水音の乙女   作:RightWorld

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2020/4/27
誤字修正しました。
報告感謝です。 >死神の逆位置さん



12航戦が水上機部隊をHK02船団へ向けて飛ばす日の早朝の出来事、最後の1話です。






第62話「半日前のエピソード その3」

この日の朝はもう1つ重要なエピソードがあった。

 

勝田飛曹長がストライカーユニットの発進準備をしている頃、アルトマルクから内火艇がやってきていた。神川丸に乗船してきたのは、ハナGこと金子主計中尉であった。

艦橋に案内された金子中尉は、有馬艦長と三田村副長に迎えられた。

 

「扶桑皇国陸軍アフリカ独立飛行中隊の金子主計中尉であります」

「神川丸艦長の有馬だ。君か、アルトマルクの最終目的地を北アフリカにした張本人は」

「北アフリカの補給はいつも欧州戦線の後回し。今回の長期補給途絶はただでさえ厳しい砂漠の部隊には死活問題です。補給担当の私としては、どんな手を使っても物資を届けないとなのです」

 

副長が目を輝かせて会話に入った。

 

「北アフリカのストームウィッチーズの活躍は聞いとります。”扶桑海の電光”加東隊長を筆頭に、”アフリカの星”マルセイユ大尉以下の精鋭ウィッチ。少数戦力でよく戦線を保っていると思います。あれを後ろで支えているのが貴官なのですな」

「ありがとうございます。しかし今回のひとかたならぬ慌ただしさは何です?香港に寄る予定も流れて、話によると扶桑輸送船団はもう出発したとか?」

 

補給品ダービーのトップを行きたいハナGとしては、もし本当に自分より先に欧州向け輸送船がいるとすれば、甚だ許しがたい事だった。

 

「実は本国で皇女殿下の御聖断が下ったのですよ」

 

有馬艦長は、ガリア東部守備隊の扶桑陸軍部隊が突破され、ガリア防衛ラインが崩壊の窮地にあることを話した。

 

扶桑の欧州派遣軍は潜水型ネウロイのせいで補給が途絶え、戦力の消耗をカバーできないでいること。滞っている物資・人員を何としても欧州に、できるだけ早く届けるべく、香港の船団は直ちに出港するよう御聖断が下ったこと。そしてその荷を何としても守るのだと扶桑海軍は全力を上げて対応していること。

 

「欧州の部隊も現有戦力で何ができるか知恵を出せとハッパかけられたそうです」

「そうだったのですか……」

 

アルトマルクという外国船に乗っているせいで、すっかり蚊帳の外になっていた金子中尉は、腕組みして考え込んだ。

 

「ところで、朝飯は食いましたか?」

「ええ。あちらでは毎朝カールスラントの黒パンとチーズです」

「今日は合戦日なので朝から戦闘食なんですが、握り飯と漬け物と味噌汁がありますぞ」

 

金子の顔がパアッと綻んだ。

 

「是非とも!」

 

 

 

 

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勝田の名人芸を神川丸の艦橋から見学できた金子中尉はひどく感激していた。お握りと味噌汁にも感激していた。久々に米のパワーを補給し、脳細胞が活性化された金子中尉は、有馬艦長に頼み込んだ。

 

「お願いがあります。私の原隊と連絡を取りたいのです」

「北アフリカのかね?」

「はい」

「さっき勝田飛曹長のお陰で、5000m以上上に行けば通信可能だとは解ったが、飛行機の無線機では無理ではないか?」

「何処かの扶桑基地経由でもいい。今、私に出来ることをしたいんです。もしかすると、僅かではありますが、欧州に武器を送る事が出来るかもしれない」

 

有馬は、ほうと関心を寄せた。

 

「副長、補給はあとどれくらいかかる?」

「今2番手の駆逐艦が補給中。1時間ですな」

「金子中尉、飛んで降りてを除くとトライできる時間は30分だ。すぐ準備を!」

「あ、ありがとうございます!」

「428空2番機の零式水偵を至急発進準備。乗員は操縦士と通信士のみ。偵察員席に金子中尉を乗せる!」

 

 

 

 

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零式水偵で飛び上がった金子主計中尉は、繋がった香港の扶桑陸軍基地に中継してもらい、北アフリカの金子中尉の原隊、アフリカ独立飛行中隊の隊長、ケイこと加東圭子大尉へ砂隊の内部暗号電文を送った。

 

 

