水音の乙女   作:RightWorld

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第39話:世界に認められる力 その7 ~極秘情報収集艦~

 

 

潜水艦が無事らしいと分かって、葉山少尉はようやく吹き出た汗を拭いた。

 

「何で演習海域に味方潜水艦が……。沈めてしまっても文句言えないぞ」

 

有間艦長は副長に潜水艦隊司令部へ問合せをさせ、伊豆から房総にかけての海域で行動または通過の可能性のある艦がないか確認を取ったのだった。結果、サイパンから帰投予定の艦があることが分かった。昨日の定時連絡では八丈島沖にいたので、時間的にはこの近辺へ表れることも可能だ。

 

「いやダメだダメだ! いくら無断侵入でも、味方撃沈はそう簡単には片付けられない! だいたい攻撃許可出してないだろう!」

 

ヒステリックに叫ぶ田所中佐だが、有間艦長は指揮側の非も指摘した。

 

「攻撃するなとも言ってなかったからな。あの状況だ、部下が早まる可能性を考えて釘を刺しとくべきだった」

「すみません。……しかしそれでも私は攻撃させてたと思います」

 

葉山はついポロリと本音を漏らした。もし本当にネウロイだったとしたら、一刻も早く打撃を与えなければこちらがやられる。

 

「な、なんだとー?!」

「はっはっは、こりゃ俺の失態のようだ」

 

そこに勝田からもう一つ悩ましい通信が入った。

 

≪こちらK2。ウミネコがまだ何か潜んでるって言ってます。現在探信中≫

 

「何だって?!」

 

有間艦長は通信機のマイクを持った。

 

「こちら神川丸艦長の有間だ。千早中佐、当海域にはまだ他に味方潜水艦ありや?」

 

≪こちら伊401。本艦は単独で行動していた。他の潜水艦は把握していない≫

 

一瞬の沈黙が緊張を高めた。まだ未確認のものが水中にいる。今度こそネウロイかもしれない。

 

「神川丸了解。伊5は退避することを勧める。428空零式水偵もウミネコの支援に回れ。各機戦闘体制。神川丸は抜錨準備。零水観を収容次第、現在位置から移動する」

 

有間艦長はマイクを置くと葉山と目を合わせた。

 

「ウミネコの探信結果を待とうか」

 

 

 

 

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その頃、水中には先進的な流線型をした潜水艦が息を潜めていた。

無音潜行状態でゆっくりと深度を下げるその艦の司令塔横に書かれた数字は3088。カールスラントの潜水艦U-3088であった。

 

「今までの状況を整理する」

 

艦長が副長に言った。

 

「はい。我々は事前に掴んでいた扶桑海軍の対潜水艦演習海域に接近していたところ、パッシブソナーで水中を行く潜水艦を探知。演習に参加している標的役の潜水艦と判断しこれを追尾しました」

「ところが音声と思われるものが水上より発信され、続いて小規模の爆発が音声発信地点水面近くで発生。直後に追尾中の潜水艦が急速浮上。浮上中に潜水艦のいた深度で爆雷爆発を確認。その規模から爆雷は実弾と思われます。潜水艦は現在水上に浮上中の模様」

「これが演習なのか? だとしたらかなり際どいやり方でやってることになるぞ。本物の潜水艦に実弾を落としているのか?」

「浮上した潜水艦の慌てぶりはいかにもそうですね 。それに攻撃の兆候も分かりませんでした。アクティブソナー音はまったくありません。パッシブだけで攻撃したのでしょうか」

「パッシブだけで距離や深度が分かるものか。いや、観測点が複数あるのかもしれない」

 

その横で真っ青な顔をしているのはハナGだった。

 

「だ、大丈夫なんですか? 演習してるところに勝手に入り込んだりして!」

 

アフリカ砂隊、つまり統合戦闘航空隊ストームウィッチーズに参加している加東圭子隊長率いる扶桑皇国陸軍の北アフリカ派遣独立飛行中隊、その補給を担当している金子主計中尉がなぜここにいるのかというと……。

欧州で枯渇しようとしている扶桑食材を調達するため金子中尉は扶桑本国まで戻ったのだが、南シナ海に出没している潜水型ネウロイの為に輸送船は運行を停止していて欧州へ持ち帰る輸送手段がなかった。

そこで北アフリカ軍総司令のロンメル将軍の伝で輸送手段を手配してもらった。それが扶桑近海で極秘任務を取っていたカールスラントの潜水艦U-3088だったのだ。作戦が終わり次第カールスラントへ戻る予定だったので、便乗するよう手配してくれたのだ。しかしその極秘任務とは、扶桑海軍が組織した対潜水型ネウロイ対策部隊の能力を探るというものだった。

将来を見据えてか、潜水艦戦力を密かに増強していたカールスラントは、各国の対潜能力に強い関心をもっていた。特にブリタニアは怠ることなく対潜兵器の研究を続けていたことが潜水型ネウロイの出現で明らかになったことで、他の有力な海軍国も独自進化を遂げているかもしれないと神経を尖らせていたのだ。各国混成部隊の中では手の内を全て見せないかもしれない。なので直接盗み見るのだ。そしてウィッチが参加するという扶桑の対潜水部隊の能力は、是非とも全容を知りたかった。

