提督に会いたくて   作:大空飛男

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鳳翔さんに会います! 下

蒼龍とまあ仲直り?をした俺は、大滝に夕飯を食っていくことを提案されて待つことにした。正直鳳翔さんの手料理を食べれるのは嬉しいと言うか興味を惹かれるというか。ともかくおふくろにはメシを食っていくとSNSで飛ばしておいた。

 

「私鳳翔さんのお料理を食べるのは久々です!」

 

まあ蒼龍の場合はうちにいる鳳翔の手料理の事だろうな。まあ人は違えど、人格は変わらない。要するにパラレルワールド的なんだろう。

 

「…ちょいとお前ら、鳳翔を見てみろ」

何気無い話を蒼龍と俺がしていると、唐突に大滝が小声で言う。なんだろうかと俺たちは顔を見合わせて、大滝の近くへと寄る。

 

大滝の位置から鳳翔をみると、丁度気分良く料理を作っているところが見えた。割烹着姿に淡い桃色の着物が映える彼女は、まさに大和撫子だろう。

 

「お、見えた。な?いいだろう?」

 

何が見えたのだろうか。俺と蒼龍は再び顔を見合わせて、大滝へと何かを問う視線を向ける。そんな視線を大滝は理解したのか、俺と蒼龍の肩を寄せて顔を近づけた。

 

「わからんのか?うなじだよ。うなじ。他にも…お、ほら。今の動作。髪をかきあげるあの姿もたまらないとは思わないか?」

 

熱弁をしてきたぞこいつ。ってまあ言われてみれば確かにグッとくる。鳳翔さんは色々と女性の魅力を感じさせてくれる人だな。

 

「わ、私もやってみようかな…女の私でも、鳳翔さんの姿はグッときちゃうかも」

蒼龍も生唾を飲んで、熱心に鳳翔を眺め始める。蒼龍はそのままでいいと思うけどなぁ。ちょっと抜けてるところや、幼いところが、俺的には一番グッときている。まあでも、大人びた事をする蒼龍も良いだろうし、なんか迷うぞ。

 

「蒼龍はまずそのツインテをやめなければならないんじゃ無いのか?最近その髪型以外見たこと無いんだが」

 

最近は他の髪型にするのがめんどくさくなったのか、蒼龍はツインテを貫き通している。いやまあ俺的にはそれが一番似合うと思うし、蒼龍はそうでなくっちゃって思えてもくる。

 

「あのぉ…あまりジロジロ見られると恥ずかしいです」

 

どうやら鳳翔は俺たちの視線に気がついたのか、照れた表情で振り返ってきた。うお、照れた顔もスッゲェ美人。蒼龍も大滝も、おもわず「おぉ」と声をあげてるし。

 

「ああ、いや。すまないな。お前がいてくれると、やはり嬉しいよ」

 

大滝は後頭部手を当てて、照れ臭そうに言う。すると、鳳翔はふふっと小さく、可愛らしく笑う。

 

「ふふ、そうですか?私、こちらに来た甲斐がありましたね。旦那様」

 

なんという強烈な一撃なのだろう。大滝も流石に堪えたのか、顔を赤くして俯いた。俺と蒼龍も何かと恥ずかしくなり、鳳翔から目線をそらした。お前らもイチャイチャしてるやんけ。

 

「そ、それよりあと少しでおゆはんできますよ!皆さん、準備をしてください!」

 

あとから鳳翔も恥ずかしさがこみ上げてきたのか、顔を赤くして料理を作る作業に戻る。うむ。色々と眼福だったな。

 

「むう。さすが鳳翔さん。私も色々と見習わないと」

 

蒼龍は関心深そうに頷き、言葉を呟く。蒼龍がもう少し成長すれば、未来は鳳翔の様になるのかもしれないな。

 

 

 

 

夕食はまあ何とも趣を感じる和食であったが、素材の質を最大限に高めた様な味で、しつこくも無ければ薄くも無い、何とも美味と言わざるをえなかった。

 

