水音の乙女   作:RightWorld

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2020/4/27 脱字修正しました。
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2021/9/4 誤字修正しました。
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第50話「ネウロイ初探知」

 

翌1月8日。朝日を浴びて眩しい台湾海峡。

 

波間で大きく揺れる零式水偵を中心に、青白い探信魔法波の波紋が絶え間なく広がっている。

その水上機のフロートの上に座って尻尾を水中に垂らし、朝のお弁当にと配られた巻き寿司をパクついているのは水音の乙女、一崎天音。

 

「近辺に怪しいものはいません。1キロ南に鰹の群」

「神川丸、こちらK2。敵影なし。鰹の群1つ。いじょー」

 

天音の探知結果を伝える勝田も、通信を終えると巻き寿司をかぷっと咥えた。神川丸の巻き寿司もまたおにぎり同様にでかい。まるで恵方巻の太巻きのようであった。

 

・・(こちら葉山、了解。そのまま警戒を続けてくれ)・・

 

12航戦の全艦は急きょ艦長会議を行うため、神川丸の周囲に小さくかたまって集結し、洋上に停止していた。その危険な間の警戒のため、天音の乗る卜部機は艦隊から少し離れたところに着水し、水中に目を光らせている。さらに遠く外周を428空の零式水偵2機が哨戒飛行し、上空では直掩の428空の零式水観が1機巡回飛行していた。

 

第22駆逐隊とアルトマルクはそれぞれ内火艇を下ろして艦長達を神川丸に送り届けたところで、艦長達は会議室に通されていた。

最後にやってきたアルトマルクの船長は室内のメンバーを見渡して「こんな華やかな艦長会議は初めてだ」と思った。それもそのはず。22駆の艦長はなんと全員20代半ばの背の低い女性ばかりで、しかも元ウィッチときている。

 

「アルトマルク船長、エルンスト・ヴィッケルトです」

「駆逐艦皐月(さつき)艦長、飯野五月女(さつき)少佐だ。よろしくな!」

 

漢字は違うが、艦と同じ5月を意味する名を冠した飯野艦長は、扶桑人というよりヴィッケルト船長の出身国カールスラントにいそうな金色の髪と瞳の色をしている。とても活発な印象の人だ。

 

「駆逐艦長月(ながつき)艦長、高山穂長(ほなが)少佐だ。よろしく」

 

こちらも扶桑人というより、どこの人だ?と思うような緑色のロングヘアーをたなびかせ、飯野艦長以上に勝気な目をしている。その(まなこ)も緑色だ。

 

「あたし駆逐艦文月(ふみづき)艦長の長倉秋初(あきは)って言うの。よろしくぅ~。あ、少佐で~す」

 

一転しておっとり、ゆっくりとした舌っ足らずなしゃべり口と雰囲気の長倉艦長。茶髪の長髪を頭の上でポニーテールにしている。これで少佐なんて名乗っていいんだろうか。

 

「駆逐艦水無月(みなづき)艦長、磯部あやめ大尉です。よろしくお願いします!」

 

はきはきとしたしゃべり方は4名の中で一番常識人そうだが、この人も何人か分からない青い髪の色と瞳をしている。ショートヘアだが右側の一塊だけ肩まで届くくらい長く伸ばしていた。

 

文月の長倉艦長はまだ許せるとして、他の3人の髪や瞳が妙な色なのは、ウィッチとして発現したからで、いまだ魔法力が抜けきってないからだそうだ。いつか完全に魔力を失ったとき、元の黒髪に戻るだろうと言われている。

それよりもっと妙なのは、4人とも20代半ばと紹介されたがどう見ても10台半ばか、それ以下でも通用しそうなほど幼く見えることだろう。欧州でも扶桑人は実年齢より若く見えるとよく聞いてはいたが、これは常識の範囲を超えている。なおこれについての説明はなかった。

 

メンバーが揃ったところで、至って扶桑の男らしく見える有間大佐がさっそく会議を始めた。

 

「神川丸艦長、有間大佐だ。みんな朝早くからご苦労。昨夜伝えた通り、香港のHK02船団は出港したそうだ。ガリア守備の扶桑陸軍部隊が突破されて、ガリア防衛線の一部が崩壊しかねない状態らしい。皇女殿下が直ちに全軍あげて救援するよう御聖断を下し、香港に足止めされていた船団にも出港命令を出したのだ。だからHK02は扶桑の船だけで構成されている。」

