【短編集】須賀京太郎、ここにあり 作:にしん
・中三の夏休み
・宮守共学
・作中に出てくる『柳国高校』はオリジナル(共学)
よく「沖縄は冬もあったかい」とか「北海道は夏も涼しい」とか言うが、暑い時は暑いし寒い時は寒い。東北の岩手だって夏は暑い。統計とか平均とかそういうのじゃなくて、今、クソ暑い。真上にある太陽から直接熱を感じる程暑い。
そう。今、俺は、焼かれている!
「バカみたい。確かに暑いけど、そこまでじゃないよ。沖縄の人に謝って」
「太陽が悪い!」
「太陽にも謝って」
「ほら、胡桃は太陽から遠いから……」
「謝れ」
「ごめんなさい」
隣を歩いている胡桃が目を細めて俺を見上げてくる。ちっちゃい。どこからどう見ても小学生にしか見えない。小三くらいまでは同じか、胡桃の方が少し大きいくらいだったのに、まったく成長しなかった。中三になった今では二人並ぶと兄妹にしか見えない。そんな胡桃だから、順調に背が伸びていっている俺を目の敵にしているのだ。シロもどんどん背が伸びているのに。
「そういうの嫌いって言ったよね。もう言わないって何回も約束したよね」
「いやぁ……ちっこくて可愛いぜ?」
「京太郎に言われても嬉しくないよ。人のコンプレックスを笑う人は最低だから」
「わりぃって」
「ふん!」
胡桃が俺を置いて早歩きで進んでいく……が、歩幅の違いからか、少し大股で歩くだけで余裕で追いついた。「ハァ?」みたいな顔でこちらを見てくるが、今から同じ場所に行くのに別々に到着するのもおかしいだろう。そのうちムキになったのか胡桃は走り始め、俺も釣られて駆け出す。
「なんで! はぁっ ついてくんの! んくっ バカ!」
「いや、どうせシロんち行くんだし……」
結局、シロの家につくまで数分間走りっぱなしだった。
胡桃が息を荒くして塀に手をついてうなだれている。俺はジョギング程度だったが、胡桃は俺から逃げようとずっと全力疾走だった。そりゃそうなるよなぁ……。
チャイムを押して少し待つが、反応はない。携帯が一瞬だけ震えたのでいつもの様に勝手にドアを開ける。胡桃を持ち上げてたたきに座らせるとのろのろと靴を脱いだので、また持ち上げてリビングに向かう。
勝手知ったるシロの家。もうずっと昔、小学生の頃から見慣れた光景だ。俺、胡桃、塞、シロで遊ぶ時はだいたいシロの家に集まる。家の距離的には俺と胡桃の家が塞とシロの家の中間にあるのだが、行くのがダルいとシロが約束をすっぽかすのでいつの間にかこうなっていた。
「おっす」
「やほ……」
「……お土産?」
リビングに入ると床にぐでーっと伸びている謎生物もといシロがいた。クーラーが効いていて、汗がすっと引いていく。抱えていた胡桃をシロの傍に「お土産。うちの地元で獲れたんすよ」と置いた。「おぉ……」と声を上げるが、たぶん何も考えてない。腕すらピクリとも動いてない。こいつはまったく……。
「おばさんいねーの? 勝手に茶、もらうぞ」
「ん……いない。いーよ」
戸棚から自分のグラスを取り出す。いつかのクリスマスの時にお互いのを選び、ここに置いてあるのだ。ついでに塞と胡桃の分も出し、麦茶を注ぐ。
「はい、お茶」
「うん……ありがと……」
胡桃にお茶を渡すと、一口飲んで床に伸びた。シロが増えた、とどうでもいい事を考えてると『ピンポーン』とチャイムが鳴った。玄関に向かいドアを開けると塞が立っていて、「やっ」と手を上げていた。今日はいつものお団子ではなくポニーテールにしていた。暑いからだろうか。「須賀君だけ? 胡桃は?」「シロになった」「なにそれ意味わかんない」と会話を交わしつつ、リビングへ。首を傾げていた塞だったが、扉を開けるとすぐに納得したようだ。「シロだ」と呟いて頷いている。やっぱり、あれを表現するならシロしかないよな。くすくす笑う塞を見て、もう一度胡桃を見――ようとして、塞の手が俺の目を覆った。
