水音の乙女   作:RightWorld

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第52話「天音、キレる」

やっとのこと戻ってきた卜部機が神川丸の後部甲板に引き上げられ、大勢が見守る中、天音達がコックピットから降りてきた。

艦首の方のデリックで引き揚げられた優奈がタオルを持って駆け付けてきた。

 

「天音!無事だった?!」

「うん、大丈夫。・・・へくちっ!」

「びしょ濡れで体冷えちゃってるじゃない!魔法力で体温維持した?すぐお風呂入んなきゃ!」

「ちゃんと維持したよ。銚子の海ほどじゃないけど、この辺りもまだ冷たいね。・・へっくち!」

 

こしこしとタオルで頭を拭いていると軍医がやってきたが、水偵の横に立ってくしゃみしてるのを見て、

 

「なんだ元気そのものじゃないか。横たわって人工呼吸でもしてる状態だったら私を呼んでくれ。風呂入ってとっとと寝ちまいなさい」

 

と引き揚げていってしまった。神川丸の軍医殿の診察を受けるには高いハードルがあるようだ。

ははは・・と困った緩い笑いを浮かべた天音と優奈と卜部。

すると黒だかりの群衆の後ろでバシンと殴られる音と、ごろんと人が倒れる音がした。その音に驚いて音のした方に見入ると、群集が掻き分けられて2人の整備兵が前に出てきた。2人のうち古参の方の整備兵が深々と頭を下げた。

 

「申し訳ありません、一崎一飛曹!整備が至らないばかりにこのようなことになってしまって。貴様も頭を下げい!」

 

そう言って、連れてきたもう一人の若い整備兵の頭をぐいっと押し下げた。その若い兵はあの一宮という少年兵だった。

 

「でも俺、ちゃんと締め直したんだ・・」

「言い訳すんじゃねえ!」

 

頭を押し下げていた手が、そのまま少年兵を床まで叩き付けた。

 

「じゃなきゃなぜ一崎一飛曹が海に落ちるんだ!もしなんかあったら、貴様が腹を切ったくらいじゃ済まねえ!」

「わあ!乱暴はやめてください」

「しかしハンパな整備のせいでネウロイを取り逃がすことになったうえ、一崎一飛曹は溺れかけたんだ。貴様、この人がどれほど貴重なウィッチか分ってんのか?!貴様の代わりなんざいくらでもつくが、一崎一飛曹の代わりの人なんていないんだぞ!」

 

古参の兵は床にへばりついている少年兵を足で小突いた。

たまらず天音は二人の間に割って入って叫んだ。

 

「やめてって言ってるでしょ!」

 

そして膝をつくと少年兵を抱き起こした。

顔が青く腫れてきていた。さっき後ろの方で張り倒されたときのだろう。

 

「ひどい、こんなになるまで・・」

「死にかけた一崎一飛曹に比べりゃそれくらいなんてこと・・・」

「だからって、無傷の人を傷つける必要はないでしょ!!」

 

古参整備兵の言葉を遮って天音が物凄い声で怒鳴りつけた。その声に甲板にいた兵士皆が凍りついた。古参兵を睨み返すその顔は怒って真っ赤だ。

 

「戦い以外で傷つくなんて、無駄もいいとこだわ!!」

 

古参兵もその迫力に圧倒されてしまった。乗艦してすぐの挨拶の時や、訓練や食堂などでちょこっと話をしたことのある人には、ちょっと恥ずかしがりやで控え目で温厚な人、という印象を与えていただけに、その火のような剣幕には皆度肝を抜かれた。

しばらく古参兵を睨みつけた後、うつむいている少年兵に向いた。

 

「あなたが締めてくれた取っ手は確かにしっかり付いてた。取れたのは飛行機の胴体の板の方。取っ手がくっついってる根元から剥がれるように取れたの」

 

零式水偵の翼の上で外装が剥がれたところを調べていた勝田が破損状態を見て言った。

 

「機上訓練始めてからほぼ毎日、1日に何度も天音が昇り降りしてたからね。こりゃ金属疲労がたまったんじゃない?」

 

