水音の乙女   作:RightWorld

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しばらく間開けてたので二話時間差アップです。


2016/10/08
漢字の誤字のご指摘がありましたので修正しました。
報告感謝です。>GN-XX様
また下原定子を下定と書いていたので下原と修正しました。

2020/01/11
体裁修正しました。





第42話:世界に認められる力 その10 ~補給を待つ人たち~

 

 

扶桑の対潜水型ネウロイ対策部隊が、本国の密命を受けて扶桑領海に忍び込んだカールスラントの新型潜水艦U-3088を追い立てて拿捕したという事件は、瞬く間に世界中へ広まった。というかそれは南遣艦隊司令部の(ゆい)司令が天音達427空を宣伝するために意図的に急いで広めたからであった。

 

飛び回る水偵脚のウィッチと水上偵察機に包囲された浮上停止中のU-3088の写真、司令塔に出て白旗を揚げるU-3088の艦長と乗組員達の写真(閉鎖空間に耐えられなくなって真っ先に上がってきたハナGことアフリカ砂隊の金子主計中尉も写っている)、そして427空メンバーが零式水偵をバックににこやかな顔で整列した写真。

これらが各国主要新聞の1面を飾ったのだった。

 

扶桑には世界で最も優れた対潜部隊が存在し、間もなく出撃する態勢にあること。それは世界中を震撼させた潜水型ネウロイに対する人類の対抗策。そして祖国から遠く離れた欧州やユーラシア中部・中東で闘う扶桑の部隊に対し、補給再開への希望を伝えるメッセージだった。そのメッセージがどれだけ前線の将兵を勇気付けることか。

 

だが一部の作戦指導者達にとってそれは、自分たちの立案する作戦の遂行を後押しする、都合よい材料にもなるのであった。

 

 

 

 

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ここはセダンの506統合戦闘航空団 A部隊の基地。

その一室では、最近兆しが見えているネウロイの大規模反抗に対し、扶桑からの補給なしにどうやって対処するか、ヨーロッパの各統合戦闘航空団基地から代表が集まって物資の調整を図る特別な会議が行われていた。

 

 

 

那佳がご機嫌で各席に紅茶を入れている。

 

「ふふ~ん、特別任務、お手当てお手当て~」

 

2時間前、お茶汲みをやると特別手当てを貰えるとロザリーから聞いて、お茶菓子のおこぼれ目当てのイザベルを抑え込んで喜んで買って出たのであった。

 

「く、那佳さん! このお菓子、めちゃくちゃ美味しいですね」

「わたしも! おかわり貰っていいですか?」

 

空になったお皿を差し出して催促しているのは、付き添いで来ている501JFWの宮藤芳佳と502JFWの雁渕ひかりだ。

 

「でしょう~? ガリアの本物のパティシエが作るガレットは絶品ですよ~」

「さすがノーブル! 貴族様!」

「さすがです!」

「会議を506でやろうという訳が分かった気がするね~」

「はい!」

 

スト魔女の主役3人が揃ってこの認識とは、この作品をひねりすぎだろうか。

実際のところは単に集合する上での各基地の位置関係、距離や連絡路の確保状況から決まったに過ぎないのだが。

 

一方、付き添いの連中とは異なり、主要議題について話し合う隊長、副隊長クラスで構成される中心メンバーの目は真剣だった。

 

「それで502は機体の目処つくの?」

 

504JFWの竹井大尉が502JFWのサーシャ大尉に聞く。

 

「紫電改は共通化を図ったリベリオンのF6Fの部品を供給してもらえれば暫くは持つかもしれないけど、シャーシや外装などの機体本体は……。何しろうちのウィッチはクラッシャー揃いだから全損することもあり得て、いつまで持ち堪えられるか」

 

東部戦線の502JFW代表は、ここへ来るのもネウロイ勢力圏を迂回しなければならず一苦労なのだが、消耗率ナンバーワンという部隊事情を抱えているだけに、無理してでも参加したのだった。

 

「紫電改が修理の度に次第にヘルキャットに変わっていくのが見えるようだな」

 

苦笑いの501JFWの坂本に、506JFWのロザリーが

 

