提督に会いたくて   作:大空飛男

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またまた文字が多くなりそうなので、上下で構成します。
あと、今回の話は飛龍回になります。


バイトの話ですよ? 上

夏特有のすがすがしさを誇る、青く広がる空の下で、自転車を漕ぐのはやはり気持ちがいいんだろう。そんなこの時期だからこそ、ロードやらマウンテンやらと、スポーツ車に手を出す人が多いのは言うまでもない話だ。おまけに学生たち大喜びの夏休みとくるもんだから、どこか遠征に行こうとか、自転車で県内を回るとか、琵琶湖を一周したいとか、まあ様々な目的も、自然と生まれてくるはず。

 

「ありがとうございましたー」

 

そんな一人であろう、高校生がスポーツ車を購入していき、店を後にした。これで今日売れた台数は、スポーツ車が5台と、電動自転車が2台。一般の軽快自転車が8台と、まあ大忙しだ。

 

ここまで言って、大まかに察しがついただろうけど、俺は現在バイト中だ。夏はさっきも述べたようなことから、スポーツ車入門生が多く、プチ繁忙期が断続的に続くから、絶好の稼ぎ時でもある。

 

ちなみに、蒼龍も今日はバイトだ。以前と変わらず、ずっとキヨんちでバイトをしている。なんでもキヨ曰く、蒼龍がバイトを始めてから、売り上げがさらに伸びたとか。蒼龍のかわいさは言わずもがなで、それ以外に接客に関してかなり気が利くらしく、絶妙なタイミングで茶を進めたり、食器を片づけたりするのだという。俺のことじゃないけれども、鼻高々。

 

「しかし、売れますな。これで成績も上がりますかね?」

 

ちょうど客足が途絶えたので、連続接客から解放された俺は体を伸ばして、店長の飯島さんへと問いかける。飯島さんはパソコンをいじっていたが、こっちへ顔を向けると、眉をひそめた。

 

「うん。上がるけど、やっぱりまだまだだねぇ。港店が相当つよいわ!」

 

店舗の売り上げランキングを見ているようで、飯島さんは微妙な顔をしている。港店は安定してトップの売り上げを誇る店舗で、以前港店の連続一位記録を塗り替えたスーパー店長である飯島さん的には、納得がいかないんだろう。

 

「はえー。これだけ頑張っても、まだそこまで上がってないんですか。さすがに自分も、整備疲れましたわ」

 

今回シフトが一緒だった、バイトの一人である杉浦さんが、げんなりとした顔で言う。この人は俺より年上で、ミュージシャンを目指している夢追い人だ。純粋にあこがれる。

 

まあ俺も整備はできるけど、今日は接客と書類メインで、整備にまで手を回せなかった。それこそ飯島さんと杉浦さんで整備をしてはいるんだけども、せめてあと一人は欲しい様子。

 

「すいませんね。俺、接客ばっかりで」

 

「いや、むしろよく捌いてると思うよ。こっちも整備に集中できて、気が楽だわ」

 

杉浦さんはそういいながら、ピットの隅に置いてあるお茶を飲む。家のバイト先でいいところは、気兼ねなく飲料水が飲めることだ。もっとも客がいる状態だと、休憩室とかまで行って飲まなければならないんだけれども。

 

「あ、もう十二時かぁ。そろそろ休憩だけど、どっちが行く?俺はさっき行ったから、杉浦くんかほっしーだけど」

 

ふと時計を見た飯島さんが、そう聞いてくる。先ほど飯島さんは三十分だけ休憩に行ったから、あとは俺と杉浦さんだけだ。ちなみに『ほっしー』って俺の事。

 

「自分はまだ新車整備残ってるんで、七星さん行っていいよ」

 

杉浦さんはそう答えながら、購入された新車の整備をする、まさに凄腕テクニックを行っている。まあ腹も減ったし、ここはお言葉に甘えるとしよう。

 

「じゃあお先に失礼します」

 

店舗専用の制服を脱いで言うと、俺はそれをたたみ始める。そんな時だった。

プルルと、電話のなる音が店内に響いた。ちょうど近くに立っていたのは俺だったから、優先順位的に俺が取らなければならない。まあ電話対応だけだし、すぐに終わるだろうと、俺は電話を手に取った。

 

「はい、お電話ありがとうございます。サイクルショップアミーゴ。担当の七星でございます」

 

決められたセリフのように、俺は電話対応を行う。すると、予想外な人物の声が聞こえてきた。

 

『あ、提督がでた』

 

「ん?え、飛龍?」

 

聞き間違えるはずもない。家に居候している飛龍からだ。思わず素の声が出てしまい、飯島さんと杉浦さんが不思議そうな顔をしてくる。バイト中であるにもかかわらず、素の状態で対応してしまったので、純粋に『え、なに?』と思ってしまったのだろう。

 

「ごほん。な、なんだよ?今バイト中だぞ?電話するなら携帯にでもかけろよ」

 

