誤字修正しました。
配役までちゃんと把握されの報告感謝です。 >ブドウ糖さん
船団に肉薄していた潜水型ネウロイが撃沈させられた頃、笠戸の南にいたネウロイが魚雷を発射した。
○HK02船団 北東5.8Km海上の零式水偵
「ミミズク、こちらウミネコです。さっきの2隻のうち先頭のが魚雷2本を撃ちました。かさどのいたところに向かってます」
笠戸の
≪ウミネコ、ミミズクだ。その先も船団の船に当たる可能性はないか?≫
葉山の注意に天音は魚雷の行く先を見る。ボードの船の位置を最新に修正して応答した。
「当たりません」
≪よし。海防艦をネウロイに誘導せよ≫
「了解。ウミネコよりかさどへ。ネウロイの位置、かさどからの方向260、距離1506m、深度25m、速度6ノット」
○HK02船団 択捉型海防艦『笠戸』
笠戸では言われたところへ水中探信儀の音波を発射した。
「探知!言った通りのところにいます!」
笠戸の艦橋にいたもの達は皆目を丸くし、隣のものが同じく丸く目を見開いているのを見てさらにもう一回り目を大きくした。
魚雷を撃たれる前に面舵を切って変針していた笠戸の現在位置を正解に掴んでいるうえ、水中のネウロイの位置も1m単位で告げるほど手に取るように把握している。そのウミネコはどこいるのか。それを知らない笠戸の皆は、頼もしさよりある種の恐怖すら感じていることを共有していた。
だがその前にネウロイだ。直ちに攻撃準備をする。
「爆雷投下用意!」
○HK02船団 北東5.8Km海上の零式水偵
「ミミズク、こちらウミネコ。他のネウロイもいいですか?」
≪ウミネコ、ミミズクだ。他にもいるのか?≫
「1列目の船の北方5100mに3隻。水深40m、船団に向かって速度8ノットでやって来てます」
今度これに驚いたのは船団護衛司令部だ。船団が進んでいる前方に、まったく把握していなかったのがいるというのだ。ウミネコがいなかったら自ら敵に飛び込んでいこうとしていたことになる。
≪ウミネコへ、こちらHK船団旗艦香椎だ。発見しているネウロイを全て教えてくれ≫
天音はボードに書き込んだネウロイの位置を告げていく。
「HK船団きかんかしい、こちらはウミネコです。探知してますネウロイは、かさどの南東1500mの2隻、1列目の船の北5100mに3隻と、そのさらに北1000mに1隻、3列目西端の船の西4800mに3隻です」
○HK02船団 旗艦『香椎』
「北だけでなく西にもいるのか!」
大山司令は、船団を囲むようにネウロイがいたことに衝撃を受けた。船団はどう動こうがネウロイに捕まったのだ。それと同時にウミネコの捜索範囲の広さにも舌を巻いた。水中探信儀の探知距離を軽く超え、しかも正確。
「だが第2猟犬隊と山雲が追っていたネウロイが勘定に入ってない。船団の南南西にも少なくとも2隻いるはずなのだが、そちらには見えないか?」
≪確認できていません。ウミネコは船団東端から北東5.8キロにいるので、そっちは遠くて捜索圏外かもしれません≫
「北東5.8キロだあ?」
「そこからこのネウロイを全部見つけたというのか?!」
「笠戸への攻撃目標指示まで?!」
「司令、1万m先の水中目標を正確に捉えていることになります」
その圧倒的な捜索能力に大山司令は声が震えていた。
「これが水中探信ウィッチか……凄いな」
○上空5000m 428空2番機
≪指揮官機のミミズクへ、こちらは船団司令の大山だ。ネウロイから逃げる為船団を北へ向けたが、北にも待ち構えているんじゃ向かう意味はない。海南島へ戻ってしまうしな。よって船団は大陸の陸上航空機哨戒圏へ入るため西へ針路をとる。西の航路をクリアーにしてもらいたい≫
「大山司令、こちらミミズクです。了解しました、西の航路上のネウロイを排除します。428空1番および3番機、こちらミミズク。西方のネウロイを捕捉し護衛艦を誘導せよ。いけるか?」
428空1番機は428空の飛行隊長荒又少尉と磁気探知機操作員
≪ミミズク、こちら428空1番。任されたし≫
天音から大体の位置を聞いているのだ。そこまでしてもらって逃がすわけにはいかない。
「よし、西方のネウロイは任せた。HK02船団の護衛艦と協力して撃破せよ」
≪428空1番、3番、了解≫
≪旗艦香椎より第1猟犬隊へ。428空と連携し西方のネウロイに対処せよ≫
≪第1猟犬隊、了解≫
続いて葉山は、船団の南に残っている2隻の潜水型ネウロイへの対処を指示した。今最も船団に近い脅威で、最優先だ。
「ミミズクよりHK船団1番機」
≪こちらHK船団1番機、鹿島≫
「鹿島機には笠戸の援護をお願いする」
≪鹿島了解。笠戸を援護します≫
「ミミズクより、ウミネコ」
≪はい!こちらウミネコ≫
