提督に会いたくて   作:大空飛男

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携帯電話買います!

5月にもなり、桜など影も形もなくなった。代わりに生い茂るのは、新緑の葉。

 

俺たちは車を走らせ、ドライブを楽しんでいた。蒼龍は車に乗ることが好きみたいで、運転するこっちとしてもうれしいことだ。蒼龍のおかげで、俺も車を運転することが楽しくなっている。

 

さて、そんな初々しい葉を愛でる季節に、おふくろがつぶやいたある唐突な言葉から話題が始まった。

 

「うーん。確かに携帯は必要になってくるよなぁ」

 

 俺は運転をしながら、思い出すようにつぶやく。この先間違いなく必要となるアイテム携帯電話。電話はもちろん、手軽なメールもできる現代技術の優れもの。

 

でも、だからと言って蒼龍にスマフォを持たせるのは少々抵抗がある。SNSなどを使い、もし蒼龍のつぶやきが思わぬように拡散をして大事になれば、ネットの海は広く、素早い。瞬く間に蒼龍がこの世界に来てしまったことが広がっていき、もう収集がつかなくなるはず。最悪な事態になれば国籍不明による国外追放だって考えられそうだ。

 

「携帯って望さんがもってるスマフォってやつですか?私もほしいですね!」

 

新しいもの好きな蒼龍にとって、ずっと目に留まっていた物だっただろうね。おそらく触ってみたいと言い出せなかったのは、俺が肌身離さず持っていたからだと思う。まあ触らせてみたいとは思っていたけど、やはり怖いよね。

 

「うーん。蒼龍にはまだちょっと早いかもなぁ…。だって、使い方まるでわからないでしょ?」

 

「あはは…まあそうですね。でも、使っていけば覚えます!」

 

―その間に問題を起こすことが怖いんだよえねぇ。

 

 と、俺は心の中でつぶやく。さすがに本人の前で言うと、拗ねられそう。

 

 しかしゼミや蒼龍の出れない授業の際、時間厳守な蒼龍であれど、講義が時間通りに終わらない場合もあれば、ゼミだって授業時が過ぎても、一時間もオーバーすることもある。つまりそういう時のことを考えると、やはり蒼龍には携帯を持たせてはおきたい。

 

「あ、そうか」

 

ふと、俺は思い付いた。そうだ。あの手があるじゃないか。

 

「どうしました?」

 

「蒼龍。ちょいと聞くけど、やっぱり携帯はほしいか?」

 

俺の問いかけに蒼龍はしばし意図を読もうと俺に視線を送ったが、目線を外し、うつむく。

 

「ほしいですけど、私にはやっぱり早いかもしれませんね。いつまでも私、わがまま言えませんもん」

 

 わがまま?わがままを言っているような覚えはとんと思いつかないが、何か勘違いをしていそうだ。俺はははっと笑い飛ばし、口を開く。

 

「早いなら、練習用の機種を買えばいいな。携帯は何も、スマフォだけじゃないんだ」

 

「えっ!?」

 

俺の言葉に、蒼龍は嬉しそうな声量で言葉を漏らした。

 

 

大通りへと道を変更した俺は、しばらく走り、携帯ショップへと車を止めた。俺が初めて携帯を持ったのは高校時代で、この店で買ったことを鮮明に覚えている。周りの奴らはみんな携帯を持っていたし、やはりあこがれは持っていたものだ。結局部活で使うことになったから、親としてはもう少し待ちたかったそうだけど、買うことになったんだ。

 

俺の年代は携帯を持つこと自体、高校生でも早いと言われていた。だが、最近の子供たちは小学生でも持っているようで、驚きを隠しきれない。中にはタブレットを持っているキッズも見たことがある。時代は変わったと、老いを感じた。

 

「わぁ…。いっぱい携帯電話がありますよ!」

 

蒼龍は店内にある様々な携帯電話を見て、目を輝かせる。最近はどれもこれもがスマフォばかりだ。やはりあれはもう置いていないだろか。

先ほどからあれと言っている物品こそ、ガラパゴス・ケータイだ。通称ガラケーと言われるこの携帯は我が日本から独自を遂げた携帯で、島国から独自の進化を遂げたということで、このような名前が付いたとか。どうでもいい知識だね。トリビアだと思ってくれればいいさ。

 

「すいません。ガラケーはもう置いていないのでしょうか?」

 

目を輝かせてうろうろしている蒼龍はとりあえず置いといて、俺は店員へと聞いてみる。割と美人な店員だな。泣き黒子が魅力的な女性。店もあいにく空いていて、待ち人も少ない。

 

「え、ガラケーですか?」

 

店員は少々困惑をした顔をする。うむ、やっぱり時代はスマフォなんだろうな。ガラケーを求める客など、そうそう居ないんだろう。残念。

 

