提督に会いたくて   作:大空飛男

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春休み編
私、来ちゃいました!


それはあまりにも唐突すぎる出来事だった。

 

今思えば、なぜこんなことが起きたなんて理解できるわけもないだろう。それは本当に突然で、俺の頭を混乱させた。

 

だってそうだろう。本来この世界でいるはずがない。存在しないであろう人物が、俺の目の前に飛び込んできたのだ。空想と現実の世界を飛び越えることなどできるわけもないと、脳内にインプットされている現代人であれば、だれもがそう思うはずだ。

 

しかも、その人物は眠りから覚めた俺にこういってきたのだ。

 

「私…提督に会いたくて、来ちゃいました」

 

黒と言うよりは青みのかかった髪色に、控えめさを感じさせる淡い緑の着物服。たれ目ではあるが、見つめられると引き込まれるような瞳の持ち主で、当然顔も和を感じさせつつ整っている。それに俺は、彼女が住まうその世界で、結婚を仮約束した人物で、慕っていなかったといえば嘘になるだろう。

 

そう彼女は、航空母艦蒼龍は何の音さたもなく、俺の目の前に現れたのだ。

 

 

 すがすがしい朝を迎えた俺こと七星望は、天井を見上げて目が覚めた。

 

 今日は休み―と、言うよりしばらくは休みだ。大学が春休みという長期休暇により、行かなくても良い。バイトはやっているが俗に言うバイト戦士ではなく、それ程シフトが入っているというわけではない。自由な事が出来るほどの金は十分に稼げているからだ。

うちの大学は春休みが二月の上旬から始まって、約二か月間もある。これは地元でうちの大学だけで、それこそ地元の友人たちからはうらやましがられていた。まあその分夏休みが遅いわけで、その際にはこちらがうらやむのだが。

 

身を起こし、よくあるアニメ的テンプレで体を伸ばす。実際この行為は自らの眠っている体を起こすわけで、ある意味エンジンをかけていると、個人的には思っている。

 

「おはようございます!」

 

ふと、横から声が聞こえてきた。声量からして女性の声だ。俺は条件反射的に、返事をする。

 

「ああ、おはよう。今何時?」

 

まだ寝ぼけている状態で、俺はぼーっと正面を眺めながら、横の人物に聞いてみた。体を伸ばしても目が覚めないのは、某オレンジ色の猫のせいだろう。いや、ちがうか。

 

「えーっと。現在ヒトマルマルサン(10:03)ですね。ちょっと遅い起床ではないでしょうか?」

 

「は?いっつもこれくらいだろ」

 

と、俺は再び言葉を返すと同時のことだった。

 

―あれ?聞きなれない声だな。若い女性の声。若葉ではない?

 

妹、七星若葉の声ではないことを俺は悟ると、横に振り返る。するとそこには見慣れたような、見慣れていない様な女性が、正座をしてにっこりと笑顔を作ってきた。

 

「…は?おめぇ誰だ?」

 

初対面であろう相手にこの言葉を投げかけるのはどうかと思うが、よく考えてほしい。この人物は勝手に人ん家の俺の部屋に入ってきている。それはどう考えても住居不法侵入罪に問われること間違いなしだ。むしろ真っ先に叫ばなかった俺をほめてほしい。

 

「え?私ですよ!蒼龍!航空母艦蒼龍です!」

 

どうやら彼女の名前はコウク・ウボカ・ン・ソウ・リュウさんだそうだ。んなわかないだろ。冗談だ。

 

「…お前は何を言っているんだ」

 

「何って!えっ!?昨日私たち、結婚カッコカリしたじゃないですか!」

 

「はっ?それはゲームの蒼龍をって…え?」

 

俺は刹那的に、昨日の寝る際何をやっていたのかを思い出す。

そういえば、確か『艦これ』をやっていて、蒼龍と確かに結婚カッコカリをしたはずだ。その際満足感に浸ったまま明日を迎えようと床に着き、だれにもそのことを話してはいない。嬉しさに満ち溢れてはいたが、同時にレベリングで体力がそこを尽きたこともある。

 

「はっはは…。いやいやいやいや。さすがにそらねーべ!?」

 

俺は笑いを含みつつ、片手を振りながら言う。マジでこんなことあるわけない。あったとしたら自慢どころの騒ぎではない。

 

「どうしてへんな訛りになってるんですか…?」

 

苦い笑いをこぼし、蒼龍と思わしき人物は俺に言う。確かに蒼龍がもしこの場にいるならば、こう返しても違和感はないだろう。

 

「じゃあ蒼龍モドキに質問いいっすか?」

 

「モドキってなに…まあはい。どうぞ」

 

あきれ顔で蒼龍は俺の問いに答えようと、聞く姿勢を取る。

 

「なんで君はここきたの?ほかにも立派な提督さんいるでしょ」

 

俺のど直球であろう質問は、おそらく寝起きだからだろう。いや、俺はもともと気になったことを直球で聞くことが多いから、素なのかもしれない。

 

