提督に会いたくて   作:大空飛男

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今回、戦闘描写?があります。まあ現実世界なので、どちらかというと喧嘩描写でしょうかね?


さくらまつりです! 下

重箱を開けて、もう二時間以上は経ったでしょうか。お話に華を咲かせて、もう中身は殆ど残っていません。

 

あ、望さんの分は、既に他の容器へと移してあります。その容器はくーらーぼっくすと言う魔法の箱に入っているそうなので、腐る心配は無いそうです。むこうの世界では、冷水や氷で冷やしておくのですが…。くーらーぼっくすは保温効果があるようで、常時冷たいんですって。

 

「それでよ。その時のキヨの顔ってば…思い出すだけでも笑いがとまらねぇクッカカカ!」

 

浩壱さんは豪快に笑いながら、昔話をしています。皆様よくそんなに、失敗談とか恥ずかしい話とかを陽気に話せるのでしょうか。正直すごいなぁ。

 

「あの時はまあやばかったな。だって、ガッチガチにサポーター巻いてたら手がパンパンに腫れてやがったもん。そら驚いた顔するわ」

 

苦い笑いを漏らして、國盛さんは言います。どれだけ腫れていたんだろう。

 

「そういえば、夕張って普段どうしてるんだ?蒼龍の話も気になるけど、まずそっちも気になるな」

 

國盛さんが華麗に話題を変えてきました。あ、それ私も気になりますね。

 

「え?えーっと…」

 

言うかどうか、夕張ちゃんは迷ってるみたい。でも、代わりに菊石さんが答えました。

 

「ああ、こいつうちの機材を使って何か作ってるよ。何でも人に役立つ物を作りたいらしい。な?」

 

「あはは…まあその、今まで兵器しかいじった事なくて。この世界に来た時、兵器以外にも着手しようかなと」

 

へぇ。すごいなぁ夕張ちゃん。私は何をやっているのかと言われても、何も言えない。ちょっと敗北感が湧き上がってきちゃう。

 

「お、もしそれが成功して特許を取れば、お前らウハウハじゃん。じゃあ前祝いに俺たちにヴィンテージワインを買ってくれよ!」

 

ぐへへと怪しい笑いを浮かべながら、健次さんが言います。ちょっと気が早いんじゃ…。

 

「ばーか。気が早えよ。それに特許申請しても、それが大ヒットするかわからんだろ」

 

やっぱりそう答えますよね。でも、大ヒットすれば同じ艦娘として鼻が高いかも。

「あ、私ちょっと、お化粧直してきますね」

 

つまりはお手洗いです。私も少々、お酒を飲んでいまして。あ、でもセーブはしてますよ!望さんがいないと、なおセーブします。だって、他の方に迷惑かけたく無いですし。

 

「あー場所わかる?なんなら俺らが付いて行こうか?」

 

浩壱さんと、健次さんがのそりと立ち上がります。うわぁ、二人が並ぶと本当に威圧感凄いですね。

 

「いえ、大丈夫だと思います。場所さえ教えてくださえば」

 

「一応俺らは七星にボディガードを任されているんだけど…まあ大丈夫かなぁ。そこの林に階段がある。その階段を下ってすぐにあるはずだ」

 

顎に手を当てて、浩壱さんは心配そうな顔をしてくださいます。でも、流石に着いてこられるのは恥ずかしいですし、ごめんなさい。

 

「ありがとうございます。じゃあちょっと、行ってきますね」

 

 

さて、化粧室で手を洗い。私は外へ出ます。あとは、来た道を戻るだけですね。

 

あ、向こうは田園地帯なんだ。後ろを振り返ると、のどかな景色が広がっていました。稲穂が無いのが少々残念ですね。それと、右側の一部分に広がるのは普通の畑かな?ともかく、心穏やかになりますね。

 

と、私が和んでいる時でした。

 

「おやぁ?お姉さん一人?」

 

ふと、私は声をかけられました。そこには、髪の毛を茶色にしたり、金色にしたりと、見るからにおかしい格好の人たちが居ます。顔にもなにか鉄のようなものをつけていますし…望さん達よりは少々幼い顔立ちですけど、私に何か用なのでしょうか?

