―蒼龍視点―
私は、まず女将さんに店の前の掃除を任されました。
掃除ができないとお思いですか?ふふっ、私、こう見えても掃除は良く執務室や自室、たまに廊下とか、鎮守府にいた時はそれなりにやってしました。ですので自信はあるんです。
箒を使いさっささっさ。近くの落葉樹なのかな?その木から落ちた落ち葉は面白いようにちり取へと入っていきます。ところでこの木、なんの木だろう。
あ、因みに望さんは、今力仕事を任されています。板前長―キヨさんのお父さんに、瓶ケースを運ぶように言われたそうです。望さんは力もちですので、大丈夫でしょうね。
「あら、だいぶ集まったわねぇ」
しばらく私、落ち葉を履いていますと、女将さんが顔を覗かしてきました。女将さんは店内掃除をしていたそうですが、もう終わったのかな?
「こんな感じで、いいですか?」
「ばっちぐーね。落ち葉は集め次第、裏のごみばこへと捨て頂戴。綺麗になったかどうかは、あなたの判断に任せるわ」
「わかりました。あと気になるとこが幾つかありますので、そこも履いておきます」
私はそう言うと、集めた落ち葉を回収していきます。だいぶと女将さんは言ってましたが、そこまで落ち葉は散っていないようで、小さな山ができたくらいです。いつも掃除をしているんでしょうね。
さて、集め次第私は店裏へと向かいます。ゴミ箱はどこでしょうか。しまった。どのゴミ箱かを聞くべきでした。
すると、ガチャリと裏口が開きます。そこから出てきたのは、キヨさんでした。瓶ケースを持っているということは、おそらく裏口へ置くためでしょう。裏口の近くには、瓶ケースも積み立てられてました。
「あんれ?蒼龍どったの?」
キョロキョロしていた私に、キヨさんは声をかけてくださいました。慣れない私を、気遣ってくれたと思います。
「すいません。どこに落ち葉を捨てればいいかわからなくて」
「ああ、その銀のゴミ箱。それ燃えるゴミ用だからね。あ、鎮守府にそう言う習慣ってあったの?」
「いいえ、なかったです。とは言うもの、基本燃えるゴミに分類される物は、畑の肥料とかに使われてました」
「へぇ。七星から聞いたことあるけど、昔の日本はリサイクル国家だったらしいね。その名残なんだろうか?いや、そもそも艦娘って、どの時代に分類されるんだろう」
キヨさんは瓶ケースを積み上げながら、私へと聞いてきます。でも、時代ってなんだろう。
「わからないです…」
「え、あ、そう。じゃあいいや。なんか明かそうとすると消されそうだし」
やばいやばいと、キヨさんはつぶやきつつ店へと戻って行きました。消される?何を消すんでしょうか。電気?
私はそんなキヨさんを不思議に思いつつ、鈍い光を放つ鉄色のゴミ箱へと落ち葉を捨てます。中身は…いうのは野暮ですね!
「さて、じゃあ次は何をすればいいか、おかみさんに聞いてみなきゃ!」
私は言葉に出して意気込むと、店の中へと戻っていきました。
*
時刻は昼頃、店内は騒がしさが増し、客が大勢入ってきたとわかる。あと2時間ほど、この騒ぎが続くと思う。
そんなことはさておき、かちゃかちゃと音を鳴らし、俺は皿を洗う。
家で皿洗いはやるけど、いざこういう場でやると本当にそのやり方がっているのかすごい気になる。洗剤はどれくらい使うのかとか、どこまでさらに力を入れて磨くとか、まあ様々。今のところ怒られてないし、できてはいるのかな。
「おう七星―。どうさ。進んでる?」
キヨが声をかけてきた。お前接客に行ったんじゃないのか。
「なんだよ。いま俺は皿と格闘中だ」
「格闘してもいいけど割るなよ。割ったら弁償。一枚高いぞ」
うお。そうなのか、さらに気を付けて洗わねばな。確かに和食屋って、一枚の皿が高いとか聞くな。万単位?
