飛龍と蒼龍は同型艦ではなくそれぞれ独立した艦です。しかし、それは軍縮条約破棄時に自由な設計にする事こそが出来るようになったからで、当初同型艦として作られるはずでした。つまりこの作品の場合、腹違いの姉妹の様なものと取っていただければ幸いです。
車の中に隠れていた蒼龍を電話で呼ぶと、すぐさま玄関が開く音がして、階段を駆けあがる音が聞こえてくる。
「飛龍!」
蒼龍は先程の俺と同じように扉を勢いよく開くと、目の前にいる飛龍を見て、目を輝かせた。
「わぁ!本当に飛龍?いや、見間違えるはずもないわ!飛龍も来たのね!」
「ふっふっふ…わたしも来たわよぉ〜!提督と蒼龍に会いたくて仕方なかったもの!」
二人はそう言うと、直ぐに抱き合った。おーう。俺が逆に邪魔者見たいだ。
しばらく喜びを分かち合うようにぴょんぴょんと跳ねあっていた二人だったが、気持ちが収まったのか二人は息を吐いて、静まる。
「まあ、誰か来ることはわかってたけど、流石に俺がいない時に来られると困るな」
以前。いや、蒼龍が来た時は、寝ている最中だったけどが俺がいた時だ。まあ飛龍がうちの物を何か盗むとかは考えられないけど、一応念の為ね。やっぱり画面越しでは何回もあっていたとしても、リアルであった事は今日が初めてだし。
「いやぁ…すいませんでした。でも、使えるなら使いたいじゃない?」
ふむ。どうやら飛龍は最初の頃の蒼龍と比べて、だいぶ砕けて話してくるな。まあフレンドリーなことには越した事ないし、これでいいか。
「それで、他の奴は?武蔵とか初霜とか、あいつらもこっちに来たがってたじゃん?」
この二人は、明石を除いて、よく会話するからね。その度にこっちに来たいと言っていたから、飛龍と一緒に来るかと思ったが…。
まあ、そんな事を考えてながら飛龍に問うと、飛龍は得意げな顔をしてきた。
「じゃんけんで勝ったのよ」
「じゃんけん?」
「そう。コエールくんは一人づつしか送れないのよ。それで、わたしが勝ったって事。どぉよ?」
あ、ハイ。まあ要するに飛龍はじゃんけんで勝ち残って、こっちに来る権利を勝ち取ったという訳だ。だからと言って「どぉよ?」と自慢されても困る。これはこれで、可愛らしいけど。
「じゃあ後に、武蔵と初霜は来るってことか」
「そうね〜。あ、でもそれは随分先かなぁ」
うーんと顎に人差し指を当てて、上を向く飛龍。どういうことだ?情報が少なスギィ。
「実はね。コエールくん、一回こっちに艦娘を送ると、数ヶ月間クールタイムがあるみたい。だから、数ヶ月に一人しか、こっちには来れないみたいよ?」
なるほど、言われてみればどんな原理か知らないけど、別世界から俺のいる世界に送ってくるんだ。膨大なエネルギーを使うに決まっている。まあクールタイムが無くてバコスコ送られても困るだけだし、それはそれで良いか。しかし、安心に思う反面、残念な話でもあるね。
「ところで飛龍。いつもの服じゃないんだ?」
蒼龍が飛龍の着物を見渡しながら、話を切り出す。言われてみれば、黄色を基調にした長着に、ミニスカも真っ青な正規空母勢特有の、短い袴というかスカートのようなものではない。くすんだ黄色に緑をちりばめた、まあいいところのお嬢さんチックな着物姿だ。顔を見れば一目でわかるけど、後ろ姿なら若干飛龍ではないように見えるかも。
「ああ、これ?ほら、以前蒼龍が電文でくれたじゃない?いつもの服だと目立つって。だから、買っちゃったの。この着物」
裾をもってひらひらと、飛龍は着物を見せてくる。うん。どう見ても活発な村娘。
「いいなぁ~私も欲しいかも」
「でも蒼龍の着てるその服も、わたしはうらやましいかな~。あ、これ提督がプレゼントしたんです?」
蒼龍はだいぶこっちの世界になじんできただけあって、最近はめっぽう現代風な服を着る。今日着ているのは白を基調にした服で、清楚系女子って感じ。どうやら夏は、この手の服を攻めていくようだ。まあ、俺が似合うからって買ってあげたんだけども。
「まあね。似合うだろ?」
俺が着ているわけじゃないけど、自慢したくなるのは仕方ない。そもそも蒼龍自体が、自慢できる美人妻みたいなもんだし。
「うん。似合うと思うわ。蒼龍は肌が白いからねぇ。わたしはこういうの、似合わないんだよね」
「いや!そんなことない!飛龍だって絶対に合うよ!ね?望!」
うん。女子の似合う似合わない大会が始まったぞ。俺はとりあえず、相槌を打つだけでいいかな?
