水音の乙女   作:RightWorld

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2017/1/6
誤字修正しました。
報告感謝です。 >(ΦωΦ)さん

2019/12/31
体裁修正しました。




第3話:スタッキングネウロイ

 

 

ブリーフィングルームには、先ほど皮肉ながらも反論できない一言を投げていったバーン大尉もいた。シィーニーが入室すると、さっそく左遷組トップのブリタニア人基地司令スミス大佐が、マレー半島が描かれた地図を背にして口を開いた。

 

「さきほどパハン管区の警備部隊から連絡が入った。タマン・ネガラのジャングルから北東方向に向けてネウロイが飛行中らしいとのことだ」

「経路上の村が襲撃されてるんですか?!」

「いや。町や村が襲われているわけではない。それにあの辺で大きな沿岸部の町ロンビンに向かっているわけでもない」

「はあ。ではどうするのです?」

「実は警備部隊が周辺の村から聞いた話では、このネウロイが飛ぶのはこれで3日連続とのことなのだ。しかもものすごく大きいらしい。そして移動速度は酷く遅いそうだ。なんでも上下に2つ並んでいるような形をしていて、戻ってくるときは1つになっているというのだ。村人の言うことだからどこまで本当なのかわからんが……。今警備部隊が出現の報を受け、実物を確認しに行っている。シィーニー軍曹も出撃してそれを確認して欲しい」

「りょ、了解しました。で、そのネウロイを見つけたら、攻撃するんですか?」

「十分観察し、撃墜できそうと判断できれば、こちらから撃墜許可を出す」

「わかりました。では出撃準備をします」

 

バーン大尉が気合の入らない口調で続いた。

 

「現場まではセレター基地から直線で約150km。グラディエーターに増槽はなくていいな?」

「急いで行くんなら片道分積んでもいいと思いますが……」

「増槽の在庫も燃料もそんなにあるわけじゃないんでね」

 

『機体ケチってるんだから燃料くらい潤沢に出してくださいよ。採油地だって近いんだから、もう!』

 

「ではシィーニー軍曹、武運を祈る!」

 

心の中では少しぶつぶつ思いながらも、スミス大佐のひじを張った威勢のいい敬礼に答礼すると、シィーニーは駆け足でハンガーへ走っていった。

 

 

 

 

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基地を飛び立って30分後。

問題のネウロイは先に捜索していた地上部隊が発見し、シィーニーはそれに誘導されて目標に向かっていた。

それはかなり遠くからでも視認できた。鬱蒼としたジャングルの上を黒いかなり大きなものが浮いている。ほとんど動いてないかのように見えるところから、本当にゆっくりと飛行しているようだ。そして近付くと、前もって聞いていた通り、2つの葉巻のようなのが上下にスタッキングしたような形をしていた。下にいる方が上のものより2倍くらい大きい。上のものには短い翼のようなのが左右にあり、飛行形態のネウロイらしいといえば言えないこともない。しかし下の方のはあまり突起のようなものはなく、でっかい爆弾のようにも見える。あれが爆弾だったらどんなにすごい爆発を起こすだろう。そう考えるとシィーニーは寒気がしてきた。何しろその大きさは100m近くありそうだった。

 

遠巻きに旋回しながらその様子を観察する。そのネウロイは飛行物体としては噂通りゆっくりで、時速5、60kmといったところだろう。複葉のストライカーユニットとはいえ、グラディエーターは時速400kmを超えるスピードが出る。余裕でぐるりと1周回ることができた。シィーニーは逐一その様子を基地に伝えた。

そして基地から命令が下った。

 

≪もう少し接近してみよ≫

 

「了解」

 

ランドセル型の背負い式魔導エンジンをもう一度しっかり掛け直すと、シィーニーは右斜め後方から距離を詰めていった。

すると500mくらい近付いたところで、上のネウロイから赤い一筋の閃光が走った。

 

「どわっ!!」

 

それはシィーニーが初めて見るビームの閃光だった。ビームはシィーニーからずいぶん離れたところを通過した。しかしシィーニーの心臓は飛び出んばかりに縮み上がった。

 

「ビ、ビーム速ぇえ」

 

今まで相手にした第一次ネウロイ大戦型の複葉機は鉛玉の機関銃を撃ってきていた。飛行性能もグラディエーターに遠く及ばないので、ここ最近は余裕を持って相手できるようになっていた。しかしこいつはビーム兵器を持っている。初めて見るビームのスピードは驚異的だった。今までとは比べ物にならない反応で回避しないといけない。

 

「欧州のウィッチ達は、こんなビームの嵐の中をかいくぐって攻撃してるの?」

 

そりゃあ一流と言われるわけだ。

 

≪どうしたシィーニー軍曹?≫

 

「セレター基地、て、敵はビームを撃ってきました!」

 

≪!!!≫

 

それは基地側にとっても驚愕の出来事だった。ビーム兵器を搭載するネウロイは地上攻撃力も高いのが常である。定数の爆弾しか搭載できない爆撃兵器より厄介だった。

 

≪敵の攻撃力を見極めよ≫

 

「えええ?!」

 

≪撃墜しろと言っているのではない。搭載兵器の種類、数、攻撃威力、防御力、そういった敵性能をできる限り調べるのだ≫

 

「も、も、も、もし下にぶら下がっているのが爆弾だったら?」

 

≪周囲に集落はないのだな?≫

 

「はい。見える範囲に集落はありません」

 

≪なら問題ない≫

 

「し、し、下のがもし爆弾だったら? あんなバカでっかいのが破裂したら、凄い広い範囲が焼けるんじゃ……」

 

