旅行先が京都に決まった後日。朝食を取り終えた俺たちは、リビングでヒル○ンデスを見ているときのことだった。
「そうですよ!これ!これ!」
すっかりと休日続きでぐーたらしはじめ、ぼけっと番組をみていた俺とは対照的に、じっくりと見ていた蒼龍は唐突に声を上げた。どうしたんだろうか?
「旅行前に、私こういう店に行ってお洋服買いたいんですよ!」
どれどれと体を起こし、俺もじっくりと番組に目をやる。どうやらファッションデザイナーとモデルが洋服を着合わせして、戦っているようだ。と、言うことは…。
「ああ、デパートね。なるほどなるほど」
安値で洋服を売っているような店とは違い、かなりお高めの服を売っているデパートは、総じてファッションセンスの良いと思われる服が置いてある。まあ実際俺はそういうのに疎いから、よくわからないんだけれども、おそらく若葉から蒼龍くらいまでの層には受けるんだろうなぁ。って、蒼龍は年齢不明なんだけれども。
「わたしも行ってみたいかなぁ。もう草取り嫌だし。服選びなら純粋に見て見たいし」
飛龍もどうやら乗り気なようだ。と、言うか以前やらせたおふくろの手伝いを踏まえて、行きたいとはっきり意思表示をしたんだろう。学習したな、こいつめ。
「でもさ、いつものしま○らとかユニ○ロとかじゃダメなの?」
「旅行だからこそ、良い服を買いたいじゃないですか!あと、そこいらはみんな見飽きちゃいましたし」
さすがは御洒落にうるさい女の子だろうか。基本男は、洋服屋とかに行っても、見飽きたとか思わないからなぁ。あ、一個人の意見です。
「でも、さすがに俺は出せないぞ…?いや、だってこういうところの服、高いし」
「さすがに出してもらおうとは思ってないですよ?だって、私そのためにバイトしてるじゃない!」
ふーんと得意げに言う蒼龍。半年前と比べて、本当にこの世界になじんだなぁ…感心するよほんと。いっそ蒼龍のヒモになりたいわぁ。いや、冗談だけどね。
「ふむ、じゃあ問題ないかぁ。あ、でもいくらくらいあるんだ?」
蒼龍は「えーっと」と言いながら、指折りで数え始める。
ちなみに言い忘れていたけれども、蒼龍は俺と口座を分けたから、蒼龍が稼いだ分は移動させた。携帯料金だって蒼龍の口座から引き落とされるようになったし、俺の財布事情の問題は、残すところ飛龍の存在だけだろう。あと、蒼龍はちょくちょくお金を出しているみたいで、そのたびに服が増えているような気もする。あれ、ちょっと心配になってきたぞ…。だが。
「はい、確か30万円とちょっとですかね。貯金の中身は!あ、でも財布の中は5千円くらいしか…あはは…」
蒼龍からは予想外の金額が発表された。え、ちょっとまて、俺より全財産多くない?
「え、ちょ、ま。そんなにもってたの?」
いつの間にそれだけ稼ぐようになったんだろうか。いや、まて。ひょっとしてキヨの家だけでは飽き足らず、危ない仕事にまで手を出したんじゃ…!?
「ええ、だって、基本そこまで使わないですからね。お洋服だって基本、安い物を狙って買っていますし」
なるほど。確かに言われてみれば、蒼龍が大きな買い物をしたのって、サーフェスだけだった気もする。服や小物だって安いものを重点的に買っているのであれば、自然とそれくらいは溜まっても不思議じゃないだろう。
「あははっ!提督は蒼龍よりもお金持ってないのね!本当にそれで蒼龍を養っていけるの?―っていたいいたい!」
厭味ったらしく行ってくる飛龍に対して、俺は飛龍のぷにぷにな頬を、軽くつまんだ。おめぇのせいでもあるんだっつーの!お前もどこかにバイトしろや!
