HELL紅魔郷SING   作:跡瀬 音々

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いよいよクライマックスです。キリが悪いところで切れてますが、ヒキということでひとつ。


Prière(6)

……。

…………。

 

「ぐッ……おおおぉぉおおぉぉおおぉ!?」

 

圧倒的。

 

「言ったでしょう? ()()()()()()()()()()()、と」

 

それは、まさに圧倒的と形容するに相応しい状況だった。

 

咲夜が飲み干した液体の正体は、()()『蓬莱の薬』と()()()()()秘薬。

それは、服用した者の『人生』を、即ち『過去』、そして『未来』を、『現在』という()()短時間に圧縮する薬。

そう、噛み砕いて言えば、服用した者が()()()()()()()、『現在』という一瞬に、その者が()()()()()を収斂する薬。

 

ーー本来であれば、いつか来るべき()()()()()に、()()()()()()ための薬であった。

 

ともあれ。

 

「グ……おあぁあああAAAAAA!」

 

全盛の姿を取り戻した咲夜の攻撃は、もはや白銀の瞬きさえ伴わず、無慈悲かつ正確にアーカードにダメージを蓄積させていく。

それは、咲夜が世界の()から完全に解き放たれたのか、はたまた、文字通り相手の()()を思うままに()()()ほどの強大な力を行使できるようになったのか。

もっとも、そのどちらであっても、また、()()()()()()()()()、アーカードはただ為す術なく、苛烈な猛攻に身を晒すことしかできなかった。

 

「不死身の化物(フリークス)など存在しない……! くたばるまで、殺してやるわ。傷魂『ソウルスカルプチュア』……!」

 

まるで、深い霧が晴れるかのように、アーカードを取り巻く『影』は不可視の斬撃に散り、その身体には見る間に数多の刃が突き立てられていく。

先程まで咲夜が用いていたナイフよりも一回り大きなそれらは、同時に絶えず彼女の周囲に振り撒かれ、一切の『影』の接近を許さず消し去っていた。

 

「クッ……!」

 

反撃はおろか、まともな防御さえできない状況に、アーカードは堪らず『影』とその身を入れ替え、距離を取る。

 

が、次の瞬間には敵の姿が目の前にあり、そして攻撃を受けている。

それは、咲夜が一瞬でその距離を詰める移動をしたのか、()()()()()移動したのか、或いはアーカードが彼女の目の前に()()()()()()のか。

()()は、それについて語ることさえ小賢しいことであると思わせる見事な一転攻勢であった。

 

咲夜は、持てる全てを総動員して、ただアーカードを狩るためだけに刃を振るっていく。

 

薙ぎ斬り、斬り落とし、斬り払い、斬り捨て、突き立て、突き通し、突き貫く。

 

「……終わりよ!」

 

そして、遂に、咲夜の刃がアーカードの心臓を捉えた。

 

ーーかに見えた次の瞬間。

 

彼女の眼前、アーカードは影と消え、それと同時に、咲夜の左頬を強烈な衝撃が襲った。

 

「……ぐッ!?」

 

咲夜は何とかその場に踏み留まり、顔の傷を修復させながら、衝撃が向かってきた方向を睨み付ける。

 

「シッイイイィィィィ!」

 

そこでは、その風貌を幼い少女のものへと変化させたアーカードが、拳を震わせ笑っていた。

瞬間、両者の視線が交わるが早いか、アーカードの額に突き立てられた刃が、咲夜の攻撃の再開を告げた。

 

「最後の最後で、随分と分の悪い賭けに出たな、()()!」

 

アーカードは、それもお構いなしといった様子で、追撃の刃をその身に受けながら、『ディンゴ』の銃口を真っ直ぐ咲夜へと向ける。

と、同時に、『影』の亡者が突撃指令を下された軍隊のように、一斉に咲夜に襲い掛かった。

しかし、『影』の亡者達は獲物を捕らえることなく掻き消え、『ディンゴ』を構えたアーカードの腕は落ち、噴き出した鮮血が足元の『影』へと溶けていく。


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