今回から、1つの話をキリのいいところまで書けた段階で新話として更新し、全部出揃った時点で大元の話に統合しようと画策しております。
これで更新頻度が上が(っているように見え)るぞ!
やったね!
※というのは過去の話になりました。詳しくは前話の前書きを参照のこと。
「まだまだァ! 幻符『殺人ドール』!」
身に迫る絶望を拭い去るような叫びと共に、咲夜は再び『敵』目掛けて駆け出す。
彼女がただ無策に、闇雲に、躍起になって飛び出したかに見えた次の瞬間、その背に現れる無数のナイフ。
白銀の壁が咲夜を巧みに避け、彼女を追い越してアーカードに迫る。
アーカードがそれらを正確無比に撃ち落としていく最中、咲夜はその合間に自分に向けて放たれる弾丸を躱しながら、受け流しながら、弾きながら、その距離をたちまち縮めていく。
そして。
「おおおぉぁぁぁぁッ!」
アーカードの姿をいよいよ目前に捉えると、手にした大振りのナイフで目一杯薙ぎ払う。
アーカードは、その乾坤一擲の攻撃をまたしても難なく防ぎ切り、打ち破り、真っ直ぐに咲夜を見据えた。
対する咲夜もまた、先程までと変わらず一撃離脱の戦法を取ってはいたが、その瞳は更なる追撃の機を窺うように、アーカードを捉え続けている。
両者の視線が、一直線にぶつかる。
「何という女だ。人の身で、よくぞここまで練り上げた……敵よ! 殺してみせろ! この心臓にその刃を突き立ててみせろ! この私の
その表情に余裕と驚嘆の微笑を浮かべたアーカードは、度重なる負荷に堪え兼ね、未だ肩で息をする咲夜に、容赦なく銃口を向ける。
「……語るに、及ばず!」
言葉や態度では強がっていたが、その実、咲夜の身体と精神はその限界を
しかし、それでも彼女は、ナイフを構えることを、敵に立ち向かうことを、止めなかった。
それは、館の仲間のため。
そして、敬愛する主人のため。
何より、自分自身のため。
彼女の生き様が如く研ぎ澄まされた切っ先鋭い刃は、まるで、彼女の矜持が乗り移ったように儚く強く、輝いた。
「「…………」」
両者は視線を逸らさず、互いを牽制するように、緩やかに体勢を変えていく。
と、そこで、咲夜の身体が不意に硬直する。
まるで、それを
(……! しまったッ!)
そして、今まさに弾丸が放たれる寸前、咲夜ははっと我に返り、そこで初めて、目を合わせた時に敵の術中に嵌っていたことに思い至った。
俗に言う『
視線を交わしただけで人々の心を惑わす、いわゆる洗脳や精神干渉と呼ばれるものの一種。
本来であれば、対吸血鬼戦を知り尽くした咲夜に、吸血鬼の目を見詰めるような失策はあり得ない。
また、仮に
しかし、疲弊しきった肉体と憔悴した精神が、不用意に目を合わせるという油断を生み、そして、術に抵抗する力も奪っていた。
咲夜が、回避行動を取るため足のバネを溜めるが早いか、彼女の瞳に映る銃口の黒と火薬の炸裂光。
反射の域で動き出し、辛うじて紡ぎ出した一瞬にも満たない時間では、弾丸の直撃を避けるように身体を捩る程度が精一杯で、結局、
それに合わせて、咲夜の身体も、後方へと引き寄せられるように吹き飛んでしまう。
彼女は、そんな窮地を好機に変えるべく、その体勢を空中で整える。
そして、右手のナイフを地面に突き立てる事で制動し、それを軸に旋回、更にその勢いを利用してアーカードに飛び掛かろうとした。
しかし。
(……!)
次の瞬間、彼女を襲った
右手が動かない。
否、右腕の
(……それ、ならッ!)
咲夜は、即座に軸とする腕を左に切り替え、ナイフを地面に突き立てる。
それから半拍も置かずに、強烈な遠心力が彼女の体を軋ませ、脳を揺らした。
その、まるで暴れ馬に片手で掴まっているかのような劣悪な状態の中で、彼女は狙い澄ました一瞬を見出し、旋回の勢いに乗ったまま、地面を蹴って飛び出す。
にわかに詰まる両者の距離。
一閃、瞬く白刃。
(手応え……あった!)
しかし、咲夜が捉えたのは有象無象の『影』であり、討つべきアーカードの姿は、遥か遠くにあった。
開いた二人の間隔を、見る間に『影』の亡者達が埋めていく。
もう、空間にその残像が焼き付けられるほどに、幾度も繰り返された光景。
「どうする? どうするんだ? 化物は
咲夜の視界を占領し、蠢き連なる亡者の『壁』の向こう、アーカードの挑発的な声が響く。
「たとえそれが那由多の彼方でも……私には充分に過ぎる!」