 

皐月の飯野艦長が手を挙げた。

 

「ボクたちが到着するまでの1日、2日も待てないほどってことですか?」

「俺らが香港入りして補給済ませてからだと、南シナ海南方の天候悪化にかち合って、かえって運航が遅れるらしい」

「天候かぁ・・」

 

長月の高山艦長が目をさらに吊り上げた。

 

「しかし嵐は避けられても、ネウロイは避けられないんじゃないのか?」

「そうだ。だから我々はなんとかして船団に追いつきたい」

 

幼稚園児が会話に入ってきたようなのは文月の長倉艦長。

 

「すぴーどを上げて真っ直ぐ向かえば、ひとまず船団に追い付くのはできるんじゃないでしょう~か?追い付くだけならですけど?」

 

水無月の磯部艦長と再び高山艦長。

 

「だけどその後が問題ですよ。シンガポールに着く前に、特に駆逐艦の燃料がもたないでしょう。最後まで護衛できません」

「ネウロイが現れれば戦闘速度で駆け回るだろうからよけいだ。そのための香港での給油だったはずだ」

 

そこで有間大佐はニヤリと笑った。

 

「そこでだ。船団との合流直前に燃料補給ができれば、問題は解決できる」

「そうだけど~、どうやって?ガソリンスタンドとかあったっけ?」

「あるんだなそれが。そのためにヴィッケルト船長に来てもらったのだ」

「成る程、そういうことですか」

 

ヴィッケルト船長はここにいる訳を理解して頷いた。

 

「アルトマルクは補給船だったんでしょう?洋上補給は可能ですかね」

 

話を向けられたヴィッケルト船長は微笑さえ浮かべて即答した。

 

「お手のものです」

 

一同がおおっと声をあげた。

 

「左右に1隻ずつ、同時に2艦に補給できます」

 

「おぉ、そいつはいいな」

「いい感じぃ~!」

 

長月の高山艦長と文月の長倉艦長が手を叩く。

 

「アルトマルクの最大速度は?」

「20ノットです」

「流石特殊任務に抜擢された船だな。神川丸とほぼ同じだ。それなら遠慮なく艦隊速度を上げられる。航海長、航路計算してくれ。最適な補給地点と、船団との推定ランデブーポイントがいつ、どの辺になるか」

「了解しました」

「よし。計算は本艦がやる。12航戦は暫定針路を海南島へ取り、艦隊速度を18ノットにあげる。さっそく船団を追うぞ」

「「「「了解」」」」

 

 

 

 

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艦長達がそれぞれの艦に戻り、外周を哨戒飛行していた零式水偵も戻ってきた。

 

・・(葉山よりトビへ。警戒を解き帰艦せよ)・・

 

「こちらトビ、了解。水中警戒を解き、帰艦する」

「天音ー、お疲れー。終了だって。戻るよー」

「はーい」

 

天音は尻尾を引き上げる前にもう一度広域探査をした。

 

「よし、異常な・・・・・?」

 

最後に返ってきた反射波。それには遠くの水面上の何かを捉えていた。船?鯨?

 

「指向性探査モード・・」

 

全周囲に広がっていた魔導波の波紋が収束し、一方向に向かってだけ青白い波が延びていく。機上の卜部もそれに気付いた。いつぞやかの演習の時見たのと同じだ。

 

「何か、見つけたな」

 

目を閉じて集中する天音を邪魔しないようまずは見守る。

青白かった魔導波の色が薄くなった。いや薄くなったというより青が濃くなって海の色に溶け込んできたというべきか。

 

「続いて内部検査モード」

 

魔導波の色が変わったのは探査方法の種類を変えたからのようだ。しばらく眠っているかのように目を閉じてじっとフロートに座っていたが、ゆっくり目を開けると呟いた。

 

「これが・・ネウロイ」

 

天音が顔をあげた。緊張しまくったその顔は無理に笑おうとしてるかのようにも見えるが、口元がひくひくと痙攣している。

 

「卜部さん、み、見付けちゃいました」

「ネ、ネウロイか?」

 

こくりと頷く。

 

「何でネウロイだと分かる?」

「金属の塊です。潜水艦と違ってほとんど中まで詰まってて、真ん中の方に()が入ったスイカみたいにしか空間がない。エンジンとか電池とかの機械もない。大きさは90mですから、クジラか潜水艦かそれ以外かってなるともう・・・」