とりあえず事情を後で説明するとして、こっそりと、素のままの状態で聞いてみる。そもそも、正式な対応をしたら、飛龍が茶化してくるのに間違いない。まあ茶化してくるだけなら良いのだけれでも、それで話が進まないのは、純粋に店とほかの客に迷惑だ。

 

『えーなによ。私はお客として電話をかけたのよ?それが客に対する覚悟なの?』

 

若干いやらしい口調で、飛龍は言う。そう来たか。お前えなぁ…そっちが喋りやすいように接してやってるのによぉ。

 

「あー、じゃあこうか?それで、どうされましたか?」

 

『やっぱり駄目。うん、なんか変な気分…。やっぱり普通の口調でおねがいします』

 

まともにやったらこれだよ。やるだけ無駄だったな。まったく。

 

「で、えっとですね。自転車がパンクしちゃったんですよ』

 

どうやら普通に利用するために、電話をかけてきたらしい。

飛龍には移動手段として、俺が高校時代に使っていた軽快車を貸している。もっとも約4年前の自転車だもんだから、もはやぼろぼろなのは言うまでも無くて、ガタが来てしまったのだろう。

 

「あーやっぱりか。でも、そんなの帰ってからでもいいじゃん。なんで電話してきたんだ?」

 

それだけなら俺だって自分で直すことだってできる。以前妹の自転車だってわざわざ修理キットで直したわけで、普通なら家で直してもらおうとでも考えるはずだ。

 

『いやー。その、奥さんに買い物を頼まれちゃいまして、それでひとっ走りしてこようと思ったら、このありさまなわけですよ』

 

なるほど、つまり外出中にパンクをして、身動きが取れない状態らしい。それならば仕方ないか。

 

「うん、まあどうせ近くのスーパーだろ?ここまで歩いてこれると思うけど」

 

家がよく利用するスーパーとこの店舗は近い。最近ベッドタウンではよく見かける、スーパーとドラッグストア、そして本屋と三つの店舗が隣接した場所で、家の店舗はそんな区画のおまけのような感じで建てられた場所。まあ客入りも悪くない、絶好の場所でもある。

 

『はい。だから今から向かうんで、あらかじめ連絡をと思いまして。少々お待ちを!』

 

そういうと、飛龍は電話を切ってきた。と、言うかどうして飛龍は携帯を持ってるんだ?

 

「誰からだったの?妙に親しいじゃない?」

 

電話を終えた俺に対し、飯島さんが問いただしてくる。まああれだけなれなれしく話していたんだし、不思議に思うのは仕方のないことだ。

 

「あー、知人っす。訳あって、家に居候していて…」

 

「え!?マジで!?ほっしーも大変なことになってるんだねぇ。うん」

 

飯島さんはおそらく勘違いしているであろう、おちょくるような声で言うと、にやにやとパソコンの前へと戻っていく。まてーい。

 

「…七星さん。なんかその、頑張ってください」

 

苦い顔と微かに憐れんだような瞳で、杉浦さんは言ってくる。ああ、なんかもうめんどくさいや。

 

 

 

 

それから五分後には、飛龍が店内へと入ってきた。引いてきた自転車にはかごに山ほどの食材が入っている。肝心のパンクはどうやら後輪のようで、ベコベコになっていた。

 

「あーこれはひでぇな」

 

とりあえず俺は飛龍の元まで行くと、引いてきた自転車の状態を見定める。まあ一般的なパンクのようだが、すでにタイヤもすり減っているし、変え時ではあるかな。

 

「いやー、まさかパンクしちゃうなんて思ってませんでしたよ」

 

「パンクした人だれもが言うセリフやな、それ。ちょっとまってろ」

 

とりあえず飛龍から自転車を借り受けると、俺はピットまで引いてくる。杉浦さんはいまだ新車整備をしているし、修理するのは俺くらいしかないかな。

 

「あちゃー後ろか。めんどくさいなぁ」

 

するといつの間にか、パソコンの前に立っていたはずの飯島さんが、自転車の状態を確認しに来た。腕を組んで、苦い顔をしているのは、おそらく俺に変わってやってくれるつもりなのだろう。まあ本来は休憩中だし、ありがたいかな。

 

「へぇーていと…ああいや、七星くんの働き先ってこんなふうになってるんだ」

 

俺に後ろからついてきた飛龍は、物珍しそうに店内を見る。まあ自転車ばっかりしか置いていない、ただに自転車屋ですよっと。てか、いい加減使い分けに慣れなさいな。

 

「あ、君が噂の。僕、店長の飯島って言います。よろしく」

 

自転車を見ていた飯島さんだったが、飛龍の声に反応したのか、目を合わせ次第挨拶を交わした。同時に杉浦さんも立ち上がると、「自分、バイトの杉浦です」と、同じように声をかける。

 

「どうもー。えーっと、飛田です。よろしくお願いします」

 

