時は巻き戻り数時間前の事。
ここ大湊警備府は夏を迎えましたが、地域の特色として、今頃梅雨が来る感じ。とくに霧も立ち込めることが多くて、まだまだカラっとした夏の空は、見えないかも。
そんな中、久々に晴れを迎えたこの大湊鎮守府で、私こと飛龍があちら側に来る前に起きた、大湊警備府内での艦娘達それぞれの話です。
*
まず事が起きたのは、前日でした。
「飛龍。なかなか上達したわね。さすが、練度が高いだけあるわ」
隣に居るのは加賀さん。たまたま射に来たところ、先にいた感じです。練度自体はわたしより低いけど、純粋に射の腕はこの人の方が上なんですよね。さすが、私たちの先輩だと思います。
「そうですかねぇ?いつも通りな気がしますけど」
「そういうものなのよ。いつも通りの鍛錬が、確実にあなたを上げているのだから」
わたしの意見に対し、加賀さんは冷静に答えてきます。すっごい真面目なところは、私にはない魅力だと思います。まだ会った事ないけれど、提督はこういう人は好みに入るのかな?まあでも、蒼龍を選ぶくらいだし、真面目な人は好きじゃないのかも?いや、でも蒼龍も提督の前じゃ真面目にしてるしなぁ…。
「何かしら?私の顔に、何かついていて?」
そんなことを思っていると、不思議そうに加賀さんが聞いてきます。無意識に見つめてしまっていたみたい。恥ずかしいのかな?
「いえ。あ、そういえば加賀さん。加賀さんって向こうの世界、興味あったりします?」
とりあえず気まずくなるのを避けるように、私は加賀さんに質問を投げかけます。最近もっぱら向こうの世界の話題で持ち切りなんですよね。まあ加賀さんのことだし、どうせ「ないわね」とか言って、むしろ怒られそうな気がします。でも、意外にも加賀さん。考え込み始めましたね。ちょっとびっくり。
「そうね。正直な話、行ってみたいわ。だけれども、私にはその資格がないもの」
「資格?え、資格ってあるんですか?蒼龍はそんなもの持っていなかったと思うけど…」
向こうの世界に行くために、何かしらの資格がないとダメなものなの?だって、行きたいと思うなら行けばいいと思うし。あ、でも作法とかは身に着けておいた方がいいのかも。まあなんだかんだ言って、コエールくんが直ったらの話だけどね。
「…そう。少なくとも、貴方にはあると思うけれど」
「えぇ?加賀さんにはなくて、私にはあるもの…?あ、元気の良さですかね?」
少しふざけてみると、加賀さんは露骨にむっとした顔をします。え、何か私変な事いったかな?って、ふざけてる時点で変な事かぁ…。
「頭に来ました。私はもう上がります」
むっとした表情のまま、加賀さんは弓道具をしまい始めます。えぇ…そこまで…?
「えっと、あの、ごめんさない。悪気は…」
「…いいのよ。元気がないのはそういう性格だもの。でも、わからないようだからこれだけは言わせてもらうわ」
そういうと加賀さんは、顔をきりっとさせて、口を開きます。
「その資格を持っていてもなお、それを無知のように接するのはやめた方がいいと思うわ。私はもう大人だから我慢できるけれども、駆逐艦の子や軽巡洋艦の子はそうじゃないと思うもの」
そういうと、加賀さんは弓道場から出て行こうとしました。本当に解らないんだけれども…。もしかしたら、練度のことを言っているのかな?
私が考え込んでいると、出て行く加賀さんを止めるかのように、一人の艦娘が弓道場へ顔を出します。あ、あの人は…。
「あら、武蔵。どうしたのかしら?」
加賀さんの言う通り、その一人の艦娘とは大和型戦艦の武蔵さんです。いつもむっとした表情で強面な印象を受けますが、今回はなんか違う…。と、言うか、少しうれしそう?