「502にリベリオンのウィッチがいれば最初からF6Fへ機種替えする手も考えられたのにね」

 

と東部戦線独特の事情にも思いを巡らせる。東部戦線にリベリオン軍の部隊が直接入ることはまれだった。やはりカールスラントやオラーシャ、スオムスなどの地元の国が主体なのだ。

その代わりリベリオンからの物資の供給はファラウェイランドのハリファックスから盛んに送られていて、車両や弾薬はかなり充実している。しかしストライカーユニットは海軍のF4Fや陸軍のP40などひとつ前の世代が多く、一般の部隊ならともかく、統合戦闘航空団では使えなかった。

 

「分かったわ。504向けの紫電改用補給品も502に優先して回しましょう。うちは私以外は陸軍のストライカーユニットだから、何とかなるわ」

「申し訳ないです、竹井大尉」

 

サーシャは頭を下げた。

 

「506は大丈夫なんだな? グリュンネ少佐」

 

坂本がロザリーに聞いた。

 

「黒田中尉はストライカーユニット、武器とも扶桑のを使ってないので、心配いりません」

「そうするとやはり宮藤の『震電』か。これだけは他の部隊にも使用者がいないし、部品の共通化もされてないから融通が利かん」

「普通のウィッチが注ぎ込む魔法力じゃ性能を出し切れないのでしょう? 今だもって宮藤少尉専用機状態だそうじゃないですか」

「相性の問題もあるみたいでな。あいつの父君がまるであいつと作ったかのようなセッティングになってる」

「宮藤博士ですね」

 

その話題の宮藤が502JFWの雁渕と一緒にやって来た。

 

「坂本さん、今ブリタニアに入港中の補給船の物資でも不足するものが分かりました! 特に506で深刻です!」

 

坂本とロザリーが顔をあげる。竹井も振り向いた。

 

「何? 506で?」

「まあ! 私のチェック漏れ?」

「指揮官クラスでは見えないものがあるのかもしれないわね」

 

宮藤は鼻の穴をふんと広げて胸を張ると、手元のメモ書きを見ながら得意げに発表した。

 

「味噌醤油、出汁の類いは各部隊が出す扶桑食の比率から計算して分配を調整すると、1ヶ月分は確保できました。節約して2ヶ月までは引っ張れます。だけどすぐ無くなるのが寒天です。黒田さんはよくアンミツをお出ししているそうで、506はA、Bの2部隊あるので消費量も他部隊の2倍。502も下原さんがトコロテンお作りになるそうですし、うちの消費分も加味すると3回も出せば無くなります。実は小豆も危ないんですが、羊羮やアンコそのままで出すのは控えて、ゼンザイなんかにすればかさを増やせるので、こっちは何とか凌げるかと思います!」

 

自信満々に説明する芳佳に、手に力を込めてうんうんと相槌をうつひかり。あっちから

 

「おかわりのガレット持ってきたよ~」

 

と能天気な那佳がやってくる。

ごごごごごと地響きが坂本を中心に隊長クラスから響いてきた。

 

「宮藤~、またそのパターンかー!」

「さ、坂本さん、福利厚生面での海外遠征扶桑人の士気の維持って、やっぱ重要だと思うんですよー」

「それは理解するが、戦闘部隊の者がやることかー!」

 

雷が落ちそうになった瞬間、506 B部隊のジーナ・プレディ中佐が入ってきた。

 

「無補給想定期間は2ヶ月で済みそうだぞ」

 

ジーナは新聞の束をテーブルに広げた。

 

「竹井大尉が見つけたウィッチ、想像以上に優秀なようだな」

 

ひかりがなんとかその場を鎮めようと愛想笑いを振りまいて、プレディが持ってきた新聞の一つを取り上げた。

 

「あ、あの一崎天音ちゃんっていうウィッチでしたっけ。優秀なんだ、すご~い」

 

みんなが手近の新聞を手に取り、1面の記事に見入った。

 