 

「えっと、なにか?一人ですけど」

 

私が質問をし返すと、おかしな人たちは顔を見合わせます。

 

「いやね?ちょっと寂しそうにしてたから、俺たち気になっちゃって声をかけたわけ。どう?これから一緒に遊びに行かない?」

 

ああ、私が一人だったから声をかけてくださったみたいです。優しい方達ですね。でも、ちょっと怪しい?なぜニヤニヤとしているのでしょうか。

 

「ご好意は嬉しいですけど。私、お友達と来ていますので。ごめんなさい!」

 

申し訳ない思いで、私は三人に頭を下げました。すると、おかしな人たちは私へと寄ってきます。あれ?断ったはずなのに。どうして私を取り囲んで…。

 

「そんなん放っておけばいいじゃん?俺たちと遊んだ方が、きっと楽しいと思うけどなぁ」

 

う。近くへ寄られて初めてわかりました。この人たちきっと酔ってます。お酒臭い…。

 

「いや…その…ごめんなさい!」

 

私は三人のおかしな人のうち、一人を突き飛ばして階段へと向います。あの人たち、やっぱり少しおかしいです。

 

どさりと、一人が大げさに倒れます。すると、その人は叫び始めました。

 

「ああああああ!いってぇえええ!腕がぁあ腕がぁああ!」

 

え、そこまで強くは押していないはずなのに。もしや打ち所が悪かったのでは…?やっぱり酔っていて、体が思うように動かなかったのかもしれません。

 

「だ、大丈夫ですか!」

 

思わず、私は彼の元へと向います。本当に苦しそうに、うずくまっています。

 

「おい、大丈夫か?あーお姉さんこれは折れてるね。どうしてくれよう」

 

金髪のおかしなひとは、身内が苦しんでいるのにニヤニヤと笑いを浮かべて言います。

 

「う、病院。病院に連れて行ってくれ…」

 

苦しんでいるおかしな人は、途切れ途切れに言います。そうだ、浩壱さんと健次さんを連れてこれば、この人を運べそうです。

 

「わ、私。知り合いを呼んできます!」

 

急いで、私は走り出そうとしました。でも、茶髪のおかしな人が、私の腕をがしりと掴んできました。

 

「おい、あんた逃げる気か?俺らの友達が苦しんでいるのに」

 

そ、そんな。でも、あの二人を呼んでこれば運んでくれるはずですし!

 

「大丈夫か?立てるな?あんたも一緒についてきてもらうぞ。落とし前はしっかり払ってもらわねぇと」

 

もう、言い逃れは出来ないです。私が、私がこの人を怪我させてしまいました。だから、私はついていくことしかできません。

 

望さん。迷惑をかけてしまい、ごめんなさい…。

 

 

それから私たちは、駐車場へ向かいました。彼らはどうもバイクでお祭りに来たらしく、3台バイクが止まっています。

 

「あのぉ…大丈夫ですか?本当に、申し訳ありません…」

 

「あ、ああ…くくっ。もう大丈夫ですよ」

 

え、今笑った…。と、私が思うと同時でした。苦しんでいた顔に鉄をつけている人は、ニヤリと笑みを浮かべて、何事もなかったかのように痛がるのをやめました。

 

「ごめんねぇ。聞き分けないからこうして連れてきたわけ。これで、人の目もぐんと減ったね、じゃあ行こうか」

 

私…騙された!?そんな、酷いです!