「え? なに?」
「ちょっと待って。胡桃、パンツ見えそう」
衣擦れの音がした後、すぐに当てられていた手は離れた。胡桃が頬を赤くしながら、正座している。
「……別に見ねーよ」
「……。塞、やっほー」
「うん。暑いね、今日も」
「スルー?」
「うるさいそこ!」
「理不尽じゃねぇ?」
大体、男は俺一人で男の方が少ないんだから、女の方が気を遣うべきなのだ。見せられてもこっちが困る。困るだけで見たくない訳じゃないけど。
ぼやきながらソファに座る。足元にシロがいるのがちょっと邪魔だ。背中をぐいぐい足で押すが、一ミリたりとも動く気配がない。諦めて適当に足を投げ出した。片足だけシロを跨いでいる形になる。
「こらっ。友達を足蹴にしない」
「おー」
胡桃から注意が飛んでくる。仕方がないので、足をシロとソファーの間に捻じ込んだ。足の甲がシロの背中に当たっているが、まぁ、いいだろう。
「あれ? おばさんいないの? ご飯は用意するから食べずに来てって言ってなかったっけ」
「あ、そう言えばそうだ。シロ、どういう事?」
胡桃と塞が時計を見ながら不思議そうにしている。時刻は一時を少し回った所で、ちょうど昼飯時だ。シロがダルそうに「ん……」と呟くので、足で押して続きを催促する。揺らされたシロはちらりと俺を見た後、ゆっくり口を開いた。
「そうめん……」
素麺?
「貰いすぎて困ってるから、皆で食えって……」
『あー……』
三人の声が重なった。おばさん、文句言われないようわざと留守にしてるに違いない。シロとは違いアグレッシブな人だからなぁ……。想像の中の彼女は『よろしく!』とにっこり笑っていた。
「じゃあ……作ろっか。胡桃、手伝って」
「おっけー」
塞と胡桃が台所に向かう。よく考えると、去年も似たような事があった気がする。あの時は……スイカだったか? おばさんがニコニコしながら「よければ食べてって」と持ってくるから喜んで食べてたら、どんどん持ってこられて困ったんだ。一人で半玉くらい食ったから腹壊しかけたんだよなぁ……。
思い出しつつ、足元のシロを見る。胡桃達がいなくなったのに、動く気配がまったくない。
「シロ、お前んちなのに手伝わねぇの?」
返事がない。足でぐいっと。また俺を見てくるが、今度は視線を外してこない。じとっとした目で見つめてくる。普段は気にしないが、シロの整った顔でそうされると少し緊張する。こいつこんなに可愛かったっけ……?
「準備はしてあるから、後は茹でるだけ。あと、
ダルそうに呟いた後、シロが口ごもる。言おうか言うまいか迷ってる、そんな感じだ。
「…………」
そのまま口を閉ざしてしまい、俺も続きを促すタイミングを逃してしまった。お互い見つめ合う。
ちなみに、
「何してんの?」
「俺もわからん」
胡桃が皿を並べてる間も俺とシロは見つめ合っていた。視線を外したら負け、みたいな雰囲気が漂っていた。根気比べだ。
胡桃が台所に戻って行った後も、じっと見つめ合う。瞬きすら我慢する。頬の筋肉がピクピクしてきのでいい加減諦めろと密着している足を動かすと、シロがすっと目を伏せた。勝ったな……と一人で頷いてると、「京、ちょっと」とシロが手招きしてきた。耳を貸せ、という事らしい。
「なに?」
「いいから……」
シロに尋ねても目を伏せたまま手をチョイチョイし続ける。そっと顔を寄せるとシロも顔を寄せてきて「足、やめて」と耳元でささやいた。息がかかってくすぐったい。なんだそんな事かと思ったがそれだけじゃないようで、シロは更に言葉を重ねた。「ブラの紐……当たってるから……」と、恥ずかしそうに。
…………なるほど。これ、ブ……下着の紐なのか。そう言われると足の甲に何か違和感がある。よく見ると、Tシャツ越しに線が浮いてるようにも見えた。俺はずっとシロの下着の紐を、こう、足でスリスリしてたんだな。そっか。