「ウミネコは笠戸と鹿島機を目標に誘導せよ。トビへ、そこの奴をとっとと片付けて、ウミネコ連れて移動し、船団南南西のネウロイを見つけてくれ」
≪あいさミミズク。トビ、了解!≫
≪ウミネコ了解≫
「ミミズクより、キョクアジサシ」
≪ミミズク、こちらキョクアジサシ!≫
「キョクアジサシは藤間艦隊の状況を確認せよ。周辺の哨戒も頼む」
≪キョクアジサシ、了解。藤間艦隊の状況確認、および周辺の哨戒に向かいます!≫
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笠戸に魚雷を撃ったネウロイはどうもおかしいと感じていた。
--魚雷が当たった気配もない。前方の船の集団に近付いていた仲間も急に気配が消えた。
--おかげで後ろにいる僚艦も攻撃目標を見失ってしまっている。
--コマンダーが状況を知りたいと言ってきた。
--浮上して見回す必要がある……
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○HK02船団 択捉型海防艦『笠戸』、
船団左列護衛艦、今は最も南の6列目にいた3隻の海防艦のうち、笠戸と御蔵が集まってきた。
≪かさど、こちらウミネコです。さっきかさどに魚雷を撃ったネウロイが浮上し始めました。後ろにいるのはそのままです≫
「ウミネコ、こちら笠戸。ネウロイ1隻が浮上し始めた、了解。こちらでも確認する」
笠戸は探信音波を発信し、ネウロイを捉えなおした。いままで1隻しか見えなかった敵が、細胞が分かれるように2つへと変わった。
「ウミネコが言った通りです。今までの深度に留まっているものと、浮上中のとに分かれました」
「たまげたな、ウミネコは完璧だ。面舵、左舷砲撃戦!浮上したところを狙うぞ!」
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浮上したネウロイは瘤状のところだけを水面に出した。赤い目を光らせ、ぐるりと周囲を見渡す。
--さっき狙ったはずの船は横から迫ってきている。いつの間に避けていたのか。
--船の塊は北の方にまだいる。
--大型船は……あそこだ…
そこまで見渡したところでガツンと大きな衝撃を受けて、目が潰れた。砲弾の直撃を受けたのだ。
ネウロイはすぐさま潜航する。
--撃ってきたのは接近中の船だろう。頭をそちらへ向け魚雷を……。
だがネウロイにそのチャンスはなかった。
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○HK02船団 択捉型海防艦『笠戸』
笠戸の艦長にネウロイが浮上したことを教えてきたのは、笠戸の水測員や電探員ではなく、見張りでもなく、天音だった。
≪かさど、こちらウミネコです。ネウロイ浮上してます。方位185、距離1474m。体のほとんどは水の中なので水面ぎりぎりにいると思われます≫
「浮上しているらしいぞ!見張り、射撃指揮所、見えるか!」
答えはすぐ返ってこなかった。波間に隠れてしまって見えないのだ。
「砲術長、ウミネコが言ったところを撃ってみろ」
「わ、わかりました」
笠戸が前部1基と後部2基の12cm単装砲を天音が指示するところへ向けて発射した。
水面に僅かに瘤の部分だけを出したネウロイは波間に隠れて見にくく、電探でも波頭と区別つかない。笠戸の見張り員が目視でそれを視認したのは発射した後だった。
「いた!本当にいた!」
そう叫んだとたん主砲弾が命中し、破片が舞った。
「第1斉射命中!!」
水柱が落ちるともうネウロイの姿はなかった。すぐさま潜航したのだ。
「見えなくなりました!」
だが上空からはその黒い船体が丸見えだ。
○『笠戸』南方1300m上空 鹿島少尉機
「鹿島です。ばっちり見えてます!」
上空にやってきた鹿島少尉の零式水偵脚が降下する。翼下の爆弾に魔法力が込められ青白く輝いた。
「投下!」
2発の3番2号爆弾が水面下に見える黒い船体に吸い込まれるように落ちていった。
グァーンという大音響と爆発が水面直下のネウロイを襲い、一瞬にしてカッと真っ白に輝くと、吹き上がる水しぶきと共に、結晶化したネウロイの体が四散した。
○HK02船団 択捉型海防艦『笠戸』
「やったぞ!鹿島少尉、見事轟沈だ!」
「もう1隻も仕留めるぞ!」
だが水測員はネウロイの反応を失っていた。
「こちら水測。もう1隻のネウロイが急にいなくなりました。探信音波の反響がありません」
「何だと?!ウミネコ、こちら笠戸。もう1隻のネウロイを見失った。そちらでは捉えているか」
≪こちらウミネコ。爆発の直後に、まるで魚が逃げるように急に動きました。今深度40m、方位かさどから130、距離1515m。まだ潜っています≫
「彼女には見えてるようです」
「凄い。視野の広さが全く違う」
○HK02船団
