さて、次の講義が始まった。
まあ例に漏れず、第一回目の講義は授業概要を説明するだけで終わりそうだ。どうせキャンパスサポートと呼ばれる在学生専用の支援サイトで、授業内容は確認済み。
と、携帯が震える。どうやらメールが来たらしい。
『おヒマですか?』
うん。明石からだな。とりあえず「暇だよ」と打ち込んでおく。
『よかった。ジツは、ツウシンシセツをチョウサしていたところ、わかったことがありますので、ごホウコクしようと思いまして』
わかったことか。おそらくコエール君流出事件だろう。いろいろと気になるので、とりあえず答えるよう促す内容を送っておく。
『まず、コエールくんが流出した先ですが、チュウブチクにニケン。キュウシュウにイッケン。カントウにニケン。キンキにイッケンです。ゲンザイカクニンできているのはこれだけですが、まだフえる可能性があります』
あー。おそらく今述べた地域、全員知り合いがいるだよね。以前某1㍍四方のブロックを積み上げて建物を作るゲームをやっていた際、一緒にやろうと知り合ったオンゲー友達だ。彼らとはハ○チでサーバーを共有し合っている。
まあ中部の二人は、おそらく菊石と大滝だろうが、あとの奴らにも真相を確かめる必要がある。まったく、運がいいのか悪いのかわからねぇな。ほんと。
さて、とはいうもの実際コエールくんの情報が流れたとして、果たしてコエール君が作られたかどうかが問題だろうね。情報が流れたとしても、そのオンゲーの友人たちの持つ明石がコエールくんを作るかわからない。もしかしたら兵器にしか興味のない明石もいるだろうし。
「はぁ…でも割と大問題なんだよなぁ」
もはやこれは、世界の常識を意図しないで塗り替えてしまっている。そう思うといろいろと、恐ろしくて仕方ない。
「え?何が大問題なんですか?」
隣でもくもくとノートに文字を書いていた蒼龍が、俺に問う。どうやら蒼龍は、今後授業を聞くための練習として、概要を大まかにノートへ記しているらしい。しめた。これは今後楽になるぞ。ってさすがにクズいな俺の思考。
「ああ、コエールくんだよ。菊石や大滝の元に情報が流出したらしいから、夕張と鳳翔がこっちに来ちゃったんだとさ」
「え、じゃあ鳳翔さんや夕張ちゃんが来た理由は、やっぱり明石さんがやらかしちゃったからなんですか?」
「まあそうらしい。とんでもない大発明なのにそれを誤って流しちゃうところが、明石らしいというかなんというか…」
きっと修理とか工作機械とかを整理している最中に流しちゃったんだろう。うちの鎮守府。なんかドジな奴が多い気がする。島風もはしゃぎすぎてよく大破するし、武蔵は張り切りすぎて砲撃外すし、叢雲はなんかツンデレだし。初霜は天使だし、よくわからん。
『あ、それとロウホウです。テイトクのデンブンコードを、ほかのこたちにもおしえておきました。これで、たくさんコミュニケーションがとれますね!』
わざわざ教えるって…おま、何やらかしてるの?また武蔵から愚痴メール飛んで来たらどうするの?もう勘弁してくれ。あ、でも初霜や飛龍とかから来るのは、少しうれしいかな。
「と、言うわけで説明は以上です。皆さまお疲れさまでした」
って、そうこうしているうちに説明が終わったようだ。なんというか、時がたつのって早いもんだね。
*
長いようで短い説明が終わりをつげ、講義室から俺と蒼龍はメンツと共に出ていく。
今日はこれですべての講義が終わりを迎えた。この曜日は2コマ目と3コマ目しかとっていなくて、非常に楽。大学は割と、こういう時間割が多いんだよね。
さて、では家に帰ろうか。やりたいことはいろいろあるし、今日ばかりは帰宅ラッシュにも引っかからない時間帯に帰れる。つまり家でのんびりとできるのだ。
「ヘイヘイ七星!どこへ行くんだい?」
だが、俺ののんびり計画は崩されそうだ。酒井が肩を組んできて、俺を静止させてきた。なんだよ。俺は家に帰って艦これしたいの!