「……」
「……」
すっと足を退ける。
「……」
「……」
シロが俺の方を向いたので、横を見て視線を合わせないようにする。……気まずい。
「京。なんか言って……」
「……ごめん」
「他には」
「ごめん?」
「……すけべ」
「わざとじゃない」
「……そう」
それっきりシロが黙ったので、更に気まずくなる。一度気にするとそればかり考えてしまい、シロの柔らかさとか、最近育ってきたおもちとか、そういうものを意識してしまう。頭に血が上ってくるような熱くなる感覚に戸惑い、逃げるように台所に行こうとしたところで塞と胡桃が戻ってきた。タイミングが悪い。ソファーから離れテーブルの近くの床に座る。もちろん、その間シロの顔を見ることは出来なかった。
「できたよー」
「ほら、シロ、ちゃんと座って」
「ん。いただきます」
「いただきます」
胡桃たちの手前、すまし顔で平静を装ったが、心臓が早鐘のように打たれていた。シロも普段のダルそうな雰囲気だが、よく見るとこちらを気にしている様子がバレバレだった。たぶん、俺も傍から見たら同じなのだろう。胡桃たちが不思議そうに俺とシロを見ている。何も聞いてこないのが救いだった。
「薬味いっぱい用意してあったけど、どれくらい食べたらいいんだろ。『全部食べていいよ』ってハートマーク付きの付箋貼ってあったけど、五十人分くらいあったよあれ……。とりあえず六人前茹でてきたけど」
「多くね?」
どうりで山が出来てると思った。ネギとノリをつゆに浮かべ、素麺をぶち込む。まぁ……普通にうまい?
どうでもいい雑談をしながら、少しずつ山を攻略していく。
「京太郎お腹減ってるでしょ? 午前に部活行ってたし」
「あー。今日は掃除だけだったから、そんなに。なんか部室綺麗にしろって先生がキレてたー、って急に集合かかったんだよな。休みだったのに」
「へぇ。須賀君も怒られた?」
「いんや。てか別に怒ってなかった。一年坊の勘違い」
「ハンドボールの顧問の先生いつも怒ってるみたいな雰囲気あるよね。そうだ、大会もうすぐだっけ?」
「再来週。終わったら引退なんだよなー。変な感じ」
「応援行くよ。頑張ってね」
「さんきゅ」
もっきゅもっきゅと素麺を食べる。食べる。胡桃が早々に箸を置きまったりムードに入ったので、まだ食えと素麺を胡桃のつゆにぶち込んでやった。怒られた。
なんとか全部食べ終えた頃には腹がパンパンになっていた。たぶん、二人前と少しは俺が食ったと思う。
「片付けは俺がするわ」
皿を重ね、回収していく。準備はしてもらったし、これくらいはしないとな。もちろんシロは動かない。期待すらしてない。流しで皿を洗いつつ、残りの素麺を発見して『これはしばらく素麺尽くしだな』とシロ家のご飯に思いを馳せる。可哀想に。
片付けを終えて胡桃たちの所に戻ると、麻雀の準備がしてあった。既に山も積まれている。
「じゃ、やろっか」
ジャンケンで親を決め、牌を取っていく。本来は場決めからサイコロでいろいろするのだが、今回はただ遊ぶだけなのでそこらへんは適当だ。
「今日は塞がないから。疲れるし」
「……よし」
「シロ嬉しそう」
「いつも迷った瞬間塞がれるもんな。分かりやすいのが悪いんだよ」
「須賀君は塞ぐ必要ないから楽だわー」
「普通に強いからな! おい、なんだよその目は」
「役満狙いすぎて聴牌すらできない人が何か言ってるなぁ」
「喋ってもいいけど手は止めない!」
ここ最近部活が忙しく、四人で麻雀をするのも久しぶりだ。胡桃達と卓を囲むようになってもう数年経つが、皆飽きる事なく続けている。ダルいダルいと何事も楽をしようとするシロも、麻雀だけは嫌がらない。ダルそうなのは変わらないが。