 

「あ、やっ。離してください!最あなたたち最低です!」

 

「ッチ!いい加減いうこと訊けよ!」

 

パシリ。と、乾いた音が駐車場へ響きます。痛っ。頬がジンジンと痛いです。

 

「お、おい。ちょっとやりすぎだぜ。流石に殴るのは…」

 

「うるせぇ!この女が言うこと気かねぇのが悪いんだよ!」

 

無理矢理なのに、無理矢理ここまで連れてきたのにそんなことを…!理不尽にもほどがあります。

 

「まあいい。ほら、おとなしくサイドカーに乗ってくださいよ。もう殴ったりしませんから」

 

鉄をつけたおかしな人は、わたしを無理矢理サイドカーに乗せようとします。

 

「嫌です!離してください!」

 

懸命に振り払おうとしますけど、すごい力で私の手首を握って、離そうとしません。

 

そう、抵抗は無意味に近いです。この人たちの力に、私は勝てるわけが無いんです。艤装をつけていない私は、ただの女の子…。解体されて、ただの女の子に戻った子たちと変わらないんです。ですから、男の人にこうして強引にされてしまえば、負けてしまうんです。

 

叫ぼうとしたら、口元を押さえられました。せめて艤装があれば…と、頭によぎります。でも、私は空母で、実はそれほど力があるわけでも無いんです。それに、艤装を使って仮にこの人たちを振り払っても、艦娘が一般人に暴力を振るったと言われそう。もう、どうしていいかわからない。

 

助けて。と、私は強く願いました。もちろん、言葉にしない限り、私の声は届くわけありません。でも、せめて、せめて願いが届けば…。

 

と、その時でした。

 

プッーっと、車のクラクションが盛大に響きます。何が起きたのでしょう?

 

瞑っていた目を開けると、そこには見慣れた青色の車がありました。CX—5。そう、望さんの車です。

 

「なんだぁ?このふざけた車は。おい!降りてこい!」

 

金髪のおかしな人が、叫びました。相当怖い顔をしてます。

 

少し間が空いて、CX—5のドアが開きました。そこから出てきたのは言うまでもありません。望さんです。いつもより怖い目付きですが、フライトジャケットにジーパン。何処か飄々としているけど、力強さを内に秘めている。まさしく望さんです。

 

「君たち、なにしてんの?」

 

望さんは御立腹なのか、若干顔を上にして見下すように、低い声で彼らに聞きました。

 

届きました。願いは、届いたんです!

 

 

ふと考えを変え、駐車場に車を止めに行ったのは正直幸運だった。やっぱり路駐なんてするもんじゃ無いな。こうした事を、俺は見落としていたかもしれない。

 

まさにジャストタイミングだったか?蒼龍は見た感じクソガキ共に誘拐されそうだった。おそらくあれは、高校を卒業してすぐの、調子に乗っているキッズ共だ。

 

「嫌がってるだろ。離してやったら?」

 

あえて、他人のふりをする。こうする事で、蒼龍との接点が無い、つまりただの通りすがりのいきった奴だと思われる筈。念のため、蒼龍にウインクをしておく。意図に気がついてくれたのか、俯いたな。よしよし。

 

「はぁ?おっさん何なの?もしかしてヒーローにでもなるつもりですか?」

 

へらへらとキッズがなにか言ってるな。おっさんじゃないけど、まあいいや。ともかく醜いその面を直したらどうだ?

 

「まあ、俺は通りかかりのおっさんだよ。ヒーロー願望なんてないけどね。でも、駐車の邪魔なんだ。さっさとその子を置いて、帰ったらどうだ?」

 

「はぁ?なんでおめぇの言うこと聞かなきゃならないわけ?むしろおめぇがどっかに止めれば?」

 

まあ正論だな。現に他の場所も空いている。

 

はあ、聞き分けも無いし、自分たちが最強だと思ってる痛い子たちだ。そろそろ現実を見せてやろうかな。

 

「そういう事言っちゃうか。穏便に事を運ぼうと思ったけど、こりゃダメっぽいな。じゃ、まあ言っちゃうけど…君らのその行為、すべてドライブレコーダにおさめてあるんだよね。頭悪そうだけど、どういう意味かわかる?」