「ああ、加賀。それに飛龍もいたか。他は…いないのか?」
「ええ、私と飛龍だけだったわ。珍しいわね、貴方がここへ来るなんて」
少々驚いたような声で、加賀さんは言います。確かに戦艦の艦娘にはまるで縁のない場所ですしね。
武蔵さんは腕を組むと、得意げな顔をしながら口を開きました。
「ふふっ…実はいいニュースを持ってきてな」
*
私、初霜はいま自室へといます。
正確に言えば、初春型のみんなの自室…そう、つまり共同部屋になります。基本、姉妹艦はこうして同じ部屋で共同生活を命じられるんですよね。
でも、いまこの場に居るのは初春姉さんだけです。もちろん子日姉さんや、若葉姉さんがこの鎮守府に着任していない訳ではないです。正確に言うと、現在二人は遠征に行っているんです。よく睦月型の方たちと、遠征任務に行かれるみたいですからね。
「しかし、暇じゃのぉ。初霜や」
初春姉さんは二段ベッドの上で、ごろごろとしています。私は読書をしているために暇というわけではないですけれど…。ですが無視するはどうかと思うので、返答を答えます。
「そうですね。初春姉さんも読書とかしてはどうですか?」
私の趣味の一つは、読書なんですよね。今読んでいるのは、桃太郎と鬼、どちらが鬼かってお話の本です。興味深いですよね、この方の作品。
「うーむ、気が進まん故、しとうないのう。そもそも、私は早く実戦へ出たいのじゃ!」
最近になってやっと初春姉さんは改二になったと言うことで、本格的な作戦に出たいとうずうずしているみたいです。正直な話、やっぱりどれだけ強くなったのか、姉さんも気になるんでしょうね。私もその気持ちは、わかります。
「提督も向こうの世界では学生さんだと聞きます。ですから、忙しいんでしょうね…」
「むー。いっそ、こっちに来てしまえばいいのにのう。初霜もそう思わぬかえ?」
もし提督がこちらに来たら…毎日見ることができるのでしょう。いや、それだけじゃなくて、もっと間近まで寄り添うこともできます。それはある意味夢のような話ですけれども、提督の気持ちはどうなんでしょう。きっと、こっちに来たら困ってしまいそうです。
「…初春姉さん。私、やっぱり提督は向こうにいるからこそ、提督だと思います」
「そうかや?むう、確かにそうかもしれぬのう。でももし来たら、嬉しくないのかや?初霜は?」
それはうれしいに決まってます。本当は面越しではななく、実際に面と向かって、話し合いたいですから。相談事もしたいですし、少しは甘えてもみたいですし…。なんというか、お兄さんみたいに、頼ってみたいですから。
「んふふ。おぬし、いま提督が来たら兄上みたいに接したいと思ったじゃろう?」
私がそんな妄想を膨らませていると、初春姉さんが確信を突いてきました。思わず恥ずかしくて、顔が厚くなってきちゃいます。
「な!そ、そんなわけ…ないですよぉ…」
「ふふっ。かくさんでもええ、隠さんでもええ。実を言うと、わらわもそう思っておるからのう」
それを聞いて、私は思わず驚いちゃいました。私の他にも、そう思っている人がいるなんて。
「初春姉さんもですか?」
「うむ。まあ、提督の嫁さんは蒼龍殿だからのう。だからせめて、義妹としての座を狙う駆逐艦は多いと聞く。まあ正直な話、一番近いと思うのはおぬしと叢雲殿かと思うのじゃが。どうなのかのう」
叢雲さんは私よりもかなり先輩の駆逐艦です。なんでも、提督が着任してから初めての艦娘が、彼女だったとか。私はそんな叢雲さんと比べるとまだまだ新米かもしれませんが、同じ駆逐艦として、負けたくない気持ちは持っているつもりです。いわゆる、ライバルですかね。
「でも、そんな話があったなんて、私知りませんでした」
「まあ、なんだかんだ言ってみな提督を信頼しておるからの。それにほれ、ほかの提督と違って、ウチは特殊じゃからな。その信頼も厚くなるというわけじゃ」
確かにそうでしょうね。提督は本来、会話できないはずの存在。それなのにウチは、提督と直接コミュニケーションが取れるわけで、なおかつ提督は優しい故なのか、私たち艦娘のアフターケアも、しっかりとやってくれます。例えば、ねぎらいの言葉や、時には叱ってくれたりと、様々です。
「早く、直るといいですね。コエール君」
「うむ、そうじゃな」
私と初春姉さんがそういうと同時に、廊下が騒がしくなり始めます。どうしたのでしょう。
「遠征の姉さんたちが帰ってきたのでしょうかね。私、ちょっと見てきます」
ベッドを降りると、私はそのまま部屋から出ようと、扉を開きます。すると、他駆逐艦の皆さんが、何やらあわただしく、走り去っていきました。
「あの!何があったんですか?」
たまたま通りかかった雪風さんに聞いてみると、雪風さんはにこっと満面の笑みを浮かべて、こういいました。
「こえーるくんが、直ったみたいです!」
*
コエール君が直ったことは、昼時には瞬く間に鎮守府内に広まった。