すると、蒼龍は瞳を閉じると胸に手を当てて、すうっと息を吸いこんだ。

 

「私…提督に会いたくて、来ちゃいました。それだけの理由じゃ、だめですか?」

 

一文一文、心を込めて言う彼女の思いに嘘はなさそうに見えた。女に騙されることが多い俺でも、これくらいのことはわかる。某うんたら神拳はつかえないけど。

 

しかしながら、そういわれても信じることができないのが俺の性分だ。何事にも甘い言葉には裏がある。俺はこれで騙される。

 

「お、おう…。それはうれしい事だ。うん。でもさ、やっぱりほら?信じられないわけで。何か証拠になるものないかな?」

 

若干申し訳なさそうに俺は言うと、蒼龍はえーっとと言いつつ口を開いた。

 

「まずあなたが最初に着任したのは、佐世保鎮守府でしたね。でも、人事異動で大湊警備府へ。その後、資材をバンバン溶かして戦艦を狙っていたけれど、大体が扶桑さんと山城さん。その後、戦艦に縁がないと判断したのか私たち空母が出やすいレシピを回してみたところ、私が誕生しました。私はあなたにとって初めての空母で、いつも頼って頂いてましたね」

 

まるで資料を読みだすかのように言う蒼龍に俺は感心しつつ、過去の記憶と照らし合わせてみた。するとどうでしょう。まったくピタリと一致ではないですか。

 

「すげえ…てかよく覚えてるな。いや、まあ間違いなくお前を頼りにしてて…」

 

「はい。いつも声かけてくださいましたよね。がんばれーとか、おつかれさまーとか」

 

言われるとすごく恥ずかしい。画面に語り掛ける奴なんて痛い子の象徴ではないですか。

 

「でも、私たちはそれが励みになってたんですよ?ほら、初霜ちゃんと島風ちゃんがよく大破して、悔しがってましたよね?暴言はそれこそ言ってたと思いますけど…まあ私たちには聞こえていないと思ってますでしょうし、それは仕方なかったと思います。それよりも、作戦が成功してくだされば一緒に喜んでくれましたし、怒られると思った作戦でも、『そういうこともあるさ』って励ましたりもしてくれて…いつしか私は、あなたに想いを寄せるようになってしまったんです」

 

はぇー。ここまで言われると俺も何も言えないじゃん。むしろそれでも何か言ったら、ある意味男が廃るよね。

 

「…よし。わかった。ともかく会う目標は達成できたね。これからどうすんの?」

 

その言葉に蒼龍は「えっ」と言葉を漏らす。

 

「…え、いやあの。どうしましょ…」

 

この子平成の世に来る際、なにも考えずに来たらしい。アホの子なのだろうか。そう思える描写というか、雰囲気を醸し出してはいなかったはずだ。俺の記憶が正しければ。

 

「戻れねぇの?てか、どうやってきたのよ」

 

「あ、それは明石さんが発明した機械を使って!」

 

おいおい、明石そんなもの作れるのかよ。各国の学者が聞いたら目ん玉飛び出すぞ。かんむすのちからってすげー。

 

「じゃあさ、俺が今からパソコン開いて、明石に頼めばいいんじゃね?俺の声聞こえるんだら?」

 

寝起きの自分でも名案を出したと思う。しかも、先ほど蒼龍が言ったことが嘘か誠かを突き止める二重のトラップだ。

 

「パソ…こん?あ…なるほど。はい、お願いします」

 

若干不思議そうな表情をして蒼龍は言ったが、そこは特に気にしなくてもいいだろう。

とりあえず、俺は机の上にあるパソコンを点けると、しばし起動を待つ。うぃぃんと機械的音が部屋に響き、パソコンが立ち上がっていく。

 

「これ…凄いですね。提督はやっぱりお金持ちなんですか?」

 

「ちゃうちゃう。まずこんなのだれでも持ってる。あと、俺は自転車売るマンだよ。バイトだけどね」

 

「へぇ…提督は提督業以外にも自転車屋さんを運営しているんですね」

 

いや、バイトって言ってるじゃないか。そもそも蒼龍にバイトって言って通じているのかわからない。さっきもパソコンをたどたどしく言っていたし、ひょっとすると彼女はマジでWW2の記憶しか持っていないのだろうか。

 

「あ、提督!ぱそこん明るくなりましたよ!って…うわぁ…!?絶景へと広がる窓なんですかこれ!」

 

蒼龍はスタート画面の壁紙を見て、驚きとワクワク感伝わる声を出す。これ写真だから。唯のデータ集合体だから。ここから南国の島いけないから。あ、今思ったけどウイ◯ドウズってそういう事なの?

 

とりあえず俺は「そうだね」と軽く受け流すと、インターネットを開いて艦これを開いてみる。するとやはり、蒼龍が騒ぎ始めた。

 

「かーんーこーれ。始まるよ!だって!吹雪ちゃんかな?」

 

「そうかな?知らんけど」

 

声量違うだけなんじゃないですかねぇ。と、突っ込みたいがそれは野暮だ。彼女が存在している以上、中のひとなんて存在しない。いいね?