「はい。飛田さんだね。どうぞ今後も、うちの店をごひいきにしてください」

 

なんだかんだ言って営業に向過ぎつけてくるのは、さすが飯島さんと言ったところか。しかし、飛龍はなんだか微妙な顔をしていて、純粋にどう反応すればいいか困っているようだ。

 

「ところで、飛田さんとほっしーは、どんな関係なんだい?」

 

ふと、唐突に飯島さんが、飛龍へと問う。まあ俺の所持艦!と言うわけにもいかないし、だからと言って俺の彼女の妹とも、なんとなく言いずらい。と、そんなことを思っていると、飛龍が口を開いた。

 

「私は七星君の、恋人ですよ?」

 

…は?いや何言ってんのこいつ。

 

「え?あれ?ほっしー前の彼女は?ほら、あの黒髪の。って、飛田さんもか。ん?双子?あれ?」

 

飯島さんと蒼龍は面識があるし、どうやら理解に苦しんでいる様子だ。なにをトチ狂って、こいつは爆弾発言をしたんだ。てか、どうしてそんなこと言ったんだ?

 

「いや、今も続いていますって!てか、このバカが変なこと言っただけですって」

 

「えー!馬鹿ってなんですか!馬鹿って!冗談に決まってるじゃない!じょ・う・だ・ん!」

 

プンスカとなぜか逆切れして言う飛龍。いや、冗談でも誤解の招くような発言すんなよ…。てかマジで飛龍の思考回路が読めねぇな。

 

「なんだ冗談なのか。まあ、ほっしーは双子の姉妹をひっかえとっかえするようなヤリチ○とは違うよな?おじさん信じてるからね?」

 

「ええ、その通りです。てか、よく女性の前でそんなこと言えましたね。勇者か」

 

おそらく悪ふざけで言ったつもりだろうけど、適格に下ネタを挟んでくるのはさすが飯島さんだわ。

 

「さて!それどうです?直りそうです?」

 

ぱっと話題を買えるように、飛龍は自転車の方を見ながら言う。こいつもこいつで何かと唐突すぎるんだよなぁ。

 

 「あーはい。うーん。とりあえず直せそうですけど…中を開けてみないことにはわからないのがパンク修理でしてね。とりあえず、お時間いただくことになります」

 

 以前も話したけれども、パンクはいろいろな種類があって、場合によっては修理パッチで直せないこともある。まあ俺が自分でやる場合は直ぐにでも終わらせれるけど、言うまでもなくこれが商売だとそうもいかない。そこでこうして多くの時間をもらったうえで、修理に取り掛かる。仮にパッチで治らなかった場合、チューブの交換。あるいはタイヤとチューブの両方の交換が必要になってくるからね。もっとも、その場合は断りの電話を入れるのが、ウチのやり方だったりもする。

 

「そうですか。うーんどうしようかなぁ。この食材。歩いて帰ってもいたんじゃいそう」

 

「じゃあ七星君、家まで送ってあげたらどうだい?ちょうど休憩だし、少しの間なら店舗にいなくてもいいよ?」

 

「え、大丈夫ですか?」

 

今は昼時だし、客足も途絶えて飛龍だけだけれども、午後になればドドっとお客が来る可能性だってある。ただでさえ3人でもつらいのに、2人だけなら相当つらいはずだ。

 

「うん。気にしなくていいよ。場合によっては予約制にすればいいのさ。じゃん!」

 

そういうと、飯島さんは自慢げに何かの紙を見せてきた。どうやら先ほどからパソコンをいじっていたのは、何かしらの表を作っていたからだったらしい。

 

「あ、わかりましたよ?つまりそこに、順番を書くというわけですな!」

 

杉浦さんが察したように言うと、飯島さんがそんな杉浦さんに向けてビシッと指をさし、「正解!ハワイ旅行へご招待!」と、まあこの人特有のノリで返事をする。

 

「えっと、なんか大丈夫そうっすね。ありがとうございます」

 

このノリになると飯島さんはちょっぴり面倒なので、とりあえずお言葉に甘えようと思う。俺は自転車かごに入ったレジ袋を取り出すと、飛龍へと催促をかけた。

 

「うし、じゃあいこまい。では、少々離れまーす」

 

「あ、はい。じゃあお二人ともお願いします!それではー!」

 

俺と飛龍はそれぞれそういうと、店舗を後にしたのだった。

 




どうも、遅刻してしまった飛男です。
言い訳と言いますか、現在課題のレポートや試験も始まって、いろいろ忙しいです。次話は直ぐに投稿したいですが、実際どうなるか…ともかく。遅刻についてはすいませんでした。

さて、今回は今までうやむやだったバイトの話です。まあ、単純にキャラをバンバカ出すのは愚策だと思っていましたが、本当に少ししか出ないキャラではありますし、ここはもう出しちゃおうかと思ったのが理由でした。

では、今回はこのあたりで、また次回!

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