小学校高学年の頃、動かない遊びをシロのために探していた時に出会ったのが麻雀だった。その頃は麻雀をするというより、四人で一緒にいるための道具みたいな扱いだった。皆が本格的に『麻雀』を始めたのは中学に入って暫く経った後で、その時俺は既にハンドボール部に入っていた。面子が足りないと文句を言われたので休日なんかにこうして打ってるが、俺の腕はあんまり良くない。戦績で言うとシロの一人浮きで、胡桃と塞がその少し下、俺が更にその下だ。まぁ、対戦相手としては強すぎず弱すぎずで、ちょうどいいくらいではないだろうか。
「皆、宿題した? 京太郎は今年こそ一人でやってよ。絶対見せてあげないからね」
「まだあと三週間あるじゃん。大丈夫大丈夫」
「毎年それ言ってるよねー。シロですら自分でするのに」
「胡桃がうるさいし……」
ガチでやるのは集まったときの最後の一回くらいで、それ以外はこうして喋りながらの対局だ。
「京太郎は期末試験散々だったんだから。本当は受験勉強しなきゃいけない時期なのに、部活か遊びに行くばっかりなんだし」
「大丈夫大丈夫。いざとなったらシロに勉強教えて貰うし」
「え……私……?」
「シロが一番教えるの上手いからなー。頼りにしてるぜー」
「まぁ……京が言うなら……考えとく……」
そうこうしているうちに胡桃が和了った。いつもダマってるから急に和了られて驚くんだよな。あと少しで国士テンパれそうだったのに。
点棒を渡し、牌を混ぜていく。手積みなので面倒だ。山を積み直して、東二局開始。
「受験勉強かぁ。あと半年したら卒業なんだよね。なんかそんな感じしない」
「そうだな。ま、たぶん今のままでも受かるだろうし、大丈夫だろ」
「え? 京太郎はちょっと危なくない?」
「いやいや。お前らは宮守だろ? 柳国は宮守より偏差値低いし」
『…………え?』
「え?」
三人の牌を取る手が同時に止まった。目を丸くして俺を見ている。
「言ってなかったっけ? 俺
「聞いてないよ。え、宮守行かないの?」
塞が身を乗り出して問いかけてくる。
「いや、行かねぇよ……男子いないし」
「でも共学じゃん、一応」
そう。ここから最寄の高校は宮守高校で、そこも共学である。ずっと女子校だったのだが、少子化やら生徒数減やらで一昨年共学になったのだ。……が、未だに男子生徒はゼロである。少し遠いが柳国があるし、そっちの方が簡単なのでここらの男子は皆そこに行く。誰も好き好んで肩身の狭い思いはしたくないのだ。俺の同級生も、殆ど柳国か、それ以外の高校で、宮守志望はいない。
「……え? ちょっと待って。本当? 冗談じゃない?」
「本当だけど」
胡桃も身を乗り出し、俺に詰め寄る。ここまで驚く事だろうか。普通に考えたら、そうなると思うんだが……。
「まぁ、宮守は殆ど女子校みたいだもんね……」
「そうそう。さすがに入るの気まずいわ」
「私、てっきり宮守だと思ってた……っていうか、私達は宮守って前から言ってたから、同じ高校行くものだと」
「お前らがいるから大丈夫かなーってちょっと思ったけど。まぁ……なぁ?」
「ハーレムだよ? そういうの好きじゃないの?」
「現実はそんなに甘くないだろ、きっと」
他の男子より女子に慣れているという自負はあるが、それはこいつら限定な訳で。せっかくの高校生活を気まずい三年間にはしたくない。
「あ、あと寮に入るかも」
「は?」
「え?」
「……」
柳国は長い事ここらへんの男子を受け入れていたためか、大きな寮がある。寮費も高くなく、通学の手間が省けるので殆どの奴が寮に入る。俺もそうしようと思っていた。毎日一時間多く眠れると考えたら、入らない理由がない。
特に気負う事なく言ったが、三人の反応は先ほどよりも大きかった。
「な、なんだよ……?」
ビクビクしながら三人の顔を伺う。胡桃はポカーンとした顔、塞は一瞬顔をしかめたが、すぐにいつもの顔に戻った。シロは……。
