水音の乙女   作:RightWorld

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2017/1/6
誤字修正、一部文章付け足ししました。
誤字報告感謝です。 >(ΦωΦ)さん

2019/12/31
誤字修正しました。
体裁修正しました。






第4話:水音の乙女 その1

 

 

「あまねー、帰りあんみつ食べにいこー」

 

教室に戻ったわたしに、手を繋いでやってきたクラスの女の子3人が声を掛けた。

 

「あ、ご、ごめん。わたしこの後、漁協のお手伝いに行かなきゃで……」

「あっそうなんだ」

「じゃあお小遣いが入るのね!」

「そっか。そしたらあんみつは明日にしよう。明日は天音のおごりであんみつだよっ」

「そっそっそっそれは、よっぽど大漁にでもならないと……」

「期待してるよ~」

「イサキがいっぱい獲れたらお父ちゃんにお刺身作らせて天音の家に持っていくから」

「がんばってっ」

 

3人は繋いだ手を大きく振ってきゃぴきゃぴとはしゃいだ。

 

『今日はイサキじゃないんだけどな』

 

「じゃあわたしは終礼出ないで帰るから」

「いいなー、掃除当番もしなくていいんだ」

「ご、ごめんね」

「がんばーっ」

 

帰り支度をさっと済ませ鞄を肩に掛けると、まだ最後の授業の片付けで騒がしい学校を足早に出て行った。5時間目の授業の前に漁協から連絡があって、わたしは授業が終了しだい行くということで学校と調整がついていた。年に何度かこうやって緊急に呼び出されることがある。学校もそれを了承しているのは、わたしに備わった能力を買ってのことだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

高台にある学校を出て浜へ向かって小走りに坂を駆け下りていく。

ふと目を奥の高台に向けると、最近できた扶桑皇国陸軍の戦車教練場から砂煙が舞っていた。高校に転入してきた西住さんという優秀な陸戦ウィッチを中心に新たな戦車連隊が組織され、連日激しい訓練が行われているそうだ。

天音は少ししゅんと暗くなった。

 

謎の怪異『ネウロイ』が急速に高度に進化して人類に襲いかかり、欧州を蹂躙し始めたのは天音が小学校に入ったくらいのとき。それは人類の存亡をかけたような激しい戦いに発展し、今も終わる気配を見せない。オストマルクやガリア、大国のカールスラントでさえも国そのものを失うという事態にどの国も衝撃を受け、世界中から欧州へ支援が集まった。そんな折、まだ遠くの出来事という感があった扶桑でも扶桑海事変をきっかけに緊張が高まって、ウィッチの素質を持った多くの少女達が軍隊に引き抜かれるようになった。

遊び盛りという彼女達は、まだ幼いにもかかわらず軍事訓練を施され、特に能力の高いものは欧州に、欧州まで行かないにせよ扶桑海や扶桑勢力圏の各地へと派遣されていった。

扶桑本土にいるのはあがり(・・・)を迎え幹部や教官になったベテラン元ウィッチか、訓練中の新人がほとんどである。

感受性高い微妙な年頃なのに、ウィッチとしての力が発現したばかりに戦場へと繰り出される。以前この地区から輩出されたウィッチのお姉さんは、戻ってきたとき、年頃の娘とは思えないほど身体も目つきも、ある意味老け込んでしまっていたという。すさまじい戦場の情景は行った者でなければ分らないだろう。しかし通常ウィッチとして魔力を発揮できるのは二十歳までだ。たいていの人は魔法力が二十歳を過ぎるとなくなってしまう。だからどうしても戦場に立つウィッチは年少者にならざるを得ないのだ。

 

大事な時期を戦場で過ごした彼女達。人類の未来もそうだが、彼女達の未来、まだ長い残りの人生はどうなってしまうのだろうか。

 

同級の優奈も中学に進級するや否やウィッチとしての力が覚醒し、すぐに軍隊が目をつけた。欧州で活躍する扶桑のウィッチ、特に伝説となった501統合戦闘航空団がガリアを解放した活躍は広く報じられており、血気盛んな優奈も「人類を救う!」と言って審査を受けに行き、見事合格して扶桑皇国海軍に入隊した。

霞ヶ浦の海軍航空隊で訓練を受け、その後どこかに配備されたという。欧州ではないみたいだが、何をしているかは軍機なのだろう、詳しくは教えてくれなかった。でも希望叶って航空機動歩兵になれたという。彼女は飛ぶ資質があったのだ。

 

天音はふうと大きくため息をついた。

 

同級の友人が戦場に行く。こんな非現実的なことがあるだろうか。彼女もあんな風になって帰ってきてしまうのだろうか。

だから、手紙が届いたりすると、開けるのが怖いのだ。

優奈が、別人になってしまってはないかと、心配だから。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

途中から背の低い椿林の中にある抜け道を通って近道をし、桟橋に着くと、天音は山見番所から降りてきていたおじさんと合流した。

 

「やあご苦労さん。悪いなあ、学校の途中なのに」

「いえ、授業は全部受けれましたから」

 

二人は桟橋の突端まで歩いていった。

 

緩やかにうねる海を前に突端の縁に立つと、天音は大きく息を吸い込み目をつぶった。身体が淡い光に包まれ、頭に耳が、お尻に長い尻尾がひょうぅっと生えた。天音の使い魔は黒ひょうだ。そのしなやかで長い尾は自由自在に動きまわる。それを体の前にもってくると、その先っぽを手で捕らえた。天音は桟橋の縁にしゃがみこんだ。

天音の体が一際煌くと、捕まえていた尾の先端が楕円の種形に膨らんだ。その周りには青白い魔導針のような青い丸い輪が左右に二つずつ現れる。天音はその種形の尾の先をじっと見つめた。

 

 

 





主人公の天音ちゃんを掘り下げていく回です。天音ちゃんの固有魔法を明らかにしていきます。
途中に出てくるガルパンを思い浮かべるような書き込みはお遊びで、後に引くものではありません。(^^;

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