「どうしたよ。どこへって駐車場だけど」
「帰る気なのか!?おいおいミセス蒼龍に、この素晴らしき我らの大学を紹介しないのかよ!」
ミセスって、おまえは何を言っているんだ。素晴らしい大学かどうかはさておき、ミセスは結婚している女性を指すことを知って言ってるの?あ、結婚カッコカリしてるか?うむ、そういわれると結構うれしいけど。
しかし大学紹介か。確かにあらかじめ教えておけば、今後もし一人で行動しなければならなくなるとき、迷わずに済むかもしれない。まあ以前のようなキッズたちはこの大学にはいないし、チャラ男は大体彼女持ちのはず。最悪ナンパされても、全力断るように進言しておけば、それ以上突っ込んでくる傲慢な奴もいないはずだ。
「七さん。俺はそれに賛成するね。やっぱりこの大学を知ってもらうのはいいと思う。今後蒼龍が出れない講義もあるし、何よりゼミだってその類のはず。輝一の言っていることは間違いじゃないさ」
たっけーが横から進言をしてくる。仕方ない。じゃあ行きますかね。
「蒼龍。どうする?」
しかし結局俺が決めるよりも、蒼龍の意思に委ねてみる必要がある。本人が嫌がれば、行く意味も無いだろうしね。まあ、どうせ。
「もちろん行きたいですね!ぜひいろいろと教えてください!」
そういうと思ったよ。好奇心旺盛だなぁ。
「じゃあまずどこに行こうか」
「とりあえず、メインストリートを一周しようぜ。大まかな棟は、これでわかるだろ」
木村の提案に、皆は了承する。確かにメインストリートは、大学を移動する重要な道だ。大体の棟にアクセスする道でもある。
「じゃあそうするか。よし、だれがついてくるん?」
俺の問いにくらっち、木村、酒井、たっけーが手を上げる。
「俺はパス。部活がある」
「俺もバイト。あー惜しいことしたなぁ」
相模としんちゃんは、どうやら用事があるらしい。まあ仕方ないね。で、大滝はというと。
「俺は直ぐにでも帰らないといけない。人を待たせてるからな」
やっぱりね。どうやら鳳翔のもとに、少しでも早く帰りたいらしい。
*
メインストリートには、たくさんの人がいます。さすがは大学内最も重要な道ですね。でも、大勢の人はメインストリートを下っています。みなさんは下の方で講義があるのでしょうか?
「どうして、みなさんは下って行っているんです?」
私の問いに、酒井さんが答えました。
「ああ。さらに下っていくと、バスがあるんだ。七星や木村は車で通学してるけど、大体はこうして大学のバスで最寄りの駅に帰る奴が多い。他に自転車を使うやつも結構いる。以前七星も、ロードバイクだったよな?」
「そうだな。車に一応、積んであるぞ?」
ロードバイクって何でしょうか。私が不思議に思っていると、望さんが補足してくれます。
「あ、ロードバイクって自転車のスポーツカーみたいなやつね。時速30は余裕に出る」
すごい自転車ですね。私の記憶が正しければ、自転車ってそこまで出ないと思います。パンクとかもしやすくて、歩くよりはマシな乗り物でしたね。
それから私たちも人波に逆らわず、下っていきます。あ、トンネルがある。
「ビルの下に、トンネルがありますよ!」
「あれは、12号館だな。いろいろな学科の生徒が、多種多様な講義を受ける。俺も今期は、あそこの棟で受ける授業を取ってるよ」
どうやら決められた棟で学生さんたちは講義を受けるというわけではないそうです。移動が大変そうだなぁ。
「あ、じゃあこの建物は何でしょうか?」
そういって、私は直ぐ隣の棟を指さします。棟の下には何か看板があって、『虎視眈々館』と書いてありますが…。
「ここは虎視眈々館。つい最近できた棟だねー。てか今期から解放されたホント真新しい館。学生支援課とか、キャリア支援課とかあって、まあなんて言うんだろう。高校で言うと職員室みたいなもん?かな」
「職員室とはちょっと違うだろ。どっちかっていうと…なんだろ。良い言葉が思い浮かばねぇ」
くらっちさんとたっけーさんはあーだこーだと意見を述べ合います。つまり、学生にとっていいことをしてくれる棟なのでしょうか?