ドライブレコーダって、まあ要するに万が一の事故に備えて前方を録画する機械のこと。つまり、先ほど奴らが蒼龍を無理矢理リアカーに乗せようとした場面が、ばっちり映ってる。で、これを警察署に提出すれば、彼らの人生はここでゲームセットって訳。

 

お、流石に理解してるみたいだな。酔っていたのか、仄かに赤みがかった顔は、若干色を失い始める。

 

「あ、そうだ。君達お酒飲んでるよね?それでバイクに乗ろうとしたの?あーそれ、飲酒運転をしようと思ったのかなぁ?まあ、未遂だし証拠にならないけど」

さらに顔が青ざめ始めたぞ。未成年云々はまあ注意だけだけど、それに加え飲酒運転のなれば話は別。まあ所詮、キッズなんてこんなもんだ。

 

「まあわかったら帰った帰った。あ、その子を置いてね、いい加減離してやったら?」

 

三人は顔を見合わせて、話し始める。しかし相変わらず、蒼龍の腕を握ったままだ。強情な奴らめ。その汚い手を放してくれませんかねぇ。蒼龍が穢れちまう。

 

「うるせぇな…うるせぇ!うるせぇうるせぇ!てめぇ調子こいてんじゃねぇぞ?」

 

「へ!そ、そうだぜ!ヤキ入れてやるよ!」

 

どうやら後先を考えない馬鹿共だったらしい。仕方ない、ちょっと懲らしめてやるか。

 

「あーそうですかい。俺も渋滞やハンドルキーパー任されてイライラしてたんだ。ちょっと運動させて貰うわ」

 

俺の中にある、試合のスイッチが入ったらしい。

 

 

 

軽快な音楽が遠くで聞こえてくる。戦闘BGMにしては小さいかな?

 

キッズたちはファイティングポーズを構えて「かかってこいおらぁ!」とか「ビビッてのかぁ?」とか言っているが、いたって引け腰。どうやら喧嘩慣れをしていないと見た。そもそも現代で喧嘩をするなんて、考えもしなかったのかもしれない。まあ、やる人はやってるんだろうけど。

 

自分で言うのもなんだけど、俺は試合のスイッチが入ると人が変わる。と、言うか武道家なら誰もがそうなる筈だ。達人クラスの武術家は、常にスイッチが入っているらしいけど、残念ながら俺はそこまで達してはいない。あれはもう人間離れしてる。

 

で、まあ俺は腰を落とし、ジーパンのポケットに手を入れている。つまり手は出さない事を表しているんだけど、向こうは気づいているのかな?

 

そう、俺は、殴る蹴るなんてするつもりは無いんだよね。もともと武器を使う武道だし、だからと言って武器を使うのは罪が重くなる。他にも、まあ理由はあるんだけども。

 

「くうう…なめやがって!」

 

金髪のキッズが殴りかかってくる。ああ、やっぱりだ。動作の大きいテレフォンパンチで、当たると思ってるのかね?まだ中学生の竹刀運びの方が速いぞ。それは見下しすぎかな?

 

俺はあえて左前へと体を運び、いなす。ま、竹刀じゃないし当然か。金髪はそのまま勢いあまり体勢を崩す。

 

そんな金髪の足元を、軽く払ってやった。お、案の定正面から倒れたな。痛そうだ。足払いと言う名の禁則技を、昔あえて練習したのが功を成したな。なんでって?趣味さ。

 

「いってぇ…いってぇよ…」

 

うめき声をあげ、金髪は顔を抑える。鼻血が出てるし、どうやら敵意は無くなったらしい。

 

「おいおい、なに勝手に転けてるの君。大丈夫?」

 

まあ一応、余裕を見せておく。ぶっちゃけ久々な経験だし、きわどかったかも。避けるのがね。

 

さて、残りは二人。っておや。さらに引け腰になってるね。どうして喧嘩ふっかけてきたんだろう。さっきの勢いはどこへ行ったのやら。

 