「まあまあ。ともかく、これなら大丈夫よね?そんなに多くは買うつもりありませんし、純粋に行ってみたい気持ちも大きいし」
ともかく、蒼龍はデパート自体に行きたいらしい。まあここまで言われては、致し方ないかな。それに俺が買いに行くわけではないし、最悪車を出してついてくだけでいいだろう。
「ん、わかったわ。で、飛龍はどうすんだ?お金ないだろうに」
あくまでも飛龍が持ってるのは金であって、お金じゃないしね。換金しようにも、明石も大淀もそこまでやるのはよくわからないそうで、今のところはただの鉄くず状態だ。本当にどうしよう、あれ。
「わたしはそこまで興味ないから、いつもの場所で適当に買いますかねぇー。あ、もちろん提督が許す範囲ですけれども…」
「ん。じゃあお前も見るだけだな。あと、買うのはいいけれども、その分ちゃんと家事とか手伝えよ?」
「わかってますって!じゃあ早速行きましょうよ!」
飛龍は立ち上がり、催促をかけてくる。一方蒼龍は。
「…望から買ってもらえるって、今考えたらプレゼントってことかな。そう考えると、うらやましいかも」
などと、小声でつぶやいていた。うーん、乙女心ってよくわからんな。
*
今日も売り上げ絶好調!と、いうべきだろうか。都心にある某デパートは、いつも通り混雑をしている様子だ。
目的地は五階の洋服コーナー。一応そこに蒼龍が気になっているブランドがあるそうで、そこへと向かうことにした。はぐれないように二人の手を引いて、何とか五階まで上がっていく。
「はぁぁぁ。しかし、何とかたどり着けたなぁ」
五階まで上がるや否や、俺は適当なベンチへと腰を掛ける。体力的問題で披露したわけじゃなくて、精神的にまいってる感じ。
「だらしないなぁ。それでも提督なの?運転くらいでへこたれるなんて」
「まあまあ、私たちは乗ってきただけだから。ともかくお疲れさま。少し休憩したら、行きましょう?」
飛龍の喝に対し、蒼龍はなだめるように言う。まあ飛龍の言いたいこともわかるよ?君たちはなんだかんだ言って軍人だしね。肝も据わっているはずだ。でも、これが普通な道のりなら、俺だって疲れはしないさ。
なんというか、俺の住んでいる県は、都心へ行くにつれて運転が荒くなっていく傾向がある。いわゆる地元走りなんだけれども、それが度を越しているからか、以前なんかのスレで見たけれど「道路世紀末」と言われていた。
以前もこんなこと言ったような記憶があるけれども、大まかに説明すればそれだけ事故が多いってこと。ちなみにもう一方の方にある、世界的車メーカーがある市も、かなり道路が世紀末化している。だから総じてこの県は、ドライバー的にはあぶなく、注意深く運転する必要があった。もっとも道路が世紀末なだけで、普通に住む場合は住みやすいとおもうけど。
「あ、ところで蒼龍はどんな服…じゃない。どんなブランドを見に来たんだ?」
しかし、まさか蒼龍からブランド云々と言葉が出るとは、本当にずいぶんなじんだものだ。おそらく異常なる妹の影響なんだろうけども、ともかくこの先ブランドにこだわりはじめる蒼龍を、見たいとは思わないのが本心だったりもする。
「えーっと、若葉ちゃんから聞いたんだけど…」
やっぱり若葉の仕業だったか。まあイマドキの女子高生だし、蒼龍が影響されるのも必然か。蒼龍の方が年上だと思うけど。
「双子のアイドルが立ち上げたブランドらしいですよ。ちょっぴりわいるど?というか、ぼーいっしゅな感じの服が多いみたい。それこそ、飛龍も似合いそうなブランドかなぁ」
「へぇ。まあ蒼龍も似合うと思うぜ?と、いうか俺はボーイッシュな感じの服をきた女の子も好みだね」
いや、ほら、なんかボーイッシュな感じってそれはそれで魅力的というか、特に蒼龍みたいな絶世の美女がボーイッシュな服を着ていたら、いろいろと込み上げてくるものがあるでしょう?と、まあ単純に俺の好みかもしれんけど。
「いいねぇ。わたしもついてきてよかったかも。あ、でも買えないからなぁ…」
ぱっと一瞬明るい顔をした飛龍だったが、すぐにうむむとうなり始める。うーむ、なんというかすごい罪悪感。換金できたら、好きなだけ買ってくれって感じだけれども。それができないから、致し方ないね。
「しょうがないなぁ。どうしてもっ!って服があったら、私が買ってあげるよ?でも、ちゃんと借は返してよね?」
さすがはお姉さんと言うべきだろうか。蒼龍はしぶしぶ引き受けたような顔をして、片腕を腰に置いた。とくに『どうしてもっ!』って言い方がまた良いね。久々にグッときた。
「いいの!?じゃあそのときはお願いね!」
目を輝かせて、飛龍は言う。うむ、なんだかんだ言って、飛龍も妹なんだろうかね。普段はみられないというか、職務をしているときには見られない一面だなぁ。
「ははっ。よっし、じゃあ行きますかね。回復したぞお!」
俺はそういうと飛び跳ねるがごとく、ダイナミックに体を起こす。
「わかりました。あ、えっと、まずは館内案内の地図を探しましょう!」
指を立て、気が付いたそぶりを見せる蒼龍。まあぶらぶら回って探し回るよりも、手っ取り早いしね。
*
