パレンバンのある島がボルネオ島となってたのをスマトラ島に直しました。
シンガポールチャンギ港沖にダズル迷彩を施した貨物船と駆逐艦が帰ってきた。特設水上機母艦『神川丸』と直衛の睦月型駆逐艦4隻だ。『アルトマルク』の護衛を終えて戻ってきたのだった。
カールスラントの補給船アルトマルクは、HK02船団とともにシンガポールに到着。1泊の後、スマトラ島の南のパレンバン油田に北アフリカ向けの石油を積むため出港した。12航戦に加わって洋上補給で支援してくれた恩があるので、スンダ海峡を通ってインド洋に出るまでアルトマルクを護衛してきたのだ。
アルトマルクは神川丸らに見送られ、潜水艦U-3088の下士官以下乗員とアフリカ砂隊の金子主計中尉およびその補給物資を載せ、喜望峰回りの長い航海に就いたのである。
扶桑海軍のシンガポール根拠地隊が基地を置くチャンギ港には、HK02船団の護衛を終えた南遣艦隊の艦がずらりと錨を下ろしていた。損傷を受けた艦はドックへ。損害が軽微な艦は埠頭に接岸し、次の護衛作戦に向け、いろいろな船が接舷しては燃料や水、桟橋からは食料や弾薬などを積み込んでいる。
神川丸らも桟橋に接岸し、ようやくのことメインボイラーの火を落としたのだった。
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接岸して整備と補給に入ったとはいっても乗員はすぐに解放されたわけではなく、半舷上陸が与えられつつも先ずは艦内清掃と補給作業が待っていた。
天音達も航海中さんざん私物のように使い倒していた
いきなり海軍に召集され、すぐに最前線に送られ、しかも島国である扶桑の存亡に関わる海運を復活させるという重大な作戦に投入されるという事を明言して連れていかれたのだ。
事の重要さは、我が子の命を第一に心配すべきと分かっている両親であっても、作戦が失敗しないか気が気ではないはずなのである。
「扶桑に荷が届くまではまだ道半ばだから、親御さんは全く様子を知るすべもない。せめて無事な事だけでも知らせてあげなさい」
「はーい。わかりました」
「優奈嬢ちゃんもな」
「はい!」
そこで天音は、学校に届いた優奈の手紙を思い出した。あれには写真が同封されていた。
「艦長さん。写真とかお土産なんかも送れますか?」
「ああ、送れるんじゃないか?」
「優奈、写真も送ろう! わたしも優奈がやったみたいに学校にも送りたい」
「いいね。一緒に送ろっか。ああ、でも写真は気を付けなきゃいけないのよ。どこの港かバレにくいようにしなきゃとか……」
「嬢ちゃん、我々のシンガポール寄港は機密事項じゃないから、場所がわかるものでも構わんよ」
「そうなんですか? やったー!」
はしゃいでた二人だが、後で郵便室で荷物の方は駄目だと言われた。
「申し訳ありません、一崎一飛曹。手紙は連絡機で送れるのですが、荷物は軍需物資が優先になり連絡機には載せられません。船便なら腐らないものにしていただければ送って構いませんが……」
郵便係の水兵は笑って続けた。
「無事着くかどうか、その船を護衛するのは一崎一飛曹ですよ」
えっ? ときょとんとすると、優奈と見合わせる。
「そっかー。それじゃあ次、香港くらいまでは自分で運んでも同じだねえ、優奈」
「そだね。神川丸の搭乗員控え室に置いときゃいいもんね」
ウィッチの溜まり場は完全に私物化されていた。
「ありがとうございます。写真撮ったら、後で手紙と一緒に入れて出しにきますね」
「はい。上陸時はお気を付けて」
「上陸したらシンガポールらしいところで記念撮影しようよ」
通路を歩きながら優奈が、どんなところかなぁ、と楽しそうに上を見上げている。今ではシンガポールといえば有名なマーライオン像があるが、この時にはまだ存在してない。