「逃げたかったら、逃げてもいいぞー」

 

さらにずかずかと歩いて行き、俺はキッズたちへと向かっていく。

二人は再び顔を見合わせ、どうやら今度は逃げる事を選んだらしい。蒼龍の手を離し次第、キッズたちは一目散に階段を駆け上がっていく。

 

って、まあもうそろそろ、彼奴らが来る頃だろうね。

 

「いってぇな!前向いて歩けよ!」

 

蒼龍のへと歩み寄る最中、 階段の方向から叫び声が聞こえてきた。あ、来たみたいだ。

階段を見上げると、出口はなかった。いや、出口が無いように見えるだけで、巨体の男が三人。出口をふさいでいた。あいつらも酒入ってるけど、むしろ厄介になるんだよね。

 

「んんんん?君たちがぶつかってきたんでしょう?俺たちは階段を下っているんだよ?前向いてないと下れないよねぇ?んんん?」

 

受ける方だったらすげぇうざいだろう。健次が首をかしげて、なめ腐ったように言う。だが、その顔は笑ってない。むしろ威圧している顔だ。

 

「いってェなァ。おめェらこそどこ見て歩いてんだァ?指詰めたろか?」

 

浩壱は恐ろしい顔をさらに歪めて、もはや阿修羅像のようになる。ああ、酒が入って真っ赤になってるし、まるで閻魔大王だわ。

 

そう。まああいつ等っていうのは浩壱、健次、統治の事。車から出る際、あらかじめSNSを飛ばしておいた。ちなみに統治はどちらかっていうと、保険要員。こいつはガチンコに向かないけど、精神的な攻撃には適してる。

 

「あー。これは言いがかりですね。って君たち何腰を抜かしてるの?…ああ、そういう事ですか。あーわかりますわ。兄貴たち顔怖いからねぇ。どうしますこいつら、コンクリートで固めて海に捨てちゃうます?あ、僕はブタの餌にするのがいいと思いますけどね」

 

 ぎひひと、いつになくゲスな笑いを漏らし、統治は言う。

 

もう会話がきな臭い方向へと広がり始めているね。まあ隣の市にはそういう方たちもいますし、その手のたぐいだと思っちゃうだろうねぇ。

 

「あ、あ、あ…その…」

 

キッズたちもう会話できないようで、口をぱくぱくと開けているみたい。見えないけどなんとなくわかる。

 

「で、どけよジャリ共。今回は見逃してやらァ。二度と顔見せんじゃねェ!」

浩壱の鬼面よろしくの一喝に、キッズたちはよろよろと立ち上がり、「ウワァァァァ!」と退散していく。ご愁傷さま。

 

 

さて、パツキンキッズもどうやら別の方角へ走っていったようで、何とか事は収まった。まあストレス発散できたかどうかと言われれば、微妙なとこ。

 

「大丈夫か?立てる?」

 

俺はしゃがみ込み、蒼龍へと手を伸ばす。よく見ると、頬が若干腫れているな。まさかあのキッズども暴力を振るったのか。しまったな、もう少し痛みつけておけばよかった。

と、まあそんな考えをよぎらせていると、蒼龍は目元をジワリと涙で濡らし、俺へと飛びついてきた。その勢いに、俺は思わず両手を地面に着く。

 

「うおっ!おいおい。…まあ、大丈夫そうか」

 

ひたすらに俺の胸に顔をうずめ、フライトジャケットをぎゅっと握りしめてくる。怖かったんだな。早急に発見できて、本当に良かった。

 

「遅いですよぉ…もう。許さないですから。怖かったんですからね」

 

さらに密着するように蒼龍は体を縮こませながら言う。こんなの、抱きとめるしかないじゃないか。俺は思わず、蒼龍の背中へと手を伸ばし、ぽんぽんと優しく叩いた。

それからまあしばらくして、階段から三人が降りてきた。にやにやと顔を歪めているな。どうやら相当スッキリしているらしい。

 