「食器片づけます。ほら、蒼龍もやるぞ」

 

「はい!えーっとこのお皿は…」

 

ごちそうになったからには、手伝いをしなければならないのが普通だ。俺と蒼龍はとりあえず皿を重ねていく。家ではよくこうして流し台へ持っていくので、作法は間違っていないはず。いや、家だけなのかな。

 

「いえいえ。どうかお二人は座っていてください。ここは私だけでやりますので」

 

鳳翔はそんな俺たちを静止させるように、俺と蒼龍の手のひらを優しくなでる。なんというか、鳳翔の手のひらはすこしかさかさしていて、より一層おかんであることが分かった。こんな若い顔つきなのに、手だけは年季が入っている。本当に感心するよ。

 

「俺もやるぞ鳳翔。七さん。その皿をよこしてくれ」

 

「そ、そんな!提督に手を煩わせるわけには!」

 

「いや、今日はやらせてくれ。こいつらはお前だけの客人じゃないだろ?俺たちの客人じゃないか」

 

そういって、大滝は鳳翔に有無を言わさず、流し台へと食器を運んでいく。そんな彼を見て、鳳翔は胸元でぎゅっと手を握っていた。ああ、こいつらもなんだかんだ言っていい雰囲気だな。奴らしい男の見瀬方だなぁとは思う。

 

「あ、えっと。お二人はそこでくつろいでいてください。私も片づけてきますので」

 

大滝の向かった方向をうっとりとした目線で見ていた鳳翔は、はっと我に返り次第、俺たちにそういってくる。まあそうさせてもらおう。彼らの言ったことは正しいし、ここは大滝の顔を立ててやらねば。

 

「わかりました。蒼龍、しりとりでもして時間をつぶそう」

 

「へぇ?しりとりですか?じゃあわたしから…しりとりの「り」から…りんご!」

 

一瞬困惑した蒼龍であったが、すぐに了承をしてくれた。まあ鳳翔にくつろいでいる姿を見せる名目でしりとりを選んだわけだが、どうやら鳳翔はそれで納得したらしい。彼女はふふっと笑いをこぼすと、食器を持てるだけ持って、そのまま流し台へと向かって行った。

 

「うーん。…いい雰囲気ですねぇ。あの二人。あ、力士!」

蒼龍も感づいていたらしく、二人が流し台へ向かうと、ほほえましそうにつぶやく。俺もそれには当然同意だ。うんうんとうなづいて、とりあえずしりとりを続けた。

 

さて、それから数十分後。俺が蒼龍に定番の「り」攻めを行って苦しめている中、食器を洗い終えたのか二人が戻ってきた。何かを話していたようだけど、聞き取れてはいない。

 

「えぇ…また「り」ですかぁ…。えーっと。うーんと。りんご酢!」

おおう。そう来たか、じゃあ「す」か。えーっと。

 

「お前らしりとりしてるのか。なんつう子供っぽいというか…っと。そうだ、ちょっと煙草が吸いたくなってきたし、七さん行こうぜ?」

 

大滝は俺たちに苦笑いを見せると、唐突な提案をしてきた。まあ確かに食後の後にヤニは補給しないといけないな。煙草を吸う人ならわかると思うけど、たまらなくうまいよね。

 

「おっけ―あ、蒼龍。ストロベリー。はい。次も「り」だからねー」

 

とりあえず蒼龍の番にしておいて、俺は大滝と一緒に玄関へと向かう。一応室内での煙草はダメらしい。大滝曰く、玄関の前で吸わなきゃいけないとか。

 

「ひどいですよぉー!英語とかずるいです!えーっと…り…り…」

 

蒼龍の泣きごとが聞こえたが、まあそんなことは放っておき、俺と大滝は外へと出ていった。

 

 

お二人が外へ出ていくのを見送ると、私は再び考え込みます。

 

