提督に会いたくて   作:大空飛男

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昼食です!

車に乗り込んだ俺たちはとりあえずしま○らを後にして、手前の通りを走っていた。

 

蒼龍に買った服による大ダメージを受けた俺は、飯を安上がりで済ませようと考える。確かこの通りに、ファミレスがあったはずだ。ほら、おもにイタリア料理を扱うあの店。割とよく行くし、飯もまずくはない。

 

 「それで、どんな料理を食べに行くんですか?」

 

 考え付いた矢先に聞いてくるとは、さすが蒼龍。感がいいな。シックスセンスかなんかか?それとも空腹センサーによる反応か?

 

 「あー。イタリア料理を食べに行こうとね。結構おいしいんだ。ファミレスだけど」

 

 「ふぁみれす?ってなんですか?」

 まあわかるわけないよね。いちいち説明しないと。

 

 「正確に言うとファミリーレストラン。日本語に直すと家族食堂。安くてうまい飯が食える。庶民の味方」

 

 なるほどと、蒼龍は理解したようだ。ぶっちゃけ昭和初期にはどんな店とかがあったかしらねぇけど、なんとなく察せる描写が頭に浮かんだのだろうか。

 

 「しかしイタリア料理ですかー。あっ!その端っこの方から使うんでしたよね?」

 

 蒼龍は手前の空間をテーブルに見立てて、わりと端っこの方からナイフとフォークを取るであろうしぐさをする。べつにイメトレしなくても十分食っていけるぞ、あそこ。金持ちなんてあそこよりもっと高い店行くわ。うらやましいわ。

 

 「まあ、そこまでマナーを求められてはねぇな。せめてナイフとフォークの持ち手くらいは覚えておいて損ないけど」

 

 「え、でもイタリアさんとかローマさん。イタリア料理を食べるときは肝心だって…」

 

 「地元民こわ。ちかよらんとこ。そこまで庶民に求められても困るわ」

 

 テーブルマナー発祥はイタリアの貴族らしい。あいつらもまさか本来は貴族だったとか。ローマとか特にローマしてそうだしな。皆ローマは心にある。ローマもY字に立ってくれないですかね。これ以上は怒られるわ。

 

 「そういえば、提督。その…しゃらしゃら?してる生地の服。なんでずっと着てるんです?着替えてこなかったんですか?」

 

 あ、そういえば寝間着のジャージを着たままだった。上はそれこそウインドブレーカーを着ているけども、さすがに格好着かないね。中学か高校のいきってるヤンキーだねこれ。

 

 「あー。まあいいんじゃね?俺は常に動きやすさと機能面を重視しているんだ。だからこの服も、一種の戦闘服なのだ!」

 

 動きやすいことも機能面も優秀なのは真実だ。嘘ついてない。

 

「おお!さすがは提督ですね!いついかなる時でも戦えることを心がけるなんて、私尊敬しますよ!」

 

蒼龍は目を輝かせて言う。やめろ。戦ううんぬんはまるっきり嘘だよ。面倒だっただけだから。無垢な顔で俺を見るな。そんなこと考えたことないわ。平和ボケ絶好調だわ。

 

「ふふふっ…嘘ですよね?」

 

「こっの!わかってんじゃねーか!」

 

なんか俺、蒼龍に遊ばれてる気がする。

 

 *

 

 

 さあ着いた。店内に入り、カラランと音がする。

 

 「いらっしゃいませー。お二人ですか?」

 

 「はい。あ、喫煙席…って」

 

 そういえば蒼龍も居るんだった。ついつい無意識に、いつもの感じになってしまったな。

 

「蒼龍。お前煙草の煙大丈夫だった?」

 

「え、ていと…じゃ、なかった。望さん煙草吸われましたっけ?」

 

お、早速間違えずにいえたぞ。先程、あらかじめ車で話したことを実践できてるようだ。

 

「うん。嫌ならやめるけど?」

 

「大丈夫です。煙草とは違う煙で慣れてます!」

 

ちょっと誤解招く発言に聞こえるけど、たぶん硝煙のことを言っているんだろう。断じて怪しい煙とかじゃない。店員には悪い意味で聞こえていそうだけど。そこまで一店員が詮索しては来ない。聞いたら失礼だ。

 