「一応、あるにはありますよ」

 

とりあえず座るように促され、俺は店員の座る前の椅子を引く。

 

「はい。ガラケーの契約となりますと、現在のプランはこちらの二点になります」

 

そういって、店員はタブレットから料金プランを映し出す。さすがはガラケー。料金プランの一か月間が、スマフォに比べてかなり安い。おそらくネットの規制も掛けるから、値段はスマフォの三分の一くらいではないだろうか。うわぁ、すげぇ安い。

 

「蒼龍、ちょっと来い」

 

俺はスマフォのサンプル品をいじっている蒼龍に手招きすると、店員の持つタブレットを見せる。店員の顔は何かを察したのか、俺に対してにこりと笑顔を見せてくる。もしかして彼女に携帯を買ってやる太っ腹な男だと思われたのだろうか。残念だったね。あいにく料金は蒼龍のバイト代から引かせてもらうよ。って、蒼龍はほとんど金を使わないんだけどね。なんでもほしいものが特にないらしいので。

 

「どっちがいい?」

 

タブレットに映し出されている携帯は、青色の薄型携帯とピンクの少々ゴツイが画素数の高いカメラを搭載した携帯だ。軽さを取るか、カメラを取るか。どちらもなかなかセールスポイントが高いし、これは蒼龍の好みでわかれるだろう。

 

「むむむ…そうですね」

 

蒼龍はタブレットをにらみ、しばしうなる。彼女の人生初めて持つことのできる携帯機器だ。さすがの蒼龍も容易に決めようとは思わないらしい。そういえば俺も、迷ったものだ。

 

「望さんはどちらがいいと思います?」

 

正直、もう予想していなかったと言えばうそになる。おそらくこの場合、俺が選んだ方を蒼龍は選ぶだろう。数か月付き合ってきて、彼女はそういう娘だとわかった。自分の意思を全面に押し出せないらしいのだ。割と妥協するようなことが多い。

 

「自分で決めな。記念すべき最初の一台だぞ?」

 

「え、でも…」

 

困惑をした表情を、蒼龍はする。そうだ、迷うんだ。迷いに迷って、自分の一番良いと思った選択をするんだ。それに後悔してはいけないぞ。

しばらく沈黙が続き、蒼龍はタブレットを眺め続ける。さすがに店員もしびれを切らしたのか、「お好きな色などで決めてはいかがでしょうか」と、意見を促す。

 

「そうですね…うん。でも…どちらの色も素敵だなぁ…」

 

店員の言葉により、さらに迷いに迷う蒼龍。個人的には青色の方が似合うと思うが、ピンクもある意味捨てがたい。俺まで割と、真剣に悩み始めたぞ。まさかこんなことになるとは思わなんだ。

 

 

あれからさらに時間をかけた蒼龍は、ピンクの高性能カメラが付いた方を選んだ。どうやら最大の決定打は、女性らしい可愛さを求め、ピンクを選んだらしい。まあ高性能カメラがついていることすなわちこれから写真も撮っていくだろうし、どんな写真を撮るのかが楽しみでもある。

 

「んふふー。ふふっ」

 

助手席でガラケーを見つめ、蒼龍はたいそう嬉しそうだ。そこまで喜んでくれると、付き添ったこっちもうれしいものだ。

 

「あ、望さん!早速メールを打ってみてもいいですか?」

 

店から出る前、蒼龍にはあらかじめ俺のメールアドレスと電話番号を教えておいた。まあ自分の名前が最初に入っていないと、少し納得できないこともあったけど、何よりも一切のアドレスや番号が入っていないのは、少々かわいそうではあるからね。

 

「ん、いいぞえ」

 

「やったー!えーっと…ふふふ」

 

喜びを露わにした蒼龍は、早速かたかたとボタンをプッシュし始める。この音、懐かしいな。

 

「えーっと。あ、い。ま。た、ち、つ、て…」

 

連続してボタンを押すタイプではあるので、覚えきれていない蒼龍はぼそぼそと打ち込んだ言葉を復唱している。それもうどんな内容を送るかわかっちゃうな。

 

「か。っと…送信!」

 

カチリと送信ボタンを押して、蒼龍は俺ににこにこと笑顔を向けてくる。満足そうな顔だ。どれ、ちゃんと遅れてるか確認をしないと。

 

信号が赤になったのを見計らい、俺は瞬時にメールを確認する。お、届いてる届いてる。

 

「なになに…『いまとこにむかつているのですか』か…。ん?」

 

何かよくわからない文章が送られてきた。一瞬くずし字の訳かと思ったが、蒼龍がそんな難しい文章を送ってくるわけない。蒼龍に意味を問おうと横目で見ると、蒼龍はわくわくとしながら、俺を見つめている。どうやらこの問題を解かなければならないようだ。