「で、まあ声かけたのは…あ、ほら」
どうやら茶化しに来たのではないらしい。俺の肩を叩き、キヨは明後日の方向を指さす。そこに何があるのかと俺が振り返ると。
「女将さん!生姜焼き定食2つです!あ、注文ですかー?少々お待ちください!」
そこには仕事に一生懸命取り組む蒼龍がいた。こんな蒼龍、まあ見たことない。愛想よく笑顔を振りまき、着物効果ゆえかツインテをぴこぴこ動かし、より一層かわいらしさが引き立っている。もちろんそんな蒼龍をみて見惚れている客も多いなあれ。
「いいな…」
思わず俺も小さい声でつぶやく。いつもの蒼龍よりも二倍近く、魅力が増しているのだ。そんなの言葉が漏れるに決まってる。國盛亭の制服が着物で、本当に良かった。感謝してる。
「ああ、いいよな…」
肩に手を置きながら、キヨもつぶやく。むしろあの蒼龍を見て感銘の言葉つぶやかないのは、男じゃない。オカマだ。それかホモ。
「蒼龍ちゃん!3番さんのお料理運んでちょうだい!」
「はーい!ただいまー!あ、いらっしゃいませ!今混雑しておりますので、そこにお名前ご記入お願いします!」
てきぱきと仕事をこなす蒼龍は、まるで昔からここで働いているような印象を受けるだろう。まだ今日初めてのバイトだ。艦娘ってホントなんでもできるのだろうか。てか蒼龍が特別なのか?金剛とかこういうことできなさそう。
と、俺たちが遠目で蒼龍を見ていると、視線に気が付いたのか、嬉しそうに小さく手を振ってくる。接客で忙しいのに、俺にも気遣ってくれるのか。ほんと出来る女やな。もう抜けてるとか言えない。
「お前ほんとうらやましいわ。しねぇ!」
キヨもその意図を気が付いたのだろう。俺を罵倒してくる。ウハハ、どうだ悔しいか。お前にも手を振ったとは思うけどな。
「ちょっとキヨと七星君手が止まってる!さっさと仕事に集中しなさい!」
「げ、じゃあ俺も接客行ってこよかな」
おふくろさんに注意されたキヨは逃げるように厨房から店内へと出ていく。俺もこのつもりにつもった皿をきれいにせねば。
出来れば店が終わるまで、蒼龍を眺めたいんだけどなぁ…。
*
さて、まあこんな感じで時は過ぎ、午後三時。客足もついに途絶え、店の中はあわただしさがなくなる。
キヨとおふくろさんは仕込みをするとかなんかで、板前長と一緒に厨房で作業をするそうだ。俺と蒼龍は、その間、まあ客がいない間に店内を軽く掃除することを命じられた。俺は地面の箒掛け、蒼龍は机の水拭きと、散らかった座布団の整頓だ。その間蒼龍の着物姿を拝見できるのは、役得だね。ウハハ。
「ふう。まあこんなことかな」
塵取りをトントンと叩いて、砂埃や食べカスを端へと寄せる。箒で掃くのは楽なもんだ。それこそ俺は、よくバイト先で行っているしね。
蒼龍はまだ作業中であるが、すでに掃除の後半戦を迎えている。それなりに余裕の表情だ。
「しかし…すごいお客さんの量でしたね。私びっくりしちゃいました」
ふと、水拭きを行いながら言う蒼龍。それにしてはずいぶんと捌けていたよね。きみ。長く旗艦を家の艦隊でやってたし、これくらい何のそのなのか?ちがうか。
「まあねぇ。キヨんちはマジで人気あるから。メシもうまいし値段もそこそこ。地域だけに限らずいろいろなところからお客が来る。すごいわほんと」
地面を履いて俺も答える。固定客はもちろん口コミにより集客もできているとか。なお店紹介のサイトでもべた褒めされてたし、これは友人として鼻が高い。
「そういえば、蒼龍はこうして働くのは初めてだよな?」
こうして。って要するに一般的に社会の歯車の一つになって働くってことだ。彼女は戦争でしか『働く』ことを知らない。いや、働くというより『戦う』か。
「はい。新鮮ですね、本当に!」
嬉しそうに言う蒼龍。そうだよな。戦争なんかより、こうして働くことの方が、楽しいはずだ。客の笑顔をじかに見れることは、やりがいを感じるとも思う。でも、だからと言って、戦争反対とかは言わないけど。
「そうだ。もし、ここ以外に働くとしたらどこがいい?」
ふと、純粋に気になった。艦娘として生きるのではなく、普通の人として生きるなら何をやりたいんだろうか。むしろ蒼龍だけに限らず、そう言う道もあっていいはずだ。
「えーっと。あまり考えたことないですね…。あ!神杉さんみたいにお菓子を作るのが楽しそうです!それと動物を世話するのもいいかも…。それと…」
動物の世話となると、動物園やペットショップの店員かな。以前食い入るように動物特集のテレビ番組を見ていたし、ペットや動物が好きなんだろう。俺は犬が好きなんだけど、蒼龍は何が好きなんだろうか。
「あ、でも…」
それから、いろいろと考え込んでいた蒼龍だったが、ふと言葉を発する。どうしたのだろう。
「その…奥さんって、職業に入るんですかね?えへへ」
照れくさそうに言う蒼龍。奥さんって要するに主婦のことだな。確かに入るんじゃなかろうか。専業主婦と言う言葉もあるし、社会の歯車として動いていることも確か。いや、社会の歯車を支える潤滑油のような物か?と、言うか。そういう事を言っているんじゃないな。これは。