すると天音はこれぞ海外というネタを思い付いた。
「そうだ優奈。現地のお友達と写真撮ろう!」
「え、お友達? 天音、そんな人いるの?」
ムフフフとグーにした両手を口に当てがってコロコロと笑う天音が言うお友達とはなんと。
「シィーニーちゃんだよ~」
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補給品の積み込みを冷やかし程度に手伝っていた天音と優奈は、桟橋で軽巡洋艦『香椎』のウィッチ、鹿島に会った。
「あ、鹿島少尉」
「あらあ、筑波さんと一崎さん。お手伝い? 偉いわねぇ」
「そう言えば香椎がいませんけど、どこ行ったんですか?」
優奈が桟橋に並ぶ艦を端から見回した。
「香椎は被雷したから、ブリタニア軍のセレター軍港のドックに入ってるわ」
「ああ、巡洋艦が入れるドックがこっちにはないんですね」
「それでおフネから降りてお散歩してるんですねー」
呑気に話す天音を優奈が突っついた。
「バカね。鹿島さんは士官だから、根拠地隊の司令部があるこっちで色んな仕事があるのよ」
「そ、そうなんですか。ごめんなさい」
「いいのよ。実際仕事が進まなくてぶらぶらしてたんだから。ふう~」
鹿島はがっかりしたようにため息をついた。
「どうしたんですか? 疲れた顔して」
「ええ。実はブリタニア軍を表敬訪問しなきゃで、私が調整をしているんだけど、シンガポール基地司令官が不在な事が多くて、すれ違ってばかりで訪問日を全然決められないの」
「士官さんは大変ですねぇ」
「うちの士官さんは何してんのかな。卜部さんとか」
「甲板で日光浴してたわよ」
鹿島のこめかみにピシッと浮き上がるものがあった。
「シンガポールの司令官ってどこにいるんですか?」
「セレター空軍基地っていって、島の北側、ジョホール海峡の方の軍港近くにあるところよ」
天音はパアッと晴れた笑顔になった。
「セレター空軍基地なら明日行きますよ」
「え?」
「遊びに……うぐぐぐ」
慌てて天音の口を塞ぐ優奈。
「表敬訪問です。ブリタニア軍ウィッチとの交流。ね?」
口は笑っているが、優奈の目が釣り上がっている。
「そ、そうそう」
睨まれた天音が相槌を打つ。
「連絡ついてるの? 向こうの許可ももらってるの?」
「ええ。ウィッチ隊まとめてる大尉さんの許可出てるって」
「本当?!」
「鹿島さんも一緒に行きましょうよ。基地司令官にも紹介するって言ってたから、鹿島さんもついでに挨拶してくればいいじゃないで……はぐっ!」
優奈の肘が天音のお腹に食い込む。
「何で基地司令への挨拶がついでになるのよ、あんたの頭は」
「基地司令官もいるの?! い、いったいどういうルートで調整できたの?!」
「わたし達、シィーニーちゃんと仲良くって……え゛あっ!」
アッパーカット状の衝撃が天音の頭を後ろに反らす。
「ぶ、ブリタニア空軍のウィッチに伝があって。こ、こないだのペカン川のスタッキングネウロイ撃沈で一緒に戦ったもんですから。ははは」
もう優奈は後ろに天音を隠してしまった。あまりにも一般人過ぎて表に出してらんない。
「素晴らしいわ。これから一緒に作戦することも多いと思うから、もうそんな人脈を築いているなんて、さすが427空ですね」
そして鹿島は額に手を当てる。
「卜部少尉が日光浴してるのも当然ですね。やることやってるんですもの。ああ、あんな水上ストライカーユニットの神様のような超ベテランウィッチを一瞬でも疑ってしまった自分が情けないわ」
自責の念で首を左右に振る鹿島に、それはないないと、手のひらを顔の前で左右に振る優奈と天音だった。