「あ、そうだ。この上には結構高いがウマイメシが食える店がある。今度行ってみたらどうだ?」
得意げに、酒井さんは言います。どうやら行った事あるみたいですね。酒井さんは新しいもの好きなんでしょうか。と、言いますか情報が早いのでしょうかね?
メインストリートをしばらく歩いて、私たちは右へとそれました。正面には大きな建物が立っていて、学生さんたちが出入りしています。
「あそこは図書館。うちの学科ではかなり重要な学科だったりもする。参考文献とか結構あって、よく課題を終わらせるのに使ったりするね」
たっけーさんは、苦い顔をして言います。どうしたのでしょう?
しかし、図書館ですか…。うちの鎮守府にも確かに図書館はありましたが、軍事用語の資料集や各兵科の教本ばかりしかありませんでした。いったいどんな本があるのでしょうか。望さんの部屋には漫画や小説ばかりしかありませんし、ちょっと行ってみたいかも。
私がそんなことを思っていますと、望さんが肩を叩きました。
「また今度行こうな。今日は、とりあえずいろいろ見て回ろう」
どうやら行きたい思いが、顔に出てしまっていたみたいです。ちょっと恥ずかしいですね。
さて、それからいろいろな棟を回ります。ロボットの研究をしている34号館に、食品の栄養を研究する11号館。スポーツ治療法を研究する、43号館もありました。本当にいろいろな学科があるようで、みなさん教えるのにちょっと頭を抱えています。
「なあ。うちの学科ってこんなに多かったのか?」
「しらねぇよ…。しまったな、全部の棟を紹介する必要なかったか…」
望さんとくらっちさんは、腕を組んでうなっています。あはは…なんかちょっと罪悪感。
「あの…もういいですよ?たくさんの学科があるみたいで、どこも面白そうでしたし!」
私がそういうと、二人は私に顔を向けます。えぇ…なぜそんな負けねぇぞって顔してるんですか?
「いやいや、まだまだいろいろ教えるところがある。おい、行くぞみんな」
くらっちさんがそういうと、みなさんも「おーう…」と元気なく答えます。
なんというか…みなさんごめんなさいね。
*
今思えば、蒼龍に重要な棟だけ消化すれば良かったわ。一応、なぜか使命感が沸き上がり、蒼龍にはすべての学科と、どのような棟かを教えることができた。さすがにしんどい。うちの大学って、本当に学科多くないですかね…。
さて、それから解散し、俺と蒼龍はCX-5を走らせ、家へと帰った。さすがの蒼龍も歩き疲れたようで、眠そうな顔をしている。
「ふう。今日は大変だったなぁ」
早く帰れると思っていたが、時計を見ればもう7時。夕飯の時間だろう。まあさすがに腹も減って帰りにラーメン屋へと行ったから、夕飯は出てこない。そうおふくろにもSNSでメッセージを送っておいた。
「ラーメンおいしかったです。また行きたいですね」
蒼龍は眠そうな顔をしつつ、満足そうにおなかを撫でる。俺も撫でてみたいけどいいですか?あ、ダメだよね。
「それにしても、大学ってすごいところですね。私、びっくりしましたよ」
「そうだねぇ。まあ大学で培ってきた知識が、いろいろな社会の歯車になって動いていくんだ。だからすべての学科は、無駄じゃないんだろうさ」
どのような学問でも、必ず何かしらの力を持っている。社会の歯車を動かす、重要な役割をだ。
「さて!腹も落ち着いたし、艦これをやろう」
「わかりましたー。ふふっ、飛龍にお話しないと」
俺は布団から起き上がり、机へと向かう。また蒼龍もベッドから立ち上がり、俺の横へと座りこんだのだった。
どうも、飛男です。
今回でまあ大学編の下準備は終わります。次からはまあいっそう緩やかに、日常にあるどうでもいい話題をネタにしていきたいと思います。
さて、望君の大学はいろいろと自由が利きそうではありますが、モデルにしているうちの大学が、まさにこんな感じです。他の大学がどうなっているかわからないですから、大学ってこんなところなんだと安易に思わない方がいいかもしれませんね。
さて、今回はこのあたりで。明日明後日と学祭の関係で投稿するのが難しいかもしれませんので、ご了承ください。と、いうか、今日はこれともう一本。投稿したいですね。できるかなぁ?
では、さようなら!