 

「扶桑の対潜ウィッチ部隊の能力を丸裸にすること、それが極秘情報収集艦たる本艦の任務だ」

 

いわば戦闘態勢に入っているU-3088のランベルト艦長は厳しい目で答えた。

 

 

 

 

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水中探信していた天音が顔を上げた。

 

「潜水艦です。これも蛟龍(こうりゅう)じゃない。全長約77mあります。方位173、距離1600m、深度89mゆっくり沈降中、速度1ノット以下」

 

≪本当に潜水艦か? ネウロイじゃないのか?≫

 

「ネウロイはまだ捉えたことないので分かりませんが、今捉えているのは、さっき浮上した潜水艦と同じような形と構造してます。表面は金属。内部が空き缶のようになってるところに機械が沢山詰まってます」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

神川丸の有間艦長は無精髭を撫でた。

 

「機械が沢山詰まった空き缶か。確かに潜水艦だ。天音君は見つけるだけじゃなくてそんなことまでできるのか。驚き桃の木山椒の木だな。千早中佐、本当に心当たりないんだな?」

 

≪隠密行動が基本の潜水艦は、協同作戦でもない限り他艦にも行動は知らせてない。残念ですが私も他の艦のことは分からない≫

 

「潜水艦隊司令部からは伊401以外に付近で行動、もしくは通過の可能性のある潜水艦の情報はないと言ってきてます」

 

三田村副長が確認してきた情報を添えた。

 

「そうすると、他国の潜水艦か?」

「なるほど。我が国の領海に無断で入り込んでこそこそしているのだとしたら随分無礼な奴です」

「狩り出せるかな。葉山少尉、発見したのは他国の潜水艦かもしれん」

「他国?」

「強制浮上させるぞ」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

428空飛行隊長の荒又が操縦する零式水偵は、伊401のいるところに到着した。

 

「信じられん……。でかいとはいえ、こいつを15キロ先から見つけたというのか?」

「伊5ではない、130m近い大きさだとその時点で言ってましたね」

 

≪こちら葉山。新たに発見した潜水艦は他国の潜水艦の可能性が高い。捕捉して強制浮上させる。キョクアジサシ、演習用爆雷を潜水艦の周囲を囲むように落とせ。目標はほとんど動いてないようだからお前でも出来るだろ≫

 

「どうせわたしは爆撃下手ですよ。ウミネコ、正確な潜水艦の位置教えて」

 

≪伊401から方位173、距離1620m≫

 

位置情報を聞いた荒又はエンジンのスロットルを開けて加速した。

 

(あずま)、今言ったところへ飛ぶぞ。本当に潜水艦がいるか確認しろ」

 

偵察員席に座る丸メガネの男が磁気探知装置の磁力計のパネルの埃を掃った。

 

「了解」

 

その後ろから優奈が着いてくる。

 

「ちょっと、邪魔なんですけど!」

「あまり近寄るな、磁気探知の邪魔になる!」

「あたし、何も邪魔なんかしてないわよ」

「ストライカーユニットの金属反応を拾ってしまうのだ。特に後ろには寄るな!」

「えー? なにそれ、デリケート過ぎじゃない?」

「そういうもんなんだ! 装置に干渉するから旋回機銃も取り払ってるくらいだ」

「そういや、どうりで後席がすっきりしてると思った。なんだ、だっさーい。敵機来たらどうすんの?」

「うるせえ!」

(あずま)、間もなくだ。計器見てろ」

 

荒又機は天音の示したところの上空を通過した。磁力計に見入っていた丸メガネが叫んだ。

 

「探知! いました、本当にいました!」

「何てことだ……」

 

優奈はその辺を旋回した。

 

「ウミネコ、こちらキョクアジサシ。到着したけど、姿全く見えないよ」

 

≪水深90m以上にいるからねえ≫

 

「目標の正確な位置を示すのに発煙筒とかでマークしたいなあ。千里はよく爆撃できるよね。何を目安にするの?」

 

≪波の模様≫

 

「そんなの刻々と変化するじゃん! 無理だ!」

 

そこに卜部機が飛んできた。

 

≪今、トビが潜水艦の真上に移動するから待って≫

 

着水して水上滑走に入った卜部機は、天音の指示でとある一点に止まった。

 

≪この真下です。今深度97m≫

 

「演習爆弾はそんな深度に調整できないわ。調整可能な最大深度にセットします。50m離して周囲4ヶ所に投下」

 

卜部機から50mのところをゆっくりと水平旋回飛行しながら、優奈は1番対潜模擬爆弾を落としていった。

 

 

 





捉えられた最後の不明潜は、忘れちゃいけない、ハナGの乗ったカールスラントの潜水艦でした。XXI型Uボート対天音ちゃんの行方はいかに?


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