発信源はこの私、武蔵だ。本日の早朝、明石からいち早く聞き、こうして広めることにしたのだ。なぜかって?そうだな、鎮守府内ではこの半年の間、毎日のように向こう側の世界についての話題が飛び交っているからな。本当ならば隠すべきなのだろうが、隠しているのがばれて、暴走してしまう可能性も捨てきれないと思ってな。だからこそ―
「うむ、みな集まったようだな!」
こうして、集会を行うことにしたというわけだ。右端から駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、と、艦種順に並んでいる。
ちなみに言い忘れていたが、私は秘書艦ではない。あくまでもこの鎮守府を、取り仕切る役回りと言っておこう。現在の秘書艦は提督と珈琲談義に花を咲かせていたグラーフだったか。ともかく、現在我が鎮守府に置いて、秘書艦はほとんど機能してない。ああそうだ、秘書艦にならねば、提督と会話のキャッチボールができないからな。秘書艦でなくとも、一方的に言葉を編成時に発することができるが、それでは提督と会話をすることはできない。
「ムサシ。そろそろ始めよう」
グラーフがせかしてきた故、私は息を吸う。そして、マイクに向かって声を発した。
「諸君、昼休み前にこうして呼び出したりして、すまなかった。だが、ここで明確に伝える必要があったからな。聞いている者もいるかもしれないが、あらかじめ言っておく!コエール君の修理が、工作艦明石の手によって修理をし終えた!」
私の言葉に、それぞれ関心をした声が上がる。どうやらなんだかんだ言って、皆向こうの世界には興味を持っているのだろう。
「明石が言うには完全に修理が終わったそうだ。だが、まだ私個人としては明石に申し訳ないが、少々信頼をしていない。そこで、果たして本当に向こうの世界へ行けるか、テストをしたいと思っている」
以前のコエール君は、試作段階故に暴走し、破損したのだと明石は言っていた。そして今回、その不具合は解消されたことで、安定化を果たすことに成功をしたという。だが、それでも何かしらの不備が起きるのは機械としてあり得る話だろう。だからこそ、向こうへ行けるか否かの実験を行い、その被験者を募ろうと考えたのだ。
「もちろん向こうの世界に行って、帰れる保証はできない。それでもなお、このテストに参加をしたいものは、手を挙げてくれ!」
とはいうもの、おそらく上げない者が大半であろう。艦娘には全うすべき任がある。深海棲艦を倒すという使命。それこそ、私たちが存在している意味なのだ。
だが、それでも例外はいる。その例外を、私は把握しているつもりだ。
現に4名ほど、手を挙げた。
「手を挙げたものは、前でてきてくれ」
私がそういうと、手を挙げた者たちは素直に前へと出てくる。もし上げるとすれば、こいつらだと思ったが、やはりそうだったようだ。
「ふむ。初霜、叢雲、そして龍鳳と飛龍…。やはり、お前たちか」
龍鳳を除けば、私が着任する前からここにいる奴らだ。提督との付き合いは長いだろうし、何より彼女たちも、相応の想いを注がれているからな。しかし、龍鳳が手を挙げたのは、純粋に意外だった。だが、彼女も提督に熱を注がれていたと言えば、そうだったかもしれないな。
「ほかにいないのか?」
念のため、私は再度確認をする。だが、この4人以外は上げる様子を感じられなかった。まあ、本当は手を上げたい者もいるだろうがな。向こうの世界は我々艦娘にとって、様々な魅力があふれている。だが、それでも自分のプライドやポリシーを持っている者もいるはずで、資格がないと割り切っているのだろう。
「よし、では4人に告げる。このあと、すぐ工廠まで来るがいい。他の者たちは、解散!」
こうして、コエール君のテスターは募られたというわけだ。
*
数分後。手を挙げた私こと飛龍を含む、叢雲ちゃん、初霜ちゃん、そして龍鳳ちゃんは、工廠へとやってきました。
「来たか。では明石、説明を頼む」
私たちが来たことを確認すると、武蔵さんは明石さんへと説明を促します。明石さんは「はい」と短く声を発すると、バインダーに挟まれた資料を読み始めました。
「まず、今回テストしていただく方は一人だけですね。コエール君の安定化を図るため、一人を送る事でクールタイムを設ける設定にしています。大体クールタイムの時間は約2か月から3か月くらいを予定していますね。その間、さらなる改良をする予定です。今回送ることに成功すれば、そこから改良の余地はいくらでもあると思いますので」
ふむふむ、つまりこの4人の中で、誰かひとりと言うわけね。と、言うことは決める手段は簡単。王道的に、公平な決め方があるわ。
「そこで、じゃんけんを行うことにする。あくまでも公平に行うため、負けたものは素直に負けを認めるように。いいな?」
武蔵さんの言葉に、私たちは「はい!」と返事を合わせました。この勝負、負けるわけにはいきませんね!