 

大きなうねりで零式水偵が大きく揺れた。

 

「わかった!よし一崎、まずは報告を!」

「はい!神川丸、こちらウミネコ。ネウロイ・・、ネウロイ探知!方位、・・えっと神川丸から南へ15キロ。葉巻のような形で半没していると思われます。速度5ノット程度で南西に向かって移動中」

 

神川丸からの返信は2呼吸以上遅れてやってきた。

 

・・(ウミネコ、こちら葉山。間違いなくネウロイか?)・・

 

葉山少尉の声は上ずっていた。

 

「初めての探知なので間違いなくって言われると、はいって言いにくいですが、でも、90mもあって、中までほとんど金属でできていて、形も潜水艦みたいな船っぽいものじゃなくて、イルカの大きいのみたいな感じで・・。他に考えられません!」

 

天音の声も劣らず上ずっていた。

 

・・(ウミネコ、こちら葉山、了解!接近して再確認せよ。ネウロイだったら攻撃していい。こちらから応援も出す)・・

 

「ウ、ウミネコ了解!」

 

天音はコックピットを見上げて叫んだ。

 

「卜部さん!」

「わかった、上がって来い!接近して目視確認する!」

 

天音は命綱のフックをフロートの支柱から外して、フロートから翼に這い上がった。

 

「天音ー、うねりがあるから気を付けなよー」

 

勝田が注意を促した。大海原に浮かぶちっぽけな水上機は、うねる波の表面にへばりついて揺さぶられている。天音は翼の上にも取り付けてある小さな取っ手をたどって四つんばいで移動し、胴体に取り付いた。

 

「一崎、大きい波が来るぞ」

「大丈夫、胴体取っ手確保しました」

 

胴体部の取っ手をしっかり掴み、右から来た大きな波で零式水偵が30度くらい傾くのに耐えたその時、バリッという音と共に取っ手が、取っ手を取り付けてある外板ごとはがれた。

 

「え?」

 

空中に浮いた天音は何が起きたのか分らなかった。

ゆっくりと零式水偵が目の前から離れていく。コックピットの卜部と勝田が口をあんぐり空けてこっちを見ている。零式水偵をやや斜め上から見ているのに、自分は下に落ちている感覚。しかもそれらが妙にスローモーションで見え、おかしな感覚に脳が現状を把握できないでいた。

だが落ちている感覚通り天音は足から海に着水した。盛り上がる波の頂に向かって傾く斜面に乗っていた水偵から放り出され、波と波の谷間に落ちたのだ。水偵は波の頂まで上がると、その向こう側に消えていった。

 

「わたし、落ちちゃったんだ!」

 

今更ながらに気付き、まだ手に持っていた外板付きの取っ手を放り投げた。

 

あっ、捨てちゃったけど持ってた方がよくなかったかな?取れちゃって飛行機大丈夫かしら?

 

と思ったのも束の間、自分の後ろから来た波に持ち上げられてその頂に到達したとき、だいぶ向こうの波の谷間にいる零式水偵を見て、それどころじゃない事にさらに気付く。

離されてる!

 

 

卜部達の方も大慌てだった。

 

「勝田、一崎を見失うなよ!どっちだ」

「左10時の方向、50m!」

「向かうぞ!神川丸へ報告頼む!」

「了解。・・・神川丸、こちらK2。ウミネコが海に転落した。繰り返す、ウミネコが海に転落した。これより救助に向かう。ウミネコは視認できているが、波高があるので救助は手間取るかもしれない」

 

・・(K2、こちら葉山。ウミネコが転落、了解。ウミネコの意識はあるか?大丈夫か、何があった?!)・・

 

「神川丸、こちらK2。ウミネコは機体上を移動中に掴んでいたアームホールドが外れて転落した。ウミネコは自力で泳いでいる。意識はある」

 

・・(K2、こちら葉山。了解。すぐ応援を出す!)・・

 

 

 




 
ネウロイを初探知しましたが、直後に天音ちゃん海に転落してしまいました。
それとアップ直前に何を思ったか22駆の艦長達を艦これキャラに変えてしまいました。あとどこかで陸軍側にもこんなことが起こりそうです。
もうこの先どうなるか書いてる本人からして予想つきません。


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