提督に会いたくて   作:大空飛男

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今回の話はあらかじめ二つに分けることを考えていました。



さくらまつりです! 上

三月もいよいよ終わりを迎える。外を見れば風に揺れる木々が桜を咲かせ、完全なる春の訪れを感じさせてくれる。

 

そんな中、俺は大学のオリエンテーションに出ていた。まあ、簡単に言うと大学3年へと上がる、説明みたいなもの。こうした説明を1年2年と受けてきたとさ。

 

 タルい説明をくだくだと受け、教授達の説明も終わり、やっと解散になる。後は時間割り、と言うか取得する単位の教科を決める時間がやってくる訳だ。通称履修申告って言うんだけど、一学期に取れる単位には制限があって、その制限は合計24単位。いっぺんに50とか、単位が取れないんだ。

 

それで、うちの大学はパソコンからその申告を行う。だからこそ、あらかじめ大学の友人達とその申告内容を決めておくことが多い。友人と同じ授業を受けることにより講義が面倒になってサボる際、出席の偽造とかを行える。割とそう言う奴が大学には多いんだ。

 

で、蒼龍は今何をしているかって?実は今日、別行動中なんだ。俺も後から合流する予定だけど、地元で毎年開催される桜祭りに、いつものメンツと一足先に盛り上がっている筈だ。

「おい、七さん。それで何を取るんだ?俺はこれが楽だと聞いた」

 

大学内の友人グループ。通称大学メンツのまとめ役とも言える長谷川祐蔵が、俺に声をかけてくる。それに乗じて、他のメンツも集まってきた。

「そうだなぁ…とりあえずそれは取るとして…」

 

彼奴ら今頃、どうしているんだろうなぁ。

 

頭上にはこれでもかっ!と言いたげなほど桜が咲き乱れて、まるでトンネルの様に奥まで続いています。その他にも屋台が香ばしい匂いを漂わせ、私のお腹を刺激します。

 

「蒼龍さん、ついてきてます?」

 

夕張ちゃんが声をかけてきました。屋台に見とれていたわけではないんですが、そう見えちゃったみたい。私ってそんなに、食いしん坊に見えるのかなぁ。

 

「大丈夫。でも美味しそう。これだけ色々あると、やっぱりお腹がすくなぁ」

 

「まあそれはわかりますけどねー。でも、早く行かないと、統治さん達に何か言われますよ?」

 

統治さん含む地元の友人さん達は、一足先に設営作業を行うため、場所取りに行ったみたいです。あ、でも健次さんは私達のボディガードとして、若干後ろからついてきているみたいですね。確かに艤装のない私達は、ただの女の子ですし、心強いです。でも、逆にあの人が、すごい目立っているんですが…。

 

「もう少し、もう少しだけ見て回りましょ。折角来たんだもの。健次さんも、いいでしょう?」

 

私は一歩後ろにいる健次さんに声をかけました。彼は若干困った顔をしましたが、「まあいいべ」と変な訛りで答えます。どうしてみなさん、変な訛りを交えるのでしょう。

 

「はあ、まあ健次さんそう言うならいいんですけど、やっぱり罪悪感ありますね。私だけでも戻ろうかなぁ」

 

顎に人差し指を当てて、夕張ちゃんはつぶやきます。あ、そう言うことなのかな?

 

「ふふっ。夕張ちゃん、統治さんの事大好きなのね。一緒にいたいんだ?」

 

「なっ!私はただ、罪悪感に駆り立てられてるだけです!…まあ大好きなのは否定しませんが」

 

顔を赤くして…夕張ちゃんは可愛いですね。一緒にいたい気持ちは、痛いほどわかるもの。早く望さん、戻ってこないかなぁ。

 

「かぁあ…苦いコーヒーが欲しい。うごご、苦いコーヒーが…」

 

健次さんは頭に手を当てて、唸り始めました。怖い顔をさらに歪めていますけど、もう慣れました。

 

「ああ、もう良いです!私も一緒に回りますよ!統治さんなんてしーらないっ!」

あ、夕張ちゃんが照れ隠しをし始めました。もう少しいじりたいですけど、流石にやめとこう。

 

「じゃあまず、向こうに行ってみましょう?金魚すくいとかありそうです」

設営地とはまるで逆の方角に、幾つか水槽を設置している屋台があります。おそらく祭りといえば定番の金魚すくいとかありそう。私、結構得意なんですよね。金魚すくい。

 

「わかりました。健次さんも頭を抱えてないでいきましょう?」

 

