体裁修正しました。
「あ、あの、南の方向、約15キロに、丁度それくらいの巨大なものが水中にいます! 120m以上の長さです。伊5じゃない。伊5はそんなに大きくないんでしょ?!」
「何だって!!」
それまで小型の潜水艇
じゃあこれは何?
大きさを測ってみると、それが事前に聞いていた標的の伊5潜より大きいことに気付いた。それどころか噂の潜水型ネウロイにそっくりな大きさだった。
卜部さんに聞き直して、ネウロイの大きさに間違いがないと分かると、驚きは恐怖に変わった。
天音は謎の物体がいる方向を見つめた。体がガクガクと震え出した。
「15キロって、今までそんな遠方の捉えたことなかったよね。大きいから?」
「確かに、これは探知距離の新記録だな」
「どっちの方に向かってるの?」
勝田の問いに、天音は震えながらさらに反響音を聞き入って、その大きな物体が動くことによって生じるドップラー効果を独自の感覚で読み取った。
「およそ3ノットで……か、神川丸の方に向かってます!」
悲鳴じみた声を二人に向かってあげた。
「マジか! ヤバいぞ。神川丸が狙われている?! 一崎、急いで偵察員席へ! 接近して調べるぞ!」
卜部がフロートの上の天音を見下ろして手招きして呼び戻した。
『接近!』
もっと近くへ行くと聞いて天音は震え上がる。
ガタガタと震える天音は、上がろうとするも身体が言うことを聞かず、上がってくる途中で踏み外して海に転落した。
「天音、大丈夫ー?」
勝田が声を掛けるが、天音は答えるどころかもがくようにして必死にフロートに上がろうとしている。が、うまくいかない。足が、手が、自分のものじゃないみたい!
卜部がたまらずコックピットから降りていき、身を乗り出して手をさしのべる。
「一崎、慌てるな!」
引っ張り上げられて、ガチガチになりながら偵察員席に登る天音を見て、卜部は天音が恐怖で身体が思うように動いてないことに気付いた。無理もない。本物の敵かもしれない。実戦になるかもしれないのだ。なにしろ彼女は先日入隊したばかりで、軍事訓練なんて受けていないのだから。
「一崎、ここが正念場だ。勇気搾り出せ! お前ならできる。訓練通りやるだけだ! 勝田、発見の報告を急いでやってくれ」
「分かった!」
◇◇◇
≪神川丸、こちらK2。170度哨戒線50Km地点の南方15キロに大型の水中物体を探知≫
「なんだって?」
葉山はただちに海図を覗き込むと、その位置をプロットした。
「こんな方から?」
オブザーバーの田所中佐が口を挟んだ。
「どういうことだ? 標的として演習に参加してるのは伊5だけなのだろう?」
428空1番機の荒又少尉が通信に割り込んできた。
≪こちら1番機。伊5潜はこっちが発見している。そりゃ何かの間違いだろう。クジラでも捉えたんじゃないのか?≫
≪ウ、ウミネコです。探知したのは金属でできてます。クジラとか生物じゃないのは確かです≫
≪哨戒線から更に15キロも南に離れてるんだろ? それになんで金属製だってわかるんだ? だいたい伊5はこっちにいる。間違いない≫
≪ウミネコです。クジラと潜水艦の違いくらい分かります。クジラはこんなに硬くないんです≫
≪硬いだあ? ははは、お前それを触ったのか?≫
有間艦長も海図を見下ろして、葉山がプロットした天音の探知の位置を確認した。
「伊5は一昨日の昼に大湊を出てる。時間的に見て確かにこんな南から来れるはずはないな」
「では一崎の間違いか……」
「いえ、一崎の探知に間違いがあるとは思えません」
一瞬にして否定された田所中佐はムッとした。有間艦長は興味つつに葉山へ聞き返す。
「ほう。お嬢ちゃんの耳はそんなに確かなのか?」
「暗闇を照らす探照灯以上、と言って差し支えありません」
葉山は即答した。その自信満々の目を見た有間艦長。
「ふむ。なんだか硬い奴だとか言ってるくらいだからな。探照灯じゃその感触までは分からねえ」
これまでもウィッチを神川丸に乗せて運用してきただけに、有間艦長はウィッチの感覚というものに理解力があった。
≪3番機です。こちら現在も標的探知中です。伊5は本機の下に今もいます≫
「こいつらも頑なだな。捉えたのが伊5潜じゃないという可能性は考えられないのか」
その有間艦長の不満に天音は明快に答えを持っていた。
≪ウミネコです。わたしが見つけたのは伊5じゃないです。大きさが違います。こっちのは130mくらいあります≫
「むう? 何だそれは。いったい一崎は何を見つけたんだ?」
不審がる田所中佐に同調するように、荒又少尉の呆れたような声が入る。
≪おいおい、そんな大きな潜水艦あるか。それも15キロも先の水中にいる奴だろ。どうやってその大きさ測ったんだ? 何かと取り違えてんじゃないか?≫
今度は卜部が割り込んできた。
≪こちらトビ。カツオドリ聞こえるか?≫
≪こちらカツオドリ。聞こえる≫
≪こちらトビ。カツオドリは神川丸に引き返して実弾の2号爆弾に換装してこい。葉山少尉、伊5でないなら歓迎の準備をすべきだと思う≫
葉山にも緊張が走った。卜部たちが何を心配してるか解ったのだ。
「130m近い大きさの未確認水中物体、まさか!」
≪カツオドリ了解。神川丸へ爆装換装のため引き返す≫
≪こちらキョクアジサシ、ウミネコ支援のため変針します!≫
「こちら葉山。カツオドリ、キョクアジサシ、よろしく頼む。ウミネコはそいつを再確認しろ」
「お、おい葉山君。不確かな状態でそこまで信用して大丈夫か?」
「もちろんです。一崎の凄さは中佐も目の前で見たでしょう? 艦長、いいですね?」
「よろしい、やらせたまえ。片方はすぐ確かめられる。3番機に通達、演習爆雷を直ちに投下し、そこにいる奴を浮上させろ。伊5潜か確認するのだ」
≪さ、3番機、了解。直ちに演習爆雷を投下し、潜水艦を浮上させます≫
「副長! ちょっと来てくれ。問い合わせてもらいたいことがある」
「なんでしょう?」
天音ちゃんは自分が捉えたのは伊5潜ではないと言っています。
千里が実弾換装のため神川丸へ引き返しました。
扶桑近海、それも首都圏そばの房総沖で、まさかのネウロイと戦闘開始か?!