前へと置いている。皆それぞれ個性ある服を着ていて、見て飽きないだろう。特に―
「キヨ、お前なにその服。陶器でもつくりにいくんか?」
彼はなんというか、頭に白い手ぬぐいを巻き、じんべえ姿の、陶器職人のような恰好をしていた。いくらお前んちが和食処だと言って、その恰好はどうなのさ。
「ふっはは!やっぱり七星だってそういっただろ!着替えてくるなら今だぞキヨー!」
どうやらほか四人もキヨの服装を見てそれぞれの意見を述べたようで、俺も同じような意見を言ったらしい。
「いや、お前らはじんべえのすごさをわかってない。と、言うか京都だからこその恰好だろ!」
拳を握り力説をするキヨ。お前、京都の人はみんな着物や着流しを着てるとでも思ってんのかよ。と、いうかたとえそうだとしても、どう考えてもその恰好は浮くわ。しかし。
「わー!キヨさんかっこいい!望だって胴着を着てこればよかったのに」
と、おっしゃる蒼龍さん。うん、お前もそんな考えだったのね。そして次に―
「うん。これは提督の戦術的敗北だね。てか、その恰好はやっぱり京都へ行くのにふさわしくないとおもうなぁ」
うんうんと、飛龍もキヨの奇抜なファッションをカバーする。そんなにアロハシャツは、いかんですか。そうですか。
「イマドキはこういう格好なの。てか、結局みんな好きな服着てるようなもんだろ。得にヘルブラザーズ見て見ろよ。どこの世紀末だよ。はちきれんばかりのポロシャツにムッキムキの腕。マジで怖いわ」
ヘルブラザーズは肉体派よろしくスポーティな生地のポロシャツに、ジーパンと言った服装だ。特に威圧感が増したのは、髪の毛を切ってきたのかツーブロックになっている健次だろう。みんたくが見たら、またビビりそうだ。以前もこいつを見て、ビビっていたし。ってお前ら、言うや否やマッスルポーズをとるんじゃない。
「さて、ゴリラ共とじんべえマンはほっといて、だれがうちの車に乗るんだ?」
家のCX-5は何分乗れる人数が多いのだけれども、これらすべての人数を乗せるには若干座席が足りない。それに窮屈だと長い道のりだしだるいこともある。そこで、俺の車とヘルブラザーズの車を出すことになっていて、二台の車で京都へと向かう予定。これならば、みな快適に行けるだろう。ちなみに、ヘルブラの車はマーチで彼らの図体にはまったくもって似合わない。マーチがかわいそうなレベル。
「あー俺は夕張と一緒に乗る予定だし、ヘルブラの車に乗るわ。だからじんべぇマンがそっちだろうな。妥当だろ」
なんだかんだ言って夕張と離れたくない菊石のようなので、俺も問題ないと返事をする。と、言うか三人の意見聞いてやれよ。
「おう、わかった。じゃあよろしく、蒼龍飛龍」
と、言うわけでキヨが乗ることになった。蒼龍も飛龍も、よろしくお願いしますと、返事を交わす。実際運転するのは、俺なんですけども。
「よし、じゃあ持ち場も決まったわけだし、京都へと出発しますかね」
話もまとまったので、俺はパンパンと手のひらを叩いて言う。すると、菊石とヘルブラが「まてまて」と意見を申し立ててきた。
「何だよ。決まったから行けるじゃん」
「いや、まだ京都旅行出発の挨拶が終わってないぞ七星。ほら、とっというんだよ、あくしろよ」
え、なに。なんで俺が言うことになってるの?って、一斉にみな、目線を向けてくるな!
「…はー。わかったわかった。ごほん」
とりあえず言わないとブーイングの嵐が飛んできそうなので、断腸の思いで(大げさ)で息を吸った。
「えーじゃあその。みなさん、本日はお日柄もよくー」
「それ長くなるやつだろ!てか何だよその入り方!校長先生かよ!若者らしくないわ!」
ヤジを飛ばしてくるヘルブラと菊石。ったくこいつらマジ腹立つわぁ。
「あー!わーったわーったって!じゃあ、とりあえず…。おめぇら!京都へいきたいかー!」
時代を感じる番組の掛け声をまねて行ってみると、皆は一斉に「おー!」と声を上げる。
こうして、京都への旅が始まるのだった。
どうも、飛男です。
前書きにも書きましたが、次回からコラボの予定です。とは言うもの、彼らが大々的に出てくるのは次々回かもしれません。双方いろいろと、予定を合わせておりますので。
では、今回はこのあたりで。それと、感想評価共々、ありがとうございます。励みになりますので、感謝しております!