北アフリカは夜中の午前2時だったが、加東は溜まった書類仕事をようやくやっつけ終えて、マルセイユと睡眠前の一杯を煽っているところだった。

テントにやって来たカールスラントの通信兵から、金子中尉発の緊急電だと言われ、加東は電文を受け取った。

「やっとデスクワークから解放されたのに……」

 

とぶつくさ言い、いい知らせかとワクワクするマルセイユを隣に置いて、暗号電文を解読する。

 

数分後、出てきた電文に加東は酔いも覚めて机に突っ伏した。

何だって?とマルセイユは解読した通信文を拾い上げてさらさらと目を通す。

 

≪砂隊では不要と思われ、ガリア戦線で活用されたし。ブツはトリポリ港西2キロの係留中木造貨物船内≫

 

「ケイ、これは何の事だ?隠してた食い物か?」

 

マルセイユの質問に、頭を抱えて加東は力なく答えた。

 

「そんなのがあればとっくに放出してるわよ。きっとあの主計中尉の隠し財産、っていうか武器だと思う。航空隊の私達じゃ使わないものだとすると、戦車とかかもしれないわよ。どうすんのこんな隠し武器。出てきたところでなんて説明しろっての?」

 

処置は隊長に丸投げされたのである。

 

 

 

 

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ところが話は都合よく進んでいく。

 

夜が明けてから、ダメ元でトリポリにある扶桑陸軍駐屯基地に連絡を取って、ゴニョゴニョと調べて欲しい事があるんだけどと話をしてみると、そこで動けなくて油を売っている部隊がいることを知ったのだ。

ギリシアに上陸して地中海南方の守備に就く予定だった扶桑陸軍の補充陸戦ウィッチ部隊で、ガリア防衛軍の危機に際し途中でガリア南部のツーロンに行き先が変更になったが、地中海海上に現れた飛行型ネウロイに邪魔されて輸送船が損傷し、トリポリ港に退避していたのだ。船の修理が終わらないと出港できないとかで足留めされており、暇をもて余していたのだった。

 

 

 

 

暇潰し代わりに金子中尉の隠し財産、もとい、重要戦略物資の調査を依頼された扶桑陸軍ギリシア派遣戦車中隊、別名「知波単ウィッチ戦車隊」の面々は、リベリオン軍が各国軍にばらまいていたT968カーゴトラックを借り受けると、トリポリ港へ向かって移動した。

 

「いやあ西隊長、やること出来てよかったですねえ!」

「もうちょっと緊張しろぉ!私達はガリアの友軍を助けに行きたいのに、こんなところで足止めされてるんだぞ」

「でも隊長。かりにツーロンに上陸出来ても、武器がなんもねえです」

「そうそう。人員を先に送り込んで準備をさせ、陸上戦闘脚は私らの後の船団で運ぶという予定だったですからね。でも私らの後の船団は南シナ海で潜水型ネウロイにやられちゃって、今頃海の藻屑か香港の港で肥やしになってるっす」

「皇女殿下が言ったんだろ?全兵士知恵を出せって。武器が届かないなら現地調達だっていい。とくかくまずは戦場に向かわんことには」

「成る程、突撃ですね!」

「突撃あるのみ!」

「突撃の他に何が有りましょうぞ!」

「それにしても重要戦略物資ってなんですかねえ」

 

指示されたのは大型船が係留できるトリポリ港の埠頭から外れた、ボートや艀などの雑多船の船着き場である。重要戦略物資を積んでるような貨物船が接岸するところではない。

 

行ってみると、そこにはしかし、場違いな大きさの木造船が1隻ほったらかされていた。500トンくらいの船だ。傾いているところを見ると、着底しているのかもしれない。朽ち果てていく途上のボロ船という感じだった。

 

近寄ると、いっちょ前に管理してるらしき現地人が出てきた。

 

「え、えーと…や、やま?」

「カワ!」

「いぬ?」

「ネコ!」

 

事前に知らされた合言葉らしき文言。扶桑人なら小学生でもバレちゃいそうな単語だったが、リビア人には何の事か想像できない音でしかなかった。

 

「フソウグンジンダナ!ハイッテコイ!ヨクキタ!」

 

凄まじい訛りのブリタニア語だった。

 

「お、お邪魔しま~す」

 

警戒しながら後に続く少女達。

重々しい南京錠を解錠して、ゴバンっと埃を立てて開けられた船倉の木製の扉の奥には、沈没寸前の木造船には相応しくない、黒光りした近代的な金属の塊が山と積まれていた。

 

「何です?こりゃあ」

 

中に入った陸戦ウィッチ達はキョロキョロと見回しながら中に入った。

隊長の西が左の壁沿いの荷物に被さっているカバーをばさあっと捲り上げた。同時につもり積もった何年か分の埃が空中に撒き散らされた。

 