「あ、ああ。だがその前にブラックコーヒーを買わせてくれ。もう砂糖は勘弁なんだよぉ〜。ブラックコーヒーも甘くなりそうなんだ」

 

さっきからこの人は、一体何を言っているんだろう。

 

 

 

数十分の話し合いの末、履修申告の内容も大方決まり、大学メンツは各々散っていく。俺もさっさと帰ろうとバッグに便覧や説明用紙などを片付けていると、一人の男に声をかけられた。

 

「七さん。ちょっち良えかえ?」

 

独特ないいまわしであれど、まるで違和感がない貫禄の持ち主。この男は大学メンツの一人である、大滝尚助だ。俺と同じく、武道家でもある。因みに、俺はこいつに艦これを勧められたんだ。つまり、割と古参な俺よりも、さらに先輩に当たる提督。

 

「なんだ?ちょっと急いでるから手短に頼む」

 

こいつとの会話は毎回ワッと盛り上がり、一時間二時間は簡単に過ぎ去って行く。だが今回は先約がいるし、一刻も早く祭りへ向かわないといけない。蒼龍が寂しがってるはずだしね。

 

「ああ、わりぃわりぃ」

 

そういって大滝は誤ると、しばし間をおいた。

 

「あーじゃあ手短に話すが、お前はファンタジーを信じるか?」

 

…えっ、は?なんか突拍子もないことを言い始めたな。だが、こいつはそんなおかしい事を言うような奴ではないし、何か意図があるはずだ。

 

「ど、どうしたんよ。そんなこと聞いて」

 

「ハハッ、まあ突拍子すぎたか…。だが、詳しく語ることはちょっと出来なくてな。それでも答えて欲しい。お前はファンタジーを信じるか?」

 

「信じるかって…おめぇ…」

 

信じない。と、以前の俺なら言ったかもしれない。そもそもファンタジーといえども対象になるのは山程あるじゃないか。魔法だったり、勇者がどうこうだったり、神様がどうこうだったりとね。

 

だが今の俺は、そんなファンタジーを体験してしまった。そして今では、そのファンタジーが中心として回る生活をしている。だから俺は―

 

「信じるだろ。まあ信じないといえば、信じられなくなるだろ?なら信じた方が、面白いじゃねぇか」

 

と、いつも通り軽く言葉を返してみた。

 

…って、まさかお前。

 

「そうか。そうだな。そうに決まってら。ありがとよ」

 

大滝はそう言い「じゃ、俺も帰るわ」と手を振りながら講義室を出て行った。

彼奴、まさか。いや、そうだとしたら…。これは大変な事が起きてる気がするな。

 

 

健次さんの頼みでブラックコーヒーを買った後、私達は「向こう側」へと歩き、色々なお店を回りました。特に金魚すくいは、楽しかったですね!やっぱりあちらの世界同様、金魚すくいは熱が入ります。

 

「蒼龍さん、流石に取りすぎですよ。金魚すくいのおじさん、すごい顔してましたよ」

 

私が取った金魚は20匹程でしたが、流石に持ち帰ることはできないので、二匹にしていただきました。でも夕張ちゃんの言う通り、取っている際の私を見て、おじさんが顔を青白くしてましたね。やりすぎたってほどでもなかったんだけど…。

 

「正直、あんなに取るやつアニメの世界だけだと思ってたわ。蒼龍すげぇぜ」

 

健次さんは笑いながら、私を賞賛してくださいます。望さんがいたら、どんな反応をしたんでしょうか。やっぱり、褒めてくれるかな?

 

「で、蒼龍それ食べるの?」

 

「え、金魚をですか?」

 

なにか、健次さんが意味わからない事を言ってきました。食べるわけないじゃないですか!私はむうと、健次さんを睨んでみます。

 

「おおう…冗談だよ冗談。夕張が食べるんだもんな」

 

「えぇ…なんでそこで私に振るんですか。健次さんいい加減にしてくださいよ…」

 

私達二人にどやされて、健次さんはちょっとしょぼくれた顔をします。怖い顔でもわかるほどで、ひょっとして笑いを取ろうとしてくれたのかな?そう思うと申し訳ないです。

 

それからしばらく歩いて、私達は設営地へと着きました。わあ、既に設営は終わってるみたいで、統治さん、浩壱さん、キヨさんは、お酒を開けて、ツマミを食べています。

 

「ああ、おきゃーり。随分と遅かったな?」

 

少し顔が赤くなっている、統治さんが迎えの言葉をかけてくれました。この人も、変な訛りを使ってる…。もしかしてこの地域では普通の訛りなのかな?