「では、喫煙席でよろしいですね?」

 

「はい。お願いします」

 

俺の受け答えに店員は「こちらです」と案内してくれる。幸いというか、喫煙席は空席だらけで、ほかの煙に蒼龍を汚される心配はないな。まあ煙草、最近は排除傾向にあるから。吸う人少ないんだろうな。かなしみ。

 

座席へと座り、俺と蒼龍はメニューを見る。蒼龍はおそらく山ほど食いたいだろうから、一番安いドリアにしておこうか。

 

「決まったか?」

 

煙草を取り出すと、俺は火をつけながら聞いてみた。蒼龍はメニューをじっと見て、黙り込んでいる。

あ、吸っている煙草は俺の苗字を英語訳したやつ。タールは7。狙っているわけじゃない。この味が好きだからだ。話のネタにはなるけどね。

 

「ん~。迷っちゃいますねー。望さんはどれにしました?」

 

「俺はこれ、ドリア。安いしうまいし一石二鳥。まあ他のも頼むけど」

 

あとはチョリソーとかプロシュートとか頼もうか。あれ、これ逆に値段嵩むんじゃ…。

 

「私もこれにしようかなぁ」

 

「量が少ないぞ?いいのか?もっとがっつり食べたいだろ?」

 

昼にはがっつり食べるのを控えている俺だが、蒼龍はきついはずだ。仮にも正規空母だし。大食いキャラではないにしろ、相応の量を求めるだろう。

 

しかし、そう思った矢先。蒼龍は頬をふくらませた。

 

「むー。私、そんなに食べるように見ます?」

 

「え、食べないの?」

 

「もお。私は赤城さんほど食べませんよ。それに、資材と言っても艤装が必要とするわけでして。食事は食事ですからね?」

 

なるほど。つまり君らは普通の食生活をしているというわけなのか。赤城以外。蒼龍公認したし。

 

「いや、そういう事情とは知らなかった。まあ俺たち提督はあくまでも君らを画面越しから指示しているわけだし…鎮守府の日常がどうなってるかは、知らないんだ」

 

「そうでしたね。私たちもそれは同じでした…あはは」

 

双方違う世界の者同士、違うものが見えてくる。それはどこか不思議だが、嬉しい事ではないだろうかね?俺はそう思う。知らないことを知るのは、心躍ることだ。

 

「で、何にすんのさ」

 

「じゃあ私はこれで!」

 

蒼龍が指さしたのはキャベツの入ったペペロンチーノだ。わりと辛いけど、大丈夫なのだろうか。彼女はもう少し、洒落ている物を頼むと思ったのだが…。そう例えば、アラビアータとか。ってこれも辛いわ。こっちの方が辛かったわ。でも洒落ているでしょう?え、思わない?

 

「あ、ワインもあるんですか?」

 

メニューをぱらぱらめくる蒼龍は、どうやら酒に目が行ったらしい。

 

「昼間から酒飲むのか?俺はドライバーだから必然的にのめんぞ」

 

飲酒運転はマジダメ絶対。ドライバーの基本だし、人としても基本。これを守らない奴は、クズだろうよ。

 

「でも隼鷹さん。お酒をお昼から飲みますよ?あと、憲兵さんたちはお酒飲んで運転するときありますし」

 

おい憲兵。人としてクズだったのかよ。最低だわ。あ、ここは平成の世だから、君らの手は届かないぞ。フハハ言いたい放題。

 

「あいつはいろいろ終わってるから。ただののんべぇだから。憲兵はしらん」

 

俺の言葉に、蒼龍は「ですよね」と苦い顔をする。まあ、こういう顔するよね。俺の地元友人が昼間から酒飲んでた時も、こんな感じの顔をしたと思う。因みにもちろんそいつも、飲酒運転はしないぞ。奴はドライバー意識高い。

 

その後蒼龍は、サイドメニューにサラダを選ぶ。トッテモヘルシー。女の子だねぇ。いわくサラダから食うと太りにくいらしい。そう考えるとますます乙女だわ。

 

ちなみに俺は、蒼龍の予想外の発言によりドリアからカルボナーラと変更。サイドメニューはチキンを頼んでみた。チキンは蒼龍が欲しがったら分けれるしね。

 

「じゃあ注文しよか。ぽちっとな」

 