 

…あ、そういう事か。

 

「『今どこに向かっているのですか』か、なるほどなるほど」

 

つまり、蒼龍は濁点や小さい『っ』などの打ち方がわからないのか。確かに携帯などを触ったことが無い人間が、最初にやりそうなミスでもある。

 

「だ。とか。じ。とかの打ち方がわからないんだな?それは左下のキーで濁点があるところを押すとできる。試しにやってみな」

 

「はい。えーっと…『た』に濁点っと…あ!できました!見てください!」

 

「おー。よかったな。小さい『っ』とかも『つ』を打ち込んでそのあとそのキーを押すと、できるよ」

 

「わかりました。えーっと…」

 

再び打ち込んだ文字を復唱する蒼龍。そして出来上がると、また見せてくる。

 

「どうです?これで私も、携帯マスターですね!」

 

ふふふと笑い、蒼龍は満足そうに携帯を見せびらかしてくる。ちょっと調子に乗るといけないので、釘を刺しておこう。

 

「ふふふ…甘いぞ蒼龍!まだお前は携帯の覇道の麓に立っているのだ!」

 

「え!な、なんですって!」

 

わざとらしい反応するなぁとか思ったけど、割とガチっぽい。携帯の覇道なんてねぇよ。でもまあ、まだまだ使いこなせてはいないわけなんで。

 

「まだまだ英文や記号を使いこなせてはいない!それができなければ、マスターとは言えないのだ!」

 

「そ、そんな!まだそんな隠し要素があったなんて!」

 

雷がバックで落ちたような感じで、蒼龍は驚きの声を上げる。すごいおかしいテンションですはい。あ、かみなりなんで。いかづちではないです。

 

 

それから一週間後。蒼龍には家族もちろん、地元メンツ、大学メンツ、明石にメールアドレスを教え、多くの奴らとも連絡が取れるようにしておいた。まあ俺ばっかりじゃあつまらないだろうし、何より蒼龍には早い段階で携帯を使いこなせるようにしたかったんだよね。

 

「っと、メールだ」

 

かーんーこーれっ!っと、まあ最初に聞こえてくるゲームのあの声が、夜空に響く。現在俺はベランダで、タバコを吸っていた。部屋では煙草の匂いがこびりつくので、一応マナーの一環として外で吸っている。ちなみにこのサウンドは、艦娘達のだれかから来るメールに割り振っている。わかりやすいとは思わない?

 

「おや、飛龍からか。珍しい」

 

メールは飛龍からであった。あいつめったにメールをよこしてこないのに、どうしたのだろうか。とりあえず内容を見るべく、俺はメールを開いた。

 

『テイトク。ソウリュウにケイタイデンワとよばれるモノをカってあげたのですか?』

 

どうやら蒼龍は、飛龍に自慢をしたっぽい。そういうところ、ちょっと子供だな。あくまでも憶測なんだけども。

 

とりあえず「まあね」と送ってみる。すると、すぐに返事が届いた。

 

『ワタシもホシイです。コエールくんのシュウリがオわったら、ゼヒにです!そのときによろしくおねがいします!』

 

なるほど。どうやら飛龍はうらやましくなったらしく、俺にメールを送ってきたようだ。まったくこいつも、可愛いところあるよな。

 

「わかったよ。もしこっちに来れたらな。っと…」

 

まあコエールくんの修理状況はわりと絶望的らしく、復旧させるのにはまだまだ時間がかかりそうだと、明石からは報告を受けている。しかし、直る可能性は十分にあるわけで、これからもう一人は増えると予想しておいた方がいいのかもしれない。しかしその場合、どうすればいいのだろうか。蒼龍と同じように扱えることは、できないかもしれない。

 

「…もうそろそろ、独り立ちの時期なのかなあ」

 

俺は吸引した煙を吐きながら、苦い顔をして夜空を眺めたのだった。

 




どうも、飛男です。
3日間投稿できませんでした。学祭に引っ張り出され、集客目的に私物の軍装備を着け、大学を練り歩く始末に。楽しかったですけど、純粋に疲れました。なので頭が回らず、話が少々適当になっているかもしれません。

さて、本日よりそろそろ学業が忙しくなってきて、今までのように投稿ペースが速くできない可能性があります。一応説明に書いた一週間以内に投稿をしたいとは思っていますが、最悪それすらも超える始末になるかもしれません。

それと、安易に始めたこの作品ではありましたが、皆さまの暖かい評価や感想などで火が着いたようで、今後は以前投稿した話にもいくつかテコ入れなどをしていき、力を入れて書きたいと思います。それ故に投稿スピードが遅くなるかもしれませんが、ここまで来たなら良い作品にしていきたいと思いますので、どうか応援していただけることを切に願います。

ではまた、不定期後に!

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