「じゃあ…俺はそんな奥さんの料理や笑顔を楽しみにしつつ、仕事に励むんだな。どんな職業に就くかはしらないけど」
「職業はさておき…まあ、そういう事じゃないですかね?ふふっ」
*
さて、それから夕食時のピークが訪れ、それを乗り切った俺たちは店じまいをしていた。夕食時にいつもより多く客が来たそうで、どうやら蒼龍効果があった様子。いわく美人な店員がいるとかなんかで、一目見ようと来たものも居たそうな。
「今日はお疲れさま!どうだった?ウチでのバイトは」
キヨのおふくろさんはすでに作業を終わらせたらしく、厨房からカウンター席へと顔を出す。
「いろいろと勉強にさせていただきました!本当にありがとうございます!」
箒を抱えながら、蒼龍はキヨのおふくろさんへと頭を下げる。
「自分も、自転車屋とは違うバイトで、新鮮でした」
「そう。よかったわ。それで、記憶はどう?何か思い出せそう?」
ああ、そういえばそういう設定だったな。蒼龍もそれに気が付いたらしく、俺の方へと苦い笑いを見せる。
「ダメ…っぽいですね。やっぱり何かしらのショックがないといけないみたいで」
瞬時に俺は機転を利かせた。こんなような事を言っていれば説得力あるだろうさ。
「そう…。でも、今は今の蒼龍ちゃんでいいじゃない。素直でいい子でしょう?前はどうだったかおばさん知らないけど」
まあ元からこういう性格なんですよね。と、付け加えようとしたがやめよう。そしたらかえって、怪しまれる危険がある。本当は記憶が戻っているんじゃないかって。
「はい。まあどちらの蒼龍も魅力的ですけどね」
「そう。さーて。じゃあ採用の件だけど。今日から正式アルバイトに雇用するわ。今後ともよろしくね。蒼龍ちゃん」
やはり採用してくれたようだ。まああれだけ動けるのであれば、店の戦力として十分に活躍できるしね。しかし、そうなると俺との時間も少なくなるが…まあそれは、仕方ないか。
「はい!えっとその、これからもよろしくです!」
そういって、蒼龍は頭を下げる。お金の件に関しては、これで何とかなるだろう。ちなみに振込先は俺の口座だけどね。
【おまけ】
主な登場人物の紹介をしていなかったので、ここで追加しておきます。
~地元メンツ~
七星望 (ななほしのぞむ)
男性 二十歳 175㎝
愛煙者 好きな銘柄:セブンスター アメリカンスピリット ホープ
剣道家 歴史学科で江戸時代の民間芸能を学ぶ ブラックコーヒーを好み、またお茶にもうるさい。
自転車屋でバイトしている。整備士免許を取ろうと考えている。好きな機体はジムガードカスタム
蒼龍(蒼柳龍子) (そうりゅう・あおやなぎりゅうこ)
女性 年齢不詳 160cmくらい
好きな食べ物:おはぎ アップルパイ 珈琲。弓術を使える(あたり前) 動物が好きでぬいぐるみが好き 何事にも興味を示すことが多い。 望の父親が苦手。 車を運転してみたいらしい
好きな機体はドーベンウルフ
國盛康清 (くにもりやすきよ)
男性 167㎝
老舗和食店『國盛亭』の息子。 家を継ぐことを考えている。 頭によくタオルを巻く。 定期的にネタを組み込んでくる。 写真では金髪だがテンパ 額がこの年で後退してきていることを危惧している。好きな機体はスターゲイザー
雲井浩壱 (くもいこういち)
男性 189㎝ 阿形像 とある世紀末覇者のような顔をしているが北斗神拳は使えない スイーツや料理が得意。 リンゴをたやすく握りつぶすほどの相当な腕力を持つ。威圧感はまさにカタギではない。好きな機体はヒルドルブ
雲井健次 (くもいけんじ)
男性 189㎝
吽形像 とある世紀末外道のような雰囲気だが兄同様北斗神拳は使えない。酒をこよなく愛する。米俵を片方の肩で担いで運ぶことができる。重火器や兵器が大好き。処刑方法をよく提案する。割と控えめな性格。 好きな機体はゴールドスモー
菊石統治 (きくいしとうち)
男 178㎝
家は町工場 うどん屋でバイトする。エグイことをよく言う。酒はそこまで強くない。花鳥風月を愛でることが多い。好きな機体はイフリート改
夕張 (ゆうばり)
女 年齢不詳
夕張市の申し子ではない。兵器大好き。自らコエールくんモドキを開発できる。現代に来てからは人に役立つものを作る。自らの設計者をあがめ、尊敬している。
どうも、飛男です。
今回はまあ前回の残りみたいなもんなので、内容は少し薄いかな?と、言うかうまくまとめれなかった気もします。ですが、こんなもんです。特にイベントはありません。
さて、今回おまけと言うことで登場人物紹介を入れておきましたが、どうでしょうか?実は彼ら、一応イメージ像があるのですが…さすがに作品名を入れるとねぇ皆さまが抱いている印象を崩してしまうかもしれませんので、入れませんでした。若干二名、わかりそうですがww。
では、今回はこのあたりで、また不定期に!