水音の乙女   作:RightWorld

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第37話:世界に認められる力 その5 ~もしかして味方?!~

 

 

目標まで5キロという地点に卜部の零式水偵は着水した。優奈も到着する。優奈が見守るなか、天音がフロートに降りていった。

水中探信中に滑落するのを防ぐため、フロートの支柱に命綱のフックを引っかけるのだが、手が震えている天音は引っかけ損なって、ついでにまた水の中へ落ちてしまった。

優奈が上空から声を掛ける。

 

「天音、大丈夫ー? 今日の水は何時もより冷たいよー」

 

いつものヘマだと思って呑気に声を掛けた優奈だが、必死にフロートに上がろうともがいている天音を見て、優奈も事態を把握した。敵を目の前にして恐怖で強張って体が動かないのだ。

優奈だってまだ本物の敵と対峙した事はない。でも出撃の度に敵と遭遇する覚悟はしているし、その為の訓練も受けてきた。半年のキャリアの差もある。

優奈は怯んではいなかった。

 

「天音、みんながついてる! あたしもいるよ。がんば!」

 

優奈はフロートを展開すると、卜部機の側に着水した。

天音は今度は通信員席から降りてきた勝田に引き上げられた。ゼエゼエと息を荒げてフロートにぺたりと座りこむ。

 

「大丈夫? 天音」

 

そこに優奈が近付いてきて叫んだ。

 

「あたし達は世界を救うんだよ。こんなの序の口。いつもの天音ならぜんぜん大丈夫。それに天音一人じゃない。みんなもいる。みんなが助けてくれる。だから平気!」

 

勝田がにっこり笑って肩に手を置いた。

 

「その通りだよ。ボクらは一人で戦ってるんじゃないんだから」

 

唇を真っ青にした天音がこくりと返事した。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

428空3番機のところには他の428空の水偵達が集まり始めていた。

3番機は2番機と磁気探知装置で入念に位置を確認し、演習爆雷を投下した。

 

小さな水飛沫の後、暫くして潜水艦が浮上した。司令塔の横に書かれた艦番号は間違いなく『イ-5』。

 

飛行隊長の1番機荒又が潜水艦の上を旋回する。

 

「それ見ろ伊5だ。当然だがな。3番機、神川丸に結果を打電しろ。これで奴らが鯨か幻でも見つけたのなら、上層部も大喜びだ」

 

≪神川丸、こちら428空3番機。目標浮上しました。艦番号『イ-5』と確認。繰り返す、目標浮上。艦番号『イ-5』と確認≫

≪こちら葉山、了解。428空の零式水観は至急神川丸に帰投せよ。その他は伊5のところに集合し待機。指示を待て≫

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

葉山少尉は有間艦長に振り向いた。

 

「伊5の位置は確定しました。ウミネコの言った通り、彼女のところのは伊5ではありませんでした。本物のアンノン(未確認艦)です」

「そ、それはつまりネウロイと言うことかね!」

 

田所中佐が緊迫した甲高い声を上げる。その一方で有間艦長は、神川丸の左舷作業を見ながら笑みをこぼした。

 

「面白くなってきたじゃないか」

 

『この状況下を本当に面白そうに……。これが表面上そう見せてるだけだとしても、さすが筋金入りの指揮官だな』

 

葉山は感心せざるを得なかった。自分はこんな余裕な姿、到底見せられない。

 

左舷では二式水戦脚の千里がデリックで甲板に引き上げられたところだった。甲板には3番2号爆弾、実弾が既に準備されている。

 

「副長、428空の零水観も呼び寄せてる。零水観の再爆装にも備えとけ」

「了解。零水観の再爆装に備えます」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「それじゃ、は、始めます」

 

天音は尻尾を掴んで先端を膨らますと、念を込めた。だが恐怖で魔導針の輪が出てこない。尻尾を掴む手もふるふると震えている。

 

「あ、あれ?」

「どうしたー?」

 

慌ててる天音に勝田が覗きこむ。

 

「ま、魔法がうまく、い、いかない」

 

天音の様子を見た勝田にはすぐ分かった。極度の緊張で魔法力の制御が一時的に出来ないでいるのだ。緊迫した事態で新人ウィッチによく見られる事象だった。

 

「まあ落ち着こう。深呼吸して深呼吸。すー、はー」

「すー、はー」

「もう一回、すー、はー」

「すー、はー」

「ついでにもう一度、ゆっくり、すー」

「す~~」

「ゆっくり吐いてー」

「は~~……」

「胸張って~」

「むん……」

「むんず」

「?!! はやややや?!」

「もみもみ」

 