店員呼び出しボタンを押すと、しばらくして店員が駆けてくる。このボタンの正式名称、なんだろ。

 

「お待たせしました。ご注文は?」

 

店員は電子機械を片手に、俺たちへと注文を聞いてくる。

 

「ドリンクバーはお付けしますか?」

 

選んだメニューを注文する中、店員は俺に目線を合わせてきた。必ず聞いてくるよね。これ。

 

「あ、お願いします。二つで」

 

「かしこまりました。以上でよろしいでしょうか?」

 

「はい。お願いします」

 

俺がそう言うと、店員は再び来た道を戻っていった。わりと忙しそうだ。人が少ないのかもしれない。

 

「さて、飲み物取りに行くかね」

 

「え?店員さんに頼むんじゃないんですか?」

 

「おう。ここはセルフサービスという名の、自分で取りに行ってこいスタイルだ。飲み物は自由に選べるぞ」

 

毎回思うけどセルフサービスってサービスなの?俺はこうとしか思えないんだけど。仕事効率は確かに上がるだろうけど。

 

「どんな飲み物があるのかなぁ?」

 

とりあえずドリンクサーバーまで歩き、コップを手に取ると、それを蒼龍に手渡した。俺は慣れた手つきで、コーヒーを入れる。砂糖やミルク入れない。ブラックこそ嗜好。人それぞれだとは思う。

 

「て…望さん!この『りあるごーるど』ってなんですかこれ?」

 

定番な事聞いてきたな。じゃあ定番な答えで返してみよう。

 

「きいろいえきたい」

 

「きいろいえきたい?」

 

復唱しましたねぇ。いいですねぇ。まあ予想ついてた。ついカッとなって言わせた。どこもいかがわしくなはず。違う液体を想像した奴は表出ろ。俺も出なきゃ。

 

「飲んでみればわかる」

 

「わ、わかりました…」

 

蒼龍は若干戸惑い気味で言うと、コップを置いて、じっと待つ。

 

「…いつ出てくるんですか?」

 

押すボタンみえないんですかねぇ。ちょっと抜けてるのか、やっぱり。

 

「ここ押すの。はい」

 

ピッと音が響き、リアルゴールドが出てくる。うん、きいろいえきたい。まだいうか。

 

「はい。どうぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

蒼龍は律儀に両手でコップを持つと、俺を待つ。俺も待たせまいとソーサーは持たず、席へと戻った。

 

さて、蒼龍は初リアルゴールドを口へと運ぶ。べつに恐る恐る運ばなくてもいいんじゃないか?まあ飲んだことないから怖いのはわかるけど。

 

「…あの。なんか…不思議な味ですね」

 

うん。普通の反応したよ。てか率直すぎる感想だわ。

 

「栄養ドリンクみたいなもんだしね。嫌いだった?」

 

「いえ、ちょっと不思議な味でびっくりしました。得に感想思いつかなくて…」

 

「まあいちいち変な感想を期待してはいないさ」

 

人間だもの。と、付け加えるのは我慢した。この言葉便利すぎ。

 

「望さんは香りからして珈琲ですね?」

 

「ああ、コーヒー好きなんだ。レポートや文献課題をやるときの、強い味方だよ」

 

そういって、俺は珈琲を口に運ぶ。やはり苦味が強いな。そこが好きなんだけども。

 

「ふふっ…イメージ通りだなぁ」

 

すると蒼龍がにこにこと笑みを浮かべ、唐突に呟いた。イメージ通りってのはどういうことだろうか。

 

「ん?珈琲飲んでる姿がか?」

 

「はい。望さんは珈琲がよく似合う方だと思っていました。煙草を吸うことももちろん。ひげも濃いですし、私が予想していた通りですよ。男らしくて、素敵な方です」

 

「は、はは。照れるわ…」

 

照れるどころの騒ぎじゃない。体が熱くなってきたわ。まったく、うれしいこと言ってくれるじゃないか。マジ恥ずかしいわ。

 

「いやな、別にかっこつけてやってるわけでもないし、だからと言って意識しているわけでもなかったわ。煙草は課題のストレスから。珈琲は趣味。ひげは直ぐ生えてきてね、剃るのがめんどくさいだけなんだ」

 

「そうなんです?まあそれでも、私の理想通りですから!」

 

くそ!お前さらっと恥ずかしいこと言いすぎだろ!これじゃ俺が攻略対象みたいになってるじゃないか。飛龍もたいへんだろうよ!