「絢子、一崎はまだ飛べないんじゃなかったか?」

「美緒が黒江大尉に掛け合ってくれたおかげで、機体候補と改造方法は目処が着いたと聞いたけど、まだ機体の入手もできてないはずだわ」

「そうか」

「航空ウィッチでまだ空飛べないのに活躍してるんですか? 凄いな。どんな戦い方をするんだろう」

 

ひかりが前に乗り出して新聞を読み始めた。激戦区で揉まれまくっているだけに、強くなることには人一倍関心が高いのだ。

坂本は見開きページにある集合写真に目を落とし、写真に写っている顔をさっと眺めた。そして元ウィッチの2人に気付いた。同年代のベテランだ。魔法力を失っても空と海を捨てられず、ストライカーユニットから通常の水偵に乗り換えてなお最前線を飛んでいる。今の坂本と同じだ。

 

「卜部と勝田だ。ふむ、いいチームに恵まれたようだな」

「お知り合いですか?」

「同じ海軍のウィッチだからな。顔くらいは知っているという程度だけどな。扶桑海事変の後頃から95式水偵脚や零式水上観測脚を扱って、水上機母艦艦隊でずっとやっていて、そっち方面では結構有名だった」

「へえ~。じゃ、この人たちもやっぱり強いんだ。どんな戦歴を持ってるんだろう。今度調べてみようかな」

「随分と研究熱心だな。まあ502は飛来するネウロイを迎撃するのが主任務の他の統合戦闘航空団と違って、こちらから攻勢に打って出る部隊だからな。それくらいじゃないと502のウィッチは務まらないか」

「それもありますが、ロスマン先生から今、502の外を見ろって言われてます」

「ほう?」

「502の外にも優秀なウィッチが沢山いる。できるだけ多くの人と会って、いろいろ学んで来いと。わたし、強くなりたいんです。姉のように」

 

人類側の逆侵攻部隊とも揶揄される502JFWは攻撃的なメンバーが多い。その中でもキャリアの浅いひかりは、足手まといにならないようみんなに追いつくのに必死だった。だから普段から強い先輩達の話には耳をダンボにして聞いているのだ。

 

「なるほどな」

 

坂本は目を閉じて小さく微笑んで頷いた。そして目を開けると落ち着いた声で諭すように語りかける。

 

「雁渕。個人が強くなるのは勿論重要だが、統合戦闘航空団はチームだ。個では倒せない大きな、より強力な敵もチームなら倒せるようになる。それは個の力の足し算ではなくて、かけ算にする、そんな力だ。しかも私達は国際混成チームだ。自国の兵士だけで構成された部隊には出来ないような効果が生まれることが期待できる。

黒田中尉や宮藤も、そんな文化や常識の違うメンバーが集まった統合戦闘航空団で、かけ算以上にチームの総合力を引き上げる、そういうことができる奴だ」

「え? 私そうなんですか? えへへへ、坂本さんに褒められるなんて久しぶりだなあ」

 

テレテレと芳佳が笑った。

 

「誉めるくらいなら、それに比例したボーナスを支給して下さいよ~」

 

全ての評価はお金に換算。那佳もこの点だけはぶれがない。

坂本は眉間に皺を寄せてこめかみに片方の手の指を当てる。

 

「調子に乗るからあまり褒めたくないんだが……」

 

坂本は宮藤の頭に手を乗せて話始めた。

 

「宮藤が来てからの501の強さは結果が証明している通りだ。部隊としての強さは今でも統合戦闘航空団随一だろう。国土を守る、侵攻を食い止める、それが設立当初の目的だったのに、反撃作戦、それも巣に攻撃を仕掛けるような計画を立案してみようなんて思わせたほどだからな。チームとして高まった力を見て、これならと世界が認めたからだ。もっともそれを技術力や科学力によるものと勘違いして失脚した将軍もいたが……」

 

今度は那佳を引き寄せた。

 

「506も作戦図盤上の戦力はA、Bの2個航空団と書かれるだけだ。だが実際には2個どころか3個4個航空団以上いるかのように躍進するときがある。必ずA、B両部隊が共同で作戦をするときだ。それはまさに相乗効果、部隊と部隊がかけ算で力を引き出しているからだ。そういうときは必ずそこに黒田中尉がいる。その力の源になっているのが黒田中尉なのだ」