 

さて、プカプカ丸が消えていよいよ、艦これが開く。すると、俺は刹那的驚きと、納得感に包まれた。

 

まず、秘書艦にしていた蒼龍が画面に現れない。と、いう事はつまり編成画面にもいないわけで、第一艦隊には旗艦だけが空白となっていた。そのほかの飛龍やら初霜改二はいるんだけど、彼女のいた位置は空白になっている。

 

―やべぇ。これマジだよ。蒼龍だけすっぽり抜けてるよ。

 

これで、彼女が画面の中から出てきたという確信を持てた。つまりそうなると、明石に問いただしてみる必要がある。

 

俺は明石を旗艦にすると、もはや羞恥心などドブに投げ捨て、問いただしてみた。

 

「明石?聞こえるかい?」

 

しばし沈黙が続く。と、いうか返事が来ない。完全に痛い子だよこれ。蒼龍にどういうことだと横目で促すと、彼女は「あれおかしいなぁ」と苦い笑いを浮かべて首をかしげる。

 

「蒼龍ちゃん。君嘘ついたの?おじさん悲しいわぁ」

 

「そ、そんなわけないです!声!声を聞く方法とかないですか!?」

 

つまりそういう事かと、俺は明石をクリックする。すると。

 

『はいー聞こえてますよー』

 

やっべぇマジだった。俺の声ダダ漏れだよこれ。パソコンにマイクが内蔵されてるからなのか?

 

「え、本当に聞こえてるのか?…じゃあ俺が言ってみた事を復唱してみてくれん?」

 

俺はとりあえずそういうと、何を言うか考える。

 

「あいうえお」

 

クリックしてみる。

 

『あいうえお。って言いました?』

 

おお、マジだよ。本当に聞こえちゃってるよ。エジソンが蓄音機発明した時くらい衝撃的な気分になったよ。どういう原理で聞こえてるかは解明してないけど。

 

「えーっと、蒼龍をそっちの世界?に戻す事は出来るの?」

 

再びクリックする。

 

『あー。その…実はその機械…ああ、コエールくん壊れちゃいまして。復旧には時間がかかりますねー』

 

ホエールだかコエールだかよくわからない機械が壊れているらしい。ベタベタな起動のショックによるものだろう。憶測だけど。

 

「だ、そうだ」

 

蒼龍に振り返り、俺は半場ヤケになると、意地悪な顔をしてみた。

 

「えぇ…。明石さんどういう事なんですか!」

 

俺のマウスを奪い、蒼龍はカチリとクリックする。

 

『どうもこうも、私言いましたよね?試作段階だからどうなっても知らないって。まあ蒼龍さんがそっち行けたのなら、ある意味成功ですねー』

 

「大成功だねぇ。とりあえず間宮さんあげる」

 

編成画面にすると俺は給のボタン。そう、間宮さんボタン(伊良湖ボタンでもある)をクリックする。すると明石が編成画面で輝いた。

 

『うわーい。ありがとうございますー』

 

「あーちょっと提督!もったいないですって!明石さん以外皆さんピカピカですよ!やる気に満ち溢れてましたよ!」

 

たった1人のために間宮さん使った事に、蒼龍は叫ぶ。無理も無い、彼女たちにとって間宮さんのデザートは至福の時だからだ。おそらく。

 

「まあ、また大本営(運営さん)から貰えばいいんじゃね?」

「そんなに簡単に貰えないじゃ無いですか!あー羨ましいなぁ」

 

そこまで残念がるのか。いったいどれだけ美味しいんだ。間宮さんのデザート。

 

「ともかく。そっちの世界に帰れない以上、お前どうするの?」

 

「どうしましょ…」

 

そうは言う蒼龍だが、彼女は俺の事をちらちらと見てくる。なんだよ、素直に言えよ。と、言うか察しがついたわ。

 

「はぁ…。とりあえず家に居候すればいいんじゃ無いかな?ちょち家族説得してみるからさ」

 

「え!良いんですか!?」

 

目を輝かせていう蒼龍に、俺は苦笑いを浮かべる。むしろこうするほかいないだろう。仮にも結婚の約束してるわけだし。性能上げるために仕方のなかったことだったけど。

こうして、俺の春休みは早くも、波乱万丈を迎える事になりそうだと、内心溜息をついた。




どうも。大空飛男です。
主役の名前から察してくださる方は喫煙者ですかね?そう。主役の名前である『七星望』も、七星=セブンスターで、望=ホープです。ああ、ちなみに私未成年者ではなくちゃんとした成人でありますので、どうかご安心を。
さて、内容はまさしくあらすじにも書いている通りです。完璧に酔った勢いで構想を練って、自己満足のためだけに書きました。おそらく本来の私が書く作品を見たことある方は、『同じ人じゃないだろう!』と言いたくなるほど、行き当たりばったりで書いています。まあ、匿名ですのできっとわからないとは思いますけど…。

さて、次回は気が向いたら投稿します。それではまた!

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