ぶらぶらしていた残りの取っ手がついていた外装も、少し力を入れて引っ張るとべりっと取れてしまった。甲板の上にがしゃーんと軽い音を立てて落ちる薄いジュラルミンの板。

「もうちょっと広い範囲まで見るべきだったね」

 

そう言って、すとっと勝田は甲板に飛び降りる。卜部が落ちた外装を拾い上げて裏表ひっくり返し、しげしげと見た。

 

「飛行に関係のあるところじゃなくてよかった。さっきのネウロイが戻ってくる可能性もあるから、急いで修理頼む」

 

他の整備兵達が「はっ!」と返事をした。そして天音から一宮少年兵を引き取ると連れて行った。

 

「もうそれ以上暴力ふるっちゃダメ!ですよ!」

「わ、わかりました~」

 

それぞれの持ち場に戻っていく整備兵達が天音の方を振り返り、へこへこと頭を下げる。それを後ろから見守る天音に、卜部が近寄って頭をぽんぽんと叩いた。

 

「一崎、意外とおっかねえんだな」

「そういえばキレさせると怖いって、天音の小学校時代の友達が言ってた」

 

優奈も傍に寄って相づちを打つ。

 

「へくちん!」

「そうだ、早くお風呂!」

 

 

 

 

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その日の夕方。

 

12航戦はやや荒れてきた海を18ノットで切り裂き、順調に南シナ海を南下していた。

 

その後ネウロイも現れず、哨戒は428空が交代で行って、先ほど最後の哨戒機を収容したところだった。

神川丸の後部甲板では天幕を張って中で明かりが灯され、先ほど収容した零式水偵の整備とともに、修理が終わった卜部の零式水偵のチェックが行われていた。

 

「綺麗に直ったね」

 

翼の上に卜部と天音が乗っかって修理箇所を確認している。天音は両手で取っ手に掴まって体重をかけ、ぐいっと引っ張ってみた。

 

「あれ?」

 

一瞬止まった天音の頭から耳が、お尻から尻尾が生えた。取っ手を持つ手が青白く発光する。そしてピーンと弾くような高い音とともに掴んでいる取っ手の所から零式水偵全体に青い波紋が走った。

 

「うわ、何だ?」

 

卜部と整備兵がびっくりしてのけぞった。

機体全体を撫でる青い波紋が通り過ぎ、光が収まると、天音が少し微笑して小さな声で呟いた。

 

「取っ手の裏っ側に棒が入ってる・・。飛行機の骨組みと繋がってるわ」

 

整備兵が驚いた。

 

「え?一崎一飛曹、分かるんですか?!」

「ネウロイの中まで見透かす能力だもんな。ってか一崎、もう水中探信の範囲越えてる」

「魔法波の応用ですよ。卜部さんも練習します?」

「あたしにゃ現役の時から魔法の波を発射する能力すりゃ無かったって」

「これが水音の乙女なんですね。凄いもの見せていただきました。おっしゃる通りアルミの補強フレームを追加し、それに取っ手を取り付けました。前は外装を取り付ける薄い補助板と機体フレームとに密着させて固定してましたが、今度の補強フレームは機体のフレームとガッチリ繋いで付いてるんで、外板は剥がれても取っ手は残るはずです」

「わあ、ありがとうございます」

「ボーズが設計して取り付けたんですよ」

「ほんとう?ありがとう」

 

ボーズこと一宮少年兵は翼の下にいた。天音は首を伸ばして一宮に礼を言ったが、一宮は帽子を深く被り直して表情を見せなかった。頬には大きなガーゼを当てている。昼に殴られたところだ。

 

「フレームが入った分、少し重量が増えてます。バランス取るため反対側にバラストを入れましたが、操縦に影響ないかが心配です」

「明日飛んで確かめよう。でも勝田がおやつにこっそり機内に持ち込む果物の缶詰の方がよっぽどバランス悪くしてると思うよ」

「あー、もう分けてあげないんだから」

 

後部座席でごそごそやっていた勝田が首だけ出して言った。どうやらそのおやつをどこかに隠している最中らしい。

 

「よーし。オーケーだ。ご苦労さん」

「はっ!確認ありがとうございます卜部少尉。1班、片付けに入れ!」

 