「まずくじ引きで相手を決めよう。うむ、先ほど作っておいたからな。これを引いてくれ」
そういうと武蔵さんは、どこからかひもを取り出してきました。ふむふむ、これを引けということですね。とりあえず、右端の奴をとっ。
「よし、全員決めたみたいだな。では、引いてみろ」
くじを引くと、先端には赤色が付着していました。えっと赤色はというと…。
「あ、飛龍さん。同じですね!私、負けませんから!」
そういうのは、龍鳳ちゃん。彼女も赤色のひもを持っているし、間違いなさそうね。
「私も負けないわ!私にはいかなきゃならない理由があるもの!」
私も先輩がいもなく意気込んでいます。だって、私は向こうに行かなきゃならない理由があるのだから!
「よしっ!では各自じゃんけんをするように!」
武蔵さんの合図で、私と龍鳳ちゃんは目を合わせました。今思えば、龍鳳ちゃんはいい子だし、可愛いし、人を引き付ける魅力も持っていると思います。だからこそ、提督もどこか力を入れて、訓練に付き合っていたのかもしれないわね。
「行きますよ!さーいしょはグー!じゃーんけーん!」
そんなことを思っていると、龍鳳ちゃんにタイミングの主導権を握られてしまいました。でも、だからと言って、勝ち負けがどうこうなるとは限らないわ!
「ぽん!…あっ」
そして放たれた、グーとチョキ。どうやら勝てたみたいです。まあ、龍鳳ちゃんって割と出す手を、わかっちゃうんだよね。正直な子だから。
「ああ…負けちゃいました…。残念です…」
がっくしと肩を落として、龍鳳ちゃんは悲しそうな顔をします。あはは…なんか罪悪かんすごいや。
「うむ。勝ったのは飛龍のようだな。まあ、龍鳳は軽空母だし、仕方のないことだ」
「いや、それ関係ありませんよね?でも、その、勝っちゃいました。あはは」
武蔵さんとよくわからないやり取りをしていますと、喜びの声が聞こえてきました。どうやら、駆逐艦の子たちも終わったみたい。
「やりました…!うう…やりましたー!」
勝ったのは、初霜ちゃんみたいです。ぴょんぴょんとはねて、その喜びを体で表しています。たいして負けた方の叢雲ちゃんはというと。
「ふ、ふん!べつに悔しくなんてないわ!今回は勝ちを譲ってあげるわよ!」
あいかわらずでした。まあ、まだ駆逐艦の子は子供なので、やっぱり悔しそうな顔は隠しきれていないみたい。叢雲ちゃん、俗にいうツンデレってやつだし、本当は行きたかったんだろうなぁ。
「そちらは初霜の勝利か。うむ。叢雲よ、気を落とすな」
「…別に気を落としてなんかないわよ!ただ、まあ今回はいいかなって思っただけよ!」
「そうか。それはすまなかったな」
あはは、武蔵さんもやっぱりわかってるみたい。叢雲ちゃん、ドンマイってやつだね。
「さて…次に初霜と飛龍だが…。覚悟はできてるか?」
武蔵さんは一つ息を吸うと、私たちに準備をしろと促します。うん、私は大丈夫ですね!まあでも、唯一気掛かりなのは、相手が初霜ちゃんだってことだなぁ…。駆逐艦だし…。
「私、大丈夫です!飛龍さん!負けても恨みっこなしですよ!」
ぐっと力を入れて、初霜ちゃんは意気込みを見せてきます。まあ負けても恨みっこなしと言いましたし、私も価値を譲る気はなかったしね。
「ええ、お互いね!じゃあ行くわよ!さーいしょはグー!じゃーんけーん…」
ぽん!とお互いが言うと、あいこにはならず、決着がつきました。私はチョキ。向こうは…。
「…あっ」