「そういえば飛龍。ずいぶんと荷物を持ってきたみたいだな」
このまま似合う似合わない大会を開催してはらちが明かないので、ふと目に入ったオリーブ色のバッグに対して質問を投げかける。おそらく飛龍が持ってきたらしく、ずいぶんとパンパンになっているな。夜逃げしてきたみたいだ。
「あ!そうそう。提督にみんなからお土産があるんですよ!」
飛龍はそういうと、バッグをごそごそとあさり始める。お土産?まあ純粋にうれしいけど、お土産って表現はどうだろうか。
「はい!まずはこれですね。加賀さんから、提督服です!」
包まれた布をめくると、そこにはマジ物の純白な提督服が入っていた。
そういえば以前、メールで加賀に「提督。身長と丈。教えてくれないかしら」と、来たような気がする。そうか、あいつ今後こういう時のために、あらかじめ仕立ててくれたのか。さすがはデキル女やな。
「ああ、ありがとう。まあこれを着る機会は、無いかな」
「そうなんです?えーっとじゃあ…次はこれかなぁ。大井ちゃんからですけど」
え?大井?あいつ俺に何かくれるほどやさしいというか、気が利く奴だったの?てっきり北上だけを見ているかと思っていたけど…。
「はい。どうぞ」
と、飛龍が言って渡してくれたのは割と大きな箱。それを開けると、球磨型達をデフォルメっぽくした、可愛らしい小さなぬいぐるみが入っていた。材質は安価な生地を使っているようで、中身は触感的に綿っぽい。
なぜこれを送ったかと、まるで意図が見えなかったが、箱の裏には『私たちもちゃんと育成してネ!』と、それぞれのイメージカラーらしき色で書かれていた。実際大井と北上しか、育ててなかったし、ちょっと反省してしまうな。
「しかし、大井って案外手芸が得意なのか。それにこれは、球磨型みんなからなのかな?」
「はい、たぶんそうですね。みんな頑張っていろいろと作ってたみたいですよ」
そう聞くと、まあずいぶんと照れくさいもんだ。それだけしてくれるってことは、つまり信頼されてると思っていいんだろう。
しかし初期勢だった俺は、言い訳にしたくないがそれ故に仕様がわからず、沈めてしまった艦もあった。要するに一部を除いては怨まれているだろうとは思っていたわけ。でも、こうして色々と俺に対して送ってくれるし、許してくれているのだろうか。
「お次はこれですね。武蔵さんからです」
それを見て、俺は目を見開く。飛龍に渡されたこの武蔵の贈り物は、先程の手作り感の様なものではなく、黒塗りの高そうな箱だったからだ。箱には菊紋が入っていて、なんとも仰々しい。
「えっと、これは…?」
「さあ、開けてみては?」
中身が分からないのか。って、箱の両端に『封』って書いてあるし…なんか俺なんかが開けてはならない気がするぞ。身の程的に。
まあでも、せっかくあの武蔵がくれたんだ。とりあえず封を切って、開けてみる。すると。
「あ、これあかんやつや。俺、これがばれたらブタ箱行きだ」
中身は装飾の施された拳銃と短剣でした。形状からして南部小型拳銃だろうね。まあ武蔵らしい贈り物だけど、銃刀法と言うものがこちらの世界にはあってだな。まだ短剣は刃渡りがアウトだけど、なまくらにすればまだセーフだと思う。でも、流石に拳銃はあかんわ。
「あー飛龍。実はこの国に銃刀法と言う法律があってね。警察から所持の許可が下りてないと、拳銃や刀を所持することはできないんだよ」
「あはは…まあそうですよね。なんとなくわかってはいました。でも、隠しておけばばれないんじゃない?」
そういう問題じゃないです。所持してることが罪なんです。まあでも、武蔵がどういう思いを込めてこれを贈ったのかは知らないけど、嫌がらせのために送ってきたとは思えないし、売ることや届けることはできないしなぁ。とりあえず、これをどうするかは追々決めれば良いや。SNSや公然の場で銃を持ってるって言わなきゃ良いんだし。気持ちだけ受け取っておこう。
「さて、お次は…」
その後、飛龍は様々な贈り物を渡してくれた。
例えば第六駆逐隊のガキンチョ共は絵や編み物なんかを贈ってくれて、グラーフ筆頭のドイツ勢はドイツ語で書かれた本を贈ってくれた。まあ読めなくはないけど、ファシズム感漂ってるから怖い。で、金剛姉妹達は紅茶セットを贈ってくれて、総じて言えることは皆俺の事をなんだかんだ想ってくれている様だった。提督である以上、それは普通というか、付き合い上の贈り物をかもしれないけど、純粋に嬉しいことには変わりないよね。
「以上ですね。あとは、わたしの私物ですねー」
