水音の乙女   作:RightWorld

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第38話:世界に認められる力 その6 ~世界最大の潜水艦~

 

 

「に、逃げて!浮上してーっ! 今爆弾がそっちに向かってる!」

 

≪天音、どうしたの?≫

 

「下の筒の中に人がいる!!」

「え?!」

「もしかして味方の潜水艦?!」

 

魔導波を当てて未確認物体の内部を走査した天音は、その中に人がいることを発見した。

人が乗ってる。ということはネウロイじゃない。潜水艦だ!

千里が落とした爆弾は狂いなくその潜水艦に向かって水中を突き進んでいる。何とかして危険を知らせないと!

キョロキョロした天音は、零式水偵の下に2つぶら下がっていた黄色い3番2号対潜模擬爆弾を目に留めた。

 

「卜部さん、爆弾ここで蹴落とします! 急いでここから動いてーっ!!」

「ななななな、なにい~~?」

「勝田さん 、その辺に掴まって!」

「ええ?」

 

すぐ動けるようアイドリングしていたプロペラが轟音に変わると、フロートに天音と勝田をしがみつかせたまま零式水偵は動き出す。卜部は言われたままに動かしたが、同時にプロペラの唸りに負けないくらい絶叫した。

 

「一崎、何始める気だー?!」

 

恐怖で強ばっていた時のことが想像つかないほど、今の天音はきりっとした目つきでしっかりした意思の基に行動していた。土壇場に強い性格のようだ。

そして天音は迷うことなく、近くにある方の爆弾を思いっきり蹴飛ばした。魔力で肉体強化中なので、その蹴りは一般人以上に威力があり、爆弾は吊下装置から外れて、どぼんと水飛沫をあげて海に落っこち、信管も正常に作動を開始した。

 

「わわわわ! マジ落っことしたー!」

 

ぷくぷくと泡が立つ爆弾落下地点がゆっくりゆっくりと遠ざかるのをガン見して目を離せずに追っている勝田。

 

「卜部さん! 早く! 早く! 早くー!」

 

5秒もしないで、水上滑走している零式水偵の航跡の中で模擬弾が破裂した。炸薬量を落として、水深数m程で爆発する仕様にしてある模擬爆弾は、音で潜水艦に爆撃を受けたことを知らせるのが目的だが、止まっている飛行機から落として使うものじゃない。飛行機の真下で破裂したら、ペラペラのジュラルミン板の飛行機は無事じゃ済まないだろう。

直後、神川丸から無電が飛んできた。

 

≪演習部隊、攻撃中止! 目標は“味方”の可能性あり! 繰り返す。演習部隊、攻撃中止!≫

 

無電がしゃべっている最中、千里が落とした実弾がズシンという衝撃波を放って水中深くで爆発した。

そこにいる全員の顔が蒼白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

千里が爆弾の実弾を投下した。

中に人がいるという言葉を聞いてから、無限の時間が過ぎたように感じる。しかし実際は十数秒でしかない。

そこに居合わせた427空のみんなは、この時ばかりは不発弾であることを期待した。

だがよく整備された爆弾は正常だった。信管は設計者の期待通り指示した予定時間になると起爆し、爆弾本体も設計者が期待した通りに爆発した。

 

みんなが青い顔をして見守る中、海面が盛り上がり、爆発で膨れる気泡が水面で大きく弾けた。その破裂した気泡と水柱の中から巨大な潜水艦がグワッと飛び出してきた。下半分を赤く塗った艦首が全て海上に露出し、潜舵や魚雷発射菅までが確認できるほどロケットのように飛び出ると、2、3回バウンドするように大きく浮き沈みしてその潜水艦は洋上に浮かび上がった。

揺れまくっているが、沈没しそうな気配はない。どうやら撃沈は免れたようだ。

今までよく見ていた蛟龍(こうりゅう)とは比較にならない巨大な姿。

突如水中から現れた巨大な艦に目を丸くする演習部隊。

それにしてもでかい。潜水艦の形をしているが、この大きさは潜水艦のものとは思えないほどだ。

司令塔の横には、白いペイントで「イー401」とあった。

 

≪こちら田所だ! 演習部隊、応答せよ。どうなった? K2、キョクアジサシ、攻撃中止したか? 状況知らせ≫

 

田所中佐が無電を飛ばしてきた。たまらず葉山少尉からマイクを奪い取ったとみえる。

イー401の上空を旋回する優奈が高度を下げて、まだ左右に揺れている潜水艦の様子を確認しつつ応答した。

 

「こちらキョクアジサシ。現場に巨大な潜水艦が浮上しました。攻撃中止は間に合わず。しかし爆撃は行われたものの浮上した潜水艦に外見上被害認めず。現在潜水艦は浮上中。潜水艦番号は『イー401』と視認。以降指示を請う」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「こ、攻撃してしまったのか!」

 

オブザーバーの田所中佐は泡を吹きそうだった。

 

「千里君は大人しそうにしてるけど、意外と喧嘩っ早いからなあ」

 

千里とも何度か作戦を一緒にやっている有間艦長は、双眼鏡で水平線の彼方を見ながら呑気そうにそう言った。

葉山少尉も青くなって慌てている方だ。

 

「キョクアジサシ、本当に被害ないか? 呼び掛けろ!」

 

その時、通信が入ってきた。

 

≪こちらイ401。艦長の千早中佐だ。演習海域に潜り込んですまなかった。現在再確認中だが、いまのところ本艦に損傷は出ていない≫

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

巨大潜水艦の艦橋のハッチが開き、数人の人が出てきた。みんな双眼鏡で周囲を見回している。

上空を旋回する優奈と千里は、見たこともない巨大な潜水艦に目を奪われていた。長さだけなら神川丸に近いくらいあるんじゃないだろうか。人類でさえこんな大きなものを水の中に潜らせたり浮上させたりできるなら、ネウロイなら造作なさそうに思えてくる。

 

「千里、潜水艦てこんな大きいんだ。いつも小型の特殊潜行艇相手にしてたから、本物の潜水艦と見比べるとビビっちゃうわ。これは魔法力込みの3番爆弾を当てなきゃいけないわけだわ」

「いや筑波さん、この潜水艦はそれにしても大きすぎる。私の同期に伊9の水上機偵察員になったのがいるけど、水上偵察機の格納塔の大きさが私の知ってる伊9よりずっと大きい。何機入るんだろう」

「普通の潜水艦より大きいの? 天音が122mって言ってたっけ。でも潜水型ネウロイってこれくらい大きいんでしょ?」

「そう聞いてる。実物見ると想像以上。これは爆弾に込める魔法力をもう一回見直さないと」

 

一方、潜水艦から少し離れた水上に浮いている卜部機。フロートの支柱にしがみついている勝田もイ401を見て目を丸くしていた。

操縦席から卜部がフロートへ向かって顔を出した。

 

「一崎、よく味方潜水艦だって気付いてくれた。よかった~撃沈しなくて」

「ホントだよ~、天音お手柄!」

 

だが天音は答えることなくまだ目を瞑っていた。尻尾はまだ水中にあり、そこからは青白い探信魔導波が絶え間なく波紋を広げている。

 

「どうしたの?」

「勝田さん、まだ、なんか居ます!」

 

 

 





巨大水中物体は大方の予想通り、伊400型潜水艦でした。401なんで多少アルペジオ入ってます(艦これ提督の方々スミマセン)。
しかし一難去ってまた一難、天音ちゃんはさらに別のを捉えています。
まさか今度こそネウロイ?!


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