 

「あはは、ちょっと珍しくって、色々な場所を回っていました。すいません」

 

「まあ、いいんでね?それより七星からの伝言。もう少しかかるってさ。何でも渋滞に引っかかったらしいで」

 

スルメイカをしゃぶりながら、浩壱さんが言います。実は浩壱さんだけはどうもまだ怖いんですが、そろそろ慣れてきそう。でも、渋滞ですか…許せませんね!渋滞!

 

「あ、蒼龍さん。金魚どうします?木の枝とかに掛けておきます?」

 

 夕張ちゃんは金魚が気になっていたようで、声をかけてきます。たしかにどうしよう、でもかわいそうだなぁ。こんな窮屈な袋に入れたままなのは…。

 

「あー。死んだらむなしいし、金魚とりあえずこの桶に入れとけ」

 

そういって、國盛さんが桶を取り出してくださいました。金魚たちよかったね。しかしその桶、何のために持ってきたんだろう。

 

「さあて、そろそろ弁当開けるかね。七星の分は、まあ少し残しておけばいいだろ」

 

キヨさんがそういうと、彼は紙袋から重箱を取り出します。ふたを開けると、そこには多くの食材がパレードを行っているかのように、きらきらと輝いています。どれもおいしそう!

 

 「望さん早く来ないかぁ…」

 

 やっぱり望さんがいないと、寂しいですね。

 

 

うごご。いったい何時になったら動くんだ。この渋滞。

 

あとどれくらいで着くのだろう。まだまだ時間はあるけど、あいつらのことだ。今頃もう食っているに違いない。オリエンテーションがこれほどにまで憎く感じるとは思いもよらなかったな。

 

カーナビを見ると、渋滞予測時間は一時間ほどらしい。うーむ。二時間半くらいには着くだろうか。まったくやってられねぇぜ。

 

「くそ…こうなるなら電車で行けばよかったな…。」

 

と、まあ俺がうなっていると、スマフォがピロリンと音を鳴らす。おそらくメールだ。最近メールを使う概念が薄い時代だし、音とかを一切買えてなかったな。

 

「しかしメール?だれだ?」

 

あいにく俺はメールアドレスを他人には教えてない。つまり、何かしらの手段を使って、俺のアドレスを知ったということだろう。ちなみにPC用アドレスを使っている。

 

「迷惑メールだったらなおイライラするだろうなぁ…」

 

まあこんなことをぼやきつつ、メールを開いてみる。すると。

 

「?すまりかわ。すでシカア…なんだこれ」

 

意味不明なメールだった。件名なしだし、なにこれ。

 

「ふへっ。…なんかイラつくより逆に笑うわこんなん」

 

失笑してしまった俺は、なんかもうよくわからないテンションになってるな。と、そうこうしているうちにもう一通がきた。今度はちゃんとしてるな。

 

「ぎゃくよみ?…ああ、あああ!なるほどなるほど!」

 

先ほどの文章を逆から読むと、「アカシです。わかります?」だ。つまりこれは、明石からのメールだろう。って、え?

 

「明石からメールきたの?迷惑メールじゃないの?」

 

しかし、先日の『俺の声聞こえる現象』もあるわけで、もう疑うことができなくなってきてる。と、言うわけで。

 

「どうしてメール送れるの?っと」

 

メール返すと、またメールが届いた。

 

「デンポウにサイクをしたケッカ。セイコウしました?すげぇなお前ほんと」

 

明石って何者なんだろう。すると、連続してメールが届く。

 

「ジツは、アカシねっとわーくで、こえーるくんが一部リュウシツした恐れがある?…あっ」

 

明石ネットワークってなんだ。って、そんなことはいいとしてつまりコーエルくんの技術が一部流出した可能性があるってことだ。と、考えるとすべて合点がいった。

 

「そうか…つまりハマ○を登録した友人に対して、明石の技術が流出したってわけか…」

 

つまり、そう考えるとほかにも影響を受けた知り合いは確実にいそうだ。地元のメンツや大学メンツ。そしてオンラインゲーム仲間まで…。

 




どうも、連日投稿の大空飛男です。

次回で春休み編?は終了します。次々回からは大学編へと突入する予定です。

さて、最後に少々意味深な一文があったはず。そう、まだまだ現代に来た艦娘はいそうです。しかし大筋は蒼龍と望のお話しですので、深く考えないで読むことをお勧めします。

では、今回はこのあたりで、おそらく明日には、次回が投稿できるかな?

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