あれだけパンパンだった飛龍のリュックは、やっとリュックらしい形に戻る。私物って言っても、何を持ってきたんだろう。
「あ、そうだ提督。わたしも提督に渡さないといけないものが」
そう言って飛龍は再びリュックの中身を漁り始めると、四つ折りの紙を取り出す。
「今日からこの世界にいる間、わたしはこう言う設定になってます。あ、蒼龍も見て」
俺と蒼龍は、飛龍に言われるがまま、渡された書類に目を通す。
名前は飛田龍美。出身は蒼龍と同じくで、どうやら双子の姉妹と言うことにしているらしい。まあ確かに髪質や顔が多少違うだけで、双子であることには変わりないだろうね。また、蒼龍と同じ孤児院で育ったけど、引取りの都合上離ればなれとなってしまったそうで、名字が違っているらしい。割と作りこんだ設定だと思ったけど、そうしたほうが自然かもしれない。
「まあわかった。あー。じゃあ飛龍には申し訳ないけど、親父やお袋、また友人以外の公然の場では飛田さんっていうから。流石に龍美って呼び捨てにすると、二股かけてるみたいで嫌だし」
そらそうだろう。浮気というか不倫というか、二股をかけるのは人間的にどうかと思っちまう。俺は断じて、そんなことをしたくはない。
だが、飛龍はそんな俺の発言にニヤニヤし始めて、俺にすり寄ってきた。
「え、わたしは別に構わないですよぉ〜?一応見極めにきましたけど、場合によっては蒼龍から奪っちゃおうかなぁ?ねぇ、の・ぞ・む・さ・ん?」
「はぁ!?ちょ、ひ、飛龍!言って良い冗談と悪い冗談があるわよ!私許さないから!」
飛龍の唐突な発言に、蒼龍は頬を膨らませて怒り始める。まあそうだわな、どうせ冗談でやってきた事だろうけど。てか、飛龍はそんな蒼龍の反応を見てニヤニヤしてるし、これは確信犯ですわ。
「うそうそ。かわいいなぁ蒼龍は。まあだから、見極めにきたんだけどね」
「え、見極め?」
ほおを膨らませていた蒼龍は、不思議そうな顔になる。表情が豊かだなぁ。
「やっぱりそっちは、嘘じゃないってオチか」
まあ、蒼龍の妹に当たる飛龍が、容易に俺と蒼龍の交際を認めたとは思えない。つまり飛龍がこちらに来たかった理由は、まさにこれだったんだろう。
「ええ、嘘じゃないわ。鎮守府ではその話題で持ちきりなのよ?みんなロマンチックとか言っていたけども、やっぱり姉妹として見極める必要があるじゃない?だから、じゃんけんに負けるわけにはいかなかったのよ」
つまり飛龍はそれが妹としての責任だと思っている様で、果たそうとしているらしい。確かに明確な血のつながり(実際はどうか知らないけど)は飛龍だけだし、家族であることは確か。だからこそ他人とは違う、いっそう厳しい目線で見る必要があるんだろう。
「そうか。まあ努力するさ。お前にも認めてもらわないと、こっちも目覚めが悪い」
とりあえず見極められるのは、良しとしよう。普段通りの生活をすれば良いと思うし。何より蒼龍を想う気持ちに、嘘偽りは存在しない。きっとそれが、飛龍にも伝わってくれるはずだ。
「しかし、見極めるのはいいとして、お前はどこに住むつもりなんだ?まさか家とはいうまいね?」
正直、蒼龍をこのうちに置くこと自体が意外だったのに、さらにもう一人来ちゃいましたじゃ厳しいものがある。せめてどこかの宿に泊まらないと、家が回らない気がする。
「え、そのつもりですけど。いやぁこの家にいないと見極めれないですし、何言ってるんですかぁ提督は、あはは」
飛龍は後頭部に手をやって、カラカラと笑いはじめる。こいつもこいつで、どうやらこの先のことを見据えていなかったらしい。
「いいわけねぇだろぉぇええ!言ってることは間違ってないけども、ちょっとは家のことも考えろよ!」
「そこを何とか!お願いしますよぉ!」
何とかって言われても、どうにもできないんですけど。極論だけど、俺が所持する家ってわけじゃないし、親父が大黒柱なわけだし…。
「あの…望。居候の身なのは分かってるけど、私からもお願い。だって飛龍一人を、どこかに止めれないじゃない!もし何かあったら…」
うぐぐ、蒼龍までそんな切羽詰まったような顔をされても困るんだが。いやぁ…これは。その…。
「わかったよ!わかった!ちょっと頭をフル回転させて考えてみるから!」
とりあえず何か説得力があって、家にいなければならない理由を考えないとな…。
先が思いやられる。いや、ほんとに。
どうも、それなりに遅くなった飛男です。
今回は飛龍の登場から、贈り物ラッシュに、理由など、大まかにまとめればこの三つでした。次回もこの流れが、続く予定です。
では、また不定期後に!