卜部機を担当していた整備兵達が周りにある工具やウエスなどを拾い上げ片付けを始めた。

 

「行くか、一崎」

「あ、お先どうぞ。わたしちょっと海風に吹かれていきます」

「そうか。また落ちないでくれよ?」

「手摺が外れない限り大丈夫ですよ」

「あー・・、掴まる前によく手摺ゆすってみろよ?」

「はあい」

「勝田ー」

「私、もうちょっと」

「何やってんだ、あいつは」

 

肩をすぼませて呆れたふうにすると、卜部は艦内に入っていった。

天音は空っぽの台車に座り、点検や片付けをしている様子を見たり、真っ暗な海を眺めたり。

 

 

 

 

暫くして、片付けの終わった整備兵達は休憩に入ったようだった。あの少年兵はデリックの支柱の下で支柱にもたれかけるように座り込んだ。

天音はひょいっと台車から飛び降りると、少年兵に歩み寄った。

 

傍に近寄って腰を折ると、帽子の下の顔を覗き込んだ。

 

「ほっぺた、大丈夫だった?」

「うわっ!!」

 

ものすごく驚く少年兵。目線の高さを同じくして覗き込んできたウィッチに目を丸くしたが、ガーゼを張ってない反対側の頬がみるみる真っ赤になっていって、慌てて飛び退いた。

 

「いきなり寄るなって言っただろっ!」

「ごめんなさい。でも何で?」

「・・・ウィッチとは必要以上に近付いちゃいけないって、新兵教育で」

「そうなの?何で?一緒にいても別に変な病気うつったり体に影響が出たりなんてしないよ?たまに言われるけどあれ全部迷信だから」

「そ、そんなんじゃねえよ。・・・きっと、たぶん・・女だから、じゃねえか?」

「なにそれ。女性差別はもっといけないよ?」

「し、知らねえよ。学校だって中等教育過程に上がると男女別々になるじゃんか」

「あれ変だよね。わたし地元では漁船でよく漁に連れていかれるけど、そこではいつも家の手伝いで来てる同学年の男の子達と一緒だよ?」

「か、体だって変わってくるし・・」

「体?そうねえ、男の子達ふんどし一丁だから、逞しくなってくのはよくわかるかしらね」

「お!お前そんなの見てんのか!」

「優奈にこの話すると『やだあ!』って言われるけど、わたしは昔からそういうところにいたから、あんまり抵抗なくて・・。変?」

「変だ」

「ええ~?!」

 

思いっきり変人扱いされて困惑反応した天音だが、少年兵はもう相手にしないとばかりに目を逸らした。無視された感の天音は少しぷくっと膨れる。

ぷーっとした顔のまま暫く一宮を睨み付けていたが、少しして、天音は膨れっ面のまま、ちょっとぶっきらぼうに一宮に言った。

 

「飛行機直してくれてありがと」

「そんなん、・・それが仕事だし」

「凄いと思う。同級生のコなんて模型飛行機だってやっとこさ作ってるのに」

「・・あれだって、付け方は考えはしたけど、実際取り付けるのは随分先輩達の手を借りたんだ」

 

天音は俯く一宮の顔をまた下から覗きこんだ。

 

「な、なんだよ」

「えっと、一宮くん・・だったよね?」

「そうだけど・・」

「いまいくつ?たぶん同じくらいの歳だよね?」

「・・14」

「あ、一っこ上かあ。わたしは13」

「それが、何だよ」

「やっぱ凄いと思う」

 

天音は急に立ち上がった。

 

「わたしと変わんない歳で飛行機直せるなんて凄い!と思う」

 

呆気にとられた一宮だが、ふうと溜め息をつくと冷めた声で言った。

 

「それでアンタ、何しに来たんだ」

「あ!そう、ほっぺた。怪我大丈夫だった?凄い腫れてたよ?」

「あんなん何でもねえ。2、3日ありゃ治る」

「そうなんだ。強いんだね」

「・・・ウィッチって夜は暇なのか?」

「ん?」

「2等兵に構ってられるほど暇なのか?」

「?。一宮くんは2等兵なの?ってそれがどれくらいか知らないけど」

「はあ?一番下っぱだよ。下士官なのに何でそんなのも知らねえんだ?」

「だってまだ軍隊入ってひと月弱だし、その間も潜水艦の見付け方の研究ばっかりで、軍隊の知識は全然ないんだもん」

 

