水音の乙女   作:RightWorld

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2020/01/04
体裁修正しました。






第36話:世界に認められる力 その4 ~実弾換装、歓迎準備!~

 

 

「あ、あの、南の方向、約15キロに、丁度それくらいの巨大なものが水中にいます! 120m以上の長さです。伊5じゃない。伊5はそんなに大きくないんでしょ?!」

「何だって!!」

 

それまで小型の潜水艇蛟龍(こうりゅう)で探知訓練をしていた天音は、今まで経験したことのない大きな物体を見つけてまず驚いた。それが伊5潜かと思ったが、その時3番機が潜水艦を発見したという。

じゃあこれは何?

大きさを測ってみると、それが事前に聞いていた標的の伊5潜より大きいことに気付いた。それどころか噂の潜水型ネウロイにそっくりな大きさだった。

卜部さんに聞き直して、ネウロイの大きさに間違いがないと分かると、驚きは恐怖に変わった。

天音は謎の物体がいる方向を見つめた。体がガクガクと震え出した。

 

「15キロって、今までそんな遠方の捉えたことなかったよね。大きいから?」

「確かに、これは探知距離の新記録だな」

「どっちの方に向かってるの?」

 

勝田の問いに、天音は震えながらさらに反響音を聞き入って、その大きな物体が動くことによって生じるドップラー効果を独自の感覚で読み取った。

 

「およそ3ノットで……か、神川丸の方に向かってます!」

 

悲鳴じみた声を二人に向かってあげた。

 

「マジか! ヤバいぞ。神川丸が狙われている?! 一崎、急いで偵察員席へ! 接近して調べるぞ!」

 

卜部がフロートの上の天音を見下ろして手招きして呼び戻した。

 

『接近!』

 

もっと近くへ行くと聞いて天音は震え上がる。

ガタガタと震える天音は、上がろうとするも身体が言うことを聞かず、上がってくる途中で踏み外して海に転落した。

 

「天音、大丈夫ー?」

 

勝田が声を掛けるが、天音は答えるどころかもがくようにして必死にフロートに上がろうとしている。が、うまくいかない。足が、手が、自分のものじゃないみたい!

卜部がたまらずコックピットから降りていき、身を乗り出して手をさしのべる。

 

「一崎、慌てるな!」

 

引っ張り上げられて、ガチガチになりながら偵察員席に登る天音を見て、卜部は天音が恐怖で身体が思うように動いてないことに気付いた。無理もない。本物の敵かもしれない。実戦になるかもしれないのだ。なにしろ彼女は先日入隊したばかりで、軍事訓練なんて受けていないのだから。

 

「一崎、ここが正念場だ。勇気搾り出せ! お前ならできる。訓練通りやるだけだ! 勝田、発見の報告を急いでやってくれ」

「分かった!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

≪神川丸、こちらK2。170度哨戒線50Km地点の南方15キロに大型の水中物体を探知≫

 

「なんだって?」

 

葉山はただちに海図を覗き込むと、その位置をプロットした。

 

「こんな方から?」

 

オブザーバーの田所中佐が口を挟んだ。

 

「どういうことだ? 標的として演習に参加してるのは伊5だけなのだろう?」

 

428空1番機の荒又少尉が通信に割り込んできた。

 

≪こちら1番機。伊5潜はこっちが発見している。そりゃ何かの間違いだろう。クジラでも捉えたんじゃないのか?≫

≪ウ、ウミネコです。探知したのは金属でできてます。クジラとか生物じゃないのは確かです≫

≪哨戒線から更に15キロも南に離れてるんだろ? それになんで金属製だってわかるんだ? だいたい伊5はこっちにいる。間違いない≫

≪ウミネコです。クジラと潜水艦の違いくらい分かります。クジラはこんなに硬くないんです≫

≪硬いだあ? ははは、お前それを触ったのか?≫

 

有間艦長も海図を見下ろして、葉山がプロットした天音の探知の位置を確認した。

 

「伊5は一昨日の昼に大湊を出てる。時間的に見て確かにこんな南から来れるはずはないな」

「では一崎の間違いか……」

「いえ、一崎の探知に間違いがあるとは思えません」

 

一瞬にして否定された田所中佐はムッとした。有間艦長は興味つつに葉山へ聞き返す。

 

「ほう。お嬢ちゃんの耳はそんなに確かなのか?」

「暗闇を照らす探照灯以上、と言って差し支えありません」

 

葉山は即答した。その自信満々の目を見た有間艦長。

 

「ふむ。なんだか硬い奴だとか言ってるくらいだからな。探照灯じゃその感触までは分からねえ」

 

これまでもウィッチを神川丸に乗せて運用してきただけに、有間艦長はウィッチの感覚というものに理解力があった。

 

≪3番機です。こちら現在も標的探知中です。伊5は本機の下に今もいます≫

 

「こいつらも頑なだな。捉えたのが伊5潜じゃないという可能性は考えられないのか」

 

その有間艦長の不満に天音は明快に答えを持っていた。

 

≪ウミネコです。わたしが見つけたのは伊5じゃないです。大きさが違います。こっちのは130mくらいあります≫

 

「むう? 何だそれは。いったい一崎は何を見つけたんだ?」

 

不審がる田所中佐に同調するように、荒又少尉の呆れたような声が入る。

 

≪おいおい、そんな大きな潜水艦あるか。それも15キロも先の水中にいる奴だろ。どうやってその大きさ測ったんだ? 何かと取り違えてんじゃないか?≫

 

今度は卜部が割り込んできた。

 

≪こちらトビ。カツオドリ聞こえるか?≫

≪こちらカツオドリ。聞こえる≫

≪こちらトビ。カツオドリは神川丸に引き返して実弾の2号爆弾に換装してこい。葉山少尉、伊5でないなら歓迎の準備をすべきだと思う≫

 

葉山にも緊張が走った。卜部たちが何を心配してるか解ったのだ。

 

「130m近い大きさの未確認水中物体、まさか!」

 

≪カツオドリ了解。神川丸へ爆装換装のため引き返す≫

≪こちらキョクアジサシ、ウミネコ支援のため変針します!≫

 

「こちら葉山。カツオドリ、キョクアジサシ、よろしく頼む。ウミネコはそいつを再確認しろ」

「お、おい葉山君。不確かな状態でそこまで信用して大丈夫か?」

「もちろんです。一崎の凄さは中佐も目の前で見たでしょう? 艦長、いいですね?」

「よろしい、やらせたまえ。片方はすぐ確かめられる。3番機に通達、演習爆雷を直ちに投下し、そこにいる奴を浮上させろ。伊5潜か確認するのだ」

 

≪さ、3番機、了解。直ちに演習爆雷を投下し、潜水艦を浮上させます≫

 

「副長! ちょっと来てくれ。問い合わせてもらいたいことがある」

「なんでしょう?」

 

 

 





天音ちゃんは自分が捉えたのは伊5潜ではないと言っています。
千里が実弾換装のため神川丸へ引き返しました。
扶桑近海、それも首都圏そばの房総沖で、まさかのネウロイと戦闘開始か?!


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