「まったく、おめぇらってやつは。もし俺が駐車場に止めなかったら、本当に危なかったぞ」

 

危なかったというか、取り返しがつかなくなりそうだった。そこらは少々、こいつらに物申したいところがある。あれだけ目を離さず護衛を頼むと言っていたのに。

 

「…まさかトイレの際を狙われるとは思いもよらなかった。すまん七星」

 

俺の憤りを感じたのか、先ほどのにやつきなど一切捨て、浩壱と健次は頭を下げる。まあ、内心罪悪感もあるようだし、とりあえず蒼龍が無事だからいいや。

 

「ま、今度からはマジで頼むわ。これからも俺が一人で行動しなければならないこともあるしな」

 

ぱんと両ひざを叩いて俺は立ち上がると、腰に手を置いて息を吐く。なんだかんだ言って、こいつらは頼れるし、信頼もしているからね。できれば失望させないでほしい。

 

「え!またどこかに行っちゃうんですか?そんなの嫌です!」

 

しかし俺がそういい次第、蒼龍は俺の腕をつかみぎゅっと抱き寄せてくる。子供じゃないんだから。と、言いたいところだけど今回ばかりは仕方ないかな。

 

「まあ、蒼龍が無事でよかったということでいいか。さぁて、さっさとメシを食わせてくれ!腹ペコペコなんだぞ!」

 

やっとこれで飯が食える。正直試合スイッチが入っても、こればかりはどうしようもなかった。腹が減っては戦ができぬとは、まさにこの事だろうさ。できたけどね。

 

「よし、じゃあ戻るかね。あー他人の不幸で飯がうまいってな。ウッハハハハ!」

そういって健次たちは階段を昇っていく。ほんと相変わらずだ。今回ばかりは、同意せざるを得ないけどな。

 

それからしばらく階段を上っていると、俺の腕をつかんではなさない蒼龍が、口を開いた。

 

「どうして、殴ったりしなかったんですか?」

 

蒼龍は少々納得がいっていないらしい。まあ、そうだよね。できれば俺も顔の形がわからなくなるほど木刀でボコボコにしたかったさ。でもね。

 

「あー。実は道のスポーツなど格闘技をやっている人間は、喧嘩にそれを使ってはいけないルールがあるんだ。だから、手を出すことはできなかった。ああして、事故を装う事くらいしかできないんだ」

 

「じゃあ、何のために望さんは、武道をやっているんですか?」

 

何のためにか。昔は理不尽な暴力に対抗するためだった。だけど、今は違う。

 

「自分を立派な、男に育てるためかな…。だから、ごめんな」

 

こんなことを聞いて、蒼龍は怒るだろうか?いや、そんなはずはないか。その言葉を聞いた蒼龍は納得したように笑いかけてくれたもの。、

 

「…そうですね。でも、もうそれは成し遂げてると思いますよ?少なくとも、私にとってはですけどね」

 




どうも、大空飛男です。
連続投稿継続なう!ってまあ明日はどうなることやら。ぶっちゃけこの話はすらすらと書く予定出したし、案の定すらすら書けました。
さて、今回皆さまが気になったはずなのはズバリ【戦闘シーン】でしょうか。そもそも日常系な感じであったのに、戦闘シーンはどうかと言う方もいるかもしれません。その点は申し訳ございません。
実は…まあいやはや、私は戦闘シーンを書くのも大好きで、思わず凝って書こうとしてしまいます。まあ今回はかなり抑えたつもりですが、難しかったでしょうか?いや、むしろ簡単すぎて逆に解らなかった!?と、いろいろと考え込んでいます。
さて、次回からは『大学編』へと突入します。と、まあ大学編ってのはあくまでもそう区切ってあるだけで、実際は何編か決めてません。おそらくこのままいけば、大学編になるでしょうが…

さて、今回はこのあたりで。次回の不定期後(不定期ってなんだ(哲学))にお会いしましょう!

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