天音は勝田にその小さなお胸をもみもみされた。

 

「ぎゃーっ」

 

勝田は親指をグッと突き出した。

 

「大丈夫! すぐ大きくなる!」

「な、なにが~?!」

「肩の力抜いて、はい! 魔法力発動ー」

「もう~」

 

だが力んでいた身体が少し緩み、尻尾の両脇に魔導針の輪がぽっと現れた。

 

「あ、出た」

「また消えたら揉んであげるよ」

「やだ、いいです!」

「じゃ、慌てずいつも通りやろう。ついててあげる」

「あ、ありがとうございます」

 

また揉まれないか少し警戒しつつ、尻尾を水中に落とした。長く伸ばして泳がすと、魔法力を溜めた。勝田が肩に手を添えて一緒に見守る。もうおふざけはない模様。尻尾の脇の魔導針の輪は順調に点滅していた。

 

「ゆっくり呼吸して、慌てず力蓄えて……」

 

魔導針の輪が点滅をやめ光を増す。どんどん明るくなり、眩しいまでに発光する。

 

「い、行きます」

 

魔導針の輪が弾けた。

 

パヒーン……ン……ン……

 

「発見! 距離、4910m、深度80m。……あれ?」

 

首を傾げた天音は、尻尾へいつもと違う魔法力を流し込んだ。

尻尾の両脇の魔導針の輪が短くフラッシュライトのように瞬いた。

 

ピピンピンピンピンピン

 

通常は全方位に広がっていく魔法力の波紋が、次第にすぼまって一方向へ向かって収束していく。指向性を強くして、目標に集中的に魔導波を浴びせているのだ。

 

「な、何これ」

 

初めて見る探信方法と、一方方向へ水中を走る光る魔導波に、勝田が見いった。

 

「指向性探索開始。詳細捜索モード。……続いて内部検査モード」

「何だって?」

 

いままでの演習とは違うことを始めた天音に、卜部も首を伸ばしてフロートにいる二人を見詰め、心配そうな顔をする。

 

「方位168。速度北北西へ向けて3ノット。……目標の全長122m。内部は眼鏡状の大きな筒が一つ、その上に小さい筒が1つ。上部の筒には物体が3つ。下の眼鏡状の筒の中は……」

「え? え? 君はいったい何を見てるの?」

 

勝田が天音の顔を肩越しに覗きこんだところで、ブアーンと上空に二式水戦脚が急旋回しながらやってきた。千里だ。もう爆弾の換装を終えて到着するとは、下駄履きとは思えない速度でやってきたことになる。“静かなる暴走族”千里のなせる業でもある。

千里はいつもの小さくて黄色く塗られた演習爆弾ではなく、真っ黒な3番2号爆弾、実弾を2つ両翼下に抱えていた。

 

「目標は?」

 

静かな千里の声が優奈に届く。

 

≪トビからの方位168、距離4910m、深度80m、敵速3ノットで北北西へ移動中≫

 

天音の測的データを優奈が的確に千里に伝える。千里は爆弾の信管を深度90で爆発するよう調整し、素早く投射地点を頭で計算すると、それへ向けた投下位置へ向け高度と進路を取った。この数日の練習の成果だ。

急上昇したかと思うと、爆弾を抱えたまま宙返りして、緩降下を始めた。

ハデな機動とは裏腹に、インカムには冷静な千里の声が響いた。

 

「爆撃進路固定、ヨーソロ。……投下3秒前、2、1、投下。機首引き上げ」

 

3番2号爆弾、つまり30キロ対潜爆弾の1発が、高度200mから千里の降下軌道を引き継いで真っ直ぐ海へ向かっていった。

 

「え? カツオドリ、投下しちゃったのか?」

 

卜部が空を見上げたその時、天音が血相を変えて叫んだ! 声だけでなく、水中にある尾の先の種形のところからも、波紋のような光が走った。

 

「に、逃げて! 浮上してーっ! 今爆弾がそっちに向かってる!」

 

空中にいた千里と優奈は何事かと下へ振り返った。

 

≪天音、どうしたの?≫

 

「下の筒の中に人がいる!!」

「え?!」

 

勝田は驚いて一瞬何だか飲み込めなかったが、すぐ理解した。

 

「もしかして味方の潜水艦?!」

 

 

 




天音ちゃんのチート能力、非破壊検査。(^^;
それで水中物体の中に人が乗っているのを探知してしましました。
となると、人類の潜水艦?!
千里ちゃん、爆弾落としちゃいました!

そのスペックからこの潜水艦が何か、分かる人には分かったかも。



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