パーでした。私が勝っちゃいましたね。
「…お、おめでとうございます!はい…!」
一瞬悔しさを押し殺した顔を見せましたが、初霜ちゃんは笑顔で私を祝福してくれました。ごめんね。さっきよりも罪悪感が大きいや。
「決まったようだな。では、飛龍。明日のヒトマルマルマルに(午前十時)、工廠へ来てくれ。お前も早く、提督と直に会いたいだろう?」
武蔵さんはにやりと口元を歪ませて言います。こういうところは、本当に気が利く人なんだよなぁ。私も見習いたいや。
ともかくこうして、鎮守府対抗。向こうの世界へ行きたいかじゃんけんは、幕を落としたのでした。
*
さて。そして迎えた約束の時間。私は荷物をリュックサックへと詰め、工廠へと足を運びました。
その間。私と蒼龍の部屋にいろいろな艦娘達が足を運んできました。あ、言っておきますけど、蒼龍はいまいませんからね。念のため。
で、やってきた艦娘は球磨型の皆や、じゃんけんに参加した初霜ちゃんたち、ほかにも提督用に軍服を手直しした加賀さんや、菊紋の入った黒い箱を持ってきた武蔵さんなど、多くの方がお土産として私に託してくれました。
「あー。やっぱり本当に向こうへいけるんだぁ…。あ、髪とか乱れてないよね?服もどうかなぁ…」
私はそんなことをつぶやきながら、ガラスに映る自分の髪の毛を整えてみます。まあ、つまりは緊張感を紛らわそうとしてるんですけどね!
「なにをしてるんだ?」
そんなことをしていると、唐突に横から低い声をかけられて、思わずびっくり。体がびくりと跳ねてしまいました。
「む、武蔵さん。脅かさないでくださいよ…」
声の主は、武蔵さんでした。まあ、艦娘で女性すら魅了できそうなかっこよく凛々しい声は、この人しかいませんけどね。
「別に脅かしてなどいないのだが…。まあ、いいか」
若干腑に落ちないような顔で武蔵さんは言うと、そのまま二人で工廠へと入っていきます。すると、すでにコエール君の準備をすましていた明石さんが迎えてくれました。
「あ、どもー。その荷物も一緒にですか?」
「ええ。そのつもり。あ、もしかしてダメだったり…?」
「いや、大丈夫ですよ。その荷物がダメだったりしたら、きっと服もダメですからねー。いっそ裸で転移してみます?」
あははーと冗談で言ってくる明石さん。裸は提督の前だからと言っても、さすがに恥ずかしい…。でも、提督は提督で、面白い反応してくれそう。
「さて、まあそんなことはいいとして、早速テストをしてみましょう。すでに提督には、そのことは伝えておきましたので」
行きなり来たらそれはそれで、提督困っちゃうだろうしねー。でも、蒼龍はいきなり向こうへ行ったんだし、案外受け入れてくれると思うけど。
「じゃあ、私はどうすればいいの?コエール君の前に立ってればいいの?」
「はいー。後はこっちでやるんで。後は目をつむっておいたほうが、良いと思います」
「え、どうして?」
「ものすごいフラッシュ…はい。光が発生するんですよ」
あーつまりそれをまともに目に受けちゃうと、目に相当な負荷がかかっちゃうってわけね。なるほど。
「わかりました?じゃあいきますよー?準備いいですかー?」
割と早い催促だけど、まあコエール君の前に立つだけだし、それもそうかな。
「ええ、いいわ。さあ、世界を超えて見せるわよ!」
変なテンションになっちゃってる気がするけど、気にしない気にしない。だってそれくらい、緊張とワクワクが、体の中で渦巻いているもの!