「げほごほ!」

「た、隊長!もっと考えてからなんかして下さい!」

 

扉の外から差し込む明かりが埃に反射し、中は何も見えなくなったが、暫くして落ち着いてくると、手拭いを口回りに当てていた西が、ついにその正体に気付いた。

 

「これはぁ……」

「ごほごほ!何です?重そうですね」

「チハだ」

「え?」

「扶桑陸軍の陸上中戦闘脚、チハだ!」

 

カバーを掛けられて立て掛けるように並ぶのは、ちょっと前の扶桑陸軍の主力陸上中戦闘脚九七式「チハ」。数は3小隊分の9脚有るようだった。いや、1輌はもっと小さい。九五式軽戦闘脚のようだ。

 

「福田、お前にちょうどいい大きさのもあるぞ。1脚は九五式だ」

 

メンバーの中で一番小さい、丸眼鏡を掛け左右に三つ網のお下げを垂らした少女が嬉しそうに返事した。

 

「本当でありますか?!」

 

彼女は体格が小さくて、今扶桑陸軍の主力戦闘脚になってきている四式中戦闘脚「チト」、五式中戦闘脚「チリ」では大きすぎて扱いきれずにいたのだ。

今度は反対側の壁に掛かっているカバーを開けてみた。すると陸戦ウィッチ用に作られた47mm戦車砲が出てきた。ということはここにある「チハ」は、改良型の「チハ改」だったのだ。

 

ちなみにとある並行世界での「チハ」は散々な評価の戦車だが、ネウロイと戦うため技術交流の盛んなこの世界では、見た目こそ同じだが各国の優秀な技術を得て開発されており、カールスラントの砲、ブリタニアの装甲にエンジンと、軽量にして高馬力による軽快な運動性を持った快速戦車、というのが「チハ改」の評判である。勿論戦闘脚もだ。

 

さらに下の船倉に降りてみれば、予備部品、砲弾、機関銃弾がゴッソリ。

ちょっとした革命騒ぎでも起こすには充分な分量が備わっていた。

 

「少し古いけど、どれも陸戦ウィッチが使う本物の戦闘脚だ。こいつの機動力を活かして上手く戦えば、一泡吹かせられる」

「突撃っすか?!」

「やっぱり突撃ですよね!」

「よーし華々しく散るのみ!」

「散ったらダメだって!」

「それにしても新品みたいだけど、いつから保管してたのか分からないけど、よく今までネウロイに見つからなかったね」

「ソノタメノモクゾウゼンダ!」

 

ネウロイは金属を好むので、鉄板でできた船は執拗に襲うが、木造船には興味を示さないのである。

リビア人の管理人は自慢げにバンバンと木製の壁を叩いた。するとバリッとその手が腐りかけていた壁板をぶち抜き、突き抜けて船外に飛び出た。

おー、差し込んできた日差しが眩しい。

その日差しに照らされたウィッチ達の顔は一様に唖然とした表情であった。

 

ヤバイ。この朽ち果て具合では明日にも沈没しかねない。早いところブツを取り出さないと。

 

全員がそう思った。

隊長の西は直ちに接収することに決めた。

 

「長い間管理ご苦労だった。本日をもって扶桑陸軍 知波単ウィッチ戦車隊が本件を引き継ぐ。アフリカ独立飛行中隊からの委任もこの通り受けている。君は引き上げてくれていい」

「リョウカイシタ!ジャア5ネンカンノカンリヒ、セイキュウスルゾネ!ウケトレ!」

 

請求書兼精算書と書かれた紙を突きつけられた。

 

「え?」

 

 

 

 

この西隊長率いるガルパン知波単ウィッチ戦車中隊は、リビア人管理人に支払いを済ませると、ロマーニャの貨物船をチャーターしてガリアのツーロンになんとか上陸。装備一式とともに現れた陸戦ウィッチ部隊を歓迎しないわけがない。その後彼女らはブリタニアの空挺師団の協力を得る。

そして坂本少佐率いる臨時の扶桑ウィッチ航空隊(宮藤、服部、黒田)に守られた扶桑海軍戦艦「大和」ライン川第2次遡上作戦に呼応して、ブリタニア空挺部隊が用意した輸送グライダーを使ってネウロイの後方に降下し、ガリア東部戦線を一気にひっくり返すのは、もうちょっと先の話し。

 

 




よっぽど余力ができたら詳しく書くか、誰か書いてください。(^^;


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