望さんは「り」が最後にくる言葉ばかりを使ってきて、私はもう大混乱。頭の中にある用語を必死に絞りだそうとしても、もうつきかけてます。そもそも望さんは英語はもちろんスペイン語やドイツ語まで使ってきて、知っている量の言葉が違いすぎるんです。こんなの負け戦さじゃないですかぁ。

 

「うーん。り…り…」

 

声に出したところで、私の頭には何も浮かんできません。これはお手上げするしか無いです。

 

「ふふっ。蒼龍ちゃん。やっと二人っきりになれましたね」

 

私が唸っていると、鳳翔さんが不意に笑いかけ、声をかけてくださいます。二人っきりって、…何故でしょう。

 

「えっと、どうされましたか?」

 

「私達艦娘同士、二人っきりでお話ししたかったの。ダメだったかしら?」

 

ダメのわけがありません。私は首をふるふると横へ降って、その事をアピールします

 

「よかった。えっとじゃあ、七星さんとこれまでにあった事を教えてくれないかしら?私ずっと、気になっちゃって」

 

「そ、そんないきなり言われても」

 

とは言う私でしたが、誰かに聞いてほしいと言った思い無いわけではありません。だって、自慢したいもの。私の自慢の提督で、自慢の恋人。のろけになるのは当たり前ですけど、話したくなるのは、恋する乙女の性なんです。

 

「えーっと。それじゃあ遠慮なく…」

 

鳳翔さんもにこにこと私に笑顔を見せてくれていたので、話しやすかったです。まず最初の出会いから、望さんから様々な人と出会えたこと、時折見せてくれる小さな気遣いから、ガラの悪い方々に絡まれた時に助けてくださったこともすべて。私は語りつくしました。

 

ふと時計を見ると、50分は経っていました。まだまだ語り足りないですけど、流石に自重をします。一方的に話すのは、聞いている相手も疲れてしまうはず。

 

鳳翔さんは私が語り終えるのを確認すると、微笑ましそうに頷きます。そして、口を開きました。

 

「…貴女は七星さんの事を、本当に慕っているのですね」

 

「そんなの当たり前ですよ。私はゆくゆく、あの人と一緒になりたいです!」

 

「そうですか。ふふ…そうですか」

 

鳳翔さんはどこか満足そうに、納得した様に言葉を復唱します。ちょっと恥ずかしさがこみ上げてきました。

 

「本当によかった。蒼龍ちゃんは理想の提督に出会えたんですね」

 

「え、どういうことですか?」

 

純粋な疑問です。だって、鳳翔さんはこんなプライベートな事を深く詮索してこない方です。うちの鎮守府にいる鳳翔さんはまさしくそうでしたしね。

 

鳳翔さんはしばらく黙り込みます。そして、俯いていた顔を上げると、口を開きました。

 

「私は、心配だったんです。貴方が想っていた提督とは違う方だったのでは無いだろうかと。少なくとも私は、大滝提督を見た際にイメージしていた方とは少々違いましたしね。今ではむしろ…あの性格の、ありのままの提督が好きですけども、その様なすれ違いは起きると思います。ですから、蒼龍ちゃんはどうだったかなって。そう思いました」

 

確かに艦娘のみんなは、自分の命を託しているこちら側の提督の事を毎日妄想しています。どんな人だろうと、身長は高いのか低いのかとか、すでに既婚者かどうかとか、様々です。私はイメージに合致していた方でしたので、むしろ予想が当たって嬉しかったですけど、こちらの世界へに来て予想と違った提督を見ると、多少は残念な気持ちになってしまうかも。

 

「でも、その様子じゃ大丈夫そうですね。よかった。きっとあの方は、蒼龍ちゃんが思っていた通りの方だったのでしょう。それも、今なおそのイメージを崩さない様に努力している…ちょっと羨ましいな」

 

ころころと笑うと、鳳翔さんは一息つきました。そして私の目をまっすぐと見つめます。

 