≪笠戸、こちらミミズク。ヘッジホッグ搭載艦はいるか?≫
≪こちら笠戸。御蔵がヘッジホッグ1基を搭載している≫
≪ミミズク、了解。潜航中のネウロイにはヘッジホッグがいいかもしれない。御蔵は発射可能か?≫
「俺達の出番が来そうだぞ!」
笠戸と鹿島少尉機が目の前で戦果を挙げただけに、次は我だと御蔵の艦橋は沸き立った。
「ミミズク、こちら御蔵。ヘッジホッグいつでも発射可能!」
≪ミミズク了解した。ウミネコへ。御蔵をネウロイへ誘導せよ≫
≪ウミネコ了解。みくら、こちらウミネコ。どこにいるのがみくらでしょう?≫
「ウミネコ、こちら御蔵。本艦は笠戸の西隣600mにいる」
≪あ、これか。ウミネコ了解。ネウロイの位置、みくらから方位108、距離2050m、速度10ノット。深度は50mでまだ潜ってます≫
「瞬時に俺らも識別したぞ」
「電探も持ってるのか?海上水中とも見切っているぞ」
「取舵30度、両舷最大戦速!」
「ネウロイを後ろから追撃する形のようです」
「追いかけろ!発射点を計算!」
御蔵は20ノットに速度を上げネウロイを追いかけた。
ネウロイは10ノットで逃げているというので相対速度は10ノット。追い付くのに10分もかからない。だが速度を上げたので水中聴音機、水中探信儀とも精度は落ちてしまっていた。
「ウミネコ、こちら御蔵。ネウロイの深度は?」
≪75m。まだ潜ってます≫
「90mを目標深度にしよう」
「わかりました」
ヘッジホッグは従来の爆雷と違い、当たると爆発するという仕様なので深度調整の必要はない。だが敵も止まっているわけではないので、敵のいる深さまで爆雷が沈降する間に敵も移動することを考えると、目標深度とそれに合わせた弾着点が自ずと決まってくる。ヘッジホッグの沈降速度は毎秒約7mなので、90mだと到達までおよそ13秒弱。相対速度10ノットならその間にネウロイは65mは進む。
「ウミネコ、本艦とネウロイの距離が100mになったら教えてくれ」
「射程160mに調整!」
「ヘッジホッグ発射用意!」
ブリタニア生まれのこの対潜兵器は、四角いケースに24発の小型対潜弾を斜め上に向けて収めたものだ。横4発、それが縦に6列。各弾は微妙に角度をずらして配置されている。
≪みくらへ、110mまで接近しました≫
「こちら水測。こちらも捉えています」
艦橋にいるものはみんな前方の海面を見つめていた。水上からはまったく伺い知れない。だがこの下に奴はいるのだ。
≪距離105m。深度88mです≫
「これを6Km以上向こうから指示してると思うと、潜水艦には乗りたくねえな」
前方の海面を見つめたまま艦長が呟いた。
「同感です」
≪今、100mです!≫
天音の一際力のこもった声が届いた。
一呼吸置いて水雷長が発射を指示した。
「ヘッジホッグ発射!」
「ヘッジホッグ発射ーっ!」
命令とともに小型対潜弾がダダダダダと0.2秒間隔で2発ずつ次々と空中へ撃ち出された。それらは空中で直径約40mの楕円形をなして飛んでいった。微妙に角度がずれて装弾されているのはこの楕円を描くためだ。まるでカウボーイの投げ縄のごとく、対潜弾が目標を包囲するのである。
160m先に着水した対潜弾は、楕円形を維持したまま沈んでいった。
そしてその24発の対潜弾の輪の一角がネウロイの後部を捉えた。
捉えたといってもネウロイの体に当たるのはせいぜい1発である。小型対潜弾は1発29Kg。炸薬量は14Kg弱しかなく、ドラム缶型の2式爆雷1発の7分の1でしかない。1発の威力はタカが知れている。
だがヘッジホッグは1発でも爆発すると、その衝撃波によって他の爆雷の信管も起爆し、24発全てが爆発するようになっている。直径40mの楕円形の範囲が全て危害範囲となるのだ。
着弾した1発に加え、次々に爆発する残り23発の爆圧によって、ネウロイの半身にヒビが入った。
次々に崩壊し結晶を振り撒きながらネウロイは急速に浮上し、そして海面に飛び出てきた。
既に背中前方の瘤の部分もボロボロになりつつあり、隙間から赤いコアの光が漏れている。
「前方ネウロイ浮上!」
「全艦射撃開始!」
御蔵は備砲の12cm単装砲と12cm連装高角砲をコア目がけて次々と発射した。笠戸も3基の12cm単装砲を撃ち込んでくる。瞬く間に脆くなった装甲が吹き飛ばされ、コアが撃ち抜かれる。ネウロイは光るように真っ白な結晶となって崩壊した。
「やった!!」
「やったぞ!!」
2隻の海防艦の上空を飛んでいた鹿島少尉はふうっと一息ついた。
「ぜんぜん危なげなかったですね。12航戦が来たとたんに状況が一変しましたわ」
前回に続きこれで3隻を仕留めました。
天音ちゃんはまだ攻撃手段を持ってないので見つけて場所を教えることしかできませんが、相手が丸見えというのは十分に武器ですね。