「ではいきますよー。よいしょっと」
ガコンと音がしたと思うと、機械的な音が室内に響きます。そして刹那。まばゆい光がカッと押し寄せてきて来ます。
「提督によろしく頼むぞ!飛龍!」
最後に武蔵さんの声が聞こえたと思うと、一瞬体が軽くなって。そのまま意識が途絶えました。
*
長いようで短い意識の途切れから、私は覚醒しました。どうやら無意識に、座り込んでいたようです。
「え、これだけ?うーんもうちょっと痛いとか思ったけど…」
そんなことをつぶやきながら、私はきょろきょろとあたりを見渡します。ちゃんと、向こうの世界に来れたのかな…?
「うん。間違いなく、宿舎内…というわけではないわね。て、言うか部屋汚いなぁ」
洋服が室内に散らばっていて、本だなの本は隙間に積みあがっているというありさま。それにクローゼットの中には、皮でできた俗にいう皮ジャンだったり、何に使うかわからないスプレー缶などがあります。
「ふう、まあとりあえずついたってことかな」
私が一つ息をついて、状況を確認すると、遠くの方からガチャリと音が聞こえてきました。
「おお?提督かな?…とりあえず、待っておこう」
胸がどきどきと高鳴っているのは分かります。画面越しではなく、本人に会える…。そんな思いを胸に、私はベッドへと腰かけながら、胸元を押えます。
ですが、しばらくたってもこの部屋のドアは空くことなく、提督は顔を見せません。
「あれ…?もしかしてここ、提督の部屋じゃないのかなぁ?」
見るからに提督の私物っぽいものが置いてありますけど、ひょっとして弟さんの部屋とかかな?いやでも、確か提督には妹しかいないわけで…。
私は居ても立っても居られず、立ち上がります。すると、その刹那。
バンッ!と、扉が開いたと思うと、男の人が木刀らしきものをもって、突撃をしてきました。
「うわぁ!!び、びっくりしたぁ!」
まさに一瞬の出来事だったので、私はその場で硬直をしてしまいました。でも、その男の人も、こちらに気が付いたのか、床を踏み込んで、その場に踏みとどまります。
「なっ…えっ…あっ!?」
その男の人は、目をまんまると見開くと、すぐに考え込むしぐさをし始めます。短く切った髪の毛に、若干の無精ひげ。彫が深いけど日本人の顔つきで、右目の上には切り傷のあと。そう、この人は…!
「あの…提督だよね?」
私の無意識の問い掛けに、提督は「…ああ、そうだぞ」と返答をくれます。
「あーっと…」
提督はそうつぶやいたと思うと、一つ息を吸って、私に目線を合わせてきました。
「よ、よく来たな飛龍。まさかお前が来るとは思わなかった」
こうして私は、こちら側の世界へと送られてきたのでした。
どうも、飛男です。
まずコラボ前なのにしてるんだ?と、お思いの方が多いと思いますので、軽く説明をここでしておきたいと思います。
実はコラボ先の方、要するにたくみん氏が現在多忙の身でありまして、私も就活が始まりあまり煮詰まった打ち合わせができていないのです。まあ煮詰まった打ち合わせと言えば聞こえはいいですが、実際は主に展開方法などについてなので、時間をかけての作品向上と言うわけではないですね。私個人としては、もっと上げていきたいですが、コラボですので、そこは誠に勝手ながら暖かい目で見ていただけることをお願いします。
それと、今回はある意味での実験回です。
今回最後まで読んでいただいた方(まああとがきまで見てくれていると言うことは、最後まで読んでくださってると思いますが…)は気が付いたでしょうが、艦娘の一人称視点として、武蔵と初霜が出てきます。これは、今後の展開に関係した、ある意味での実験でありました。これからも、番外編と言うことで様々なことを書かせていただく可能性があると思います。
私は所詮しがない物書きですので、こうして実験を行うことで経験値を蓄えているというわけです。そして、どのような結果になるかは、まあそのとき次第でしょうけどね。
では、今回はこのあたりで。また次回?お会いしましょう。