館内案内の地図ってのはだいたいエスカレーターの近くにあるわけで、ベンチから発ってすぐに見つけることができた。上がってきた際に確認しておけばよかったけど、あいにくそこまで頭が回らなかったと言える。とにかくつかれたもんだから、座る方を優先してしまった。
「おお、ここね」
しばらく地図通りに歩くと、目的地に着き次第飛龍が声を出した。エレベーターを上がってすぐのところにあったから、そっちを使った方が良かったのかもしれない。今更なんだけれどもね。
「じゃあ早速選びましょ?ほら、望。ね?」
そういって、蒼龍は俺の腕に抱き着いてくる。久々に抱き着いてきた蒼龍の抱擁は、なんというか男をダメにする素養が備わっていて、思わず顔がほころんでしまった。しかしそんな俺に対して、飛龍何かが気に入らないのか、何事もない自然な動作で、足の小指を踏んできた。
「いってぇ!あんだよ!」
「あ、ごめんなさい。うっかりふんじゃったみたい」
あははと笑いながらごまかす飛龍。まったく、イチャコラしているのが気に食わないのがわかるが、暴力というか地味な嫌がらせはよくないと思うぞ。
「もう、飛龍ったら!望は仮にもあなたの提督なのよ?少しは敬意を払ったらどう?」
むーと怒ったように頬を膨らませて、蒼龍は飛龍を指摘する。
「だから謝ってるじゃない?あ、あれ見てよ二人とも!」
すぐさま話題を買えるように、飛龍はマネキンに対して指をさした。白いワンピースを来たマネキンで、野球帽のような帽子をかぶっている。いわゆるモデル立ちをしているようで、蒼龍達の目は関心をしているようだった。
「これが今風の立ち方なのね…」
なにか勘違いしているようにも思えるけど、まあこうしたポージングをすることで服の良し悪しを分けるとも思う。こう体が動けば、どう見えるのかとか、見方を変えればマネキンとて面白いものなのかもね。女性にとっては。
「おふくろや若葉いわく、こうしたマネキンの服装を、マネするのも悪くないそうだ。参考にするといいかもしれん」
確かにマネキンって、割とセンスのいい着合わせをしている気がする、俺も言われて気が付いたけど、その手に詳しい人が、服を買ってもらうために試行錯誤して着合わせるんだから、合わないわけが無いだろう。ファッション雑誌とかも参照していけば、今はやりの服や着こなし方がわかるしね。
「あ、これなんてどうだろう?」
蒼龍は気になる服を見つけたようで、それを手に取った。どうやら薄青のノースリーブシャツで、いたってシンプルに見える。
「少々ごわっとしてますけど…似合うと思う?」
胸元に服を当てて、蒼龍は上目づかいで俺を見てくる。何を着ても似合うんだから、いちいち聞かなくてもいいぞ。と、まあこういうやり取りもカップルならではなので―
「うん。似合ってるよ。あと細身のデニムズボンを合わせれば、魅力が引きたてられそうだな」
「あ!それ私も思った!よーし、じゃああっちのズボンを持ってきてと…」
薄青に合わせるとしたら、やっぱり白色だろうか。そんなことを思っていると、今度は飛龍が俺の服を引っ張ってきた。
「どう?これ、私はこんな感じの奴が好きかなー」
そういって、彼女は縦しまのブラウスを胸元へと当てる。なかなか似合うもんだから、思わずまじまじと見つめてしまった。
「いいじゃん?まあ、それを買ってくれるかどうかは蒼龍次第だな」
「あ、うん。そうなんですよねぇ…。もうちょっと念入りに考えてみよう」
うんうんと頷いて、飛龍は次なる服を探しに行く。一瞬こちらをチラリとみてきたような気がしたが、まあ気のせいだろう。
「あ、望!あったよ!」
蒼龍がぱたぱたと駆け寄ってきて、今度は白い細身のズボンを腰へと当てる。うん、これだよこれ。モデル体質な蒼龍には、ピッタリな着合わせだ。
「おお、いいじゃないか!あ、どうせなら試着してみたらどうだ?」
店内の端には、試着室のようなところが見える。と、言うか公衆電話のが置いてあるような狭い部屋に、白いカーテンがかかっているし、間違いなく試着室だろう。
「わかりました!じゃあいこっ!」
「お、おう。ってひっぱるなよ。ははっ」
手を引いて、蒼龍は俺を試着室へとリードし始める。新しい服を着れるだけあって、テンションもダダ上がりのようだ。
「じゃあ、着替えてみるね」
そういうと、蒼龍はシャッとカーテンを閉じる。待つ間俺も暇なもんで、とりあえず近くの椅子へと腰を掛け、スマフォでもやろうかな。ぐだおのイベントを周回しなければ。
と、そんなことを考えていると、蒼龍が顔だけ試着室から出してきた。
「…覗いてもいいですけど、周りの目線。気にしてね?」
「いや、覗かねーよ!」
蒼龍は俺のことを、何だと思ってるんだろうか…。そこまで性欲を、爆発させているようには思えないんだけれども。
どうも、かなり投稿間隔があいた飛男です。
理由は活動報告に書いてある通りです。彼は話数をもう少々稼ぎたいみたいですので、どうかお待ちを。
そのためのつなぎとして、こちらを上下とさせていただくことにしました。「いい加減コラボしろや!」と、言いたい方もいるでしょうが、物事には段階があるので、どうかそれまでお待ちいただけることを切に願います。
では、今回はこのあたりで、また次回お会いしましょう!