 

芳佳と那佳を左右に従えた坂本はひかりを前にして語った。

 

「502は個々の力は他の部隊以上にあると言ってもいい。だが部隊としてはまだまだ個の力の足し算しか出せてない。眼前にいる敵の規模は501の時以上。戦果の期待はむしろ501以上。それに応えるには部隊としての総合力、個の力をかけ算にして増大させる起爆剤が必要だ。雁渕、お前はチームの起爆剤となるようなウィッチになれ。姉を追いかけるのではなくてな」

 

今は空母部隊の508JFWにいるひかりの姉、雁渕孝美は、技量、戦闘力、精神力ともども扶桑海軍を代表するトップクラスのウィッチだった 。ひかりにとってはあまりにも偉大な姉であり、常に目標だった。だが坂本はひかりが目指すところはそこではないという。

坂本は427空メンバーの写真が一面を飾る新聞を広げた。

 

「この一崎もまだ飛べないし、軍事訓練だってまだ十分受けてないはずだ。回りはあがりを向かえた元ウィッチに新人ウィッチ。そして対峙するのは未知の海洋対応型ネウロイ。端から見れば不安だらけで期待どころの話じゃない。だがチームとしてはどうだったか。相手はカールスラントの潜水艦だったが、それでも桁違いの性能を持った奴だ。そして結果は……新聞によると圧倒したという。お互いが力をかけ算にして引き出し合ったからこそこの結果を出せたんだろう」

 

ひかりは目を大きく見開いて427空の写真に見入った。

 

一崎天音は写っている人達の中で一番小さい。下原がいたら飛び付かれているに違いない。502JFWの菅野も小さいが、みなぎる闘志がその小さな身体や表情からもうかがい取れる。だが天音は大人しそうな優しい笑みを浮かべているばかりで、潜水艦を血祭りにあげた中心人物とはとても思えない。そういう意味では隣にいる筑波優奈という娘の方がフォワードらしく見えた。

見上げたところには芳佳と那佳。坂本が示したお手本は、見た目は姉とは違い頼りなさ百倍。でも、チームにとっては起爆剤、活性剤だという。一崎天音もこんな人なんだろうか。世界が認める部隊の主役達は、きっと見た目では判断しちゃいけないような何かを起こす人達なのだ。

 

坂本は水偵脚のウィッチに囲まれている潜水艦の写真がひと際目につく新聞を一番上に置いた。

 

「そしてこれも世界が認めざるを得なくなったな。これは下手すると船団護衛どころじゃ済まんかもしれないぞ」

 

極東の島国からまた一人、戦況に影響を与えるウィッチが登場した。それまで各戦域個々で戦っていた統合戦闘航空団が一堂に会するほどの急所に関わるウィッチ。その急所とは、補給。

姉が空母部隊の508JFWに抜擢されたとき、世界のどこにでも駆け付けることができる、世界を股にかける真のウィッチ隊ができたと思った。だがそれが真価を発揮する前に、世界を股にかけて影響を及ぼすウィッチが、姉の508JFWではなく、まさかそんな後方部隊から現れようとは。

戦さの奥深さをひかりは感じていた。

 

「面白い」

 

TV放送まであと少し。1945年末を待つまでもなくオリジナルストーリーの中で既に502JFWの起爆剤として活躍していることだろうスト魔女3期の主人公は、この物語の主人公に向けて、力強い笑顔でエールを送った。

 

 

 




502の雁渕ひかりちゃんが出ているので早めにアップしたかった話です。勝手にエールを送ってもらいました。ブレイブウィッチーズ放映までまもなくですね。本物語でもこれで2度登場させてもらいましたが、本物はどんな人でしょう。楽しみです。
芳佳ちゃんは相変わらず食べ物の心配ばかりしてます。那佳ちゃんは原作通りかな。
427空の卜部さんと勝田さん、ウィッチ時代は意外と有名だったようです。使ってたのが95式水偵脚と零式水上観測脚なので、制空担当だったみたいです。
長くなりましたが、次回で演習のところのお話し終わりになります。



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