「……京」
「シロ? どうしっ――」
シロが急に立ち上がって、俺に詰め寄る。驚いて後ずさるが、肩を掴まれて身動きを封じられた。
「本気?」
顔をずいっと近づけられる、あと少しで鼻が当たりそうな距離だ。
「ま、まだ完全には決めてないけど……入ろうかなって」
「違う。寮だけじゃなくて……柳国に行く、って所も」
「あ、あぁ。それは一応、そう思ってるけど……」
たどたどしく答えると、シロは目を伏せた。しばらくそのままの体勢で何も言わず、気まずくなって声をかけようとしたところで、ようやくシロが顔を上げた。
「いやだ」
シロが俺の目をじっと見つめ、縋るように呟いた。
「……なんで」
「……お世話する人とか、必要だし……」
「胡桃たちがいるだろ」
「……でも」
「あー……そんなに? 俺が柳国行くの、嫌なのか?」
「うん」
「男子俺だけになりそうなんだけど」
「私達がいる。何かあったら味方する。だから、一緒に宮守に行こう」
考える。ここまでシロが言う理由はなんなのか。もしかしたら、とか。やっぱり、とか。色々考えたけど、はっきりとした答えは出なかった。ただ、離れたくないとシロが思っている事だけは分かった。
シロの肩を叩いて、少し距離をとる。
「……胡桃と塞は? どう思う?」
シロが振り返って、二人に問いかけた。二人は俺達のやり取りに呆然としていたが、少し考えた後すぐに口を開いた。
「京太郎が自分で考える事だと思うよ。柳国に行ったからって、一生離れ離れになる訳じゃないし。でも、一緒に宮守に行けたら楽しいと思う」
「私は……宮守に行ってほしい。須賀君も含めて『みんな』って感じだから。どうしても柳国がいいなら、止めないけどさ」
考える。俺はどうしたらいいのか。
「京。考え直して。……お願い」
考えて。わりとすぐに答えが出た。
「じゃあ宮守にすっかな」
「え」
「は?」
「よし」
シロがぐっと小さくガッツポーズを取り、そそくさと自分の席に戻る。俺があっさりと答えたからか、胡桃と塞がガクッと肩を落とした。
「いや、さっきも言ったじゃん。別に宮守でもいいかなって。でも、勉強教えてくれよ、シロ」
「えぇ……」
「いやお前のせい……って言うのもおかしいか。まぁ、頼むよ。宮守狙うけど、受かるか分からないし」
「ダル……けど分かった。任せて」
「ちょちょ、待って。そんな軽いの? 私結構真面目に考えてたんだけど」
「なんだよ塞。俺も真面目なんだが」
「絶対違う! もっとほら、あの、なんかあるでしょ!? それでいいの!?」
「いいんじゃねぇの? お前らいるし。あ、でも宮守に男子トイレあんのかな……先生と同じトイレとかだったら嫌だな……」
「心配するのそこ!?」
「大丈夫。やばい時は一緒に女子トイレ入ってあげる……」
「何言ってんの!?」
塞のツッコミが止まらない。俺とシロがくすくす笑っているのも気付かず「はぁ? なんで?」と頭を抱えている。
「……そんな事だと思ったよ。京太郎、宮守行くなら本当に勉強しないとダメだからね。宿題、一人でやってね」
「大会終わったらやるよ」
「もう……」
胡桃が呆れ顔で首を振っている。
「まぁ、俺もお前らと離れたくないし。せっかくの幼馴染だしな」
これは本心だ。どうせなら一緒に居られるようにしたい。だから寮に入るのは迷っていた。
周りの男子が柳国入寮コースだったから俺もなんとなくそう思っていただけで、シロが同じ学校がいいと言うなら宮守に変えるのも悪くない。
塞とシロは小学校、胡桃とは物心つく前から。女三人男一人の少し変わった幼馴染だが、俺はこいつらが嫌いじゃなかった。
「あ。そっか、そうだ。いい事思いついた」
「ん?」
塞が頭を上げ、ニヤリと笑った。
「高校入ったら、皆で麻雀部作らない?」
麻雀部?