≪周囲に集落はないんだろう? 大丈夫だ≫

 

「わたしが火だるまに……」

 

つい本音が出た。するとバーン大尉が無線に出てきた。

 

≪そいつは世界のどこにもまだ現れたことのない新型だ。もし撃墜できたら航空ウィッチの世界に名が残るぞ≫

 

「え?!」

 

≪性能を暴くだけでも世界には朗報だ。なんなら第一発見者としてそのネウロイに君の名前を付けてもいい≫

 

一瞬喜んだが、今後こいつが現れる度に

『シィーニー3機接近、迎撃せよ!』

『シィーニー撃墜!』

という交信がされるのかと気付き、

 

「名付け親はいりません」

 

と返した。

 

≪ちっ≫

 

『聞こえてんですけど、大尉!』

 

≪うまくいったら新型機の導入を工面してやる。早いところ片付けたまえ≫

 

「え?! マジ!」

 

≪当てがある。交渉してやる≫

 

「ぜ、絶対ですよ!」

 

シィーニーは7.7mm機銃を構えると、再びネウロイの上方にポジションを取った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

シィーニーは旋回しながらネウロイに接近する。

500m以内に接近したとき、上のネウロイの上部中央から再びビームが発射された。しかし照準が甘い。そのままさらに接近する。ビームがまた発射されるが、同じところからだ。ひょっとしてビームは1門なのかな?

急降下してそのビーム砲の死角に行き、さらに接近を試みた。300mくらいに接近すると、今度は上のネウロイの側面あちこちから機銃が放たれた。

5、6門はある! 近付くと火線がきつい!

シィーニーは速度差を生かして7.7mm機銃を乱射しながらネウロイの下方へと突き抜けていった。

 

「下の方のヤツ、弾を全部はじき返したわ。なんて固いの!」

 

下側の巨大なネウロイは7.7mmの魔導機銃弾をまったく受け付けなかった。

 

「少なくとも弾が当って爆発するってことはなさそうね」

 

しかも下のネウロイは1発も反撃してこなかった。

 

「遠い距離には長距離攻撃できるビーム兵器が、接近戦には無数の機関銃が迎え撃つ。下側のネウロイは反撃してこないけど、少なくとも7.7mm機銃では被害を与えられない。さて、どうしたもんか……」

 

考えあぐねているうちに、ネウロイは海上に到達した。

 

「それにしてもどこに向かっているのかしら」

 

下のネウロイを盾にして、上のネウロイの銃座の死角から接近してみようと、ネウロイの下に回り込んだ。そして真下から上昇しようと思ったとき、急にネウロイが接近してきた。

 

「え? やだ、ぶつかる!」

 

大きいだけに避けるのも大変だ。急降下しながらひねり込んで、全速力で距離を取ろうとした。横に並ばられたら間近で機銃の砲火を浴びてしまう。

しかし横に並んだとき、どうなってるのか察した。ネウロイはそのまま下に降下していった。いや、違う。正確には下側にいたネウロイが切り離されて落下していったのだ。それはそのまま落下を続け、巨大な水柱をあげて海に没していった。

こうなると下にあったものがネウロイなのかどうかもよく分からない。だが少なくとも『戻ってくるときは1つになっている』という村人の証言は正しかったことが判明した。

 

「何だったのいったいあれは……。はっ、上!」

 

シィーニーの上に、残った上側のネウロイが被さって上方を塞いできた。しかも、下部中央付近に赤い光が走った。

 

「ビーム!」

 

下側にもビーム砲が備わっていたのだ。ぶら下がっていたネウロイがなくなったことで撃てるようになったらしい。覆い被さられているので逃げ場が下しかない。しかし落下する下側ネウロイから逃れるため降下していたので、海面が近い!

 

「グラディエーター逃げてー!」

 

全速で回避運動を取りながらグラディエーターの速度を信じて水平に機動し、ネウロイの鼻っ先をかすめて脱出した。そして上昇しながら距離をとろうとする。

 

大丈夫、鈍重な奴だから……

 

しかし後ろを見たとき、あまり距離が離れてなくてびっくりした。

 

「もしかして身軽になったせいで速く動けるの?!」

 

魔導エンジンを全開にして引き離そうとする。機銃弾の曳光がなくなったのでもう一度振り返ると、ネウロイはまだ下の方にいた。500m以上の距離を保って様子を見ると、身軽になったとはいえ、どうやら速力は時速200km程度のようだ。

こちらが攻撃してこないと分かると、ネウロイは来た方に引き返していった。

 

その後何度か攻撃を試みるが、上下にあるビーム砲に威嚇され、下側にも死角がなくなったので接近が難しくなり、膠着してしまった。そうこうしているうちに7.7mm機銃の弾も尽きてしまった。

 

「セレター基地、弾薬が尽きてしまいました。燃料も少ないです。申し訳ありませんが撃墜できませんでした」

 

≪ご苦労。帰投せよ。今までの情報を分析し、戦術を練る≫

 

「了解」

 

ジャングルに向かって飛ぶネウロイを悔しげに見送り、バンクするとシィーニーは基地に向け帰路についた。

 

 

 

 

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幸い翌日もそのまた翌日も、そのネウロイが現れることはなかった。しかし後ほど、少し離れたところで騒ぎは再燃する事になる。

 

 

 





あれえ?主人公出てきませんねえ。
書いてて思いのほか盛り上がってしまったマレー人ウィッチのシィーニーちゃんでした。この娘はまた出演させたいですね。
次回は主人公の出番にしたいと思います。
不定期更新ですがよろしくお願いします。

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