提督に会いたくて   作:大空飛男

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着替えたり、ドライブします!

あいにく家族は全員どこかに出かけているようで、先ほど騒いでいたのは聞かれなかったらしい。俺はとりあえず箪笥とクローゼットから、蒼龍が着られそうな服を取り出す。

 

俺と蒼龍の身長は、大体15センチほど違う。俺の身長は175センチのはずだから、おおよそ160センチくらいだろうか。まあ女学生の平均的な身長くらいだね。

 

しかしそうなってくると、やっぱり俺の服は少々ぶかぶかだと思う。妹の服はそれこそ着れるだろうけど、勝手に借りたらギャーギャー喚かれ、罵倒されこと間違いなしだ。女子高生は異常。

 

「うーん…。やっぱり大きいだろうけど、我慢してくれ」

 

異常なる女子高生の妹に文句を言われないためにも、やはりこうするほかはないだろう。俺の体臭が匂うかは知らんけど、我慢してもらう必要がある。

 

「…提督の服を着るんです?」

 

蒼龍は箪笥から引っ張り出す服を受けつつ、不思議そうに声をかけてきた。

 

「そーだよ。そんな着物で外で歩いたら、目立つだろう。俺だけがお前の…航空母艦蒼龍の提督をやっているわけじゃねぇんだ」

 

「え?どういうことですそれ?」

 

ああ、そうか。彼女はほかにも『蒼龍』がいることを認知していないらしい。確かに自分と同じような顔がいると知ったら怖いだろうさ。ドッペルゲンガーに会うと殺されるって話も、聞いたことあるしね。って、ダブった艦はどう思っているのだろうか。これ以上の詮索はいけないか。

 

「気にすんな。とりあえずちょっと待っててくれ」

 

俺は吟味した服を蒼龍から受け取り、それ彼女の前に並べた。彼女は物珍しそうに、それを眺める。当時なかったような生地も多いしね。

 

「これに着替えるんですか?」

 

「まあ、少しの辛抱だ。それに着替えたら出かけるぞ」

 

その言葉に、蒼龍は「えっ」と驚いた顔をした。

 

「ずっと俺の服じゃ嫌だろ。しま○らにいって、お前の服を買うんだよ」

 

安い服を買うと言ったら、まずしま○らでしょう。ほかにも『ユニ○ロ』とか『macho○se』とかあるけど、とりあえずはしま○らでいいと思う。女性服が多いしね。

 

「いや…その。でも…」

 

それでも若干戸惑う蒼龍に俺はため息をつくと、頭を掻いた。

 

「あー。金のことなら心配するんじゃねぇよ。こう見えても貯金はある。給料日は明後日だし、ここらでパッと使うのも構わねぇんだわ」

 

 手持ち資金は三万あるし、大量には買わないはずだ。愛車の『CX―5』を転がしていけば時間もそうかからないはずで、特別気に病む必要はない。ちなみにこのCX―5。愛車とはいうものの、親との兼用だ。ほぼ俺のものになってるけど。

 

「ほらさっさと着替えた着替えた。俺は下に降りてるから、終えたら声かけてくれ」

 

俺はそういうと、下へと降りていく。女性の着替えが長いのはおそらく艦娘でも共通のはずだ。降りてくるまで、テレビでも見ているか。

 

「あっ…。提督の匂いだぁ…」

 

蒼龍が何かぼそりとつぶやいたような気がしたが、気にしないとくか。

 

 

 

 

俺がしばらく撮り貯めしている時代劇を見て待っていると、蒼龍が二階から降りてきた。言い忘れてたけど、俺の部屋は二階にあるんだよね。あと、隣には妹の部屋がある。

 

蒼龍はうちの間取りを物珍しそうに見ていたようで、リビングに入ってきてもそれは継続していた。人の家をジロジロと見るのは、あまり良くないんじゃないですかねぇ。

 

「んーきたか。ちゃんと着れたか?」

 

ガキじゃああるまいし。と、言いたいところだろうが、やはり心配になるだろう。そもそも彼女たちは、洋服を着るという習慣が薄いはずだ。日本は昭和初期まで和服を着ることが当たり前だったはずである。

 

「ど、如何ですか?似合います…?」

 