「あの人に、貴女を任せられそうです。一応貴女の義母として、私は了承します」

 

ああ、そういうことだったのですか。私はすべてを理解しました。

鳳翔さんは大日本帝国初の空母。すなわち私達空母型艦娘にとっては例に漏れず、母親の様な存在です。つまり、私の事を母として、心配してくださったのです。

 

そう考えると、話しやすかったのも頷けます。のろけ話なのに鳳翔さんは頷いてにこにこと暖かく聞いてくださいましたし、そののろけ話の中で私が想う望さんへの気持ちも聞き取ってくださったのでしょう。

やっぱり、この方には頭が上がりません。私は心にこみ上げてくるものを感じて、思わず鳳翔さんを抱擁しました。

 

「あっ。ふふっ…。蒼龍ちゃんはやっぱり、甘えん坊ね」

 

✳︎

 

煙草を吸う予定だったが、大滝は自販まで歩こうと言い始め、なおかつそこで話し込んでしまった。約一時間も俺たちは家を空けていたわけで、鳳翔と蒼龍を家へと残してしまったのは、悪いことをしたと思える。てか大滝がどう考えても外へ出ている時間を稼いでいた様に思えたが、まあ気のせいだろう。

 

まあ待たせてしまった事は悪いと思い、自販機で四人分の飲み物を買うと、俺たちは家へと戻った。どうやら鳳翔と蒼龍も二人で話し込んでいたっぽいし、待ったと感じなかったのかもしれない。ちょいと罪悪感から解放される。

 

「しかし二人とも何を話していたんだ?気になるわ」

 

俺は鳳翔と蒼龍に顔を向け、聞いてみる。女子トークを詮索する事は良く無いらしいけど、ついつい聞きたくなるのは仕方ないだろう。蒼龍は俺の想い人でもあるんだしね。

 

「ふふっ。内緒です」

 

しかし、蒼龍と鳳翔は口を揃えこう言ってくる。うーむ。そう言われると余計気になってしまう。でも、ウインクしながらそう言われると、まあいいやと思っちまうじゃねぇか。

 

「さてと、もうこんな時間だし、そろそろ帰ろうか。明日も大学あるしな」

 

「そうですね。あ、鳳翔さん!」

 

俺に続いて蒼龍も立ち上がると、何を思いついたかハッと鳳翔へ顔を向けた。

 

「また、来てもいいですか?」

 

それを鳳翔に言うのかと思ったが、鳳翔はにっこりと笑顔作り、口を開いた。

 

「ええ。提督。よろしいですよね?」

 

「俺は構わんよ」

 

蒼龍は二人に「ありがとうございます」と頭をさげる。まあ家主である大滝も了承した様だし、いいのかな。

 

それから大滝の家を後にした俺たちは、駐車場の車へと向かう。すると、蒼龍が何かを思い出した様に、「あっ」と言葉を漏らした。

 

「思いつきました!理性です!さあ、望さん次は「い」ですよ!」

 

まだしりとりを続けていたのか。しかし「い」か。い…い…」

 

「Ich liebe dich…あ、「ヒ」になっちまった。いや、まあ俺の負けでいいや」

 

「えぇー?またわからない言葉を…どういう意味ですか?」

 

ついつい先日習った言葉を使ってしまった。まあテストとかあったし…って。まあ意味合い的にまんざらでも無いんだけども。

 

「うーんそうだな。きっとビスマルクやプリンツ、あるいはマックスやレーヴェにでも聞いてみるんだな」

 

 

 




どうも、飛男です。
今回もまあ色々と確認回。次からはまたほのぼのとした日常を描いていくつもりです。
さて、最後の言葉「Ich liebe dich」ですが、まあ大学では英語以外の言葉を習わないといけない故に、望が思いついた言葉でした。これは例に出した艦娘を見ればどこの言葉かは一目瞭然でしょうね。しかし、念のために意味合いは伏せます。調べてみてください。

では、今回はこの辺りで、また次回!

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