はあーっとまた溜め息をついた。

 

「何だそれ。それに俺、アンタらとこんな軽々しく話せる身分じゃないんだけど」

「身分じゃないって、下っぱって言うんだったら、わたしだって入ったばっかりのウィッチじゃぺーぺーだよ?」

「何言ってんだ。俺より遥か上の上官じゃねえか」

「そうなの?どれくらい?2コくらい?」

「マジで言ってんの?一飛曹だから・・5個上だ。俺が2回戦死して、毎回2階級特進しても届かねえ」

「ええ?!なにそれ、なんで?!」

「ウィッチだからだろ」

「ウィッチって、そんなに偉いの?」

「特にアンタなんか、世界で一人の能力保持者なんだろ?すぐもっと偉くなるんじゃねえの?」

「まさか。偉くなったって、わたしの上の階級って、千里さんはともかく、勝田さん、卜部さん・・・」

 

自分の上の人達を思い浮かべるが、

 

「ぜんぜん大したことないよ」

 

キッパリと言い切った。

下士官室でお茶を飲んでいたウィッチと元ウィッチが一斉にくしゃみをした。

 

「とにかく、周りに見られたらまた問題になる。怪我は大したことねえし、構わねえでくれ」

 

天音は少しがっかりして肩を落とした。

 

「休憩中もだめなの?」

「休憩ったってまだ勤務中だ。それにウィッチとの接触は必要最低限だって、さっき言ったろ」

「神川丸でも?」

「少なくとも大田上水(上等水兵)、あの古参の整備兵だけど、あの人にはそう言われてる」

「つまんない。後で艦長に聞いてみよう」

「な!か、艦長?!」

 

少年兵すさまじく狼狽える。最下層の2等兵から見たらトップの艦長は接点が全く思い浮かばない雲の上の人だ。

 

「事を荒げるだけだ、止めてくれ!それに・・・」

 

一宮は下を向いた。

 

「俺の心配なんてしてるだけ時間の無駄だ。俺なんかいなくたって世界は回るんだよ。大田上水が言ったように、アンタと違って俺の代わりなんか誰でも務められる」

 

天音はまたしゃがんだ 。

 

「・・・そんなこと言わないでほしいな。・・確かにわたしは世界に一人だよ。でも水中を見る固有魔法を持つ人はきっとまだ見つかってないだけだと思う。それに」

 

天音は一宮の顔を隠している帽子を持ち上げた。

 

「わたしだけじゃなくて、一宮くんも世界に一人しかいない。人の価値はそんな簡単に査定できるものじゃないよ」

 

一宮は慌てて一歩引いた。

 

「わたしは4年前からこの固有魔法を持ってるウィッチだってことは海軍さんにも知られてた。でもふた月前までは見向きもされなかったんだよ?ストライカーユニットだって、今でも使えないし」

 

天音は両手を広げて続けた。

 

「それが、変なきっかけ一つで、お前が行かなかったら扶桑が滅びるって言われるんだよ?1日にして変わっちゃうんだよ?」

 

一宮は目線は逸らしていたが、天音の言葉は一つ一つ逃がさず聞いていた。自分とは真逆の立場。自分がいきなりそんなこと言われたらどうなる?そんな期待、重圧に堪えられるか?

