感覚が戻ると共に、痛みと熱を帯び始める右腕。
肩の大部分を抉り取られ、もはやぶら下がっていると形容するに相応しい状態の
「うらあああぁぁぁあぁぁッ!」
それでも、咲夜は自分を奮い立たせるかのような雄叫びを上げ、『影』に走り寄る。
ただ、ひたすらにナイフを投げ、斬り、振るう。
だが、投げつけるほどに、斬り倒すほどに、振るうほどに。
『影』の亡者はその数を増やし、少しずつ、しかし確実に、彼女を追い詰めていく。
「どうした使用人。調子はどうだ? 満身創痍だな。どうするんだ? お前は
「満身創痍……それが
瞬間、アーカードの表情が驚きに、そして微笑みに変わる。
「……素敵だ。やはり人間は素晴らしい」
彼が幾年月を重ねて喰らい、使役する亡者達。
それらは、いつしか深追いが過ぎた咲夜を取り囲んでいた。
(……ッ! いよいよ、進退窮まったわね……いいえ、きっと最初から
だが、たとえ周囲を隙間無く取り囲まれようと、未だ輝きを失わない瞳を伴った咲夜は、今一度目の前の『影』に向かい踏み出そうとした。
ーーその時。
不意に後方から彼女の頬を掠めた
それは、
「そんな……パチュリー、様……」
振り返った先、浮かび上がる見知ったシルエット。
『影』は炙り出しのようにじんわりと輪郭を得て、その姿を
それは、咲夜がその可能性を感じながらも、無意識の果てに放逐していたほどに恐れていた事態。
即ち、顔見知りの誰かが『影』として使役されているという、最悪の成り行きであった。
(一体、どうすれば……)
咲夜は現実から目を逸らすように、反射的に視界からその『影』を外すと、現状を打開する手段を思慮し始めた。
しかし、ただでさえ不利な状況に置かれていた彼女がいくら頭を捻ってみても、戦況を覆すような策が浮かぶはずはなかった。
咲夜の脳裏を過る『敗北』の二文字。
考えることを放棄して飛び掛かろうにも、既に心は絶望に打ちひしがれ、両脚は頼りなく震えるばかり。
(これじゃあ、もう……ッ!?)
途方も無い諦観が咲夜を圧倒した刹那、地下室の天井に二つ目の大穴を空けて、彼女の目前に降り注いだ巨大な光芒。
そして、亡者達が薙ぎ払われたそこへ降り立つ、多数の人影。
「あっ、貴女達……ッ!」