「そう。男子ハンドボール部絶対ないし、須賀君暇になるでしょ? だったら丁度四人だし、どうだろ。もし部費出たら自動卓とか買えるかもしれないし」
「なるほど」
「それいいかも。大会も出られるかもね!」
「え、ダル……」
「団体は五人だから、あと二人か。二人ならなんとかなるよね」
「男子は個人確定じゃねぇか」
「私頭数入ってるの……」
「目指せインハイ優勝!」
「いいねそれ!」
「あの……」
『高校に入ったら』
『皆で』
『何をしよう?』
わいわいと、そんな話題で盛り上がる。胡桃と塞は楽しそうに、シロはダルそうに。まだまだ先の事――そう思っていても、すぐにその時は来るんだろうが――を皆で話し合う。あれがしたいこれがしたいと、まだ受かったと決まった訳でもないのに。
それでも、悪い気はしなかった。もしかしたら、今日の事がなくても俺は宮守を選んでいたかもしれない。まだ俺は、柳国に行けば皆と離れるという事を実感していなかった。最後の最後で一緒の道を選んでいたかもしれない。
「ってかいい加減麻雀やろうぜ」
「あ、えっと……次親誰だっけ?」
「えっと……もう最初からしよっか。ガチの一回ね」
「えー! 私さっき和了ったのに!」
「もっかい山積むの? ダル……」
宮守に入れば、三年は楽しい日々が続くだろう。そう思うと、勉強するのも頑張れそうだ。たぶん、みんなに教えて貰う事になるだろうけど――別にいいよな、幼馴染なんだし。少しくらい頼っても。
「じゃ、改めて東一局。よろしく」
「よろしくお願いします」
「よろ……」
「よろしく」
よろしく、みんな。
おまけ
「……で、さっきあんなにマジだったけど、なんで?」
「……分かってるくせに。塞もでしょ」
「……何の事か、分からないな」
「そ。でも、私、これだけは諦めないから」
「……あっそ」
おまけのおまけ
「驚いたよ。柳国に行くって聞いた時は」
「そうか? 俺の友達も皆柳国だぜ」
「そうだけど、なんか京太郎だけは宮守に行くって思い込んでた」
「ふーん」
「なんでだろ。おかしいなぁ」
Q.トヨネと大天使は?
A.いません。
Q.続きは?
A.高三編書きたかったけど予想以上に宮守ーズ難しかった。許して。
今回の設定
京太郎:ちょっと子供っぽい。ハンドボールはする。麻雀は普通の強さ。最近、三人娘を女の子だと意識し始めてる。シロのおもちに興味津々。
塞:小学校で出会う。中学に入ってから京太郎に惚れた。好感度は上の中。でも隠してる。シロの事は薄々気付いてる。三人娘の中で一番乙女。未だに最初の「須賀君」呼びから変えられず悶々してる。
シロ:小学校で出会う。小学校高学年の頃に惚れる。好感度マックス。塞の事は気付いてて遠慮してるけど渡す気もない。もし京太郎が柳国に行ってたら追いかけてた。宮守に行くと分かって安心すると同時に『もし柳国行ってたら塞と引き離せたかも』と考えて少し自分が嫌いになった。『京』は自分しか呼ばないのでお気に入り。
胡桃:実は家が隣。0歳からの仲。家族の様に思ってるが、今のところ恋愛感情なし。ただし京太郎と一番仲がいい為、もし京太郎に惚れれば塞とシロにとっての魔王となる。充電ネタはエロにしか向かわなかったので割愛。プラグをコンセントに(ry
「男子トイレあるのかな……」は私が中学校の頃思っていた事です。
地元に数十年男子生徒がいない共学の学校がありまして、「男子トイレがない」「男子が入ったら体育の時校舎の陰で着替える事になるらしい」「毎年一人二人入ってるけどいなかった事にされてる」とかそういう噂がありました。
実際はちゃんと男子トイレはある(と説明会の時に力説されました)そうですが、やっぱり女子ばっかりだと男子って入らないんですよね。
と思って調べたら男子勧誘に力を入れたらしく、今は普通に男子もいる高校になったらしい。なんか残念。