 

「だからあの整備のおじさんが言ったような、あなたの代わりなんかいくらでもつくなんてこと聞くと、頭にきちゃう。どんな人にだって可能性があるんだよ」

 

可能性ったって、ウィッチと俺じゃ出来ることに月とすっぽんの差があるじゃんか。

 

「卜部さんに聞いたけど、一宮くんのお父さんの整備した機体は全然違うんだって。ネジひとつ絞めただけでも変わるんだって。一宮くんはその血を引いているんだ」

 

天音は一宮にまたずいっと近寄った。

 

「一宮くんも世界に一人しかいない。一宮くんじゃなけりゃいけない価値が絶対あるの」

 

ふと視界の外が気になって天音は空を仰ぎ見た。物凄い沢山の星が瞬いていた。

 

「それが言いたくて来たんだ」

 

天音は空を見上げたまま立ち上がった。

 

「星が綺麗」

 

艦尾から艦首の方へゆっくりと首を回す。知っている星座が見つけられないほど無数の星が散りばめられ、輝き、あれが一つ一つ太陽のような恒星で、自分達の太陽もその一つに過ぎないと思うと、自分はいったい今何処にいるんだろうと不思議に思えた。

 

「わたしにもそのうちストライカーユニットが届くときが来る。わたし少し特殊らしいから、特注品になりそうなんだけど・・」

 

頬を少し染めた笑顔を一宮に見せた。

 

「その時は一宮くん、・・整備お願いしたいから、腕磨いといてね」

 

バイバイと小さく手を振って天音は艦内に入るハッチへ向かって走っていった。

感じたことのない胸の疼きに、胸を鷲掴みにした一宮少年は、茹で蛸のようになった顔を空へ向けた。天空は内地では見たことがないほどの星に埋め尽くされていた。

 

 

・・・埃がついた窓みてぇだ。雑巾で拭きてえ!

 

 

 

 

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HK02船団は香港を出港した直後からネウロイの接触を受けていた。

哨戒機が飛ぶ度にネウロイが見つかる。その数は時間を追う毎に増えていった。ただ幸いなことに、発見されるのは船団から50キロから100キロ以上離れたところで、まだ船団が直接の攻撃を受けるには遠すぎる。ネウロイはいずれも浮上航行しているところを発見されており、哨戒機が近付くと潜航してしまう。その付近に爆弾を投下した機もいるが、戦果は不明である。そしてほとんどのケースで発見されたネウロイの周囲の海の色が明るい青い絵の具を溶かしたような色をしていたという。暫くすると拡散してしまって分からなくなる。

 

護衛艦隊司令の大山少将は旗艦の軽巡 香椎 の艦橋で、淹れてもらったばかりのコーヒーを飲んでいた。

 

「旨い」

「インドシナ産です。随分前の補給品ですから、今回の輸送作戦でシンガポールに着ければ、真新しいもっと香り高いのが飲めますよ」

「シンガポールか。まだまだ遠いな」

「しかし潜水型ネウロイは早期発見できており、船団に近寄れないでいるではないですか。まさに沿岸航空隊による航空支援の成果です」

「そうだな。間もなく夜間チームか?」

「はい。海南島海口基地の二式大艇による夜間哨戒部隊です。水上捜索用電探のお陰で夜でも航空哨戒できるようになるなんて、科学の発展は凄いものですな」

「船団直掩機は?」

 

別の当直士官が答えた。

 

「それがまだ連絡が取れません。それだけでなく海南島の三亜基地、海口基地とも連絡がつかなくて。どうも電波状態が悪いようです」

「こんな時に・・」

「対空電探でも探してみたまえ。それと直掩機がいない分、各艦は対水上電探、ソナーでの周囲警戒を怠らないように」

「対空電探に感あり。西南西120キロ、機影1と思われます」

「ようやく直掩機がきたか。無電で敵味方識別を」

「了解」

 

扶桑の艦船ではリベリオンの艦載レーダーの技術供与を受けて、国産製品を改良したものを搭載していた。香椎の対空電探はリベリオンの対空用SKレーダーとほぼ同性能だ。

 

 

 

暫くは皆コーヒーを飲んでゆったりしていたが、通信員の続報に艦橋は緊張の色に変わった。

 

「先程の航空機、応答ありません」

「何?!」

「現在艦隊の西南西110キロ。高度600m。速度100ノット。本艦隊に向かってきます」

「司令」

「対空戦闘用意」

 

艦橋がざわめいた。

 

「対空戦闘用意!」

「対空戦闘用意!各艦に伝達!」

「対空戦闘用ー意!」

 

 

 




天音ちゃんを怒らせたのはネウロイではなく人間でございました。

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