 

「そ、そうかい。まあお前の理想から外れないように頑張るかな」

 

「ふふっ。大丈夫ですよ。もうすでに理想ですから」

 

まだいうか。もう勘弁してくれ…。照れと恥ずかしさで死んでしまう。

 

 

それから俺たちは運ばれてきた料理をだいぶ片づけ、ほぼ帰宅ムードとなっていた。結局は蒼龍の食いっぷりもよかったよ。なんだかんだ言って、チキンも大体食われたし。

 

「ふう、おいしかったですね。ごちそうさまでした!」

 

蒼龍は手を合わせ、食い終わったことをアピールする。俺が言うのもなんだけど、お粗末様でした。まあ奢ったのは俺だから、言うべきか?

 

「あ、そうだ蒼龍」

 

満腹感に浸っている蒼龍に、俺は思い出したように声をかけてみる。

 

「はい」

 

口元をナプキンで吹いて、蒼龍は返事を返す。

 

「一息ついたら、いったん家に帰るぞ。家族に事情を説明しない限り、家にはおけないと思う」

 

おそらくは、もう帰ってきただろう。妹のSNSで帰宅報告も確認した。と、言うことは送迎をしている母親も帰ってきているわけで、家族二人は確実に家にいる。親父はたぶん、ゴルフに行ってる。

 

「つ、ついに望さんのご家族と…。失礼のないようにしないと…」

 

うわ。ベタベタな反応したよ。勘違いちゃんだよ。

 

「まあさすがに結婚を約束したとはいえんよ。だから彼女ってことで紹介するけど…」

 

「え?あ、はい。わかりました…」

 

やはりというべきか、蒼龍も理解をしたようだ。ごめんな。残念そうな顔はしないでくれ。

 

「あの…提督」

 

―ん?わざわざ提督と言うのか。何か重要な話だろうか。

 

「なんだー?」

 

俺は聞く姿勢を保ちつつ、煙草に火をつける。息を吸うように煙を吸引し、それを吐き出した。灰に入れないのは、いわゆる金魚と言うやつだぞ。

 

「その…言うタイミングを逃していたので今聞きますけど。私のこと、どう思ってます?」

 

「うーむ。どうって?」

 

「私、こっちに来るとき、もうすぐにでも結婚できると思っていました。でも、それは私の早とちりみたいな感じで…。この指輪、仮初の約束なんですよね?」

 

そういって、蒼龍はカッコカリ指輪を見せてくる。うーん。まずいなこれは。

 

「あー。ちょっと長くなるけどいいかな?」

 

「はい」

 

蒼龍は姿勢を正し、俺の話を聞く体制になる。やっぱり根は真面目なんだな。

 

「あくまでも俺の軽はずみ的行動だったのかもしれない。所詮は済む世界が違うと思っていたからね。だけど、こうして会話し、一緒に食事をし、俺も考え方が変わってきたよ。そう、今の運命の人はお前なんだ。だから結婚まではまだ無理だけど、一緒に生活をしていこうさ。だから以降。お前以外とは仮契約しないよ。ぜったいだ」

 

すらすらと表情を変えずに言ったが、やっぱり恥ずかしい。遠まわしの告白だからね。まあ仮契約しているのは蒼龍だけだし、もとから他とするつもりなかったのは確かだ。

 

だけど、蒼龍はそれで満足だったのかもしれない。恥ずかしさ紛れに煙草を吸引していると、俺の左手を手に取ってきたのだ。それは優しく、蒼龍の温度を感じれる。

 

「はい…。はい!約束ですよ!いつまでこちらに居れるかわからないですけど…。それまでは私の運命の人としていてください!」

 

ああ。もう言い逃れはできないな。こう言ってしまえば、俺の彼女はこいつだ。

 あとの障害は…俺の家族だ。うちの家族は…言ってしまえば融通が利かないんだ。

 

 




どうも、セブンスターです。
とりあえず一日おきの投稿続けます。セブン、がんばります!(榛名感

あ、あとがきはこれだけです。感想とかもどんどんくれたらうれしいなぁ(´・ω・`)

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