蒼龍は着替えた服をもう一度おどおどと見て、俺へと聞いてくる。その仕草、良いですね。

 

とりあえずどんな服かを説明すると、まずだぼだぼのTシャツは体のラインをくっきり見せて、細みのズボンも蒼龍の腰から下をなんとか映えさせている。ジージャンが男勝りな印象を引き出して、和服な蒼龍とは違う印象を受けるだろう。女性の武器をふんだんに使用しているその姿は、地元の男たちを虜にしそうである。結論を言うと、色々驚異的な姿だ。

 

「まあ似合ってるんじゃないか?男服だけど。ようわからん」

 

冷静と言うか無関心に装ってはいるけれど、地元の男たちはさておき俺も虜にされているのは言うまでも無いよね。そら男ですもん。ムラムラするのも仕方ないのん。

 

「あはは…随分と大雑把な言い方ですね。でも、私は気に入っていますよ。提督ってこういう…わいるど?チックな服がお好きなんですね」

 

「んー。ワイルドというか、機能性に特化した服が好きかな」

 

今時の大学生が着るようなチェック柄とかは好きじゃないし、清潔感漂う白が基調のお洒落な服も、若干チャラオ感漂う黒を基調とする服も、総じて好きでは無い。革ジャンやミリタリージャケットなどの、渋い感じが好きです。はい。

 

「ところで…何を見ているんです?」

 

蒼龍は俺の隣に座り込むと、テレビに映った時代劇を物珍しそうに見る。ちょうど、殺陣が始まったくらいだ。

 

「あれ?お前テレビ見ても面白い反応しないのな。てっきりまた、中に人が入ってるとかベタベタな反応すると思ったが」

 

パソコンを見てあれだけ驚いていたのに、テレビを見て驚かないのは如何いうことか。

 

「むー。流石に私も映像はわかりますよ。随分と映像が綺麗ですけど…。映写機は何処にあるんです?机の下?」

ああ、そういうことね。確かに作戦会議とかに映写機を使っていそうだ。もっとも、そんなものは無い。机の下を覗き込むんじゃない。

 

「まー、これはおいおい説明するとして、そろそろ行こうか。しま◯ら」

ソファから立ち上がると、俺は蒼龍の肩を叩く。とても華奢な肩だ。女性らしい。

そもそも艦娘とて、やはりというべきか普通の女の子と変わりないからね。そもそも弓道もとい弓術に、余計な筋肉はいらないはずだ。むしろムッキムキな蒼龍なんて考えたくもないけど。『漢これ』じゃねぇんだ。

 

「えぇ!!今良いところですよ!ほら!賊が成敗されて!」

 

途中からしか見てないのに、この子もう取り込まれてるよ。時代劇の魅力に。まあ大学生の俺も時代劇好きっておかしいとは思うがね。でもこれが面白いから仕方ない。そこ、昭和臭いとか言わない。

 

「まあ鬼平カッコ良いよね。でも、帰ってきてからでも見えるから。その為の録画なんだ」

 

「録画?え、これ録画されてるんです?」

 

こちらへと振り返り、蒼龍は問う。もういちいち説明するのめんどくさい。俺は現代世界ガイダンスマンではない。

 

「そそ、ほら行くぞ」

俺は車のキーを指で回しながら、玄関へと向かっていく。蒼龍もそれに続いて、俺の後ろへと着いてくる。そういうところ、可愛らしい。

 

「あ、そうだ」

 

唐突に思い出して、俺は蒼龍へと振り返る。蒼龍は不思議そうに「え、なんですか?」と言葉を返してきた。

 

「服逆だぞ。それ」

 

「えぇ!?もっと早く言ってくださいよぉぉ!」

 

顔を真っ赤にして、蒼龍はリビングまで戻っていく。彼女には申し訳ないことをしたが、正直この反応を待っていた。やったぜ。

 

 

 

さて、なんだかんだ俺たちは車へと乗り込み、しま○らへと出発をした。

CX―5はディーゼルエンジンで、一五〇〇キロの車体をぐいぐい引っ張っていく。整備されていない悪路も問題なく走れる強い力は、運転をしている気分を高揚させてくれる。おまけに電子機器も充実し、エアコンは言うまでもなく、ナビやオーディオ機器も充実している。あ、ステマではないです。あくまでも個人の感想です。

 

と、まあこんな高性能な車にもちろん蒼龍は反応しないわけもなく、運転中であるにもかからわずあれこれ聞いてくる。子供じゃないんだから。

 

「ここにもテレビついてるんですか!?それに椅子もふかふかですね!私が鎮守府でつかっていたベットよりも、断然いいですよこれ!」

 

助手席のシートをぽんぽんと叩いて、蒼龍がはしゃぐ。控えめな性格だと思っていた認識は、どうやら違うようだ。

 

「そうかいそうかい。それはよかったね」

 

しかし、そんな蒼龍の言葉を返すのも、だんだんと楽しくなってきた。人に教えることは昔から嫌いではない俺だもの。長年剣道をやっているけども、中学高校と教えるのには評判も良かったし、将来は教師にでもなってみようか。

 

「それで、この曲はなんですか?」

 

「ん?ああ、これか?」

 

俺は目線を背けず答えると、信号に引っかかり次第。スマフォを取り出した。

 

「ジャズだよ。しらない?って、知らないか。ジャズはニューオーリンズ発祥の米国黒人が誇るソウルミュージック。魂の音楽だ。まあお前の記憶からしたら、敵国の音楽…か」

 

「ああ、アメリカさんの。うーん、私はもう敵国とは思ってないですね。私たちの敵はあくまでも深海棲艦ですから」

 

え、そうなの?艦娘ってもう連合軍に恨みを持っていないのか。まあ蒼龍だけの意見だし、何よりうちの蒼龍の意見か。すべての艦娘は、どう思っているのだろう。

 

ちなみに余談だけど。ジャズはWW2時に、禁令や自主規制により鳴りをひそめていたそうな。しかしひそかにレコードとかで、聞いたりもしていたらしい。蒼龍乗員には、そんな人いなかったのだろうか。

 

「そっか。まあジャズを嫌いにならなくてよかったよ。ジャズはいいものだ」

 

「私もそう思います。今初めて聞きましたけど、金管楽器の力強さを感じれます!」

 

「そうそう。人によって感じ方は様々だけど、俺はそこにひかれて、ジャズが好きだね」

ひょっとして蒼龍は、割とハイカラな性格なのかもしれない。保守的観点にとらわれることなく、良いもの悪いものを自分の意思で感じれることは、いいことだと思う。

 

「おっと、信号変わったな」

 

俺はアクセルに若干の力を加え、再びタイヤを転がす。すると蒼龍は子供っぽく「はっしーん!」といいはじめた。やっぱりこいつ、根は駆逐艦並みのガキなのだろうか。それとも車に乗ってテンションあがってるのか。どっちだ。

 

「そうだ。蒼龍」

 

「はい?」

 

運転に集中しつつも、俺は蒼龍に言葉をかける。

 

「服が買い終わり次第、メシでも食いに行こうか。ちょうど昼時になるだろうし」

 

現在時刻は一一時二〇分。しま○らで服を見て、購入するころにはちょうどいい時間になるのではないだろうか。家族と蒼龍が面会する間に、いろいろと教えておきたいこともある。

 

「お、お食事ですか!?い、いやーその。うれしいなぁ。えへへ」

 

まさに照れているといわんばかりの行動、しゃべり方。たまらないな。このかわいい生き物。俺の気分、高揚しっぱなしだよ。

 

「よし、じゃあさっさと買い物済ましちまうか」

 

俺は内心ニヤつきを隠しきれていないが、もうどうもでいいや。

 




どうも、セブンスターです。
まず、どうしてこんなにお気に入り増えてるの?いや、正直ものすごくうれしいんですが、同時になぜだと混乱しております。だって酔っ払いクオリティですので…。まあ、楽しんでいただけているならば、万歳ですけどね!
さて、今回ジャズがどうこう出てきましたが、私も好きなんですよね。ジャズ。酒を飲むときや、コーヒーを飲むときなんかよく聞きます。まあ、有名どころとかしらないにわかくんですけど。つまり望も、にわかです。はい。
つぎにCX-5が出てきましたが、これはマ○ダの車です。てか車名出してる時点でだめかもしれない。マジステマではないです。

今回は少々短かったですが、急きょ仕上げたので仕方ないと思っていただければ幸いです。あくまでも不定期投稿ですので!

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